宝石が愛されるためにヒーローになる話   作:パンプジン

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私は日常回が好きです。アニメに沿っていきます


ごめんなさい、善処するわ

 

 図書室と言っていいほど、本の詰まった本棚が沢山置かれた部屋の片隅で、柘榴は太宰治の人間失格の色あせたページに目を走らせていた。

 

 別に人間失格が好きなわけじゃない。というか苦手な部類である。太宰治の女生徒は好きなのだが、人間失格はあまりにも文章がつっかえるのだ。物語に没頭できず、ただ自分の心を引っ掻くようで上手く入り込めない。だからこそこういう時に読みたくなるのだ。

 

 机に置かれた目指し時計がなる。止めながら時間を見ると朝の五時を指していた。

 冷たくなったコーヒーを飲み干すと本を机に置き、カップと共に台所へ。途中で玄関の朝刊を回収し、居間のこたつに電源を入れ新聞を置く。

 柘榴は寒さはあまり感じないのだが、冬は底冷えするからと置かれたヒーターに電源を入れる。カップを洗い、電気ケトルでお湯を沸かす。その間に昨日残ったお味噌汁を火にかけ、温める。

 オーブントースターを温めながら、冷蔵庫からしゃけの切り身と卵を3個取り出し、卵を割ってかき混ぜる。味付けは塩コショウだ。

 

「おはよう、台所は温かいな」

「あら、おはようございます。今日は少し早いですね」

「今日受験だろ。だから早く起きた」

「そう」

 

 眠そうに台所に入ってきたのは、この家の家主であり柘榴を拾った男だった。

 

 彼の名前は翠玉絵画。その個性と才能で有名になった画家だ。

 

 

 じゅうととき卵を四角フライパンに入れながら柘榴は今までのことを思い出していた。

 

 

 柘榴があのヒーロー達から逃げたあと、どこかの公園でこれからどうしようかとベンチで考えていた時、通りがかった彼がいきなり柘榴の手を取り

 

「俺の天使」

 

 といってきたのが最初だった。

 

 彼が描く絵は全て神や天使といった宗教的なものだ。そしてスランプに陥った時に出会ったのが、人ではない柘榴だった。

 彼女からは生き物の気配がせず、ただの石のような雰囲気なのにどうしようもなく惹かれる。そして公園の街頭に照らされた緑の瞳に、神を見出したのだ。

 

 そこからはとても早かった。

 行く場所の無い柘榴に、柘榴を描きたい絵画。

 少しばかりネジの外れた絵画は喜んで柘榴を家に住まわせる。衣食住を手に入れた柘榴は、その対価に絵のモデルになったのだ。

 

 しかし、絵画の生活能力は皆無だった。

 広い日本家屋は埃まみれ。庭はぐちゃぐちゃ。台所すら埃が積もっていた。

 

 柘榴は激怒した。必ず、南橘北枳の意味を家主にとかねばと決意した。しかし柘榴は居候である。けれども心地よい生活に関しては人一倍敏感であった。

 

 宝石を愛でることが出来るのは、心に余裕があるものだからだ。

 

 その日から柘榴はモデル兼家政婦として働き始めていた。

 

 

 そして2年ほどのたったころ、本を読む柘榴を描きながら絵画はいった。

 

「お前が天使のように人を救うところが見たい」

「何言ってるのかしら?」

 

 何言っているの?と怪訝そうに絵画を見るが、彼はわからないのか?と心底不思議そうに見てくる。

 

「お前は俺の天使であり神だ。だからずっとお前を書いているが、何ひとつとしてかけていない」

「全然わからないわ。続けて」

「俺はお前の全てを知らない。せめて人を救うお前を書きたいんだ」

 

 神は人を救うためにいる。

 

「だから、ヒーローになれ」

 

「戸籍やらの手続きは全部やる。だからヒーローになってくれ」

 

 すがるように見つめてくる絵画に、柘榴は呆れたようにため息をつく。そして絵画の目を見て

 

「わかったわ。私の所有者が言うのですもの、やってみましょう」

 

 そして今日、かの超名門校、雄英高校ヒーロー科の受験日なのだ。

 

 

