落ちる、落ちる。
どれぐらいの時間、落ち続けているのだろう。普通の人間ならば永遠と感じるだろう時間がすぎる。
だが、彼女は天下のオブジェクト様だ。それに元の世界に左薬指を置いてきたおかげで辛くはなかった。
彼女にとって発狂するほど辛いことは愛されないことだ。
そして、あの博士は彼女との約束を守ったのだ。
彼女の異常性に、砕かれた体の一部の周りを知覚できるというものがある。
深淵の中、彼女はずっと薬指に意識を向けていた。
博士はちゃんとシェルターにつき、生き残った。
彼は彼女を握りしめて泣いていた。彼女は泣いて欲しい訳では無い、笑顔で美しいと愛して欲しいのだ。
だから彼女は指を動かし、彼の涙を拭ったのだ、泣かないでと慰めるために。彼はもっと泣いてしまったが。
あらかた収容違反の後始末が終わったあと、その薬指をお守りのように持ち歩き、誰でも見れる場所に飾ってくれたのだ。
そして彼は彼女にダイヤの指輪を送る。
彼女は彼から溢れんばかりの、そして頭の隅では狂気と同じだと思った強く重い愛を注がれ、歓喜した。
その次の日、彼はketerクラスにゴミのように殺される。
彼を失っても世界は進む。彼女はAnomalousとなって飾られることになる。
彼が居なくなって彼女はぼんやりとしてしまった。
気づけば向こうの人類は滅んだり戻ったり世界が変わったりしたが、彼女は変わることも無かった。
だが永遠というものは少なく、彼女の場合も永遠ではなかったのだ。
高層ビルの窓ガラスが全て割れるかのような轟音を立てて彼女の体は叩きわれる。
深淵のそこに着いた、または彼女はあの暗闇から抜け出したのだ。
彼女は久しぶりに周りに意識を向けた。
薄暗くもそこには光があった。
埃臭く、そこは牢屋のようにコンクリートの壁に鉄格子が部屋を閉じていた。
部屋の角には小さな子供が怯えたようにこちらを見ていた。
ーーここはどこかのサイトの収容室かしら?
それにしても薄汚く、収容の仕方がゆるい。しかし、そういう収容方法なのかもしれないと思考を切り替える。
世界が何回か滅ぶほどの時間をあの深淵にいたのだ、誰でもいいから人と話したいという欲求が彼女があった。
奇跡的に右手は割れておらず、動かすことができた。
どんなに細かくなっても彼女はどれがどの部分かわかった。ゆっくりと手を這わせてくっつけ、動く部位があるなら動かし少しずつ人の形に戻していく。
胸部ができ、両腕が着いてからは慣れたものだ。
首を直し、口を戻すことでようやく話せるようになった。
「ごきげんよう。驚かせてしまったわね、ごめんなさい」
子どもはひっと小さく悲鳴をあげると、怯えたように体を縮める。それを見た彼女は、話しかけるのをやめて顔を組み立てるのに専念する。
鼻を形作り、骨格を形成する。目をはめ込むと、頭の中身を組み立てる。髪を全て植え込めば顔の完成だ。
顔を元に戻すと、子どもは恐る恐る覗いており、ばちりと目が会う。
彼女は艶やかに麗しく笑いかける。その笑みは慈愛に溢れていた。
その美しい笑みに子どもは少しばかり見惚れていた。
彼女はこどもに優しく話しかけた。
「怖がらせてしまって本当にごめんなさいね。私は......」
名を名乗ろうにも彼女は自分の名前を忘れてしまった。何度も世界は終わり、作り代わり様々な名前を付けられたが、何一つとして思い出せなかった。
「ごめんなさい、自分の名前がわからないの。ずっと暗い所に仕舞われていたから、忘れてしまったみたい」
博士がつけた名前すら忘れてしまたことに、彼女は少しばかり悲しんだ。
赤紫の瞳が、白熱灯の光できらめく。
その目の光は、子どもとって涙に見えた。
子どもは勇敢な子だ。連れ去られそうな友達を庇いここにいるのだ。
そしてとても賢く優しい子でもある。
「お姉ちゃん、お名前ないの?」
恐る恐る近づき、彼女にそう問いかける。
