艦物語 ― 君も知らない物語 ―   作:きさらぎむつみ

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 今回は話は比較的に“どこかで聞いたような”感が強くなっていますが、以降はそれなりに減少します。その点にはご理解を頂き、ご容赦くだされば幸いです。

 話は、新米提督が着任した次の日から始まります。
 秘書艦には漣が選択された模様です。


第一話 しらぬいビルド

      001

 

 事ここに至って何を躊躇うかといえば、それは自分の置かれた状況を素直に認識した事実を他人に語ることではないだろうか。

 より正確を記するなら、僕にとって地獄のようだった新規着任登録規制の冗談が終了し、提督に着任して、そして僕にとって悪夢のようなエラー猫連発の絵空事が明けたばかりの、涼しげな風が穏やかに流れる秋口のことだった。

 新米提督であるところの僕には唯一の保有艦娘である漣を秘書艦に、まずは手持ちの資材を投入して艦隊を組むべき他の艦娘を建造しなければと工廠に向かい、建造ドックの妖精さんたちにお願いをしたその後、正確には24分後のことだ。

 漣の「新入りみたいよ?」の言葉に、僕が工廠に向かうとそこには凛として咲く花の如く、と形容するに相応しい様子の彼女がいた。

 そこにいるのが当たり前のように。

 僕の前に居ることが、然も当然と言わんばかりに。

 彼女は、そこにいたのだ。 

 

「あら、あなたがここの司令なのね。不知火です。ご指導ご鞭撻……あなたにそれが出来るのかは全く――ええそれはもう、久里浜海岸の砂浜から桜貝を見つける程度にしか期待はしていないのだけれど……ともあれ、よろしくです」

 

 それが、不知火という艦娘とのファーストコンタクトだった。

 

      002

 

「これはあれですね、適当さん。不知火さんはいわゆる昨今の世間で流行の“ツンデレ”というやつですね」

 

「ああ、なるほど。僕の周りには今までいないタイプだったから気付かなかった。それから漣、ナチュラルに僕の敬称をまるで人柄がいいかげんな人物のように間違うな。僕を呼ぶときには司令もしくは提督と呼べ」

 

「失礼。噛みました」

 

「違う。わざとだ……」

 

「噛みまみた」

 

「わざとじゃないっ!?」

 

「ファミマ見た?」

 

「いや、確かにコラボの汐入店には行ってきたけど!」

 

 予想通りに店内ラッピングがされた店内で購入してきたコラボ商品はしっかりとこの提督執務室に置いてある。横須賀鎮守府様様である。

 ちなみに、別に二百九十八円で愛を買いに行ったわけではない。買ってきたのは夜食用のカップラーメンだ。

 最近はゴチソウに分類されるというアレだ。

 ん? 果たしてこの会話の時間軸は間違っているんじゃないのか? 今はまだ一応タウイタウイ泊地解放の時期という設定だったはずなのだが。

 

「設定なんてものはメタネタによってギャグに利用される宿命です。そんなことを気にしている間に仕事を進めてください。任務クリックを押し忘れたりとかしないでください」

 

「ああ、分かっているさ。だがこれだけは言わせてもらうぞ漣。僕の思考を勝手に読んで言葉を放つな」

 

 提督執務室で書類に判を押しながら、僕は本日の、というかおそらくはしばらくの間は秘書艦である漣との雑談に興じていた。勿論、作業の手は休めない。右から左へと書類を流すような鮮やかな手さばきを止めることはない。

 つまりは、その程度の書類しか僕には回ってこない。漣が回してくれない。

 これはあれだ、優秀な秘書を持つと仕事が楽で助かる、というやつだな。 

 

「優秀な秘書というところは否定しませんが、私を選んだのは明らかに最低督さんがロリコンだったというだけですよね」

 

「何をおっしゃる漣さん。もし仮に、万が一にも有り得ないことだが一つの仮定として遺憾ながら僕がロリコンだったとしよう。ならば僕は間違いなくお前ではなく電を選んでいたぞ」

 

「あー。あの子も結構“ダメ提督製造機”ですからねえ。電ちゃんが可愛いのは確かなんですけど」

 

