「だからね、にわ君もあんまりトーワさんと仲が良いのを知られちゃうと学校でいじめられちゃうかも知れなくて、リュウコさん的にはニワ君の将来がほんのり心配なのです」
俺がこの学校に転校してきて2週間。夜に偶然スマキンを自転車のかごにいれた状態で走行しているのをリュウシさんに見られ、その場では言及されなかったのだが遊びの約束をしていた今日指摘された。
いじめかぁ。確かに学校って言う場だと起きる確率高いよなあ。あそこは集団意識以上に天下を牛耳れるものがないし。エリオを嫌う人間、とりわけクラスの中心に接触できる女の子が一人でもいたら、一気にウイルス感染のごとく、俺への阻害が引き起こされるだろう。
リュウシさんはバツが悪そうに足元を見下ろしながら髪をいじくった。
「そっか……そうだよな」
誰に向けたかもわからない納得の言葉を呟く。
リュウシさんはしばらくすると、のわー! と叫び声をあげて頭をぶるぶると振るってから無理やりテンションを切り替えて手を引っ張ってきた。
予想していなかった唐突な触れ合いにドキっとしてしまう。
「暗い話、やめーっ今日はこんな話するために来たんじゃないの!」
「そ、そうだね」
リュウシさんの勢いに押されるように話は流れ、俺たちは遊びに出かけた。
*
その日は何となく話しかけ辛くなって、エリオの部屋を素通りした。
横目でちらりと見た部屋の中では、いつものように砂嵐のテレビを眺めるスマキンがもふもふと電波を受信していた。
自分の部屋に入ってため息を吐く。そして何で俺があんな布団を巻いたエセ宇宙人のせいでため息吐かなきゃいけないんだと自分にツッコミを入れる。
俺にとってエリオはどういう存在なんだろう。
布団に横になって天井を見ながらぼんやりと考える。
イトコ? スマキン? 電波女? それとも並はずれた容姿を持つ女の子か。はたまた宇宙人か。多分そのどれもが正解であり、どれもが不正解なのだろう。
今までのエリオと関わった時の青春ポイントの増減を考えて、もう一度ため息を吐いた。
気分転換に音楽でも聞こうと、イヤホンを取り出して両耳にセットした。入り口側に座って柱に背を預ける。そして学校帰りにリュウシさんに案内してもらった本屋で勧められた小説を、気分次第で捲ったりして。
身を置いていると、錯雑とした悩みが一時的にせよ払しょくされたような空気が漂う、自室の一時。
しかし隣には、いつの間にか現れたそんな時間帯をぶち壊す郷土妖怪みたいなのが一匹。
仕方なくイヤホンを片方外してコミュニケーションを試みる。
「……なんで俺の部屋にいるの」
「もふもふ」
何か喋るのだが、読解が面倒なのでくそ可愛い四文字で台詞を改編した。
聞くところによると、午後十時に就寝して翌日の午前六時過ぎには起床するこの生物。健康的な生活を送っているにも関わらず頭に電波を受信してしまっているせいで致命的なエラーが発生している。
「もふもふ」
「あーはいはい、そんな深遠な理由があるんですかへーえ」
言い分を要約すると私も暇で、お前も当然暇だから海へ連れていけってことらしい。だから極力相手せずに流して、寝転んだり寝返りをうったりして声の発信源に背を向ける。
何が悲しくて休日にまで、労力とポイントに見合わない海水浴へ出かけなければいけないのか。自分一人の時間によって癒され、蓄えられる英気もあるのだ。
布団の下から伸びた手が俺の耳に入れていたイヤホンを片方奪う。そのままにゅるにゅると布団の下から潜り込ませて音楽に耳を傾けていらっしゃるようだ。地球の音楽は召しますでしょうかね。
一つのイヤホンを分け合って、寄り添う女の子と同じ音楽を聴く。
……おかしい、結構憧れていた状況だったはず。しかし、青春ポイント専用の脳内電卓は手垢もつこうとしない。
これが相手がリュウシさんとか前川さんだったらと考えた時に 頭にふと、今日のリュウシさんの言葉が浮かんだ。
『だからね、にわ君もあんまりトーワさんと仲が良いのを知られちゃうと学校でいじめられちゃうかも知れなくて、リュウコさん的にはニワ君の将来がほんのり心配なのです』
一度考えるのをやめていたことがまた頭をぐるぐるとまわり始める。こっちの町に来てまだ日が浅くてこういうのを相談できる相手がいないんだよな。
「……なあ」
「?」
それは何となく、口から出た言葉だった。
音楽鑑賞にいそしんでいたスマキンが首をかしげるように折れ曲がる。
「俺、今日学校の友達と遊んでたんだけどさ」
学校と言う単語にピクリ、と反応するエリオ。
「その人に余りお前と仲良くしてると、俺学校でいじめられちゃうかもって言われちゃってさ」
「……」
何かを考えるように無言で話を聞く。布団から伸びた両足も微動だにしない。
「俺、どうしたらいいんだろうな……」
もっと言うならどうしたいんだろう。自分の感情の持って行き場が分からなかった。
だからと言って本人にこんな質問をしてどうなる訳でもないが。一緒に音楽鑑賞してて気が緩んだのか、何となく口からこぼれ出た。
「……」
布団に包まれた状態で無言を貫くエリオ。布団越しでも聞こえちゃいるとは思うんだが。
左耳に流れていた音楽も丁度終わり、静寂が部屋の中を包む。居心地が悪くなって後ろ頭を掻いた。
「あ……」
スッとイヤホンを外して立ち上がったエリオが、トボトボと部屋を出て行った。
俺は咄嗟に手をエリオの方に伸ばしたが、その手は結局何も掴むことはなかった。