刀滅の刃   作:ヤッサイモッサイ

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完了形変体日輪刀、というパワーワードマジで草
那田蜘蛛山から炭治郎視点、いざ、始め


九つめの刃

頸を───跳ねた。

 

肺が潰れそうだ

足が崩れそうだ

頭がガンガンする

 

なによりも、心が緩む。危機は去ってない。伊之助がまだ戦っている。他の鬼もいる。こんな場所で止まっている場合では無いのに.......ッ!

 

「クソ、身体に力が入らない.......!」

 

止まるな、まだ止まるな。まずは禰豆子だ。這ってでも動け。呼吸を落ち着けろ。今のが十二鬼月だとすれば、伊之助が戦っているのは───

 

「アァ───本当に、不愉快だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......え?」

 

目が合う。跳ね飛ばしたはずの首と。下弦の伍と確かに刻まれたその瞳と。視線が合う。

 

嘘だ.......、だって確かに首を跳ねたんだ.......っ!この手で!確かにッ!

 

「だからさァ、最初から言っているだろう?キミ程度にボクが殺せるわけがないじゃないか。この首は、ボクが自分で跳ねたんだ───キミに、斬られる、前にさァ!」

 

憤怒の形相で此方を睨むその首が、見えない糸に手繰られて宙を舞う。

 

「.......もういいよ。ちょっと遊んでやったら調子に乗っちゃってさぁ」

 

俺の決死の攻撃なんて無意味と言わんばかりに、その首は何事も無かったかのように復元された。

鬼の、腕が持ち上げられ───しまった。

 

「禰豆子ォ!!」

 

這っている場合じゃない。

動かないなんて泣いている場合じゃない。

 

俺は長男なんだ、我慢しろ。この程度の事で泣いていて、それで残った家族まで失うのか、悲しませるのか!?

 

「逃すわけがないだろう.......ここまで虚仮にされたんだ、ただじゃ殺してやらない───“血鬼術・殺目篭”」

 

視界を無数の赤い死で区切られた.......いや、視界だけじゃない。赤い死が、俺を取り囲んでいる!

 

俺が死ねば、次はきっと禰豆子だ。

この鬼は、歯向かった禰豆子をきっと許さないだろう.......だけれど、俺はその結末こそを許せない。

 

 

だから、死ぬわけにはいかない。いかない───のにッ!!

 

「動け、焦るな、呼吸を.......正しい呼吸をォ.......!」

 

なんで俺は動かない。決めたんだろう、誓ったはずだ。

 

死が、肌に喰い込む.......畜生、巫山戯るな、指一本動きはしない。だからなんだ、それは家族を失うより辛いことか?

 

「お前は───細切れだ」

 

───違うッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならばお前は───八つ裂きだ」

 

 

───赤が、舞った。

 

「何が、起きた?」

 

身体を縛り付けていた重さが消えた。近づいていた死の気配が遠ざかっていく。

今の声はなんだ?

 

反射的に振り返ろうとする肉体を抑えつけ、禰豆子に覆い被さるように飛び込む。

 

───良かった。傷だらけではあるが、どれも深くない、息もしている。何時もの睡眠状態だろう。

 

「.......キミ、誰?次から次へと邪魔ばっかり───本当にキミ達はボクをイライラさせてくれる。どうもありがとう、いい加減ウンザリだ」

 

誰かが、助けに来てくれたんだ。糸が俺を切り刻むその寸前に、糸よりも早く全ての糸を断ち切った───あの赤い糸をだ。

一体誰が?

 

「女の.......人?」

 

長い黒髪だ。時折混ざる白髪のせいで灰髪にも見える。女物の着物を着た、長身の女性───って帯刀してない!?!?

飛ばされたんだ!女の人の力じゃあの糸を斬るのは難しいはずだ。俺を助ける時に弾き飛ばされたに違いない。

 

「何処だ、何処に.......?」

 

何処にもない。臭いもしない。木の上にも、地面の上にも、金属の匂いが無い。

 

「否定するよ、鬼も、少年も。何処をみたって刀なんざ落ちちゃいない」

「.......キミ、鬼かい?」

 

───違う、鬼の匂いじゃない。これは人の匂いだ、刀を持たない人.......一般人!?そんな馬鹿な、ありえない。一般人にあの硬度の糸を切れる筈が無い!それも日輪刀も無しにッ!

 

「それも否定する。刀は持ってないし、鬼でもない。簡単だ───私が日輪刀なんだよ」

 

鬼が、目を細める。

 

「冗談は嫌いだ」

 

夜の闇を、無数の赤が走る。

空に線を引く様に、森を刻むように、山を区切るように。

非常に淡々と死の世界が展開される。

分かってはいた、これが十二鬼月。動けるだろうか?肺はまだ痛い、全身の不調も、まだ治っていない。

 

だからどうした、ここで立ち上がらなくては人が死ぬ。

 

「逃げてください!出来ればこの子を連れて、遠くへ!」

 

再び、折れた日輪刀を構えて、前へ出る。

もう一度やるしか無い、今度は自分一人の力で、確実に───死を越えて、あの鬼の首を斬る。

 

「早く行って───」

「五月蝿い」

 

言葉を遮られた。放とうとした言葉が勢いをなくし、宙へと溶けていく。

 

「助けには来た。でも子守りは仕事じゃ無い。そもそも、アンタじゃアレには勝てない」

「だとしても、鬼を斬るのが俺の使命だ」

「違うね、それは私の仕事だ───」

 

苛立たしげに、待ち切れないと言わんばかりに赤色が降ってくる。

先程とは規模こそ違うけれど、きっと同種の血鬼術.......逃げ場を無くすように敵を囲んで、細切れにする。

活路は糸を切り拓くしかない!