「でも叢雲に蔑まれたい、言葉攻めされたいという思いだって少なからず持っていたんだ。五月雨のような子を見守っていたい、抱きかかえて朝から晩まで愛でていたいとも思っていたんだよ」

 

「訂正します。ただの高レベル変態だったんですね。まともな編隊も組めない低レベル提督のくせに」

 

「いや、それは誤解というものだ。僕の愛は全方位、博愛なだけなんだ」

 

「いつか艦娘全員で全包囲からの集中雷撃をしてあげますよ、低徳さん」

 

「僕を功徳を積んでいないような変換で呼ぶな」

 

「では言い直しましょう。死ねえ官」

 

「暴言が駄々漏れの呼び方もするな」

 

 とはいっても、正直なところ漣が優秀な艦娘であることに代わりはなく、右も左も分からない新米提督の僕は漣におんぶに抱っこの状態だった。

 もっとも、昨日本当に抱きついたところ、漣がその手に持っていた12.7cm連装砲で思いっきり僕を殴り付けてきたことは、僕は過剰な愛情表現だと受け止めている。

 安心して送り出せるのが未だ鎮守府正面海域のみという現状、旗艦として優秀な働きをしてくれている漣には頭が上がらない。上げたくない。もう少しで見えそうなんだ。

 

「……何か、悪寒を感じました」

 

「風邪か? 体調管理には十分気を付けてくれよ」

 

「それはもう、気を付けていますよ。水雷戦隊の隊長、だけに」

 

「誰かが好きそうなくらいに鉄板だな、今のは」

 

 はて、僕はいったい誰のことを思ったのだろうか。いずれこの鎮守府にも着任するのだろうか。

 

「それはそれとして話を戻しますが。あのツンデレの方の話ですが」

 

「…………不知火のことか」

 

 そうだった。多少の脱線はしたがそもそもの話題は、先ほどの建造で工廠に現れた陽炎型二番艦の駆逐艦娘に関することだったのだ。

 

「なんというか、気難しそうというか……何を考えているのか今一つ掴みかねるよなあ、あいつは」

 

「孤高といいますか、なかなかに近付き難い雰囲気を醸し出していらっしゃいますからね。まあ、あの後に出撃した時には道中で多少の会話を交わしましたが」

 

「え? 漣、不知火とまともに会話できたの? 僕なんかさっき『通信機越しにも話しかけないでいただけますか。童貞が移ります』って言われたぞ」

 

 しかもその直後一方的に切られた。誠に遺憾である。

 

「ええ、そこは若い女の子同士、会話も弾みますよ。浦賀つながり、ということもありますし。話題は主に提督のことですが。『童貞が移りそう』とか」

 

「お前もか、さざなみぃぃぃ!」

 

 何てことだ。指揮をする司令官が本人の知らないところで駆逐艦娘たちに根拠のない言葉の暴力を受けていたとは。

 

「あとは横須賀周辺のことですかね。ああ見えて不知火さんも甘い物には目がない御様子ですよ? あと可愛い物にも」

 

「少しでもその部分が回って僕への発言が甘く、可愛い物になってくれると助かるんだけどなあ」

 

 そう、多少の会話が成立するくらいには。

 今は漣への指示だけで事が足りているけれど、いずれ第二艦隊が編成できるようになれば彼女にも旗艦として戦ってもらわなくてはならないだろう。

 出来れば、その前に僕への印象を多少なりとも良いものにしておきたい。

 司令の命令を拒絶した挙句に大破、轟沈なんてことは是が非でも避けなければならない。

 たとえ、彼女たち艦娘が一部の心無い世間から半ば“兵器”としての不当な批判を受けているとしても、こうして実際に接してみればどこにでもいる普通の女性と何ら変わりはないのだから。

 

「そうですねえ。親交を深める何かしらのきっかけは必要なのではないでしょうか?」

 

「なるほど。フラグを立てて攻略ルートに入るためのイベントが必要だ、ということか」

 

「出来れば次の海域へ進行するための攻略もちゃんと進めて頂きたいものですが」

 

 漣の痛いところをついてくる進言はもっともだったが、そのひとこと前の進言も確かに尚更にもっともなものだった。

 不知火との関係を良好にする為にも、何かしらの行動は必要だろう。

 

