転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
どうもみなさん。わんこーろです。
突然ですが私の体は3Dモデルによって形作られています。その中に私の本体ともいえる膨大なデータ群が内包されているわけです。
3Dモデルは現実を忠実に再現しており、当然五感も完全再現されている私の自慢の体なのですが……そこまで完全再現してしまったことに、私は今ちょっと後悔しております。
『で? 何か申し開きの言葉はあるかね?』『さすがにあれは危険だよ?』『最初何かの演出かと思ったけど……』『あれの説明はしてもらえる感じ?』
「あの……ですね~……」
『ごまかすのナシね~』『そもそも説明するために配信始めたのよね?』『覚悟決めてぶちまけちゃった方がいいのではー?』『移住者は怒ってないよ?』『むしろ心配なんだって』『言えない事なの?』『ねえわんころちゃん……』
「うう~~……」
現在私は配信画面越しに移住者さんに詰め寄られています。画面の前で正座して、後ろでは狐稲利さんが心配そうにしておられますが、これは私の問題。しっかりと移住者さんに説明をしなければ…………うう、正座している足が痺れてきましたよ……。
「ええと~……昨日の大きな蛇さんに関してですが……」
本当に迂闊でした。嵐の日だから大丈夫だろうなんて考えて……いえ、というより考えないようにしていたような気がします。
ですがまさか八岐大蛇との戦いが犬守写真機を通して移住者さんに筒抜けになっていたなんて……!
よくよく考えれば私のチャンネルの登録者数は現在六十万人近くにまで伸び、そのほとんどの移住者さんがアプリに登録しておられるので、このような事態になるのは当たり前だったんですよね……。
大蛇と私と狐稲利さんの戦いはメイクや掲示板を通して一気に拡散し、何のアニメの宣伝だ!? なんて大騒ぎになったとか。
そんな大事になっていると知ったのは大蛇を鎮静化させた後、メイクに鬼のような数の着信履歴が並んでいたのを確認してからでした。どれもわちるさんをはじめとしたFSの方々からのもので、SNSで騒ぎになっていた件で連絡をしようとしてくれていたようでした。
私が状況を把握した頃には既に言い訳出来ないほどに証拠が出そろっており、結局正直にお話しするのが一番良いと判断し、このたびその説明の為の配信を行うことにしたのですが……。
いざ始めると何を言っていいのか分からなくなっちゃいますね……。
それでも何とか言葉を絞り出して、犬守写真機のお披露目の際に、あえて説明しなかった部分を改めて移住者さんへとお話ししていきます。
秋の収穫祭が終わった後、鵺と呼称した存在の出現。それがこちらへ敵意を以て接触しようとしてきたこと、今現在犬守村で発生しているバグはその鵺出現後に発生したもので恐らく関連性があること。
「という流れで移住者さんにバグ取りのお手伝いをして頂く運びとなったのです~……」
『はあああああ……』『一番大切な部分じゃん!』『予想してた数百倍ヤバい状況じゃんか…』『わんころちゃんも狐稲利ちゃんも怪我ない?』
「それは大丈夫です~わんこーろも狐稲利さんも元気いっぱいですよ~それと、今回配信を行ったのは、その説明と~問題が一応解決したことの報告をするためなのです~」
大蛇との戦いの後、おとなしくなった大蛇を診てそこに繋がっていたリンクを解析し逆探知を仕掛けたのですが、どうも一歩遅かったようです。私が一度目の写し火提灯による内部データを覗き見たタイミングで相手はすでに大蛇とのリンクを切断していたようで、結局途中までしかその足取りを追うことはできませんでした。
ですが、位置情報は取得することはできませんでしたが、侵攻
("CL-589"……ルートの名称、でしょうか? それとも経由している中継地点? とにかくこのCL-589からの通信を完全にシャットアウトすることで未修正のバグもすべて無くなったのは事実です)