 二人でちゃぶ台を囲み、いただきますをしてから朝食を食べる。柘榴に食事は必要ないが、娯楽として食べている。食べないと目の前の男も食べないという理由もある。

 

「受かりそうか?」

「筆記も実技も大丈夫よ」

 

 言葉少なく食事も終え、柘榴は出かける準備をする。

 

 スニーカー履いていると珍しく絵画が見送りに来た。

 

「気をつけていってこい」

「ええ、行ってきます」

 

 短く冷たいように感じるが、二人の間には強い絆。家族のような愛が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてここは受験会場。

 

「今日は俺のライブにようこそ!エビバディセイっ!?」

 

 静まり返っている会場に、サングラスをかけた男の声が響く。

 皆受験ゆえの緊張でコール&レスポンスは流石に難しい。

 

 柘榴は隣の男の子がブツブツと呟く内容で、舞台で話しているのはプレゼントマイクというヒーローというのを知った。

 

 というか、隣の独り言がうるさく説明に集中できず、それに前の真面目そうなメガネの少年が、緑の少年をちらちらと睨んでいる。そろそろ眼鏡の少年が注意しそうだ。

 

 ーー悪目立ちはしたくないし、仕方ないわ

 

 眼鏡のような正義感が強そうな子は、悪意なく人をさらし者にすることがある。

 柘榴は自分の世界に入っている緑の少年をつんつんとつつく。

 少年が不思議そうにこちらをむくと、ぎょっとして柘榴を見つめてくる。

 

「静かにね。」

 

 人差し指を形のいいくちびるにあて、しぃと微笑むと少年は顔を真っ赤にして首を激しくふる。

 必死な姿が可愛くて小さく笑ってしまう。

 前をむくと眼鏡の少年と目が合ったので、微笑みをかえす。眼鏡の少年は眉間に皺を寄せて前を向き直した。

 

 プレゼントマイクの説明を要約すると、仮想ヴィランにはポイントがあるから、動けなくするとポイントが貰え、できるだけ多くかせげというもの。0ポイントのお邪魔ヴィランもいるらしい。

 

 確保、破壊の心得は少なからず持ちえている。柘榴はさほど難しくなさそうな内容でほっとした。

 

 

 諸注意やその他もろもろの話が終わり受験生たちは会場へと移動する。

 柘榴は白いウインドブレーカーにランニングパンツ、その下には黒のレギンス。とにかく動きやすい格好に着替え、あとは開始を待つだけとなった。

 

 門の向こう側には作られたゴーストタウンが見える。その作りにどれほどの資金がかかっているのか少しばかりきになる。

 緊張を落ちつけていると、周りがにやにやと嫌な笑みを浮かべているので、みなが見ている方を見てみると、先程の緑髪の子に眼鏡の子が言いよっているのが見える。

 そんな場合じゃないのにと柘榴は二人の間に入った。

 

「なんだい、君は?」

「ごきげんよう。悪い空気と思いまして、そんな暇があなたにはあるのかしら?」

 

 

 緑髪の少年を背に、眼鏡の子を見上げ親しみを込めて微笑む。眉をひそめる少年はなにか言おうと口を開くが、会場に響く声で言葉はかき消された。

 

 

「はい、スタートォ!!!」

 

 

 プレゼントマイクが高いところで楽しそうに受験開始の合図を告げた。

 

「どうしたぁ!実践にカウントダウンなんざねぇんだよ!!」

 

「走れ走れ!!賽は投げられてんぞぉ!!」

 

 慌てて走り出す眼鏡の少年を見送りつつ、へ?っと唖然としている緑髪の少年の背中を叩く。

 

「では、お互い頑張りましょうね」

 

 柘榴の言葉に我に返った少年の叫び声を背中で聞きながら、地面を強く蹴りあげる。

 近くにあった建物の室外機や柵などを足場にして屋上に登り、会場全体を見渡す。手前の方ではもう仮想ヴィランとの戦いが始まっていた。

 

 

 ーー混戦は避けたいわね。なら奥に行きましょう。

 

 

