二度目の転生はありふれた職業な世界   作:ライダーGX

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第5話 真夜中の約束

メルドが昨日、報告した通り、新一達はメルド達が率いる騎士団員複数名に連れられ、馬車で移動をしていた。

馬車の中で新一は外を見ながら考え事をしていて、それにきよしが問いかけてくる。

 

「ねえ新一、何考えてるの?」

 

「ん?いや。別に大したことじゃないよ」

 

「そう?」

 

それに頷く新一。

きよしはその後進次郎達と少しばかり話し合い、新一は持ってきた本を読んで時間を過ごす。

 

そうしているうちに、目的地の場所に着く。

 

宿場町ホルアド…そこには目的の場所が存在していた。

 

【オルクス大迷宮】

 

それは、全100階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現するといわれている。

 

しかしながらこの迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからという事と、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の『魔石』を体内に抱えているからだ。

 

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。

魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 

分かりやすく言えば、魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。

魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

それと良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。

一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

ホルアドに到着し、新兵訓練によく利用する王国直営の宿屋に止まる事となった新一達。そこで新一は久しぶりの普通の部屋に思わずベッドへと寝転がる。

 

王国の部屋はとても豪華で、とてもじゃないけど落ち着かない様子があって、眠れない時があった。別に寝れない訳ではない筈だが、新一はあまり豪華過ぎるものには眠れない事があるのだ。

前の世界でも同じようなこともあり、王国で1日だけ泊まったことがあったが、どうしても眠れない時があって、その後の冒険に影響を及んでしまった事があった。

 

「ふぅ…、この世界。もっと知る必要があるな…何故俺達が呼ばれたか…、調べる必要も」

 

そう思いながら、明日は早くも迷宮への訓練が始まる。っと言いつつも新一にとっては戦闘のカンを取り戻すには最適な日。

新一は目を閉じながら深い眠りにつく。

 

っとその時だった。

 

 

 

コンコンコン。

 

 

 

「ん?」

 

新一の眠りを邪魔するように扉からノックする音がして、それに新一は起き上がり、声を返す。

 

「誰だ?」

 

「天道君、起きてる? 白崎です。ちょっと…いいかな?」

 

「白崎…?」

 

真夜中の時間にわざわざ白崎がやってきた事に、新一は疑問に思いながらも、扉の方に向かい、そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「うん。その…少し天道くんと話したくて…。…やっぱり迷惑だったかな?」

 

「いや、迷惑なんて思ってないぞ。入りな、廊下は寒いぞ」

 

「うん!」

 

そう言いつつ、新一は香織を部屋に招き入れると、香織はなんの警戒心もなく嬉しそうにして、窓際に設置されているテーブルセットに座った。

 

新一は紅茶とコーヒーを用意しながら湯を沸かせ、持って行く。

とは言うものの、ここのコーヒーと紅茶はティパックと粉末の物であって、高級なものではない、それでもないよりマシなものはない。

 

そして新一は香織と自分の分を用意し、紅茶を香織に差し出して、向かい側の席に座った。

 

「ありがとう」

 

嬉しそうに紅茶を飲む香織、新一はコーヒーを飲みながらも、香織の方を見て問う。

 

「白崎、俺に話ってなんだんだ? この真夜中に」

 

「うん、実はね…」

 

新一の問いに突然、香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

 

「明日の迷宮だけど……天道君には町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから!お願い!」

 

話の内容に興奮してしまったのか、身を乗り出して懇願する香織。新一はただそれをジッと見つめたまま問う。

 

「…白崎、落ち着け。まずはどういう事なのか説明して欲しい」

 

「あ…ゴメンね」

 

新一の言葉に香織は自分でも性急過ぎたと思ったのか、自分の手を胸に当てて深呼吸する。少し落ち着いた様で、静かに話し出した。

 

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢を見てね。

そこに天道君が居たんだけど…、声を掛けても全然気がついてくれなくて…走っても全然追いつけなくて…、それで…最後は……」

 

するとその先を口に出す事を恐れるように押し黙る香織。その様子を新一は落ち着いた様子で見ていて、そして何となく察して語る。

 

「…俺が消えるか?」

 

「っ! ……うん」

 

