二度目の転生はありふれた職業な世界   作:ライダーGX

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第6話 オルクス大迷宮

翌日の朝、新一達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

進次郎達や香織達としては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だ。 

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まさにお祭り騒ぎ。

 

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があり、人も自然と集まる。

馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。

入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 

新一達はその様子を想像以上に見ていた。

 

因みに彼らの服装はほぼ天職に合う服装をしていて、新一は軽いコートな服装をしていて、身体には胸当て鎧を着込んでいて、進次郎も同じように胸当て鎧を着込んでいる。

軍平は肩までの出している筋骨な腕を見せびらかす様な服で、きよしは軽い服装な上に右手には弓を撃つための手袋をしていた。

千春はローブの服装をしていて、大きな真珠がある杖を持っている。

 

「オルクス大迷宮…予想以上にお祭りの様な感じだね」

 

「おうよ、てっきりもっと重い感じの雰囲気だと思ってたぜ」

 

「それだけ人気ってことか…」

 

「でも油断したら命が危ないって事と変わりないのよね?」

 

っと千春の言葉に進次郎達は少々重い空気になって、だんまりとしてしまう。

 

その様子を新一は見て、進次郎達を励ます。

 

「ほらほら、そんなに暗い顔をするなって。要は生きて帰ればいいだけだ」

 

「そ、そうだな…。よし!『上地軍団』気合い入れていくぞ!」

 

「ええ!? いつそんなの出来たの!?」

 

「俺達知らねえぞ?」

 

進次郎の突然の宣告にきよしは驚きを隠せず、軍平は頭をかきながら聞いていた。

そんな中で香織が新一の所にやって来る。

 

「天道君、おはよう!」

 

「おう、白崎。八重樫達の所に居なくていいのか?」

 

「うん、ただその前に天道君に挨拶しておきたくって」

 

それに少しばかり照れてしまう新一、っとその様子を進次郎達はからかう。

 

「ヒューヒュー♪ 熱いね~♪」

 

「「にひひひ♪」」

 

「お前らな…」

 

それに香織は少々顔を赤くし、3人の様子にイラつきが来る新一、千春がそれに注意する中で新一は武器をチェックすると…。

 

 

 

 

────ゾッ!!!!

 

 

 

 

「(ん!?)」

 

ただならぬ殺意の意思が新一の方に向けられ、それを感じ取った新一は思わず辺りを見る。

 

クラスメイト達がワイワイと騒いでいて、露店には冒険者達が何かを買っている様子が目に入り、それに新一は少しばかり警戒する。

新一の鋭い目線の様子に気付いた香織が、首を傾げながら問う。

 

「天道君。どうかしたの?」

 

「え?いや…、何でもない」

 

新一はそう言い返し香織はそれに少しばかり気になりながらも気になっていたが、新一は香織の右腕にある物を見つける。

 

「おっ、そのミザンガ」

 

「うん、ちゃんと付けてるよ。ちゃんと分かる為にも…」

 

「そうか」

 

それに新一は頷いて、新一達はメルド達に連れてられて大迷宮へと入っていった。

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────

 

 

 

 

迷宮の中の入った新一達は中の様子を意外そうに見つめていた、それは外の賑やかさとは無縁の光景だったからだ。

 

縦横5メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。

『緑光石』という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、オルクス大迷宮は、巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

一行は隊列を組みながら進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは7~8m位ありそうだ。

 

その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。

すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

メルドの言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。

8つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

正面に立つ光輝達──特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはりどんな魔物でもあの様なムキムキな魔物を見るのは気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の3人で迎撃し。その間に香織と特に親しい女子2人、メガネっ娘の『中村恵里』とロリ元気っ子の『谷口鈴』が詠唱を開始。

魔法を発動する準備に入る。訓練通りのフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソード『聖剣』を視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 

ハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれる“聖なる”力が宿されているのだが、それを見ている新一はなぜか『何かが宿ってない』風な表情をしていた。

 

「(う~ん…天之河が持っているあのアーティファクトの聖剣、どうも何かが欠けている様な…。俺が持っていた聖剣とはまた違うのか?)」

 

そして龍太郎は、空手部らしく天職が“拳士”であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだ。

龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士様々。

 

雫は、日本の武士らしい“剣士”の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

その様子に新一も少しばかり感心する。

 

