刀滅の刃   作:ヤッサイモッサイ

6 / 6
お久しぶりです。
珍しく仕事が早く終わったからと無限列車編のBluRayを見ていたら唐突に書きたくなったので投稿します。

独自解釈が殆どですが、某兄上に2個目のトラウマを植え付ける元主人公です。



番外 完了形変体刀

───かつて日輪に焦がれていた。

ただ目が眩んでいただけなのかもしれない。

あの頃の自分には、弟のような眼は無かったから。

 

強さも、優しさも、気高さも、慎ましさも、それら全てが塵に移るほどの特別性が、あまりにも眩しくて。

 

その輝きを知らぬままに、さながら暗渠に住まうが者の如く、自身の強さを誇っていたあの頃の自分のなんと空虚な事か。

自身の呼吸を“月”などと呼んだのは、そうした諦めが回りに回って地に沈んだ頃であった。

 

はるか頂きにて己が美しさを誇る月輪が、所詮は太陽を写す鏡に過ぎず。

そしてまた自身こそが天であるという自惚れすら、遥か高みより降り注ぐ陽光に晒され、その姿すら奴の気まぐれで虚ろと化す。

 

その存在は決して対では無い。

あれこそは正しく終───もしもこれが誰かの語る世界の中であれば、紛れもなく間違いだと断言しよう。

あれなるものを人と呼んだ全てが間違いだ。

 

比べてしまえば、まだ己の方が人らしく映るに違いない。

 

 

───人でなしだ。

誠にあんなものと張り合い、並び立つものがあるとするのならば、それは恐らく人では無いものなのだ。

そうとも、人は如何に腐ろうと“殺す為に産まれてくる存在”では無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

故に───よもや永き生の過程にて、今一度そのような存在と邂逅するとは思いもしなかった。

 

「───アンタ、“おに”ってやつだな」

 

鮮血───その男が身に纏う紅装束を、思わずそう見間違えるほどに血に染ったその佇まい。

どの様な怨嗟を、宿業を重なればそこに至るのだ。

 

「貴様は、なんだ」

 

人、なのだろう。そうでないはずがない。

同族の気配もなし。あの御方の匂いでもない。

二足歩行し、人語を介し、鬼の本能を燻る香りを漂わせるとなればまず間違いなく人である筈だ。

 

しかし、見えない。てんで人には見えぬ。

人に在るべき縁が、未練が、それこそ怨嗟の数々が断ち切られ斬っている。

 

「なんだ、と言われてもなぁ。悪いが明確に返す言の葉を持たない。根無し草の旅人で、大罪人で、共犯者で、今は刀鍛冶の真似事もしてる。それでも少し前ならそれらしい決め台詞でも言ってやれたが、生憎と今は担い手すら不在の有様。恥ずかしくて名乗れたもんじゃない」

「…戯言を、そのような話をしているのではない」

「そうかい、アンタには戯言に聞こえたか」

 

“そいつは、随分と残酷な話だ”

続けて吐き捨てられた言葉に噛み付くよりも先に、男は己を指さし言葉を紡ぐ。

 

「大体の奴は俺を見てもそんな風には思わない。人も“鬼”も区別無く襲いかかって来る。それが例え名だたる剣士であろうと、忍であろうと、海賊であろうと坊さんだろうとな」

 

一見して、容易く見える。

概ね男には覇気と言うものが存在しないが故だろう。

生きながらにして死人。そんな存在が最弱でないはずがない。

 

 

だが、知る者はそこを警戒する。

人の力が“心”とするならば、心無きそれらこそ悪鬼羅刹魑魅魍魎───人でなしと呼ぶのだ。

 

「アンタはそういう奴らとは違うみたいだ。いい加減収穫無しってのも後が怖いからな。アンタには色々吐いてもらおうか」

「鬼殺の剣士でもないだろうに、何を───」

 

そうとも、男は刀を佩居てもいない。獲物らしい獲物すら持たない。最近の鬼狩りの様に一律の隊服を纏うでもなく、呼吸すら知らぬとばかりに男は踏み込む。

 

「───まぁ、万が一にも負けるような事があればあんたの質問にも答えてやるさ」

 

反応は容易い。

かつては侍として、後には鬼狩りとして、そして今は最強の鬼として、数多の技と修練、経験を積んだこの身に届くものか。

如何に人外とはいえ、奴でもあるまいし。

 

「ただし」

「……ッ?」

 

踏み込んで、来ない?