「漣、まずはどんなことをしたらいいと思う?」

 

「さあ、私は不知火さんではありませんから分かりかねますが。そうですねえ、まずは無難にプレゼント、とかどうですかねえ」

 

「プレゼント、かあ……」

 

 不知火に贈って喜びそうな物が思いつかない。そもそも、同世代(と思しき)の女性へのプレゼントなんてそうそう経験豊富な男はいない(と信じたい)。

 こういう時に『人間強度が下がるから』などと今思えば訳の分からない幼稚な理由で同世代男性との交友すらも控えていた黒い過去が悔やまれる。

 

「まあ、考えてみるよ。助かった、漣」

 

「いえいえ、この程度お安いご用です。でもお返しはお高くお願いしますね」

 

「それは考えてねえよ。しかし、そうと決めたら即実行だな。思い立ったが吉日、と言うし」

 

「重い龍田、なんて不用意な発言をすると斬り落とされますよ」

 

「誰にだ?」

 

 漣の何を指し示すのか全く分からない言葉を背に受け、僕は執務室を後にした。

 

      003

 

 工廠を訪ね、用件を終えた僕は鎮守府内を探索していた。もちろん、不知火を探すためだ。

 こういう時こそ電探装備が必要になるのだろうけど、我が鎮守府にはそんな便利な物はまだない。もっとも、僕が装備を出来るわけがない代物でもあるのだが。

 結局、鎮守府を一通り廻った後、艦娘たちの為に用意された寮までやってくることになった。

 さすがに女子寮であるために、提督である僕でもすんなりと入ることには抵抗がある。鎮守府内食堂の管理を任されている間宮さんが寮長を兼任しているため、物理的抵抗もある。

 間宮さんの了承を得て、艦娘寮の中を進んでゆく。目指すのは不知火の部屋だ。

 内心、ここに居なければどうしようかとも思っている。むしろ、僕に接敵しないように遊弋しているのではないかとさえ思える。

 自軍の司令官を敵扱いとは是如何に。

 兎にも角にも彼女の部屋の前までやってきたわけだが、いざ扉をノックしようとするただそれだけのことにも勇気が必要なことを改めて思い知らされる。

 一息大きく深呼吸をして、さあと自分に勢いをつけて扉を叩こうとしたところで、背中から、

 

「そこで何をしているの?」

 

 と、声を掛けられた。

 振り向く。

 振り向くときには、すでに僕は、相手が誰だか把握できてはいた――わずかながらに聞き覚えのある、聞いたことのある声であった。

 

「動かないで」

 

 その二言目で、相手が不知火であることは分かっていた。僕が振り向いたその瞬間、狙い澄ましたように、まるで隙間を通すように、僕の口腔内に、何かやたら太い物を不知火が突き入れたことも――知った。

 九〇式61cm魚雷だった。

 僕が中途半端に開いた上下の唇に冷たい金属が、ぴたりと触れる。

 

「…………っ!」

 

「ああ、違うわ――『動いてもいいけれど、とても危険です』というのが、正しかったですね」

 

 加減しているのでもない、しかしかといって乱暴にしているのでもない、そんなぎりぎりの強さと角度で――手に取った一本の魚雷で、僕の唇を、抉じ開ける。

 僕としては、もう間抜けのように、口に咥えさせられかけた魚雷のために、微動だにせず、不知火の忠告通り――動かずにいることしか――出来なかった。

 怖い。そして、卑猥。

 と、思った。

 魚雷が、ではない。

 僕にそんな真似(明らかに妙なことを連想させかねない状態)をしておきながら、ちっとも揺るがない、ぞっとするくらいに冷えた視線で――僕を見つめる不知火が、怖かった。

 

「……ふぉ、ふぉい――」

 

「何ですか。口だけじゃ寂しい、と? だったらそう言ってくださればいいのに」

 

 魚雷を持っている右手とは反対の左手を、不知火は構える。その素早く動いた手に握られている物の先端が、僕の腹に突き付けられた。

 7.7mm機銃。

 その銃口が、僕の胴体へと向け押しつけられていた。

 

「ふぉ……ふぉう」

 

 魚雷を咥えさせられているためにまともに言葉を発することもできない。

 瞬く間に、この状況。 

 

「この状況――司令が何を考えているか分かりますよ」

 

「…………」

 

「胸ばかり見て、いやらしい」

 

「…………っ!」

 

 断じて考えていない!