逆探知によって得られた情報は大蛇がCL-589という場所と繋がっていた、という情報だけ。それ以外の情報はリンクの切断とともに丁寧に隠滅されており、それは私でも復元することが出来ない程でした。CL-589については名称だけが確認できたのみで、それが現実に存在する施設なのか、それともネット内に存在する仮想空間なのかすらも、今の私には知ることはできません。
ですが、名称と経路が分かっただけでもかなりの収穫でした。鵺の発生時期から今までの犬守村の全データの履歴を検索し、その数千万以上のアクセスの中から、確かに同名のCL-589からのアクセスが何度も行われていることが確認できたのです。
あとはヨイヤミさんに指示して、このCL-589からのアクセスを個別で完全拒絶するようにしてもらった結果、犬守村に発生していたバグは跡形もなく消滅し、その後の移住者さんからバグの発見報告も今のところありません。
「結局のところバグの原因は何者かの不正アクセスだったわけです~。これについてはわんこーろも反省する点がいっぱいありますね~ヨイヤミさんにまかせっきりにしていたせい、というのもありますし、そもそも犬守村にたどり着ける方がいるわけない~という油断もあったと思います~。移住者の皆様には大変心配をおかけして~申し訳ありません~今後はヨイヤミさんの監視だけでなく、犬守村の履歴を定期的に確認し、怪しいアクセスが無いか監視を強化することを決め、二度とこのようなことが無いことをお約束いたします~……」
『マジか外部からだったのか』『誰かが犬守村の位置情報を特定したってことか…』『でもアクセス拒否ったならもう大丈夫?なのか』『うーん……今後も同じような不正アクセスが発生する可能性はある、のかな……』『今回は最初っから外部からの攻撃じゃ無い、って決めつけてたとこあるしね。今後は大丈夫だと思うよ?』『わんころちゃん人の悪意に鈍感なとこあるしな……』『不正アクセスは"ある"って認識したからもう大丈夫でしょ。今まで問題だったのは"無い"って決めつけててほぼ対策してなかったからだし』『じゃあ、とりあえずこれで全部解決ってこと?』
「あ、あはは~……実はもう一つお話しないといけないことがありまして~……」
『え』『え』『後出しヨクナイ』『説明プリーズ』『はやくゲロっちまいな』
あの大雨が降った日、例の大蛇を最初に発見したのは崩壊したやたの滝近くの事でした。その後川を下ってわたつみ平原へと逃亡したわけですが、ここで重要なのは大蛇を発見、言い換えれば出現したとされる場所がやたの滝のあった場所、という点です。
そこで本来やたの滝のあった場所に赴き、犬守山全体のエリアを統括する中枢が健在であるかを確認しました。
犬守村は全体をいくつかのエリアに区分し、それらのエリアの管理をそのエリアのシンボル的存在である中枢に委ねています。
魂や環境のアップデートは最初にこの各中枢にデータを転送し、そこから中枢を通して犬守村全体に更新データを反映させるという手法を採っています。
そんなシステムの一部である中枢の一つが、件のやたの滝なのです。
やたの滝そのものが破壊されても中枢自体が機能不全に陥ることはありません。3Dモデルの崩壊を察知した中枢機能自体が自身を隔離、保護するので外部からの影響を受けないようになります。
当然その緊急処置が発動して中枢機能が隔離されるとその中枢が管理していたエリアの情報更新は中枢を通したオートモードで行うことができず、マニュアル操作という名の手動更新が必要になるのですが、それでも犬守村全体の致命的な欠陥とはなりえません。
そのやたの滝の中枢なのですが……無くなっていました。
隔離されている訳では無く、ましてや破壊されたわけでも無く、そっくりそのまま空っぽ状態、完全に無くなっていたのです。そして、その理由も写し火提灯を用いて大蛇を診る事で判明しました。
「いや~~まさかあの大蛇が中枢だったとは~このわんこーろにも予想外でした、よ?」
