大人しく台詞だらけの話を投稿します
こういってはなんだが、生来の私はそう寡黙な人間ではない。
祖母の存在が大きいのだろうが、刀と言うには口喧しく育ってしまった。
祖父はそんな私を見て、「持ち主の色に染まるというのなら日輪刀らしいとも言える」なんて惚けたことを抜かしていたけれど、私が求めたのはそんな見知らぬ誰かでは無く、ただ一振の刃であった祖父そのものなのだから皮肉である。
閑話休題。
ともあれ、なぜこの話をしたかといえば私の本来の性格は寡黙でもなければ否定的でも無い、むしろ真逆と言える性格が、何故ここではそのように振舞っているのかというところに原因がある。
私には持ち主が居ない。暫定の持ち主は居れど、産屋敷は所詮は仮初の持ち主に過ぎず、また祖父母も私を刀としてでは無く日輪刀として育ててしまった。
故にこそ、祖父とは違い私は他人に関心を持つし、考えをめぐらせてしまう。
“持ち主の色に染まるのであれば、それは虚ろではなり得ない”
とは祖母の科白だ。
とはいえ、持つ前に何色かに染まっている日輪刀というのも変な話.......
故に私はこの世で最も強い鋼の色を被ったわけだが.......どうやらそれはそれで祖母の気には召さなかったようだ。
それはそれでしょうがない。刀であると自身を定めるのならば、持ち主同然、鍛冶師の打った通りに形を変えるのが刀である。
「さて、ではまず立場を明確にしておこうか」
自分の意思を持て、そんな風に願って刀を打つ戯けなぞそうおるまいが、残念ながら我が家系はそんな戯けが先祖である。
「私は竈門炭治郎、及びその妹禰豆子の存在を認め.......なくもない」
「漸く口を開いたかとおもえば舐めた事を抜かしやがる.......話、聞いてなかったか?刀には耳はねぇもんなァ」
.......祖母のように鮮やかな二重否定は難しいな。普通に肯定しかけた。
「異なことを言う。刀に耳がないといったが、頭と目と口はあるのだから、見て、考えて、言うことには疑問を抱くべきではないな」
「それ頭と
無論、戯言だ。
「さて私が容認側に動いたという事は、水柱・恋柱・刃柱が容認、蟲柱・霞柱が中立、炎柱・音柱・岩柱・蛇柱・風柱が反対.......となったわけだが、持ち主の意向を汲むとすれば、中立の票如何によっては多数側が逆転する」
「だからァ?よもやこの問題、多数が認めれば良い.......なんて甘えた事までは抜かしてくれるな。さすがの柱とはいえ、斬りたくなる」
「逸るな、切っ先が向けられたからと何でもかんでも身構えるのは───臆病者の証左だぞ?」
カチッ、と一度は収められた緑刃が再び顔を見せたので、戯れはここまでに。
「現実的な話といこうじゃないか。確かに、多くが認めたからと容易く認められる話ではない.......が、多くが認めている以上、証明に求められている水準は変わると思うが───どうだろう?」
「何が言いたいのかサッパリわからなイ。確かに元水柱とやらの嘆願とやらも含めれば、数としては同じ、故に譲歩しろとでも?」
小芭内の言葉は、口ぶりの割には的を射ている。
「そうとも、譲歩だ。鬼は人を襲うものだと言うのが常識であるが故に、竈門炭治郎は証明を求められていた、がしかしだ。そうでも無いと信じる者が半分も居れば、証明を求められるのは果たしてこちらなのだろうか?」
「俺達に、鬼が人を襲うことを証明しろと?」
「───
沈黙が落ちる。
恐らくは、であればどうするのだと、誰もが思っているに違いない。
そうだろうとも、実弥の持つ特殊な“稀血”でも無ければ、証明なんぞしょうがない。
私とて同じだ、証明の方法なんぞ持ちえない.......故の譲歩。
刀には証明は出来なくとも、証言は出来る。口がついているが故に。
「一つ、確認しよう。妹が鬼になったのは2年前。それ以降その娘は、人を食べることは疎か、襲ってすら居ないと」
小僧の、竈門炭治郎の目にそう問掛ける。そうしなければ意味が無い。何故ならば───いや、これは違うか。
そうとも、点で違う。天と地ほどに違う。言うまでもないことだった。
そもそも、炭治郎がなんと答えるかなど、誰もが知っていることなのだから。
「もちろんです、禰豆子は、人を、襲ってない!」
「.......本人が証言し、元水柱という証人がいる。鬼殺隊に入ったあとであれば、鎹鴉の監視もある。過去の証明に関しては文句は無いだろう?」
「それで.......?その言いぶりでは、まるで未来の証明に関しても、問題がないとでも言いたげですが?」
否定するとも、問題がないわけがない。
問題だらけの証明だ。これが通るのならば、掟なんぞ有って無いようなもの。例外だらけで形骸化している。
だが、言って見せよう、断言しよう、肯定するさ。
「問題は無い。未来に関する証言ならば───専売特許だとも。もとより我が家系は例外しか無い」
「まさか、とは思いますが.......