新一以外の者達は光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ──“螺炎”」」」

 

3人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。

「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する

 

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱いとの事。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。しかし初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。

頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルドの言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

 

そして次の階層で、新一達のグループに戦闘の番がやって来て、メルドが新一達に向かっていう。

 

「よし!次はお前達だ!」

 

「よ、よし!頑張るぞ…!」

 

初の戦闘に緊張して気が引き締まるきよし、それに新一が言う。

 

「落ち着けきよし、お前は後方支援だけでいいから、千春もきよしと同じのでいいからな?」

 

「う、うん…!」

 

その言葉に千春も頷きながら言い、新一と進次郎、軍平の3人は前に出ながら武器を構える。

 

新一の武器は宝物庫から持ってきた長剣、『ロングソード』である、流石に元勇者である彼の武器である聖剣は、女神リリアーナに返却している為ない。天職は未だに不明ではあるが、戦闘ではまず遅れをとらない。

 

進次郎の武器は二刀流でショートソードとダガーの中間辺りになる双剣である。アーティファクの中でも少し反り返っている双剣は素早く攻撃が可能。彼にとっては良い武器だ。

 

軍平の武器は大きな斧である『バトルアックス』、大きな斧の刃にハンマーの両方が揃っていて、斬撃にも打撃にも攻撃する事が可能である。

 

「軍平はきよしと千春の守りに入りながら敵を蹴散らしてくれ、きよしと千春は弓と魔法で後方援護して欲しい、俺と進次郎は奴らを蹴散らす」

 

「よし!上地軍団行くぞ!」

 

「だからそれやめてって!」

 

恥ずかしそうに言うきよしに対し、他の皆は思わず笑っていた。

そんな中でもメルドは新一の的確な指示に感心を持っていた。

 

「(ほう…、強靭な軍平を後方組の守りに固め、2人で前衛ををつとめる感じか…。新一の奴…まるで“経験者”の様な言い分だな?)」

 

そうしている中でこの階層である魔物達が新一達に襲いかかってきて、新一と進次郎が前に出てロングソードと双剣で魔物を蹴散らす。

 

新一がロングソードで迫り来る魔物に対し、華麗な斬撃を繰り広げる。斬って、突き刺し、受け流して、かわしながら飛んで、更に足を使って体制を崩して斬る。

彼の剣術は光輝や雫をも上回っていて、それには光輝と雫は思わず唖然としてしまう。

 

進次郎は双剣の二刀流で、複数の魔物に対してもなんの苦戦もなく魔物を斬っていた、左右同時しても平然と対処し、そして一体に向かって同時斬りもしていた。

 

軍平は2人が撃ち漏らしている魔物がこちらに迫っているのを見て、バトルアックスで豪快に斬っていた。彼の剛力と大斧術が相性抜群で、彼に斬られた魔物は綺麗に二つに分かれた。

 

きよしはアーティファクトの弓を使って、矢を放ち、魔物の頭部を的確に狙っていた。更に矢はそのまま貫き、後方に居る魔物にも直撃して倒れる。

 

千春は魔物に向かって魔法の詠唱を唱えていた。

 

「赤き炎の風、美しき矢に変え、灰となり大地に帰らん──“炎矢”」

 

千春の魔法『ファイヤーボルト』が放たれ、更に3発同時に向かっていき、魔物3体は直撃して炎に包まれていく。

 

そして魔物は倒されて、新一達は辺りを確認する。

 

「魔物は…いないな」

 

それを確認したメルドは頷きながら言う。

 

「うん!良いぞお前たち! なかなか良い感じではないか! 特に新一、お前なかなかやるではないか?まだ天職がわからんのに。それに“慣れている”感じの様な気もするな」

 

「たまたまですよ。まあ何とかなったでしょうね。今回は」

 

そう言いつつ、新一は進次郎たちと共に後方へと下がった。

メルドはそれを見つめたあと、皆に出発の合図を出して、更に階層を降りていく。

 

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている20階層にたどり着いた。

 

現在の迷宮最高到達階層は65階層で、それは100年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で40階層越え、20階層を越えれば十分に一流扱いだと言う。

 

だが迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くある。

その為トラップ対策として“フェアスコープ”がある。魔力の流れを感知し、トラップを発見することができるという優れ物で、

迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上発見できる。だが索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。

今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの20階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルドのかけ声が迷宮内ではよく響く。

