転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#103 二人の迷い子

「本当に! ごめんなさい!」

 

「あらあら、むしろ謝るのは私のほうでしょ? ほらほら頭を上げてわちるちゃん」

 

「でも!」

 

 お風呂からあがりV/L=Fの予定を確認するため自室に戻ろうとしていた真夜は、目の前で勢いよく頭を下げるわちるに面食らう。一体何事!? と目を丸くする真夜をよそにわちるは先程のわざとらしく視線を外し、避けるようなことをしてしまった事を謝罪した。

 

 お風呂場では結局その話題は流され、うやむやな状態となっていたが、それでは失礼なままだと思い、こうして改めて謝罪することをわちるは選択したのだ。

 

 だが真夜としてはわちるのような反応をされることはそれほど珍しいことではなく、子供の頃よりそんな反応に晒されてきた真夜はすでに慣れており、さほど気にした様子ではなかった。むしろわちるが自身の体を見てショックを受けたのではないかと心配しているほどだ。

 

「私は気にしてないから。だからわちるちゃんも気にしないで? はい、これでこの話は終わり。ね?」

 

「……はい」

 

 まだ納得いかないという様子のわちるの頭を一撫でし、自室へ戻るように促した。FSは今回のV/L=Fの主役ともいえる者たちだ、これからまだまだやらないといけないことがあるんじゃないの? 真夜は言葉にしなかったが、そんな思いはしっかりとわちるに伝わっていたようだ。再び小さく頭を下げ、自室へと戻っていった。

 

 

「……ふう、それで、あなたは何でそんな不機嫌なのかしら? ○一」

 

 わちるを見送った後、そのまま真夜は後方に居る人物へと振り返ることなく問いかけた。

 

「……テメェ、わちるになにしやがった」

 

 わちるの姿が見えなくなった後、真夜の後ろから現れたのは○一だった。泊りがけのオフコラボ配信を終えて帰宅した○一は真夜を鋭く睨み付け、FSの誰にもしないような荒い言葉づかいで真夜に詰め寄った。

 

 ついさっき帰ってきたらしい○一はどうやら真夜が何かわちるによからぬことをしたのではないかと誤解しているらしかった。確かに先ほどの謝罪するわちると真夜の場面だけ見れば二人の間に何かあったのではと勘ぐってしまう。そう思われても仕方ないほどに真夜にはいろんな配信者に対する前科があった。

 

「何もしてないわよ? まあ、わちるちゃんには少し不快な思いをさせちゃったかもしれないわね」

 

 そんな○一の剣幕に一切動じることなく、それどころか微笑を湛えながら○一へと返答する真夜。その声音はまるで○一を挑発しているかのようで、現に○一はそう感じた。

 

「ふざけたことしてんじゃねえぞ! 大体なんでテメェがここに居やがる!」

 

「あら、室長さんから聞いてないの? V/L=F期間中お世話になるわね」

 

「はぁ!? ……チッ」

 

 真夜のその一言である程度察した○一。今回のように真夜がこの家にやってくることは珍しくなく、それを○一も理解しているからだろう。○一は忌々しそうに真夜を見てわざとらしい舌打ちをした後、真夜の横を通り過ぎようとする。

 

「V/L=Fん中でふざけたことしたらタダじゃおかねえからな……!」

 

 睨みつけたまま○一はそんな言葉を口にするが、その瞬間、先ほどまでにこやかに○一の話を聞き流していた真夜の雰囲気が、変わった。

 

「あら、それじゃあまるで私が悪いことする人みたいじゃない」

 

「うおっ!?」

 

 通り過ぎようとする○一の腕をつかみ、自身へと引き寄せる真夜。予想以上に強い力で掴まれ、引っ張られた○一は足をもつれさせながら真夜の方へと体が傾く。

 真夜のほうがかなり身長が高く、バランスを崩した○一は真夜の胸元へと顔をうずめることになった。

 

「せ、セクハラしまくってんじゃねえか!」

 

「あらあら……ふふ」

 