 大通りにそうように建物の間を飛ぶように走り抜け、どんどんと会場の中央へ近づいていく。

 途中にポイントの高い大型の仮想ヴィランと、それを守るかのように小さいのが群れていた。

 柘榴は屋上から大型めがけて飛び上がり、大型の頭に着地する。

 大きな音と共に仮想ヴィランの頭は潰れ、呻き声のような機械音とあげて動かなくなった。

 動力源またはプログラムを動かしているのは頭。それを理解すると、どこか人間臭く慌てている近くの小型の頭をつかみ、近くの小型に叩きつける。大型と同じように動かなくのを見れば、あとは蹂躙の時間だ。

 

 壊す壊す壊す。頭部と体の接合部に腕を突っ込み、無理やり引き剥がす。鉄パイプのような部品を抉りとると、それを小型の頭に突き刺して破壊する。握り潰す、踏み潰す、捻り潰す。小さな子がアリの群れを踏み潰すように壊していく。

 ほかの受験生が近づけば離れ、群れを見つけて同じように破壊する。

 

 それを何回か繰り返していると、人々が逃げ惑う声が聞こえた。柘榴は屋上に登り、声がしている方向を見ると、そこには超大型の仮想ヴィランが暴れていたのだ。

 

 あのまま暴れていれば、ほかの受験生が大きな怪我をしてしまう。温まっていた頭が冷め、戦場へ向かう。

 

 あと少しで着くというところで、柘榴は光を見た。

 

 

 あの狂った世界で幾度か見た光。

 人を救うために捧げられた自己犠牲の、命の光を。

 

 

 あのおどおどとしていた冴えない少年が放っていた。

 

 

 少年に殴り飛ばされて超大型は建物を壊しながら倒れ、沈黙する。少年はどうやら動けないようで着地動作を取らない。

 柘榴は落ちてくる瓦礫を足場に少年に近づき、小脇に抱える。途中で浮かぶ瓦礫にしがみつき、少年に手を伸ばしていた少女も同じように回収すると、安全地帯まで二人を運んだ。

 

 

 二人を下ろし、少年を寝かせる。少女は後ろを向いてゲーゲーと吐いていた。少女の方も心配だが、少年の状態をざっと見ようとすると、少年はずりずりと這いずっている。

 

「ちょっと、あなた両足に右手がぐちゃぐちゃなのよ!動いちゃ駄目!」

「せめて、1ポイントだけでもっ......!!」

 

 しかし、会場に受験終了ブザーが鳴り響く。

 痛みと絶望で涙を流しながら気絶した少年を見て考える。

 

 ーー私は、彼がヒーローになったところを見たい。

 

 今回の受験で気づいたことがあった。柘榴はあの人々の普通を守るために死んでいったエージェントたちのようにはなれないと、自分はただ壊すのが楽しかった。

 自分はヒーローになる資格があるのだろうかと考えそうになると、思考にノイズが入り、誰かが囁く。

 

 私は愛されるためにヒーローになる。私は人ではなく宝石なのだから。

 

 

 たまに囁いてくるSCPとしての自分に吐き気がした。

 

 

 

 周りは少年を遠巻きに見るだけで介抱もしようとしない。そこに悲しみや怒りが渦巻くが柘榴は少年の折れた足や腕を真っ直ぐにして、骨が変な風にくっつかないようにする。

 

 なにか添え木になりそうなものをキョロキョロと探していると、美しく歳をとった老女が周りにお菓子を配りながらやってきた。

 

 金髪の少年によると、彼女は雄英の保健医らしい。柘榴はすぐに声を上げた。

 

「こちらに重傷者がいます!すぐに来て貰えますか?!」

「はいはい、今行くよ」

 

 老女が少年の前に出てきて、少し考えてから、少年の頭に老女の伸ばされた唇が当たる。

 すると、赤黒くうっ血していた腕がだんだんと治っていき、苦しそうだった呼吸も安定したのをみて、ほっと一息つく。

 

「ありがとうございます」

「いいさね、あんたは怪我ないかい?」

「私は大丈夫です、彼女の方をお願いします」

 

 後ろにいる吐いたことで疲れきっている少女を見ると、老女は近づき少女と話す。

 

 柘榴は周りを見て女神のような笑顔を浮かべ、語りかける。

 

 

「大怪我をおった人がいるのに、貴方たちは何もしないでただコソコソと話すだけ。それでヒーローになろうだなんて笑えるわ」

 

