転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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二話投稿します(二話目)


#98 飲兵衛

 川を下り、犬守疎水を突き進む蛇は最後にわたつみ平原へと到達し、……そこでとんでもない姿でとぐろを巻いていました。

 

「……予想以上に荒れていますね……狐稲利さん見えますか?」

 

「うんー……」

 

 わたつみ平原はこの豪雨によってすっかり海へと変わっています。雨雲がどんよりと空を覆っている為、あたりはかなり暗く、波打つ海の水面から海底を伺うことができないほどに黒く、また濁っているように見えます。

 ですが、荒れているのは海だけではありません。

 

 わたつみ平原に現れた海、そのど真ん中でその長く太い体をくねらせている様子はさながら海を舞台とした物語に登場する海獣のようで、その異様な大きさと相まって見る者を圧倒する迫力があります。

 

「んあっ!? 」

 

「破壊した木々を投げつけてきますね……! 狐稲利さん、注意してください!」

 

 蛇は川に沿って海に侵入し、その過程で障害物となるものを破壊しながら進んでいました。その破壊された残骸が蛇と共に海に入り込み、まるで船の難破現場のように大量の物が海の上に浮かんでいます。蛇はその残骸を尾の部分を使って器用に弾き飛ばし、こちらに投げてきます。

 

「ひゃ!?」

 

「っ!」

 

 残骸どころか海底の岩肌まで抉り取って投擲するあまりにも暴力的な行動に思わず裁ち取り鋏を展開。一薙ぎで周囲の投擲物を一掃します。

 

「少しおとなしくしてくださいっ!」

 

 裁ち取り鋏の効果範囲に入り込んだいくつかの残骸をそのまま蛇へと打ち返します。残骸は巨大な木々や海底の岩盤なども含まれており、それらがまるで散弾のように蛇へと降り注ぎます。

 

 さすがにこれらすべてを回避することは出来ないでしょう。少し怪我を負ってしまうかもしれませんが、このままでは写し火提灯で照らすこともままならないので仕方ありません。

 

「……へ?」

 

「へびがいっぱいー!?」

 

 蛇へと殺到する瓦礫はその直前で海の中から新たに現れた蛇によって喰われ、砕かれてしまいました。

 どれほど巨大な瓦礫であろうと、その蛇の鋭利な牙に捉えられ、かみ砕かれていきます。小さな瓦礫程度ならそのまま丸呑みにされてしまっています。

 

 いえ、これは新しい蛇が現れたのではなく……!

 

「蛇の首が二つ、三つ……なるほど……上手く形にしますね……!」

 

 海面から見えていたのは尾と胴の一部分だけ、頭の部分はただの蛇のものだと思っていたのは浅はかでしたね。

 顔を覗かせた蛇の頭は八つに分かれ、それぞれが異なる動きをしています。赤く光る瞳でこちらを睨み付ける八つの頭、それぞれが唸り声を揚げ、いつの間にか現れた七本の尾がこちらに瓦礫を投擲し、残骸の雨を降らせます。

 

 八つの頭に八つの尾、それだけでこの蛇の、いえ"大蛇"の元となった存在を伺い知れるというものですが、そもそも私も狐稲利さんもこのような3Dモデルを製作した覚えはありませんし、ここまで凶暴な性格となっているのも納得がいきません。

 

 犬守村の動物の性格は器となる3Dモデルと魂によって決定します。好戦的な習性のある動物は好戦的に行動し、おとなしかったり臆病な動物はひっそりと物陰に隠れながら行動するという、いたって自然な動きをします。

 

 ですが、目の前の大蛇は蛇とは思えないほどの凶暴性を見せています。蛇は変温動物なので意外と気温の変化に弱く、さらに意外と臆病な性格でありこのように暴れ回るような動物ではありません。

 

 もちろん、この大蛇がただの蛇としての特性では無く、神話に登場するかの八岐大蛇をモデルとした能力を付与されているのならば、確かに現状に納得はできます。

 

 納得はできますが、疑問は残ります。そんなもの私が一切創っていない訳ですから。

 

「……狐稲利さん、ここで待っていて下さい」

 

「おかーさ……!」

 

 とにかく今は目の前の大蛇をどうにかするのが先決です。頭と尾の数が増えた事でそこから繰り出される攻撃は先ほどの比では無く、まさに弾幕といった具合。跳ね返したところで八つの蛇頭が大きく開けた口の中へ……。

 

「どれだけ跳ね返しても飲み込んでしまいますね……! お腹を壊しますよっ!!」

 

 ですが、そんな攻撃も裁ち取り鋏ならばほぼ無効化することができます。その上、手数が増えたといってもすべての部位が同時に攻撃することは出来ないようで、若干もたついているように見えます。

 

 つまり、一度弾幕の範囲より内側にもぐりこんでしまえば……!

 

「はっ、っと。 これくらいなんともないですよ!」

 

 迫る瓦礫の雨あられを間一髪で回避していきます。どうしても避けられないものを最小限の動きの中で鋏をもって消し、切り裂いていきます。

 大蛇は私が徐々に迫っていることを理解しつつも、それ以外に攻撃方法が無いのでしょう、ただ瓦礫を降らせる以外に出来ないようです。それでも攻撃は激しさを増し、私の体に掠ることも多くなってきました。

 

 

 ですが、それでも私を止めることは出来ません。3Dモデルとして犬守村に存在している時点で、その空間そのものを理解し、構築した私ならば、抑え込むことはそれほど難しい事ではありません。

 やろうと思えば遠距離からの座標指定を用いた鋏の能力の遠隔行使も可能なのです。ですが、今回の大蛇にはその手は使えません。

 