 爆発物を咥えさせられてそんな余裕はない!

 

「不知火が欲しいのは沈黙と無関心、存分に戦える(ばしょ)と必要な艤装だけ。それを約束してくれるのなら、二回、頷いてください、司令。それ以外の動作は何であれ、敵対行為と看做(みな)して即座に砲雷撃戦に移ります」

 

 一片の迷いもない、極めて物騒な言葉だった。

 僕は選択の余地なく、二回、頷いてみせる。 

 

「そう、ですか」

 

 不知火はそれを見て――安心、したようだった。

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って、まずは機銃をゆっくりと、慎重というよりは緩慢な動作で降ろす。

 そして、次は魚雷。

 

「……えい」

 

 がちんっ、と。

 信じられないことに。

 不知火は勢いよく魚雷を突き出してきた。硬い金属が歯に当たり、衝撃が頭蓋に響く。痛いことこの上ない。

 というか、もし信管が当たったら爆発するんじゃないのか!?

 僕はその場に、崩れるように蹲った。

 両手で両頬を包むように。

 

「が……あ、あが」

 

「悲鳴をあげないのですね。立派です」

 

 素知らぬ顔で、不知火の言葉が上からかけられた。見下ろされていた。

 

「今回はこれで勘弁してあげます。約束してくれた以上、誠意をもって応えないといけませんから。どうやって司令が艦娘寮に忍び込んで、あまつさえ不知火の部屋に不法侵入を企んでいたのかも不問にしてさしあげます」

 

 それだけ言って、僕の反応を確かめるような素振りも見せず、不知火は踵を返し、すたすたと廊下を歩いて立ち去っていった。僕が蹲った姿勢から、何とか立ち上がる頃には寮の階段を降り始めていた。

 しかし、ここで見送ってしまってはわざわざここまで来た意味がない。まだ僕は不知火にここに来た理由すら伝えていないのだ。

 僕は未だ衝撃にくらりとする頭を、両手で頬をはたいてふらつきを追い出す。

 そして僕は駆け出した。走る。階段に到達する。

 三段跳びの要領で階段を飛び下り、踊り場に着地。今度は衝撃が足元から全身に響いた。

 そして振り返る。

 踊り場で折り返した下り階段の途中で、不知火は、すでにこちらを振り返っていた。

 冷めた目で。

 

「……呆れました」

 

 そう言う。

 

「いえ、ここは素直に驚いたというべきですね。あれだけのことをされておいて、すぐに反抗精神を立ち上げることができるなんて、流石は深海棲艦に対抗する艦娘艦隊の司令となった方です。敬意を表します」

 

 何故だろう。不知火の発した言葉が、その意味通りに受け止めたとしても褒められた気は全くしない。

 

「いいです。分かりました。ええ、分かりました、司令。『死なば諸共、相手も一緒に』というその態度は私の正義に反するものではありません。だから、その覚悟があるというのなら」

 

 不知火はそう言って。

 両腕を、左右に、広げた。

 

「戦争を、しましょう」

 

 その両手に握られているのは右も左も7.7mm機銃。背中に背負った(ボイラー)ユニットから左右に伸びるアームの先には12.7cm連装砲と61cm三連装魚雷発射管。

 ……あれ? 駆逐艦娘ってこんなに艤装を装備できたっけ?

 いや、今の状況でそれは問題ではない。問題にしたいんだけど、時と場所がそれを許してくれそうにない。

 

「ち……違う違う。戦争はしない」

 

「しないのですか。つまらない」

 

 どこか残念そうに不知火が呟いた。だが、広げた両腕を、彼女はまだ収めようとはしない。まさしく一般的な“兵器”という名の凶器をきらめかせたままでいる。

 

「では、何か御用ですか」

 

「ああ、その通りだ。不知火に御用だ」

 

 不知火は訝しげな視線を僕に向ける。

 

「さっきの約束を、早速果たそうと思ってな」

 

      004

 

