昔、そのまた昔のお話。
とある所に、全国を旅して回る、ソレはもうちぐはぐな男女がいたそうな。
男は顔に傷、その時代には珍しく長身で、それはもう派手な着物を着た自称刀。
女の方はこれまたその国では滅多に見られぬ金色の髪に碧の瞳、不思議な面を付けてはなんでも否定してしまうお姫様。
2人は決して仲が良いとは言えませんでした。男は女を振り返らず、女は隙あらば男を謀ろうとする。
されど、2人は似たもの同士。長い、それはそれは長い宿命から解放され、自由を謳歌していました。
時にはどこにでもいる、若者の様に振る舞いました。
時にはフラりと現れて困っている人を助けたり、また時には平和な村へ騒動を持ち込む.......そんな、そんな2人組でした。
然し、そんな旅も長くは続きませんでした。女が突然発熱に倒れたのです。男はそんな女を担ぎ、憎まれ口を叩くその女を看病し続けました。
酷く魘される夜が、三日三晩は続きました。
女は、それを境にそれまでの振る舞いをはたと辞め、笑み以外の表情を浮かべることを辞めました。
男はそんな女の様子に覚えがありました。
また、同時期に旅の途中、奇っ怪な噂を耳にするようになりました。
曰く、“人食い鬼が出た”.......と。
腕に覚えのあった男は女を連れて山に登りました。女も、男であれば問題なかろうと、相手がどんな獣であろうと、或いは強者であろうとも、彼ならば仕留めてみせるだろうと、その時は思っていました。
しかし探せど探せど鬼なるものには出会えません。やがて日が落ち、夜になりました。
歩き疲れたのだと文句を垂れる女に辟易としながら、男は休めるところを探し、山の中にポツンとあるお堂に行き着きました。
ふと、言い知れぬ違和感を抱いた男は、女を黙らせて静かにお堂までの道を行きます。
違和感はお堂に近づくにつれ確信へと変わり、男は警戒しながら、扉に手をかけました。
しかして、そこで待っていたのは小柄な少女でした。
2人は顔を見合わせ、そして女は少女に手を差し伸べます───それに気がついたのは、男が先でした。
少女は、お堂を盛大に汚しながら、人を喰らっていたのです。
あわや女が引き摺り込まれる、という時───男は反射的に少女を八つ裂きにしました。
正に間一髪。何が起きていたのか、何故こうなってしまったのか、疑問は多々あれど一先ず危機は去った筈でした。
そんな風に一息を着いた2人の先で、少女のバラバラになった肉体が再び集まり、くっついて行きます。
2人はその現象に、少なからず心当たりがありましたが、それはやはり有り得ないと、同時に頭を振りました。
そこからは凄惨な夜が幕を開けました。
女の信頼通り、男は圧倒的でした。百度戦えば百度勝つ.......それほどまでに隔絶した実力差で少女を殺し続けます。頭を潰し、首を斬り、肉体を燃やし、刹那の間に数百回と致命傷を与え、体の中身をぐちゃぐちゃにし、時には柱に突き刺して.......しかし、ついぞ少女を殺す事は叶いませんでした。
終わりのない戦いに、さすがの男も呆れてきた頃.......夜があけました。
するとどうでしょう。どれほど殺しても、諦めずに襲いかかってきていた少女の顔に、怯えが走りました。
女はそれを見逃さず、お堂の全ての扉を開け放ってしまいます。
柱に貼り付けられたままの少女は、怯えた様子で陽の光に晒されると断末魔を上げ、そしてやがて灰になってしまいました。
女は言いました。あの病に倒れた夜、夢を見たと。
本来であれば、その夢はいつも結末の変わらない、とんだ悲劇で幕を下ろします。
しかしその晩は、あの3日間は惨劇であったと、彼女は言いました。
二人の旅は、そこで終わりを迎えました。
女は都へ戻り、何が起きているのか情報を集め始めました。表立っては集められないので、足場作りからじっくりと。
男は女に言われるがままに、北で鬼が出たとされれば北へ、南で出たと言われれば南へ走り、その度に一晩中戦いながら鬼を殺す方法を探しました。
結局わかったことは、男には鬼を殺せないという事だけでした。
それと同時期に、同じように鬼と戦う組織が秘密裏に結成されました。
女は男以外にあれに対抗できる存在がいることを訝しみ、そして遂にその対抗手段を突き止めるに至りました。
それは、特別な刀でした。その刀で鬼の頸を断つと、鬼は日の光を浴びたかのようにたちまち灰になるのだそうです。
また、そのような特別な刀を持った彼らが独自に生み出した“呼吸”なる物にも彼女は興味を示しました。
そして女は決意すると、すぐに男を呼び戻し、その話を打ち明けました。
“私に、刀を打たせて欲しい”
男は女の言うところを、正確に汲み取りました。
女は自身の知る最高の刀達をベースに、幾つかの仮説を立て、男にそれら全てを叩き込みました。
男はそれらを鬼を相手に試しては直し、自らを鍛え続けました。
次に女は、自らの知る最も完成度の高い刀から、日輪刀を作る方法を探し始めました。現実にそのすべが無いのであれば、夢の中で。
かつて祖先がそうしてきたように。
そうして2人の元には最高の日輪刀を作り方とその刀で鬼を殺す最強の型が揃いました。
後はそれに、名をつけるだけ。
純粋につけるのであれば、名前は決まっています。しかし、浮かんだ候補のその全てを、2人は揃って否定しました。
男は経験から、女は名前に付きまとう縁から───
故に、その名から男の名前は消えました。
されど、それは完全ではなく、やはり完了であるべきだと、故にそこには新しい縁を刻む事にしました。
過去から続くものではなく、今から始まる新しい縁を、その名に。
全ては、変わってしまった未来を取り戻すために。
2人には使命に燃える情熱はありませんでしたが、始めた事は終わらせなければならないと、それぞれが誓った過去の縁があったからです。
そして、時は流れて───
───現在。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あら、そんなことあったかしら?記憶に無くも、なくもない───なんてこともないでもないわ」
「いや、あるだろ。いつまでそんなこと言ってんだ?やる事やった途端すぐに元の調子に戻って人を連れ回すだけ連れ回して」
「ちょっとこらこらそれこそ否定するわぁ、連れ回したのはそっちじゃないの。続きは越後だーとかなんとか言って!こっちはまだやる事あったのに!」
「覚えてんじゃねぇか、これ以上ないまでにハッキリと!そもそも、ついてきてくれなんて誰も頼んで────っ!」
旅は道連れ。
仲間でも、友でも、恋でも、愛でも、共犯でも、腐れ縁でもなく────この2人に、“宿命”
以外の縁があるとすれば、きっとそれは“敵”なのでしょう。
これまた“宿命の敵”とはならない事が、傍から見て読めない原因なのでしょうけれど。
ともあれこれにて二人の刀を巡る物語はめでたく終わりました。
これより続くとすれば、それはきっと新たな刃によって綴られる新たな物語。なんと名付けられ、それがどのようにして終わるのか。
結末は変わるのか否か───それはまた、別のお話.......。
そう、これこそが本当の始まりです。そして始まりとは終わりである.......偉い人も言ってますよね。賢い人ならわかるはず、つまりはここよりエタる