 そもそも私の目的は大蛇の削除では無く、大蛇の発生原因を特定する事なのです。それには大蛇という実際に存在する重要な手がかりを消滅させるわけにはいかないのです。

 

「写し火提灯っ! ――! これは!?」

 

 弾幕の領域を抜け、展開した提灯に照らされた蛇は若干たじろいだ様に見えましたが、照らした光になんの攻撃能力もない事を理解すると、煩わしそうにこちらに尾の一本を差し向けます。

 それを回避しながら提灯の能力で取得した大蛇の内部データについて思考を巡らせていきます。

 

「これは……ちょっとマズイかもですね……」

 

 犬守村には大蛇の前にも異常な生物として"鵺"と名付けた個体が出現したことがあります。

 鵺はまるで継ぎ接ぎしたかのような、様々な動物の一部分を繋ぎ合わせた歪な姿をしていました。その内部も繋げた動物の種類分、無造作に押し込められており、非常に不安定な個体でありました。

 

 その為、幽世へ誘導し、不安定な魂を誘導してやるだけで簡単に魂を解放させることができました。

 

 ですが、目の前にいる大蛇にはそのような歪さがかなり抑えられています。3Dモデルに違和感のある継ぎ目は見つからず、まるで初めからこのような3Dモデルが存在していたかのようで、魂もかなり安定しています。

 

 鵺が無造作に魂を積み上げただけのものとすると、この大蛇はパズルのように魂同士の形を組み合わせ、ある程度安定した形が再現されています。このままでは幽世に誘導したとしても容易に魂を解放することはムリそうです。

 

 これは、つまり……。

 

「幽世で魂を解放されないために"対策"された……!」

 

 

 過去に私たちの前に現れた鵺がどのように倒されたかを知り、今回の大蛇にその対策がされたと見て間違いないでしょう。

 

 そして、もう一つ。写し火提灯でのぞいたこの子に見えた決定的な"つながり"。

 

「一体、"あなた"は何者なのですか……」

 

 巨大な大蛇の内部データの中に隠されたか細い糸のようなリンク(つながり)、それは犬守村外部より延び、私の知らないネットの向こうへと繋がっているようです。おそらくこのつながりの先に、犬守村に鵺を作り出し、数々のバグを引き起こした上、目の前の大蛇を生み出した犯人がいるはずです。

 

 

 どうやって犬守村の位置を特定したのか、どうやって私に気付かれずに入り込んだのか、どうやってヨイヤミさんの監視を潜り抜けたのか。いろいろ考えるべきことはありますが、とにかく犯人を見つけるのが先決です。その所在を突き止めるには、もう一度大蛇に接触し、リンクを辿り、逆探を仕掛けないと。

 

「ここで止めないと、大変なことになりますね……!」

 

 犬守村に存在する生物たちは常に今よりも良い状況を求めて生きています。食料となる木の実がよく生る地域を記憶したり、狩りの手法が巧みになったりという成長と呼ばれる現象もその一つです。

 

 鵺を生み出したものとこの八岐大蛇を生み出した存在がそんな成長とも思える行動をとり、鵺の改良体として八岐大蛇を造りだし、送り込んできたとしたら、それはとんでも無い事です。なぜなら、今後も改良と対策が施された個体が犬守村に現れる可能性があるのですから。

 

 

「さあ、来なさい! 私が相手になりますよ! ……、……あ、あれ?」

 

「……んふー? ねてるー?」

 

 ……かっこよく宣言して大蛇に向き直ったのですが、当の大蛇は何やら先ほどの勢いを無くし、頭をあっちへふらふら、こっちへふらふら……さらに口からはだらしなく舌が伸びきって口から垂れ下がっています。

 

「これって……一体何が……?」

 

「おかーさー! もしかしてこれー?」

 

 遠くに避難していた狐稲利さんが何やら小さな樽を抱えてこちらにやってきます。どうやら大蛇が飛ばしてきた瓦礫の中に含まれていたもので、その樽には見覚えがありました。

 

「これって、岩戸で保管していた"お酒"ですか……?」

 

「うんー。もしかして酔っちゃったのかなー?」

 

「え、ええー……そんな訳……」

 

 ちらりと大蛇を見ると既に八つの頭のうち半数は寝て……いえ、酔いつぶれています。他の頭もべろんべろんに酔っぱらっており、次々に水面に倒れ込んでいきます。そしてついに最後の頭がふらふらとしながら倒れ込み、塩桜神社のある小島を枕にしてすやすやとお眠りになってしまいました……。

 

「えええー…………」

 

 お酒は夏の大型コラボあたりからテスト品を造り始めたばかりで、岩戸に保管されていたものだって度数はそれほど高くはありません。正確には度数の高いものを作りだせるほどの技術がまだ確立していない状態です。

 

 そんなお酒が入った樽が、岩戸の破壊により外に放り出され、大蛇の川下りと共にわたつみの海にまで流れ着き、それを私が跳ね返して大蛇の口の中へ……。

 

 いやいや、凄い偶然ですね!? それにあんなちょっとの量で酔いますか!? というか、貴方酔うのですか!?

 

「気持ちよさそーにねてるー」

 

「はあ……なんだかすっごい疲れました~いつの間にか雨も止んでますし~とりあえず後片付けをしましょう~……」

 

「はーい!」

 

 しかしまあ、あれだけ暴れていたのに少しのお酒で酔っちゃうとは……そこまで伝説みたいな終わり方ですね……。 

 

「さて、それでは"写し火提灯"を、っと。すこしあなたの中、見せてもらいますねー」

 

 さあ、あなたを創ったのは一体どこのどなたなのですかね。

 

 

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