 

「その頃にはアンタは八つ裂きになっているだろうがな」

 

…。

 

……。

 

…………ッ?

 

「何を─────ッ!?」

 

理解、不能。

どのような血鬼術よりもなお意味不明。

男が踏み込んだその動作も、己を斬り裂いたその手管も、そしてそれを納めた瞬間すら不見。

 

ただ後方よりも声が聞こえたが故に遅れて振り返った。その頃には肉体に無数の斬撃が走った後だった。

 

粟立つ。

鬼になってからとんと揺れ動くことのなかった感情が久方ぶりに揺さぶられた。

 

「…ありえない」

 

叩き込まれた斬撃は都合7発、丹田で結ばれる様に肉体を均等に切り分けている。

感覚的に日輪刀などでは無いだろうが再生が遅い。切断されたことに身体が気がついていないのだ。

 

「その言葉、姫さんだったらとっくに否定し斬っているところだ。ありえない事なんてありえないんだよ」

 

それすら何でもなかったかのように男はこちらを見て己が体勢を立て直すのをただ眺めている。

 

「それで、なんか喋る気にはなったか?言っておいてなんだが“聞き出す”とか“探る”って言うのはどうにも苦手でさ。俺に出来ることといえば、相手が話す気になるまで切り刻むが関の山なんだ」

 

…対象を切り刻むことのみに特化した存在。

 

嗚呼、目眩がする。そのような悪夢がまたと存在してなるものか。

神仏があるとするのなら、何故そのような存在を許している。腸が煮えて繰り返る。

 

“透き通る世界”───かつて人でなしが生まれた時より見ていた世界。皮膚を抜けて相手の体構造を瞬時に理解し、その駆動から未来予知地味た行動予測を可能とする戦闘技能のひとつ。

敵の弱点を見抜くだけに留まらず、いつ踏み込めば一撃を与えられるか、いつ攻撃が飛んでくるかも正確に見抜き、その正確性とその世界に至るための前提条件から、同じ領域にでも至らなければ敵にこちらの攻撃行動を察知させないという特性を持つ。

 

そうだとも、これは奴が持ち得た世界。

その世界に達していないものでは戦いにすらならぬ境地の一つだ。

 

では、そのような世界を持ってしても動きを捉えられなかったこの男は?同じ世界に至っているとでも言うのか?

いやはや、断じて違う。異なる筈だ。

もはや直感の域を出ぬ、然し確信とも言える。

この男はこの世界をもってなどいない

 

───成程、この男は“本物”だ。

 

己の様な後追いでは無い。

この世界はあくまでも縁壱が持っていた技能を模倣したものに過ぎない。

つまりはそういうことだ。この男は、この化物は奴同様に自身の世界を持っているのだ。

他人の模倣などではなく、自身の生み出した至高の領域に至っているのだ。

 

「───月の呼吸・壱ノ型」

 

だとすれば、殺さなくてはならない。この男が鬼狩りへと変貌するよりも早く。

この男より受けた傷が再生する内に、この男の刃があの方へと届く前に!

 

「“闇月・宵の宮”」

 

無拍子にて打ち出した横薙の斬撃。膨大な年月をかけて練り上げた剣技と呼吸法、あの方より血を頂いた鬼の中で最上位となる程の血鬼術と身体能力。

そこに奴の世界が加わる。

紛れも無く絶死、最早己の前方は斬撃の及ばぬ場所など無く、紛れも無く人の住まう場所ではなくなっている。

 

「弐ノ型 “珠華の弄月”」

 

仮に抜けた所で続けて放たれた切り上げと月輪が男の行く末を阻み、

 

「参ノ型 “厭忌月・銷り”」

 

連撃が左右への逃げ場を奪う

 

「伍ノ型 “月魄災禍”」

「陸ノ型 “常世孤月・無───」

 

ほぼ同時に切り込んだ2種の斬撃で距離を稼ぐ。続く呼吸は何れも大技、間合いを取って一方的に───

 

「……いつの間に回り込んだ」

 

気が付けば手中の刀は半ば程でへし折れ、切り刻むという言葉が霞むほどの超密度の斬撃で磨り潰したはずの人間が背後に回っている。

 

「虚刀流“菊”───二撃目の切り上げをそのままへし折ったんだ。流石に予備動作もなしに斬撃を作り出すやつなんて見た事がないからな、安全圏に飛び込ませてもらった」

 

