電波女、青春男   作:すなどけー

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 自転車を二時間近く衝動のままに漕いで、海が見える場所まで来ていた。二百メートルほど先には海へと続く下り坂。

 

 その坂は下りが終わってから、少し上り坂となって横の海沿いの道路へと続いている。まるで、海へ飛び立つためのジャンプ台のような。

 

 この場所に、いったい何があるというのだろう。

 

 自分に問いただしても、何も答えは得られない。しかし、俺はこの場所に何か引力めいたものを感じていた。

 

 俺の中の黒いもやもやとした何かを晴らすものが、きっとこの場所にある。

 

 それは根拠のない確信だった。

 

 目に見えない何かに背中を押されるように、前へ前へと引っ張られるように自転車漕ぐ。

 

 勿論速度は出ない。錆びついた自転車は俺が普段リュウシさんに敗北する速度を抑揚なく維持している。もしかしたら素人目には映らない異常を内部にきたしているのかも知れない。

 

 しかし俺は止まらない。ただ一心不乱にペダルを漕ぎ続ける。

 

 ―――もしも、

 

 もしも、あの日俺がエリオの手を取って。一緒に生きていけていたらどんな風になっていたんだろう。

 

 俺と、女々さんと、布団を巻いていないエリオの3人で暮らす家。夏休みにはエリオも含めて野球をして。夜はあいつの部屋に合った天体望遠鏡を使って一緒に天体観測したり、リュウシさんや前川さんが家に遊びに来て皆でワイワイ騒いだり。

 

 考えても仕方のないもしも話が、頭に次々と浮かんでいく。

 

 自転車はいつの間にか、それなりの速度になっていた。だけど、まだ漕ぐ。止まらない。漕ぐ漕ぐ漕ぐ!

 

 頭の中にはあるかも知れなかった未来の妄想が際限なく広がっていく。

 

 エリオは、働きはじめて社会復帰を目指したりして。夏休みの終わりには、皆で旅行へ出かけて青春するんだ。文化祭にはあいつは来たがらないかもしれないけど、下手なバレバレの変装したりして結局来る。そんで、そんで……っ

 

「……う、あ」

 

 追い風に乗った自転車はかなりの速度のまま下り坂へ入った。

 

 一瞬正気に返ってブレーキに手をかけたがまるで利かない。点検してなかったっ

 

 横の林道にそれたらそれたら絶対死ぬ! 足を出して止めようとしたら靴が飛んだ。命の危険をびりびりと感じて止まれ止まれと念じてみるが勿論効果はない。

 

 近づいてくる、坂の終わりとガードレールと、海。

 

 ぐらぐらと揺れる視界が恐ろしくて、思わず目を瞑ってしまった。

 

 

 その時、何かが聞こえた気がした。

 

 あいつの、エリオの声が。

 

 前方から、自転車のかごの辺りから。

 

『……ライ! ア……ャン……ライ!』

 

 車輪の回る音と、風の音にかき消されるようにされながらも、確かに。

 

 目を見開いた俺は、一瞬だけ、あいつがかごに収まっているような幻覚を見た。

 

 するとそれまでの恐怖心だとか焦りだとかそういうのが全部一気に鳴りを潜めて、呆けたようにじっとその幻覚を追ってしまう。

 

 幻覚は幻覚らしく、あっという間に消えた。

 

 だけどあいつの居た場所に、一粒だけ、髪からこぼれた水色の粒子が残っていて。

 

 咄嗟に、それを掴もうとした。今までつかめなかった何かを追いかけるように。

 

 当然そんなことをすれば自転車はバランスを崩して。

 

 

 

 

 

 体中の至る所に燃えるような熱さを感じた。

 

 激しい耳鳴りが世界を遠ざけて、真っ暗な視界で目を開けることすらできない。

 

 でも、良かった。そんなこと全部、どうでもいい。

 

 あの時、手を伸ばした時に、はっきりと理解した。俺の中のもやもやの正体。

 

 俺は後悔していたのだ。どうしようもなく。エリオが死んで。あの日手を伸ばせなかったことに。

 

 今更気づいたところでどうすることもできやしないが。

 

 やっと理解することができた。身体中を支配する痛みなどとは逆に、思考はすとんと落ち着いていた。

 

 どんどん鈍くなっていく体の感覚に苦笑して。

 

 そうだな。

 

 パラレルワールド、時間逆行、超能力、なんでもいい。もしも――

 

 

 もしも、次があるなら。

 

 

 そん時は、一緒に飛ぼうぜ宇宙人。




完結です。初めての二次創作でした。つたないところも沢山あると思いますが、これから色々な作品の2次創作をしてみようと思います。良かったら評価、感想をいただけると嬉しいです。
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