彼女は怖くても勇気を出した子どもを安心させるように、優しい微笑みでそうみたいと答えた。
その震える声は、美しい微笑みには似つかわしくなく、悲哀を滲ませていた。
寂しそうな顔を見た子どもは、どうにかしようとうんうんと悩む。
その姿を可愛らしい子どもはを見つつ彼女は、陶器のような両足を元の場所にくっつけると、意識を巡らせて全て戻っているか確認する。
確認出来たのは薬指とこの体だけだったので、彼女は悩む子どもに向き直る。
子どもはとてもいいことを閃いたのか、瞳をきらきらと輝かせて、彼女の手をとった。
「お名前がないなら、かこがつけてあげる!!」
かこというのはこの子どもの名前だろう。子どもは凄いでしょとそのあどけないドヤ顔を彼女に見せる。
久しぶりの暖かな気持ちに、彼女は子どもを優しく撫でた。
「ありがとう、優しいのね」
「えへへ。じゃあどんなお名前がいいかなぁ」
そう言って、口を尖らせてまた考え始めた子どもを見つつ、彼女は足の指をひとつもぎ取り、檻の右手に見える出入口であろう扉に向かって投げる。
彼女の身体能力は高いが五感は人並みしかない。
この部屋はどう見ても檻だし、あれだけ大きな音を出したのだ、見張りないし誰かしら来るのは確実だ。
彼女の体は破片であろうと全て同じように知覚できる。誰かが来たらいち早くわかるように、体の一部を扉の前に投げたのだ。
足の指に意識を起きつつ、悩む子どもを見つめていると、子どもはちらりと伺うように彼女を見つめた。
「思いついたのかしら?」
「うん。あのね、ざくろってのはどうかな?」
私はガーネットでは無いのだけれど。
少しばかり不思議に思い、子どもになぜと疑問を問いかけた。
子どもは恥ずかしそうに目をふせながら答える。
「かこね、おばあちゃんちのざくろが大好きなの。秋になったらいつも食べに行ってって、お姉ちゃんきれいなざくろみたいだったから」
不安そうの見つめる子どもに、彼女は笑いかけ、頭を撫でる。
子どもは彼女のことを大好きな柘榴のようと言った。その柘榴は少女から愛されていたのだろう。彼女は愛した柘榴のようと言われたのだ。拡大解釈をすれば、彼女は子どもに愛されているということになる。
久しぶりに愛された彼女は、歓喜で思わず子どもを抱きしめる。
「とても、とても素敵な名前ね。ありがとう、私はとても幸せだわ」
嬉しそうな彼女に、子どもも嬉しくなり抱きしめ返す。
少しの間抱き合っていたが、彼女はゆっくりと体を離し、子どもと向き合う。
「はじめまして、私は柘榴。とても素敵な名前でしょ?」
そう言って女神のように微笑む彼女に子どもは
「はじめまして!私はとおみざき、かこです!とっても素敵な名前ですね!」
と歓喜の声をあげたのだ。
SCP-737-jp-1-g(アレクサンドライト)
本名:[削除済み]
素敵な名前:柘榴
愛され判定がガバガバな主人公。愛に対して拡大解釈をする。
長い時間が過ぎ去ったため色々忘れてしまった。
小さい視界ではあったが、Kクラスシナリオやボタンが押されたり、棺になったりを見ていたため元々鋼の心がオリハルコンとなった。
善悪や倫理はちゃんと残っているが常識には砂の山となっている。
久々に全身砕けた。そして服は年月に耐えられずぼろぼろである。
第一村人(柘榴の名付け親)
本名:遠見崎 過去(とおみざき かこ)
個性:サイコメトリー
触れたものの過去が見える個性。それは物だけではなく人や動物にも有効である。
現在から過去に向かって読み取るため、10年昔を見たいとなると長く触れていないといけない。
勇敢で優しく賢い少女。誘拐されそうな友達の代わりに彼女が誘拐された。
両親ともに善良であったため真っ直ぐな子に育つ。
将来の夢は警察官。自分の個性がヒーローにむいていないという賢さからの自覚のため。
柘榴と名付けた理由の一つに、砕けた柘榴が、潰されたざくろによく似ていたためおばあちゃんちのざくろを思い出したから。