 話が逸れそうだったので、今セクハラしているのは胸元から顔を出している○一の方だと真夜は言わない。

 

「それはちゃんと許可を頂いているわ~。それに、なこそちゃんの時代と違って今は私とのコラボするってことがどういう事かある程度覚悟できてる子たちが多いから~」

 

 驚かせ甲斐がないけどね、と真夜は言いながら胸元で苦しそうにしている○一の顎に手を添え上を向かせる。それはちょうど真夜と視線が合う角度。

 

 真夜の目は少しも笑っていなかった。穏やかな口調とは反対の、その刺すような視線のまま真夜は○一と視線を合わせ続けていた。

 

 ○一はというとバランスを崩したまま真夜へと寄りかかっている状態で、さらに片腕はまだつかまれたまま。ほとんど抵抗できない状態であった。

 

 そして、そんな視線を○一に注ぎながら、穏やかな口調を変えず、真夜は○一へ言葉を浴びせる。

 

「ふふ、それに、私が悪い人なら○一はそれ以上よね、だって、あなたは犯罪者なんだもの」

 

「……! テメ」

 

「タダじゃおかない? それはこっちのセリフなの。あなたのせいで、私は一生消えない痣を体につけられたんだもの」

 

「ぐ……」

 

「なにも言えない? そうよね、言えるわけないわよね。本当のことだもの」

 

 真夜は○一の顔をさらに引き寄せる。二人の距離はもはや互いの吐息が感じられるほどになる。真夜は余裕の姿勢を崩さず整った息が続き、○一は荒く小刻みな呼吸しかできない。

 

「……みんながあなたを許して、仲間だ家族だって言ったとしても、私だけはあなたを許さない。絶対に。……覚えておいて」

 

 真夜はその言葉を吐き出すと、○一を解放する。うなだれている○一を置いて、真夜は自室へと向かうために廊下を歩き、その先の階段へと進んでいく。

 

 

 

「……うっせえな……許されないなんて……ワタシが一番よくわかってんだよ……」

 

「……」

 

 既に○一のことなどどうでもいいとばかりに、真夜は今日のV/L=Fについて考え始める。今後の打ち合わせや、出演するイベント関係など、把握しておかなければいけないことは山ほどあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………○一、さん……真夜さん……そんな……」

 

 だから真夜も、○一も気が付かなかった。風呂場の忘れ物を取りに来たわちるが、物陰から二人の話を聞いてしまっていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ~。いい天気になりましたね~V/L=Fの時もこんな天気ならいいんですけど~」

 

「おかーさーさむいー」

 

「はいはい~。今日は体の温まるものでも食べましょうかね~鍋とかいいですね~」

 

 ところ変わりネットの中の犬守村。昇る朝日のまぶしさに目を細めながらわんこーろは縁側でゆったりと景色を眺めていた。

 

 V/L=Fで開催される各イベントの中でも一番の規模となったわんこーろ主導のイベントの準備でわんこーろも狐稲利も忙しそうにしていたのだが、それも今朝方すべての工程が完了し、あとはV/L=Fが始まるのを待っている状態となった。

 

 V/L=F開催会場である塔の根本に造られた巨大な展示会場は今回のV/L=F以外にも様々な展示会や催し物に利用されている施設で、その関係で塔の街の中でもネット環境は最上級のものが備わっている。それを十二分に活用できるほどの機材も文化復興省や先進技術研究所より提供されている。

 

 なのでわんこーろはV/L=F中会場のあらゆる場所に出没してやるつもりだった。各種案内板として設置されているモニターやら、展示会場に置かれたディスプレイなどなど、わんこーろが顔を出せる"窓"はいくつもある。

 

「んふふ~楽しみですね~。ね、狐稲利さん~」

 

「しゃむいーーーふう~~」

 

「あらら」

 

 季節は秋の中ごろとはいえもう寒い風がひゅうひゅうと吹き、色づいた紅葉をさらっていく。そのうえ朝となれば気温はかなり下がっている。狐稲利は寒い寒いと言いながらその手をわんこーろのもふもふとしたしっぽの中にずぼっ、と差し込むとそのまましっぽを抱き寄せて幸せそうな笑みを浮かべる。