 

ちょっと息抜きに新一が少し休憩してると、前方にいた香織と目が合った。彼女は新一の方を見て微笑んでいる。

 

それに新一は少しだけ手を振り、それに嬉しそうになる香織、それを横目で見ていた雫がにやけ笑いし、小声で話しかけた。

 

「香織、なに天道君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

からかうような口調に思わず顔を赤らめる香織。怒ったように雫に反論する。

 

「もう雫ちゃん!変なこと言わないで! 私はただ、天道君大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

「(それがラブコメしてるって事でしょ?)」

 

っと雫は思ったが、これ以上言うと本格的に拗ねそうなので口を閉じる。

その様子に新一はやれやれとしていると。

 

 

 

 

 

 

────ゾッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「(んっ!!)」

 

またしても強い殺意がまたしても新一の方に来て、それを感じた新一は辺りを見渡す。

しかし誰かの者か分からず、それに新一は少しばかり真剣な表情をするのだった。

 

少し休憩を挟んだ一行は20階層を探索する。

 

迷宮の各階層は数十キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だと言う。

 

現在、47階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないと。

 

20階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと21階層への階段がある。

 

今回の実戦訓練はそこで終了で。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、地道に帰らなければならない。

一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

「歩きずれぇなおい」

 

「でもこの壁…なんか、妙に違和感がある様な…」

 

っときよしがそう言ったところ、先頭に立っている光輝達やメルドが立ち止まった。新一はすでに気づいていて、訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。

どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルドの忠告が飛ぶ。その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。

そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物だっだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ!見た目通りの豪腕だぞ!」

 

メルドの声が響く。光輝達が相手をするようで。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。

光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った直後に。

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

体中に衝撃が走り、ダメージ自体はないが硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”て。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

それを食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

その様子を見た新一は「マズい!」と言って、素早い動きで皆の列の間を“縮地”を使ってすり抜けていく。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。

見事な砲丸投げのフォームで咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

しかし香織達が演唱を発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。

言わずもがな、今の様子はさながらル○ンダイブだ。しかも“聞き覚えのある声”が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。

香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

っとその時に新一が香織達の目の前に現れて、ロングソードを抜いて。

 

 

スバッ!!!!!

 

 

「『横一閃!!』」

 

目では見ることが出来ない速さで斬り込み、ロックマウントはそのまま胴体を真っ二つに割られて地面へと落ちて倒れる。

ロングソードを鞘に収めて、新一は香織達の方を見る。

 

「大丈夫か?」

 

「て、天道君…。ありがとう」

 

「た、助かった~、ありがとね!」

 

「あり、ありがとうございます…」

 

その様子にメルドが加勢しようとしていたが、それを見事に持って行かれた事に苦笑いするしかなかった。

 

そんな様子を見てキレる若者が1人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いし。「彼女達を怯えさせるなんて!」と、微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──“天翔閃”!」

 

「あっ!こら、馬鹿者!」

 

メルドの制止の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。

曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

「……あの大馬鹿野郎め」

 

新一は光輝の攻撃を見て呟きながら言う。

 

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。

香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。『もう大丈夫だ!』と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルドの拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルドのお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

新一は自業自得だと思いながら腕を組んでいて、後からやって来る進次郎達が見て呆れる。

 

「あちゃ~…天之河の奴、思いっきりやりやがったな?」

 

「ああ、もうメルドさんのお叱りを受けてるから、もういいだろう」

 

っとその時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれは“グランツ鉱石”だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気である。

加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。

そして、誰にも気づかれない程度にチラリと新一に視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルドだ。

 

「こら!大介! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

「はいはい、わかってますよ(たく、うるせぇおっさんだぜ)」

 

しかしあえて檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

しかしメルドも、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルドの言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

部屋の中に光が満ち、新一達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 

 

───────────────────────────────────────────

 

 

 

場所は変わって、新一達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に皆は地面に叩きつけられた。

 

新一は体制を崩さないで着地し、辺りを見渡す。

クラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルドや騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

先の魔法陣は転移させるものだったらしく。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

新一達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。100mはくらいはあり。天井も高く20mはある。

橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は10mくらいあり、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもない。

新一達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……。

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルドの呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか…、ベヒモス……なのか」

 

メルドのその言葉に新一は思わず耳を疑ったのだった。

 

 


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