転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#105 喧騒のはじまり

 

「おっしゃーーーーーっ!!! 第三回ヴァーチャル・リンク・フェス!! 始まりだぁーーー!! お前らみてるかぁ!??」

 

『きちゃ!』『ネット配信ありがとーー!』『ワーワー』『がやがや』『いえーい!!』『見てるぜ!!』『相変わらず音割れしてんぞナートぉ!!』『やっぱナートの声いいなぁ』『歌はヤバいが声自体は良いナートすこ』『開催宣言おつー!』

 

 メイン会場である西ホールに設置された巨大なスクリーンに映し出されたのはマイクを持って元気いっぱいに叫ぶナートだった。映像はネットでも配信され、全国の視聴者が無料で視聴することができる。すでに同時視聴者の数は10万以上を突破し、コメント欄は怒涛の勢いで流れていく。西ホールだけでなく、会場のあちこちに設置されたディスプレイからナートとFSの面々の姿が確認でき、それだけで一般参加者は大いに盛り上がる。

 

「あぁん!? 誰の歌がヤバいだぁ!? 今回は私だって練習して――」

 

「はいはーい! 余計なことは言わないでねーこれは公式配信なんだからー。配信をご覧の皆様おはよーFS所属の虹乃なこそだよー。ついに第三回ヴァーチャル・リンク・フェス、通称V/L=F(フェス)が始まりました。配信をご覧の方も、会場にお越しの方もこの二日間どうぞ楽しんで行ってね!」

 

「同じくフロント・サルベージ所属の白臼寝子です。会場にお越しの一般参加者の皆さんにお願いです。このV/L=Fは多くの企業様と有志、個人によって成り立っております。その中に皆様も含まれていることを忘れないようお願いします。皆様は"お客"ではなく"一般参加者"であることを意識していただきますよう、お願いいたします」

 

「○一だ。簡単にいうなら問題起こすなってこった。堅苦しいかもしんねーが守ってくれねーと次回以降のV/L=F開催が怪しくなるからな。よろしく頼むわ」

 

「わちるです! イベントスケジュールは公式HPとメイクにて公開しています! 皆さんチェックお願いしますね!」

 

 会場の一般参加者から声援と拍手が返答となり、その後も続くいくつかの諸注意を話し終え、ついにV/L=Fの一日目"前夜祭"が本格的に始まった。

 

 

 イベント会場はどこも人でごった返しており、それはホール外まで続いている。多くの人の熱量がその空間に集まり、祭の喧騒となってあたりに満たされている。

 

 先進技術の展示会場である新館一階は物珍しいものを手に取ることが出来る。ブースによっては一般参加者が体験できるものもあり、その手の新技術に目のないマニアが集まっていた。

 

 西ホールは壁一面を利用した巨大なスクリーンがあり、そこに各イベントが映し出される。西ホールと東ホール内はそのスクリーンをゆったりと視聴できるリラックス空間が設けられており、さらにはちょっとした飲食スペースと、サルベージされたレシピを利用した食べ物を購入できる出店のようなものが並んでいる。

 他にもFSや有名配信者が過去に販売していた限定グッズの展示や再販スペースも用意されていた。

 

 どこも人が並んで大盛り上がりだが、そんな中でも頭一つ飛び抜けた人の多さを誇るブースが、"NDS体験ブース"だ。

 

 ネットの中に入り込み、自在に動き回ることができるというネット・ダイブ・システム、通称NDSはこれまで体験したことのない全く新しい技術のアイテムで、普及するにはあと数年はかかり、値段はかなりの高額ということで一般人が触れることなど暫くは無いと言われていたが、それがなんとV/L=F期間中プレイし放題というのだから、これのためにチケットの争奪戦に参加した一般参加者も多い。

 

 

 

「よし! お仕事終わり! 出店出店~~わたあめってやつを食べてみたかったんだよね~~」

 

 V/L=Fの開始宣言、その他もろもろを話し終えたナートはうきうきとした様子で会場の賑わいを眺めていた。正確には美味しそうな匂いを漂わせる屋台の方を。

 