 

「寒がりですね~」

 

「おかーさは体温かいからー」

 

「おおう、自然に幼女扱いされましたね~」

 

 他愛もない話を続けるわんこーろと狐稲利。秋の犬守村の風景のことをあれこれ話したり、冬に向けての準備、そしてもうすぐ始まるV/L=Fについて。

 

 わくわく、どきどき、それらの思いがあふれ出し、いてもたってもいられない。そんな感情をいっぱいに膨らませている二人の会話は、一つの人影によって中断することになった。

 

「あ、お待ちしていましたよ~ナートさん~」

 

「なーとおはー」

 

「ん~おはよーわんころちゃーん狐稲利ちゃーん~~犬守村は寒いねぇ~」

 

 やってきたのはFS所属のヴァーチャル配信者であるナートだった。まだ秋の中ごろという時期であり、寒くはあっても凍えるほどの気温ではない。にもかかわらずナートの姿はすでに冬の装いといっても過言ではないほどの重装備に包まれていた。

 

 暖かそうなふわふわもこもこな上着に包まれピンク色の長いマフラーで首元をぐるぐる巻きにしている。そしてその両手には狐のナナが収まり、背中にはカラス型のヨイヤミさんであるヨルがしがみついていた。

 

「こんなに寒いのなんて初めてだよぅ特区に住んでた時は温度管理カンペキだったし~塔の街でもこんな気温下がんないしぃ~」

 

 現実世界では気温の上昇によって夏は出歩くことが出来ないほど高温となるが、冬はそれほど気温の低下が起こらない。そのため犬守村の寒さに驚きを隠せないでいた。

 

「んふふ~では家の中へどうぞ~」 

 

「ナナとヨルもこっちおいでー」

 

 わんこーろはナートを招き入れるとお茶の準備を始め、狐稲利はナナとヨルを抱えて何やら話をしているようだった。そんな狐稲利の様子にナートは畳の上で一息つき、秋の犬守村の景色を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「それで狐稲利さんってば私を幼女扱いしたんですよ~~」

 

「おかーさ体温かいー夜寝るとき、ぎゅってするときもちいいー」

 

 わんこーろと狐稲利はナートと一緒にお茶を飲みながら先ほどの雑談の続きをしていた。

 ナートがここにやってきた理由は、現在わんこーろの膝で気持ちよさそうに眠っているナナと、タヌキのよーりとじゃれあっているヨルをこの犬守村へと連れてくるためだった。

 

 V/L=F中はわちるもナートもほかのFSメンバーも忙しく、二匹の面倒を見ていられる人間はいない状態だった。とはいえネット空間にそのまま放置するのもかわいそうという意見や、勝手に入ってはいけない空間に入り込んだりしないか不安だと考え、V/L=F中は二匹の故郷である犬守村で預かってもらうことにしたのだ。

 その提案をわんこーろはもちろん了承し、V/L=F前のギリギリなタイミングではあるがナートによって二匹がこうやって連れてこられたわけなのだ。

 

 現在時刻はまだ早朝といったところ。現実では○一が帰ってきてから少し経ったあたりでまだV/L=Fは準備期間中だ。

 FSはあくまでV/L=Fの顔として出演しているが、イベント運営は復興省、推進室、先進技術研究所、その他協賛企業が行っているため彼女たち自身は会場設営などを行わない。

 あくまでいち参加者であり、全面的なV/L=Fの進行に携わっているわけではないのだ。もちろん、他の参加配信者よりもV/L=Fの準備を手伝ってはいたが。

 

 とはいえ連日の忙しさ、特にほかのメンバーよりあまり要領が良いわけでないナートは疲労からくたくたになっていた。特に肉体的なものより、精神的な部分で。

 