“流石に斬撃に斬撃を重ねるなんてことは出来ないだろう”と、虚哭神去の先端を弄びながらそんなことを宣う化物。

ことも無さげに告げられた事実はまたしても受け入れ難き内容で、思わず半ばから断たれた刀を握る手に力が篭もる。

 

「にしても呼吸ねぇ、そんな感じの技を使うやつなら何人かあったが、そこまでの物は始めてみるな。“おに”が使ってるのも初めてだ」

 

当然だろう。鬼狩りは時代を経る事に力を落としている。戦乱も終わった泰平の世で、最初の呼吸法すら失い、残されたのは後に基本5呼吸と呼ばれはじめた炎・水・風・岩・雷のみ。何やら産屋敷と名乗る家門が接触してからはそれでも多少マシになったとはいえ、未だ有象無象の域を出ぬことに変わりはない。

 

「それに、刀を使う“おに”も初めて見たよ。変体刀では無いみたいだけど、随分と気持ちの悪い感覚のする刀を使ってるんだな」

「───。」

 

───変体刀だと?

 

「その名を、何故知っている」

「さぁ、それも俺を斬る事が出来たら答えてやるさ」

 

変体刀、世が未だ戦乱に包まれていた頃。たった1人の刀匠によって生み出された刀の総称。

総数千本とも言われた刀は1本1本が戦況を左右するほどの力を秘めていたとされる。

日輪刀ではなかったが故に鬼狩りに用いられることは無かったが、もしも変体刀の中に日輪刀があれば呼吸を使えぬ剣士でも鬼を狩ることが可能だっただろうとされるほどの代物。

もちろん当時は鬼狩りの戦士も刀の製作者とされる四季崎なる刀鍛冶を探していたが、ついぞ行方が知れることは無かった。

 

───しかしだ、戦乱が終わり久しい世だ。変体刀の殆どは破壊され、残存した数少ないそれすら最後には葬られたと聞く。

泰平の今の時代に変体刀の存在を知る人間がいる方がおかしな事なのだ。

 

「こと、ここに至ればただ貴様を討ち果たせば良いという話でも無さそうだ───手足を切り落とし、あの方の前へと連れて行くとしよう」

「…刀が、伸びた?」

 

“ホオオォォオ”と、独特の呼吸を長く、深く行う。

月の呼吸とは名乗ってこそいれど、実態は呼吸法をベースにした血鬼術。厳密には鬼狩りであった頃の月の呼吸とは完全に異なる存在だ。

その特性は予兆無しに発生する無数の斬撃と、それが揺れ蠢く事により刹那の見切りを無意味とする斬撃の稼動域にある。

とはいえ基本的には元となる斬撃の延長であるが故に、この様に野太刀と見紛う程の獲物を用意すればその斬撃の密度は先程とは比にならない。

 

「これを捌けるというのならば、捌いて見せろ───ッ!!」

 

ズン、と地鳴りの如き踏み込みから野太刀を振るう。練り上げられた神速の一閃───されど大地に数多の裂傷を刻み付け、その技は顕現する。

 

漆ノ型“厄鏡・月映え”───長大な刀身より生み出された斬撃が、更に斬撃を生むことで距離や角度、時間すら超えて前方全域を切り刻む。

 

更なる深みに入った奴の世界の中で、鮮紅が月と踊り始める。着物を解れさせる事すら無いその様から、やはり此奴も何らかの世界を持っていることを確信した。

 

 

───しかし、関係はない。

 

「捌ノ型“月龍輪尾”────ッ!!」

 

より深く、より強く踏み込んだ返しの刃で放たれるは、渾身の血鬼術により生み出される膨大な量の斬撃を束ね、野太刀の一撃へと載せたひとつの完成系。

 

「…変わったのは刀の形だけじゃないみたいだな」

 

当然ッ!漆以降の型は野太刀の斬撃を更に血鬼術により強化し、発生する月輪はより大きく、多く、鋭く、何よりもより動く。

唯の一太刀ですら、野太刀とそこより発生した斬撃、月の呼吸による月輪による三段構えの一撃となる。

 

「玖ノ型“降り月・連面”ンン───!!」

 

されど、この化物を相手に息を整えさせてなるものか。

踏み込む間も惜しい、その分身体を引き絞り、渾身の連撃を天よりばら撒く。

空より降り注ぐ数多の紫月は、その鋭さと重さからは想像も出来ぬほどに鋭利に曲がり、地表を舐めること無く再び空へと帰る軌跡を描く。

 