 

息を吸う、吐く、吸って、吐く───

 

「───ッ!?」

 

肺が───痛い。呼吸が出来ない。

こんな時に、呼吸を中断してしまった!

しまった、間に合わない.......!

 

 

「全集中・刀の呼吸───弐ノ型“(なまくら)”」

 

 

───再び、赤が舞う。

 

さっき見たのは、これだ。この動きだ。

宙を自在に舞う無数の糸を、束ねるようにして纏めて断ち切った───素手でッ!!

 

「虚刀流、蒲公英───言っただろ、私は日輪刀だ。糸を斬るくらい、刀なら出来て当たり前。特別な刀なら尚更だ、島だの海だのお城だの位は息するようにぶった斬るさ」

 

まぁ、戯言だが?

 

言葉は流された。誰も目の前の現実が、果たして本当に現実なのか、分かっていなかったから。

 

目を奪われた。

 

耳も鼻も機能しなくなるほどに、その光景には魔が宿っていた。毒と言い替えても良い。

その様な刀を持てたならばと、誰もが暫し夢想してしまう様な、そんな切れ味。

 

「馬鹿な───ボクの糸を、素手で?どうやって.......分からない、意味がわからない。アァ、くそ頭が痛い。これだから嫌なんだ。人間は、コレだから!」

 

一足先に現実へと戻った鬼が、腕を突き出す。

その血の如く染まった腕を、より赤く、より深く染めながら───もはや黒となった糸を、万華鏡の様に編んでいく。アレこそがあの鬼の必殺、問答無用でそう理解させられるほどの、深い、血の匂い!

 

「刀───なんだっけ?へぇ、凄い凄い。良く切れるねェ!その調子でさァ、ボクの首を斬りに来るといい。何回も、何回でも、君が死ぬまで無駄な挑戦をし続けるといいさ!!」

 

高速で変容する黒の紋様、回転する度に織り成され、硬く、鋭くなっていく死の嵐。

 

「“血鬼術・刻糸輪転”────ッ!!!」

 

それが、ただ1人を向けて放たれる。本来ならば広範囲を削るであろう規模の災害が、ただ1人を向けて放たれる。

 

「虚刀流───奥義」

 

対して、女性は初めて構えを取った。

身体を半身に、右の拳を左手の平で覆うように、腰元でそっと───構えを取った。

 

黒き嵐が音すら削る。そんな中でも、それは全てを切り裂くように、俺の耳に届いた。

 

「“柳緑花紅”」

 

そっと滑らかにつき出された拳と嵐が接触した瞬間───嵐が八方へと裂けた。

 

否、それだけじゃない。見えない何かが、分裂した嵐の中を、黒い糸を伝わって奏者へと返っていく。そして、それが届くや否や───

 

「ガァ───ッ!!?」

 

───鬼の身体が弾けた。内側から、両腕を吹き飛ばし、体幹すら貫いて。

傍から見ていた俺にも何が起きたのか分からない。鬼なぞ、もっと理解が追い付かぬはずだ。

 

そして、そんな意識の間隙を女性は駆け抜ける。逃げる事も、防ぐ事も、迎撃する事も───身を捩る事すら封じられた、宛ら狩人の巣に搦め取られた虫の如きその鬼の、頸を目掛けて、ただ真っ直ぐに。

 

「.......“()()()()”」

 

そして、どこかやる気のない掛け声と共に、横なぎに振るわれた手刀が、頸を跳ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

───だが、ダメだ。

確かに女性は強い。それはもう出鱈目な程の強さだ。それは誰もが認める。

しかし鬼という生き物の哀しさは、その程度の事では埋められないのだ。

 

鬼は死なない───それはその身を八つ裂きにしようと、火に焚べようとも覆せない。

鬼を葬るには陽の光に当てるか、或いは鬼殺の隊士が持つ日輪刀によって頸を跳ねるしかないのだ。

 

呆気にとられて渡せなかった。彼女がこの刀さえ持っていれば、このチャンスを無に帰す事もなかった。

鬼は強かだ、正面からが無理だと悟れば、鬼を殺したと思い油断している彼女の背を突くだろう。そしてそれすら叶わなければきっと逃げるに違いない。そしてどこかでまた人を喰らい、強大になっていつの日か、彼女を殺す。

 

 

守れるのは、俺しか居ない。今、やはり俺が殺すしかないのだ。

 

「否定する、必要ない。刀を下ろせ」

「───え?」

 

.......灰の、匂い。

鬼が死んだ時の、あの切ない匂い。

 

()()()()()()()()。頸を断てば、鬼は死ぬ」

 

あの鬼が.......首をもいでも、そのまま一晩置いても死ななかった鬼が、日輪刀で頸を断たれるでも、陽の光を浴びるでもなく死んでいく。

 

十二鬼月とまでされた、最強の鬼が、呆気なく.......。

 

 

 

日輪刀と呼ばれる刀が、鬼を殺せるのか

 

 

或いは鬼を殺せる刀こそが、日輪刀なのか。

 

 

 

鬼殺隊に入って日の浅い己には未だあずかり知れぬことだが.......

 

少なくともこの夜は、俺の刀よりも、この女性の方がより日輪刀らしくあったことは、間違いない。

 

 

 




他の作品はエタらない。いつか完結させると誓いますが、これはエタります。誓います。
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