『お、おお?』『一体どういう事!?』『中枢が独り歩き!?』『滝を登り切って竜になるって話は聞いたことあるけど、滝そのものが竜…てか蛇になるとは…』『やたの滝の擬人化きちゃあああああ!?』『←人では無いけどなw』
そう、無くなっていたやたの滝の中枢ですが、実は無くなっていたのではなく、大蛇の構成データ内に呑み込まれていたのです。
正確には中枢と呼ばれるデータの塊を核として八岐大蛇という個体が形成されていると表現した方がいいでしょうか。
「これが今回の事件の全容となります~……わんこーろがいくつかの事情をお話ししなかった事は本当に申し訳ありません。ですけど、移住者さんにご心配かけたくないと思い、黙っていたことはどうかご理解して頂きたく~」
『まあそういう事なら……』『わんころちゃんが決めた事なら何も言わんよ』『あくまで俺たちの事を考えてくれた結果だしな』『それに事件自体はもう解決したわけだし』『不正アクセスしたヤツは野放しってのはムカつくがな』『そいつはもう犬守村に手出しできなくなったけどね』『とにかくわんころちゃんも狐稲利ちゃんもお疲れ様です』
「そう言っていただけるとありがたいです~……」
……この一連の事件、私がある意味嘘をついていたとも言える場面もありました。ですが私の意思を尊重して下さって、その上で納得して下さったことに感謝しなければなりません。
ネット内に居るという特殊な状態が、今後このような問題をまた発生させる可能性もありますが、それでも私や狐稲利さんは移住者さんに何らかの不利益を被る状況を作るつもりはありません。そんな状況になれば電子生命体としての能力を用いて全力で抵抗しますし、そもそもそのような状況に陥らないよう心掛けるつもりですし。
「あ、あの~……それじゃあ正座はもう止めてもよろしいです~?」
ちらっと配信画面のスミにある時計を確認したのですけど、今までの経緯を説明するだけで既に数時間は経過しています。いくら電子生命体と言えどもはや正座によって足の感覚がほぼ無い状態なのですが……。
『んーだめ』『泣き顔かわいいです^^』『電子生命体ならよゆーよゆー。知らんけど』『かわいそうは可愛いって言うじゃん?』『俺たちはいろんな顔のわんころちゃんが見たいんだ!』『いろんな顔(絶望顔』
「ひえ……」
な、なんてこと考えてるんですか移住者さんは! これはごーもんですよ! ごーもん! 電子生命体は人権を主張します!
「…………!」
『あっ』『あっ』『これは……』『やっぱそうなるよなww』
ん? 移住者さん? 何を言っているので? って、狐稲利さん!? 何で私の足を指先でつんつんしてるんですか!?
「んふ~これは仕返しのちゃんす~~」
「ああっやめ、ちょ、やめなさい~!」
仕返しって何言ってるんですか! 先日のASMR配信は狐稲利さんのお仕置きだったでしょう!! な、なんで私がやられ返されて……!
『悪戯ものめ!』『わんころちゃんの教育の成果は無かったw』『やられたらやり返す、羞恥配信だ!』『狐稲利は二度刺す!』『報復に報復し返す負のスパイラルの完成じゃん(歓喜』『は~いここからはわんころちゃんが狐稲利ちゃんに責められるだけの恥ずかし配信になりまーす』『九炉輪菜わちる:正直助かる』
「ん~こことか~こことかどう~~?」
「んっ、わちるさん、ひぎっ、後で、覚えておきなさい! んぎゅ」
この…! 的確に痺れてる部分を突いてきますね! 止めさせようにも足が痺れて動けません。とりあえず視界の端に見えたわちるさんにこの怒りをぶつけておきましょう。
『九炉輪菜わちる:なんで私だけ!?』『草』『これただの八つ当たりじゃんw』『どうしようも無い感情をわちるんで発散するわちころてぇてぇ』『てぇてぇ……か?』
「くぅ! と、とにかくですよ! この後、安定状態になった中枢、もとい大蛇をご紹介するので移住者さんはその大きさに驚かないであげて下さいね~~ひゃあん!?」