 ナートはV/L=Fのことを考えると同時にV/L=F参加予定である新人配信者、風音布里(かざねふり)ほうりのことを嫌でも考えてしまう。彼女と相対した時、自身はどのようにふるまえばいいのか、そればかり頭の中でシミュレーションしてそのたびに失敗に終わる想像が浮かび上がってしまい、それは想像以上にナートのストレスになっていた。

 

 それを察した室長の心遣いでナートは二匹を犬守村に預けるついでに、ほんのわずかな時間ではあるが犬守村でゆっくりするといい、と言われこのようにV/L=F前の忙しいタイミングの中、疲れた心身を休めるべく犬守村の縁側でぼーっとしていた。

 

「いいなぁ、私もわんころちゃんぎゅってしてみたいなぁ~」

 

 つまり、疲れにより現在のナートはいつも以上に言葉の取捨選択ができておらず、思ったことを脳で処理する前に口にしてしまう状態だった。

 

 まあ通常の状態でもその欲望を抑え切れていたかどうかは疑問であるが。

 

「ん~? いいですよ~。はい、ど~ぞ~」

 

 ナートの何気ないつぶやきにわんこーろは特に疑問を抱くことなくナートへと両腕を伸ばす。わんこーろとしてはナートだから特別、と考えているわけでなく、単純にわちるや狐稲利にしょっちゅう抱きかかえられているため慣れてしまっているのだ。

 

「? ……、……ひゃあぁああああ!? ヴォエ……え、あ、いいの!?」

 

 だがその、まるで抱っこして? とでも言いたげな様子に思わずナートは女の子がしちゃいけないような声を上げてしまう。

 

「はいは~い。お好きにど~ぞ~」

 

 わんこーろはにこにこしながらナートを待っている。その様子にナートは意を決し、わんこーろへ近寄る。

 

「で、では……いかせていただきます……」

 

「あははー、なーとなんで敬語ー?」

 

 ゆっくりとわんこーろの脇に自身の手を通し、まるで幼子に"高い高い"するように持ち上げるナート。

 にこにこなわんこーろの心を表すようにその犬の耳は後ろにへにゃんと垂れており、しっぽはゆっくりと左右に揺れ動いていた。

 

「お、おははははひひひひ……」

 

「なーときもいー」

 

「あはは~わちるさんも最初はこんな反応でしたね~」

 

「いや、だってこんなかわいい小さい子をだっこするのとかはじめ……て……」

 

 わんこーろを高い高いするナート。確かにわんこーろとこのように触れ合ったのは初めてだ。

 

 そう、初めてであるはずだ。

 

 けれどナートの脳裏には今自身の視覚から得られる、わんこーろを抱き上げる姿にダブる映像が再生されていた。

 ナートと同じ金の髪に、ナートに似た顔、そしてナートのように朗らかに笑う小さな少女の姿。

 

 

 ……妹の、姿が。

 

 それはいつの記憶だったか、もう忘れてしまった。忘れたいとも、思っていた記憶。

 

「……あはは、ありがとねわんころちゃん。ちょっと元気でたかも」

 

「そうです~? それならよかっ、ってうひゃ~~」

 

「なーとばっかりずるいー! わたしもおかーさ抱くー!」

 

 今度は自分の番だとばかりに狐稲利はわんこーろを抱き上げ、その場でくるくると回り始めた。わんこーろは情けないような、あるいは間延びした悲鳴? のようなものを上げているが、狐稲利は構わずくるくる回り続けている。

 

「あはは……ほんと二人ともなかがいいねぇ、まるで、"姉妹"みたいで……」

 

「むう! なーと違う! わたしはおかーさのむすめ! しまいじゃないのー」

 

「あ、いや、ごめんごめん! そういうつもりで言ったんじゃないんだよぅ……」

 

「ん~ナートさん~?」

 

 ただの軽口。狐稲利はそのつもりだったのに、予想以上にナートは反応が薄く、へこんでいるように見えた。その様子に狐稲利は首を傾げ、わんこーろは少し心配そうに声をかける。

 