病気なんぞ可愛いものでは無いが、因果な事に、と言うよりは因果故に、私は未来を証明する。
「あぁ、まただとも───私には、未来が
呆れたを通り越して、辟易とした場から視線を切るように、私は眦を下げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
世の中には様々な個性がある。
顔が良い、悪い。
声が良い、悪い。
目が良い、悪い。
鼻が良い、悪い。
耳が良い、悪い。
血が良い、悪い。
味が良い、悪い。
と言ったふうに、みんな違ってみんな良い───まったく反吐が出るが、まぁ、老若男女人間動物植物をわけて考えられるのは、個性があり、それを認識し認められるが故だろう。
だからそれが出来ないのを“人でなし”というのだ。
かく言う私も、そうした型に嵌め込まれた言い方をすれば、目が良いとなる。
意外だろうか?自身を日輪刀何ぞとほざく娘が、まさか目が良い程度を誇るのか、と。
それが、個性の欠陥である。個性と宣いながらも、結局それは自分では定義できないのだから。
例に漏れず、私のこれも私自身が定義したものでは無い。血によって定義された、故に因果である個性だ。
私の瞳は何も遠くのものが見えるわけじゃあない。常人より細かくものを見たりする訳でもなければ、人を超えた神経を持っていたりもしない。
ただ私の瞳には、理と未来が映る。
他人を見れば、何をしているのかがわかる。どういった原理で、どうすればそれが出来るのかがわかる。或いは、数瞬先か、遥か先の光景が脳裏に刻まれる。
どちらも遺伝だ。だが、どうしようも無く血は薄まっている。
祖母がその様にして打ったと言った。
この碧色の瞳は、そのような物なのだ。
故に皆に言った、頭がある・目がある・口がある、はその実戯言でもなんでもなく、確かに私という日輪刀にはそのような機能が搭載されている。
全ては鬼舞辻無惨の頸を、落とす為に。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「───もういい。冨岡や時透と同じで、口数の少ない奴だとは思ってたが、お前はもう喋るな」
遂に、と言うべきか。今まで顔をのぞかせるにとどまっていた緑刃が抜かれたのは、“これ以上喋れば斬る”という意思表示だろうか。というか多分そうだろう。
だが残念。実弥が刃を抜くよりも先に、私の言葉は役目を終えた。既にこの話は斬るべきものは斬り終えた。
「私の未来視に関しては、持ち主である産屋敷が肯定する」
「───アァ?」
切り札なんてものは先に切ったもの勝ちとは、祖母の言、難しい事は斬ってから忘れるとは祖父の言だ。
「うん。保証しよう、彼女には確かに未来が見える。そしてそれは
「ァ───にを、何を仰っているのか、わからないのですが.......お館様は、四季崎の戯言を、信じると.......?」
「信じる信じないではなく、それを私は事実として受け入れている。彼女のそれは、実弥の血と同じ個性であり、事実であると、私は証言しよう」
明確には、まだ終わってはいない。
下手をすれば“人を襲わない鬼の存在”よりも有り得ない話である。再び証明しろ、と言われてしまえばそれまで。
ただし、それは悪魔の証明にはなり得ない。何故ならば私にとってそれは、刀の基本機能である切れ味を試す事と大差ない。
1度実演してしまえば、今度はそれが“未来視では無い”と他の柱たちが証明する番になるためだ。そしてそれこそが、後の世に言われる“証明しようのないもの”、悪魔の証明である。
「さて、禰豆子は過去に置いても未来に置いても人を襲わない鬼という証言が出揃った。仮に、過去に彼女が人を襲った、ないしは未来に置いて人を襲う証言があれば、話は続くけどな」
そのような証言こそ、出来るはずもない。
“事実”が全てを証明する。過去に人を襲わず、未来でも襲わないと私には視えている以上。同じ個性を持つ人間がいたとしても嘘をつく必要が無い。
何よりも私の個性による証明を否定すれば、それこそ今度は実弥による血の証明すら否定される。そうなれば本当に証明なぞ不可能だ。
「少し、意地悪が過ぎたかな?」
未来視の使い手は否定とは無縁の人生である。当然の如く、全てを知る人間を否定できる人間はいない。故にこそ、祖母は自分で自身を否定するのだ。
「この結末では納得できない者もいるだろう。九種にも嫌な役を頼んでしまった」
それでも、必要な事だったと産屋敷は嘯く。
「卑怯を承知で頼もう。それでも納得がいかなければ、どうか私を信じて欲しい」
.......返事はなく、ただただ頭を垂れる事を、産屋敷は柱の総意として受け取った。
炭治郎・禰豆子両名に関する余談は多々あれど、ひとまず命は繋がった。
小僧小娘の一々に興味は無いが、どうやらしのぶの屋敷の預かりとなったらしい。
「随分と消耗しているね」
私は産屋敷の持ち物だ。故にこうして柱合会議が終わったあとにも呼ばれる事がある。
「私の力は、祖母よりも更に薄いもので.......」
一族としての力は弱まったと宣う祖母ではあるが、私からすれば順番が異なるだけで一族一番の化物はアレである。
息をするように時を超え、時を超えるように息をする。
逆に言えば私程度の力では、実は狙って未来を視る事は難しい。出来なくはないが、視神経を酷使することに繋がる。数瞬先程度ならばいざ知らず、一人の人間の未来を保証するとなれば、その負債は肉体だけに背負わされるものでもないだろう。
「しかしまぁ否定しておきましょう、祖父の頑丈さを見れば、多少の無茶でガタ付くようなやわな身体では無いと思いますので」
まぁ、そちらの方は祖父曰く1番の化け物は他にいるとの事だが、甚だ眉唾としか思えない。あの祖父を超えるとはなんだろう。
寝惚けて家を壊すまでは良しとして、なぜ山ごと斬るのか。祖母も呆れすぎてただの否定で終わっていた。一回否定は逆に稀である。
「ともあれ、炭治郎達を助けてくれてありがとう」
おっと、それは───言うまでもなくもなかったか
「
何故ならば、あの時の目は、そういう目だったから。
そう、あの時の目はそういう目だったのです。
皆さんにも見えるはず、作者の目に刻まれた文字が。
そうです、私が上弦のエタです