01 帰結
☆
『まゆとずる休み、しますか?』
「エッロいわね、なにこれ」
「いけませんよ、麗奈ちゃん。女の子なんですから」
太陽もすっかり沈んで暑さ対策が送風機になった寮のリビングで、二人並んでテレビを見ていたときのことでした。ああ、オンエアが始まったんですね。ひと月以上前に撮影したスポーツドリンクのCMです。いつからテレビに流されるかは聞いていませんでしたから、私も完成品を初めて見ることになります。画面には夏の制服姿で歯を見せて笑う私のバストアップとペットボトル、そして商品名がテロップされています。撮影過程はよく覚えていますがどこをどう使うかはさっぱりわからなくて、それらが編集されるとこういう出来上がりになるんだなと思うとちょっと不思議な感じがします。まさに自分が作り変えられていく感覚。あるいはお料理の行程に近いのかもしれません。それは素材を選び抜くという作業も含めて。
こういうお仕事は契約内容がかなり厳しくて、何度も何度も念押しされてしまったので本当に誰にも話していません。きっと事務所内でも知っていたのは私とプロデューサーさんとその上司さんくらいなのではないでしょうか。一つのことをしゃべらないのも意外と大変です。
でも、その甲斐あって麗奈ちゃんの驚き顔を見られました。眼福です。
別のCMに切り替わると同時に視線がこちらに飛んできました。
「アタシはキャラ的に問題ないからいいの。そもそもトーク番組に出るわけじゃなし」
「もう、そういうこと言う麗奈ちゃんはかわいくありませんよ?」
「ていうかさっきのヤバいわね。あんなの下手したら女でも落ちるんじゃないの?」
「もーうー!」
「あんた、いつの間にあんなの身に着けたの?」
いつ部屋の模様替えしたのと聞くかのように、麗奈ちゃんは私の変化を尋ねました。それこそ一目見ればその変化は誰にでもわかると言っているようでした。ぞっとします。私は最後の最後まで身に着けてしまったものを隠し通す気でいたんですから。これはやっぱり麗奈ちゃんの目があまりにも優れているということなのでしょうか。それとも私の隠すための技術が稚拙なもので、本当は誰から見てもすぐに見抜けるものだということなのでしょうか。そうなのだとしたら、それは、なんというか、ちょっと恥ずかしいです。
「あれ、一般で言う演技とか芝居じゃないわ。やっぱりあんたもこっち側じゃない」
「こっち側、って?」
「周子の言ってた “みんなのための” じゃないアイドルだってことよ」
ああ、やっぱりそうでしたか。ここ最近でもしかしたらそうなんじゃないかと思っていましたが、麗奈ちゃんの言葉で確信に変わりました。きっと私は邪道を、いえ、ほとんど禁忌の道を行くアイドルということになるのでしょう。
叶うべきではない願いの色合いは他には絶対に見られない価値を持って輝き、そして私はそれを自分のためだけに使うことができるようになってしまいました。薔薇の花弁がはらりと一枚落ちる瞬間が決定的に美しいのなら、そこで時を止めてしまえばいい。この胸の内の熱を人がどう呼ぶかなんて知りません。これは私だけの感情です。これは私だけの感情なんです。きっと時間が経てば経つほど痛切な色彩を帯びていくのでしょう。彼女が何を餌として育っていくのかなんて、きっと誰にもわかりません。
それはたしかに悲しいことなのかもしれません。でも私の魅力をプロデューサーさんが肯定的に捉えてさえくれるのなら、そんなことは問題にもならないんです。
まゆは、麗奈ちゃんの見ていないところでこっそりうれしそうに笑いました。