「……ねえ、わんころちゃん。わんころちゃんと狐稲利ちゃんって、喧嘩とか、したことある?」

 

「喧嘩……ですか~?」

 

 その問いに、わんこーろは少し考える。狐稲利とは喧嘩らしい喧嘩はしたことがない。狐稲利はいたずら好きではあるが人が本当にされたくないこと、踏み込んでほしくない一線は超えないようにしている。それも無意識で。

 わんこーろ自身も大抵のことは笑って許している。あるいは配信のネタとして扱い、後に引かないように配慮している。

 

 それ以前に、わんこーろは生み出した狐稲利を娘として愛しているし、狐稲利は母親としてわんこーろを愛していた。

 その絆は互いを尊重し、互いを許しあい、互いを認めあうことを前提として成り立っている。だから、喧嘩というものをあまり経験したことがなかった。

 

「う~ん……ありますよ~」

 

「えっ!? あるの!?」

 

「うー、いま思い出してもはずかしー」

 

 それでも、互いの意見や主張がぶつかることはある。夕飯の献立で対立したり、山でよーりと追いかけっこをして服を泥だらけにしたり、……寝顔を全世界に拡散されたり。

 

 

 ……あるいは、死んだものを生き返らせてほしいと願われたり。

 

 

「でも~喧嘩って長くは続かないものですよ~現にわたしと狐稲利さんは一晩寝たらもう仲直り~ですから~」

 

「うんーあさ、おきたらーおかーさとごめんなさい! するのー。それでおしまいー」

 

 二人のあっけらかんとした言葉にナートは目を丸くする。きっと自身なら、気まずくなって何日も口をきけなくなる。謝ることもなく、なんとなくギクシャクしたまま時間が解決してくれるのを待つことになるだろう。

 

「……何年も、離れてて……喧嘩なんかよりももっとひどい理由だったら……?」

 

 自分は何を聞いているのか、ナートはそう考えながらもわんこーろから答えを欲しがった。先の見えない迷路に迷い込んだ自身の思考に、明かりを欲しがった。

 

 人でなく、だが誰よりも人らしい電子生命体のわんこーろであるから、そんな彼女の考える答えに興味があった。

 FSのような家族同然な存在に相談するには近すぎるし、反対に「あなたの気持ちわかるわ」などとありもしない同情をかける他人では遠すぎる。

 

 ナートにとってわんこーろは自身の抱く悩みを吐露する、相談相手として適格だった。

 

「違いなんてありませんよ? ナートさんはその人のことが大切です~?」

 

「えっ? う、うん……」

 

「なら~相手もおんなじ気持ちだと思いますよ~なんにしても~お話しないと始まりません~お話して~相手の気持ちを聞いて~それからですね~。謝るにしても、許すにしても~」

 

「相手の、気持ち……」

 

 

 狐稲利がお茶のおかわりと庭で取れた柿を剥いたものを持ってきた。わんこーろはそれを手伝い。狐稲利は元気にお礼を言う。二人は楽しそうで、そして互いを大切に思っているのがナートには感じられた。

 

 だからこそ、わんこーろの言葉にナートは少しの勇気をもらった気がした。

 

 

 

 

 

 ナートの掌に展開された半透明のディスプレイには、先日公開された新人配信者の初配信アーカイブ動画が再生されている。

 

「……」

 

 その動画の一つ。ヴァーチャル配信者グループ"イナクプロジェクト"の配信者、風音布里ほうり。

 ナートは何度も何度も再生したそのアーカイブを再生する。

 

 真剣な声も、優しい笑い声も、きれいな歌声もすべて聞き覚えがある。他者を気遣える心、確りとした自己を持つ精神、それらから生み出される雰囲気。それらにナートは懐かしさと、確信を得た。

 

 風音布里ほうり、彼女は確かに自身の妹であると。

 

 

 

 

 

 

 時間はゆっくりと、だが着実に進んでいく。それは○一も、ナートも等しく同じ。時間は待ってはくれない。

 

 

 V/L=Fが、始まろうとしていた。

 

 


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