 

 美しい微笑みからは容赦のない毒が吐かれた。その言葉に、周りの反応は様々である。考えるもの、青ざめるもの、羞恥や怒りで顔を赤くするもの。

 声をあげようとするものはいたが、柘榴を隠すように前に立った老女に睨まれ、言い淀む。老女は柘榴に振り向き苦笑いを浮かべた。

 

「あまり煽るんじゃないよ」

「ごめんなさい、善処するわ」

「善処かい。まぁいいさね、ほらこの子は私らが運ぶから、怪我のない子達はさっさと撤収しな!もう受験は終わったんだよ」

 

 いったいった!と老女に急かされ、受験生たちは動き始める。何人かは柘榴に鋭い視線を向けていたが、彼女は気づいてすらいなかった。

 

 柘榴も老女に押し付けられたハリボーを食べながら、気持ち悪そうにしていた少女を探すが見つけられなかった。

 大丈夫そうでよかったと安心し、柘榴も会場から出ていくため、歩き出した。

 

 

 帰る支度をしながらもあの緑髪の少年のことを考える。彼はおそらく1ポイントも手に入れてないのだろう。だが、彼こそがヒーローになるべきだと思う。

 柘榴は結構のポイントがあるはず、それを彼にあげることができれば。

 だが、それはほかの受験生に失礼でもある。緑髪の少年の努力も踏みにじることになるだろう。

 

 そう思いながら、とぼとぼと帰るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません〜お手紙でーす」

「はいはーい」

 

 受験から数日後、涼しい風が吹く晴れた日に顔なじみとなっている郵便屋さんがやってきた。

 柘榴の住む日本家屋は中に人がいればいつも玄関鍵が空いているため郵便屋さんはポストではなく玄関に置いてくれるのだが、たまに声をかけてくる。

 そのいくつかの手紙の中に雄英の校章が書かれた手紙があった。

 

「それ、雄英の校章ですよね?」

「そうね、私の合否通知だと思うわ」

 

 郵便屋さんは目を見開いて驚いたように柘榴を指さし、奥さんの??と目で聞いてくる。

 柘榴は自分を指さし笑顔で私のと答えた。

 

「待って、奥さん中学生だったの?」

「うふふ、そうかもね」

 

 郵便屋さんとは3年ほどの付き合いではある。それなのに何も変わらない柘榴に郵便屋さんは驚きを隠せなかった。

 

  そんな郵便屋さんを横目で見つつ、雄英からの手紙を開けてみると、小さな投影機が入っていた。

 早速電源をつけてみると、そこにはオールマイトが映っていた。

 

『私が投影された!!』

「オールマイトォ!?」

「まあ」

 

 予想もしなかった人物の登場で、思わず驚きの声が出る。

 オールマイトが言うには彼が雄英の教師になるということで、初仕事が合否発表らしい。

 

『この試験は敵ポイントだけじゃない!審査生の救助ポイントもあった。翠玉少女のポイントは両方合わせて2位!』

 

 投影機の正義のヒーローは柘榴に手を差し伸べる。

 

『来いよ、ここが君のヒーローアカデミアだ』

 

「やったぁー!!」

 

 郵便屋さんは感極まって、驚いて固まっていた柘榴の両手を掴みブンブンと上下にふる。郵便屋さんの喜びように柘榴もだんだんと嬉しくなってきて二人で声を上げて喜んだ。

 

 長く生きてはいても彼女の精神性と戸籍的にまだ子供なのだ。子供のように喜んだって構わないのだ。




翠玉 柘榴(みどりだま ざくろ)
ヒーローへの第1歩を踏み出した。印象派と児童文学が好き。

翠玉 絵画(みどりだま かいが)
個性:絵画(絵が動く)
柘榴を天使として推している。最近柘榴ばかり書いているせいで、絵画のファンに結婚したと思われている。いつか完璧に柘榴を書き上げたいが、そうなったら絵画は満足して死ぬ。

緑髪の少年
柘榴は彼に光を見た

可愛い少女
丸っこくて可愛い

眼鏡の少年
作者は飯田くんのことが大好きですが、あそこら辺の飯田くんはよろしくないとおもいます

郵便屋さん
もう出てこない
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