 関係者以外立ち入り禁止。もっとも、鎮守府内のほとんどが関係者であるわけなのだが。

 艦娘用艤装開発工廠。

 先ほど僕が用事を済ませた場所である。

 

「この中に用がある。さて、それでだ。工廠内には艤装の持ち込みは禁止だからな。その艤装は全て一旦取り外せ」

 

「え?」

 

 予想外の要求を受けたというような顔をする不知火だった。司令って頭イカレてるんじゃないのとでも言いたげな感じ。

 いや、それはおかしいだろう。艦娘のお前が鎮守府内の基本的なルールを知らないわけないじゃないか。

 

「司令、私を嵌めましたね」

 

「…………」

 

 どうしてそうなるのだろう。僕は提督で不知火は艦娘だよなあ?

 しかし、不知火は、かなり真剣に葛藤し、しばらくの間は一言の口も利かなかった。時折、僕を値踏みするかのように睨みつけながら、時折秋空を仰ぐように見上げながら。

 もしかして踵を返して寮に戻ってしまうかもしれないと思ったが、しかしやがて、不知火は「了承しました」と覚悟を決めたように言った。

 

「艤装を外します」

 

 そして、不知火は背中の缶を降ろし先ほどの7.7mm機銃、更にはそれらに装填する砲弾や魚雷、銃弾を身体のどこにこれだけ仕込んでいたのかと思わずにはいられない量を取りだして、近くにまとめて置いた。

 艦娘というのが国家最重要機密な超技術による存在であることを今更ながら思い知らされる。

 

「勘違いしないでくださいね。別に不知火は、司令に気を許したというわけではありませんので」

 

 いや、そこは多少許してくれてもいいんじゃないんだろうか。いや、そうでなくては後々困る。

 

「もしも司令が不知火を騙し、こんな人気のない工廠に連れ込んで、魚雷を咥えさせられた件で仕返しを企んでいるのでしたら、それは筋違いというものです」

 

「……いや、工廠内には開発妖精さんがいるからな?」

 

 言ってることの筋はものすごく合ってはいるのだが。

 

「いいですか? もしも不知火から一分おきに連絡がなかったら、五千体の駆逐イ級が司令の家族を襲撃することになっていますので」

 

「大丈夫だって……余計な心配するな」

 

「一分あればこと足りると言うのですか?」

 

「僕は小破で入渠した低レベル潜水艦かよ」

 

 ていうか躊躇なく深海棲艦を配下に持ちやがった。とんでもない。

 しかも五千体って、いくらイ級でも国家終了だろう。大胆な嘘つきだった。

 とにかく、ここでこうしていても仕方がない。

 

「ほら、用があるのは中だ」

 

「不知火は川内型軽巡洋艦ではありませんよ? 大丈夫ですか、司令」

 

「その那珂じゃねえよ」

 

 工廠の入り口で踏みとどまっていた不知火の、手首を握るようにして、僕は不知火を導いた。

 少々唐突だったかとも思ったが、不知火は面食らった様子を見せながらも「何でしょう」と言いながら、素直に僕についてきた。

 

「不知火は諦めて曳航されているだけですから」

 

「ああ、そう見えるよな」

 

護衛(エスコート)されて感謝しているなんて思わないでくださいね」

 

「わかってるよ」

 

「むしろ指令が感謝してください」

 

「どういうこと!?」

 

「先ほどの魚雷、爆発しないように信管を抜いておいたのですよ?」

 

「…………」

 

 それはどう考えても、『ここで爆発させたら寮に被害が出る』という、実質的な処置だろう。

 

「そもそも、金属の塊を咥えさせられたことは変わらないだろうが」

 

「なんとなく、司令は咥えるのがお好きなのかと判断したのです」

 

「そんなもん好きじゃねえ。しかもなんとなくって」

 

「不知火のなんとなくは、魚雷の平均命中率くらいには当たります」

 

「……それって確か、一割強だよな?」

 

 そんな会話を交わしながら、僕は不知火を工廠の奥へと連れてゆく。途中、何度か開発妖精さんとすれ違ったりする。よくわからないペンギンのようなものの入った箱が積まれ山となったその合間を縫うようにして奥へと進んだ。

 そして僕らは目的の場所へとたどり着く。

 鎮守府内工廠、艤装開発部。開発成功艤装保管庫。

 