ここまでの3つの型、離脱すること無く、行き着く間もなく浴びせられたとなれば…以下な化け物とで逃げ場はひとつ。

 

「そうとも、貴様は斬撃の懐に活路を見出す筈だ」

 

其れは玖ノ型の場合は発生源たる空中。反り返ってきた斬撃すら巧みに翻り躱してみせるのは天晴と言う他ないが───そこまでだ。

 

「拾ノ型───“穿面斬・蘿月”」

 

長い振りから生まれるこの技は斬撃そのものがとぐろを巻き、線ではなく面の斬撃と成る。

自由の利かぬ宙空で、高密度の死線にすり潰されながら逝くがいいッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、いい加減教えてくれてもいいんじゃないか?」

 

何故だッ!?!?

間隙無く展開された斬撃の檻、行動すらままならない空中にあって、よもや己に認識させることすらなく後ろに回り込む?

───意味不明理解不能把握不可認識拒絶。

何を、どうやって、何があって此奴はそこに居る?

 

「あんたが後どれだけ技を持ってるのか知らないけどさ。“おに”って言ったって元は人間だ。出来ることには限りがある」

 

変わらず死人のような貌で、全てが終わってしまった後かのような佇まいで───

 

「姫さんはそう言ってたよ。だとしたらあんたの格も知れたものだ、その刀は俺には絶対に届かない」

 

もっと恐ろしいものを知っているかのように、もっと凄まじいものを知るかのように───

 

「───はァ、どうあってもあんたは教えてくれ無さそうだ」

 

その様な顔で、その様な目で、そのような口振りで────俺を、私を、わレを、

 

 

 

ミ ル ナ

 

 

 

「まぁいいさ。元より俺の目的は材料調達───様物といこうか」

 

自分の中の何かが壊れる音がする。空っぽで虚ろで伽藍堂、既に残るものなぞ勝利以外何もなしと、自身ですら見限った己の奥の奥。

そこに隠されていた何かが罅割れるような、そんな音。そこにあるのだと存在を主張するかのような耳障りな音。

 

果たして己がその正体に行き着くよりも先に、男は構えた。

 

 

───無形。構えれば構えた分だけ動きが遅くなると言わんばかりに、其れは構えなき構えを体現していた。

 

「俺なりに呼吸ってもんを一通り試して見たんだが、どうにもしっくり来なくてよ。これも血なのかなんなのか、結局普段通り───いつも通りに戻したんだ。ただ不思議と意識して何時もの呼吸をすると見えてくるものがあってさ」

 

名のある刀が、ただ佇むだけで風でそよいできた木の葉を両断するが如く。

その(おとこ)は世界を斬り取ってそこに居た。

 

「なんで生きているのか、なぜ生きてしまえるのか、なぜ死ねないのか、なぜ死ねなかったのか───多分、姉ちゃんもそういう呼吸だったんだろうぜ」

 

紡ぐ言の葉に意味は無いのだろう。男の言葉は己に投げかけられたものでは無い。

男は酷く緩慢に時を流しながら、指を綺麗に揃え刀を形作る。

 

「元々虚刀流としちゃ名前の無い技だし、新しい技としてもあんたの型みたいにカッコイイ名前がないのが申し訳ねぇけど」

 

 

 

そうか、今になって漸く理解した。

 

刀を持たずに、我が身は七つに分けられ

無手で絶死の月輪を捌く人でなし。

 

「───チェリオ」

 

 

刀であれば、或いは落ちた月とて両断するか

 

 

 








前書きにもある通り、ほぼ独自解釈で技の解説してます。説明描写ほとんどないし、原理もよく分からない月の呼吸ってやつが悪いんだ。

書いていて元主人公と鬼絶対殺すマンさんのパワーバランスに悩みましたが、ゼロ距離で千以上に分裂して全方向に全力で逃げるはぐれメタルの殆どを瞬時に破壊してのける人と、斬撃で数キロ先の人間を狙撃するお方とロリ時代に渡り合った姉(デバフガン積み)を殺して後に完了に至った七花君なら、割かし実力トントンでも世界観壊れなくねってなりました。

昔の日本は魔境だってFateを教科書にして義務教育を受けた人ならみんな知ってるからね、是非も無いよね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。