その事に香織はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で頷く。

新一はその話を聞いて少しばかり思った。

 

話の内容は確かに不吉な夢、でもそれは悪魔で夢、そんなことが起きる事はまずない。香織の考えすぎかもしれないが、今の様子を見ていて、とてもそうは思えない。

 

「白崎、夢は夢だ。あまり気にしないことだ、それに俺はそう簡単に消えはしないし、そしてそう簡単に死なないさ」

 

「天道君…」

 

「それに俺だけじゃなく、進次郎達も八重樫達も居る、そいつらが居れば100人力(又は百人力)だ。だから俺を信用しろ、もしそれでも心配だったら…」

 

椅子から立ち上がった新一は自分の荷物からある物を取り出し、それを香織に渡して、香織はそれを見つめる。

新一が香織に渡したのはミザンガであった、それを見つめる香織は新一の方を見て、新一は椅子に座りながら言う。

 

「そのミザンガが切れたら俺が死んでしまったって事を思ってくれ、そのミザンガは試しに錬成で作った物だ。

俺の命に繋がっているから、切れたら俺がもういないと言うことが分かる。それをずっと持っててくれ、もし俺が生きて帰った時はそれは幸運のお守りだと思って欲しい」

 

その事に香織はそれを見るも、再び新一を見る。

 

「天道君…」

 

「そんな顔をするなって、俺は平気だ」

 

新一は微笑みを浮かばせながら香織に言う。

すると香織は微笑みながら新一を見る。

 

「やっぱりそう気強い所は変わらないね、天道君は」

 

「は?」

 

香織の言葉に不思議そうな表情になる新一。その様子に香織はくすくすと笑う。

 

「天道君、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は中学二年の時から知ってたよ」

 

「なんだって?一体いつ」

 

新一は香織とは全く面識がないことに首をかしげるも、香織は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見た天道君は、怖い男の人が子供を殴りかかろうとした時に止めた時だった」

 

「(あっ…その時の。白崎いたんだ…)」

 

どうやらあの時、新一の姿を当時のかおりが目撃していたらしく、それには新一は頭をかきながら困り果てる。

 

「最初はケンカでもするのかなって思っていたけど、天道君はその人の暴行を行う前に止めた。そしてその人が殴ろうとした時に天道君は避けて、その人は…フフフ」

 

「やれやれ、どうやら見られてしまったようだな」

 

「ううん、そんな事ないよ。むしろ、私はあれを見て天道君のこと、凄く強くて優しい人だって思ったもの」

 

「そうなのか?」

 

新一はその事を香織に問うと、香織は頷きながら言う。

 

「うん、天道君小さな男の子とおばあさんを助ける為に動いたんでしょう。暴力なしで」

 

「…それは」

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝君はよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし…、

…実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった。

あっでも、昨日の天道君もちょっと恐ろしかった所もあったかな、檜山君達を睨みけた時の事…」

 

「あれはあいつ等がきよしを一方的に暴行した奴らの罰だ、まだ足りないくらいだ」

 

っとそれには香織は苦笑いするしかなかった。

 

「あははは…、そっか…。でも私の中で一番強い人は天道君なんだ。高校に入って天道君を見つけたときは嬉しかった。もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。天道君すぐに上地君達と一緒にどこか行くんだから」

 

「それはすまない…。」

 

「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも天道君が何か無茶するんじゃないかって。勿論天道君だから問題はないんだろうけど、時々そう思っちゃうの…」

 

「…そっか。でも心配するな」

 

そう言って新一は香織の手を握り、それに香織は思わずドキッとなり、頬を赤くしながら見て、新一は香織を見つめながら言う。

 

「俺は死なないさ、約束する。絶対にだ」

 

「天道君……うん」

 

それからしばらく雑談した後、香織は部屋に帰っていった。

 

新一は明日の大迷宮の訓練では絶対に死なないようにと心に誓い、香織との約束を必ず果たすのだった。

 

 

 

───────────────────────────────────────────

 

 

 

深夜、香織が新一の部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを誰も知らない。その者の表情が醜く歪んでいたことも知る者はいない。

その時の新一はそれに気付くことすらなかったのだった。

 

 


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