「もーナートちゃんはー。新人の子たちの様子見に行くんじゃなかったのー?」

 

 そんな様子のナートになこそは呆れ気味に突っ込みを入れる。V/L=F一日目のFSが行う重要な仕事は先ほどの開催宣言と諸注意の周知が主である。それ以外は新人の自己紹介がリレー形式で配信されたり、新作のゲーム実況配信が行われ、そこにFSは参加していない。

 だが、V/L=F本番である二日目は一日目の比ではないほどの忙しさが彼女たちに待っている。それを考慮してFSの面々の一日目の自由時間は意外と多めに確保されているのだ。

 

「……ぜ、絶対じゃないんでしょ? わ、私はライブ感を重視する配信者だからさーその場の勢いを大切にしたいんだよねぇ……というわけでさらば!!」

 

 焦ったようにナートは早口でそう言うと目にもとまらぬ速さでお祭り会場へと消えていった。あまりにも素早い逃げ足になこそが引き留めることすらできないほどだった。

 

「……逃げましたね」

 

「もう、しかたないなあ」

 

「いいんですか?」

 

「ナートちゃんの言った通り強制じゃなくて私たちが勝手に挨拶にいくだけだからねぇ……挨拶にいく配信者の方もイベントブースに行ってて顔合わせ出来ない方もいるだろうし……まあいいかな?」

 

 V/L=F参加の配信者全員が現実で顔合わせをする機会はこれまで無かった。というのも参加配信者の配信スタイルはさまざまで今回のV/L=F配信のために専用機材などを持ち込んでいる配信者も多く、その調整に時間を取られ挨拶に伺うようなタイミングが無かったり、事前にネットを介しての挨拶を済ませたのでわざわざ直接会う必要がなかったり、他者との会話が異様に苦手なコミュ障だったりという理由がある。

 

 中でも一番多かった「たとえ同業者でもわざわざ"中の人"を晒すということに抵抗がある」という理由。各ヴァーチャル配信者の配信スタイルと今まで構築してきた世界観を尊重し、全員が集まる場というのは設けられなかったのだ。

 もちろんライブステージなどの段取りや打ち合わせは行われており、各自現地での予行練習を重ねているのだが、それでも全員が集まることはなかった。

 

 なのでFSの言う顔合わせとは、適当にそこら辺をぶらぶらして知ってる顔がいたら挨拶する、程度のものでしかなかった。

 

「ナートお姉ちゃんは自由すぎるんですよ」

 

「でも、なんだか様子がおかしかったような」

 

「ん……確かに」

 

 単独行動で自由気ままなのは今に始まったことではないが、今のナートはやはりどこかおかしいようにFSの面々は感じていた。まるで一人で居たいと思っているかのように、あるいはこの会場に居る"誰か"に会わないようにしているかのように。

 

「ナートちゃんが自分から言わないなら無理に聞き出す必要はないよ。ね、まるちゃん」

 

「……おう。って、まるちゃん言うな」

 

 一つ屋根の下で暮らしていると互いに何を考えているのか何となくわかってしまうものだ。ナートが何やら悩んでいることも、○一の様子がおかしいことも、そんな○一を心配そうに見ているわちるのことも、本人以外は皆分かっている。けれど、だからこそ、その思いに無理やり土足で入り込むことはしない。

 

 無理やり悩みの坩堝から引っ張り出してやることも必要な場面はあるが、FSがそれぞれ胸の内に秘めているものはむやみに触れてはいけない部分であると皆無意識に理解していた。

 

 それは寝子の出生についてであったり、わちるの育った環境であったり、○一と真夜の確執であったり、ナートと新人配信者との関係であったり。

 

 それらの事情を本人と室長以外はほとんど知らない。けれど皆、察してはいる。FSに所属しているメンバーは自身と同じく、何かを抱えているのだと。

 

 抱えているものの大きさと重さを理解しているからこそ、誰も他者の抱えるものを覗き見ようとはしないのだ。

 

「……」

 

 だが、だが。

 

 それは優しさであると同時に、忌避であると、わちるは感じていた。

 

 

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