「さっき開発に成功したんだ。不知火の装備をこいつに変更しようと思って」

 

「これ、ですか」

 

 そこにある物を、不知火は手に取った。

 61cm“四”連装魚雷発射管。

 ささやかながらも、三連装よりは当然のことだが雷撃力は上だ。

 

「何かと思えば、今の三連装と大差ない代物ですね」

 

「そんなことはないぞ不知火。一回の雷撃に一本加われば命中力が上がる……んじゃないのかな?」

 

「一本咥えるとか、司令は不知火にそのようなプレイを求めているのですね。とんだ変態司令ですね」

 

「何故そこで悪意に満ちた変換ミスをした!?」

 

「そのために開発妖精さんたちに働いてもらうとは……ああ、『不知火のことも開発しちゃうぜーぐへへ』という意味合いも含んだダブルミーニングというわけですね」

 

「なんだ今のは! 僕のモノマネか? 僕、そんな喋り方したことないよなあ!?」

 

「そして開発成功したのが太くて硬くて大きくて黒光りするモノだとか……司令は不知火に何をさせる気ですか? ああ、当然“ナニ”ですよね。これは失礼、司令の変態的――いえ、大胆な思考に未熟な不知火は考えが至りませんでした」

 

「なに、これ……言葉の暴力って知ってる?」

 

「では、言葉の憲兵を呼んでください」

 

 鎮守府のリアル憲兵でも対処できそうになかった。

 

「お前ってどうしてそんなに次から次へと暴言が出てくるの?」

 

「お前呼ばわりはやめてください」

 

「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」

 

「不知火さま」

 

「…………」

 

 この駆逐艦娘、正気なのか。

 

「……シラヌイサマ」

 

「片仮名の発音はいただけませんね。ちゃんと言ってください」

 

「ぬいぬいちゃん」

 

 連装砲で目を突かれた。

 

「失明するだろうが!」

 

「失言するからです」

 

「何だその等価交換は!?」

 

「燃料270、弾薬150、鋼材370、ボーキサイト50、照れ隠し5に悪意9700で、不知火の暴言は錬成されています」

 

「ほとんど悪意だし、そのレシピだと重巡洋艦まで建造できるじゃねえかよ!」

 

 レア駆逐艦も大いに期待できるレシピだった。

 

「ちなみに照れ隠しというのは嘘です」

 

「一番抜けちゃいけない資材が抜けちゃったよ!」

 

「うるさいですね。いい加減にしないと司令のニックネームを死ねえ官にしますよ」

 

「あの暴言元はお前だったのかあ!」

 

 とんだガールズトークをされていたものである。提督で司令官なのに。

 

「ともあれ」

 

 そう言って、不知火は手にした四連装魚雷発射管をまじまじと眺め、大事そうに撫でていた。

 

「開発された物に罪はありません。それに、これはいい強化。感謝します」

 

 この時僕は初めて、不知火の言葉にわずかな照れ隠しを感じ取ることができた。

 どうやら、初めての開発成功にはちゃんと御褒美があったようだ。

 

      005

 

 後日談というか、今回のオチ。

 装備の開発には少なからず失敗が伴うわけで。

 

「まあ、今回はそれほど使い込んでないから構いませんけど、資材調達の遠征はまだ行けないんですからね。気を付けてくださいね、死ね、遺憾ですが」

 

「別にもう、無理に司令とか提督で噛まなくていいからな、漣」

 

「提督はわたしからアイデンティティをもぎ取ろうって魂胆ですか? 死ねえっ!」

 

「おい、もうそれ完全に罵倒だからな!」

 

 そんな会話で誤魔化しもしながら、多少は反省をしないでもない僕である。

 低レベル司令部での試行錯誤しながらだった開発は、それなりに無駄な資材消費をしてしまったのだから。

 それでも、今回の一件は今後の艦隊運営に必要不可欠なことであっただろう。

 艦娘との間に確かな繋がりを築くこと。

 もっとも、それが何を生み出してしまうか。その時の僕には考えにも及ばないことだったのだが。

 




 今後もおそらくこのような感じで進んでいくと思います。

 どちらかの作品を好きな方にも楽しんでいただければ嬉しいデス。
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