転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
いや~鮮やか鮮やか。皆様こんにちは、ヴァーチャル配信者の電子生命体わんこーろです~。
私は現在V/L=Fが開催されている塔の根本、国際展示場が管理するネット内の仮想空間をゆらゆら動き回っております。
現実だけでなくネット空間も鮮やかな色合いで飾り付けされて、私もお祭気分を味わえて幸せですよ~。
ですが……いやはや思ったより物々しい警備体制ですね。会場である国際展示場の中枢空間は今回のV/L=Fのために先研や海外の技術機関からの協力で最高峰の防衛設備が揃えられ、半端なハッカーでは到底侵入できない超がつくほど厳重な警戒態勢となっています。
それはさながら国の重要な機密を保管している管理空間の如し、って感じです。まあ、私は実際にそんな場所に忍び込んだことはないので想像ですけど。
実は私、V/L=F開始前にその管理空間全体の防衛を担っている復興省の方と顔合わせをしようと考えておりました。これでも私、電子生命体ですので。ただの防衛AIよりかは動けると自負しております。なのでV/L=F開催中ネット空間全体の防衛に私も参加しようと考えていたのですが……。
「ふ~む~少し図々しかったですかね~……」
私がその旨を室長にお話しして、V/L=F運営の方へと伝えて頂いたのですが結果は駄目、でした。
復興省からの返答内容は、外部から招待した配信者である者が運営へ干渉するのは好ましく無い、というもの。よくよく考えれば確かにその通りです。室長さんや復興省は私という存在の立ち位置を測りかねており、私が電子生命体であることを信じていないものも多く、それが関係しているのだろうと仰っていましたが、これは単純に私が厚かましかっただけですね……。
「室長さんに悪いことをしてしまいましたね~」
私の言葉を伝えてくださった室長さんも復興省から何か言われたのでは無いでしょうか? むう~……私のせいであまり負担を掛けたくはないです……。
けど……なぜか室長さんは気にしていない様子でしたね。清々しいと言いますか、さわやかといいますか。何となくですが以前よりも復興省のことを気にかけていないように見えます。その分FSさんや、私と狐稲利さんのことを心配してくださることが多くなったような気がします。
「む~……よしっ!チラ見するくらいなら大丈夫でしょ~~」
V/L=Fのセキュリティ関係によそ者が干渉するのは確かに問題です。ですが、その様子をうかがうくらいなら問題ないでしょう。というわけで私は展示会場周辺の管理空間全体の防衛を担っている防衛AIと顔合わせをしてきました。
私が防衛関係に携われないのは仕方がない、というか当たり前ではありますが、それとは別の問題として、私はV/L=F中このV/L=F運営が管理する管理空間内を動き回ることになると思います。
その時私の存在が不正なアクセスと誤認されないためにAIの方々と顔合わせをしておいた方がいいと考えたわけです。事前に私という存在を認識していただくことで所謂誤BAN的なことが起こらないようにしておく必要がありますからね。
「監視AIに~防衛AIに~探知AIと~とにかく顔合わせしないといけない相手がいっぱいですね~」
「おかーさー、えーあいっておはなしできるー?」
「うーん、ちょっと難しいかもしれません~あっちは私たちみたいに魂があるわけではありませんからねぇ……仕事一筋の真面目な方、と思っておけばいいですよ~」
「ほほー! かっこいいー!」
実際AIが私と狐稲利さんのように会話をすることは不可能でしょう。私の言う"顔合わせ"というのもどちらかというと私が起動中の各防衛AIの認識範囲に入り込み、予め記録されているはずの私という存在が、しっかりと無害な存在として認識されるかを確認しているだけの作業のようになっています。味気ないので顔合わせと言っていますが。
ふよふよと管理空間の間を行ったり来たり、いくつもの防衛AIを狐稲利さんと一緒に確認していきます。私が難しいと言っても狐稲利さんは果敢にAIへと話しかけて行きますが、やはり与えられた役割以外のことには反応してくれず、狐稲利は唇を尖らせたり、ちょっとしょぼんとしたり……。そのたびに私が慰めるのですが、狐稲利さんは懲りずに次のAIへと話しかけていく、という光景が繰り返されました。
狐稲利さん、犬守村の外でもお友達を作りたいのでしょうか……? ふむ~……。
「しかし~なんだかおもしろい形ですね~」
「んふ~? なにがー?」
「ほらここ~見てください~なんだか穴が開いているように見えませんか~」
私が表示させたウィンドウにはこのV/L=Fで利用される全仮想空間の配置地図が映し出されており、まるでアリの巣のように大きな仮想空間がいくつもの
あくまでネットの中に存在する仮想空間を視覚的に捉えられるようにしただけなのですが、ネット内での位置関係などはほぼほぼ正確だと思います。
そんなV/L=F運営のための大規模な仮想空間群は隙間なくネットの中にひしめき合っているのですが、一か所だけ、ポツンと空いた場所があるのです。まるでそこに見えない何かがあるかのような、そんな不思議な場所。
「ん~~? んーー、わかんないー」
「ん~狐稲利さんにはまだ難しいですかね」
「何も無いよー?」
「"何もない"が有る、と言えばいいのでしょうか~。何もないのが逆に不思議なのですよ~」
「んー……ますます分かんないー」
「あらあら」
そんなことを話している内にほぼAIとの顔合わせは終了し、私たちの存在は無害な存在として防衛AIに再認知されたようです。
「はい、顔合わせはあらかた済みましたので~私たちもV/L=Fに参加しましょうか~」
「はーい!」
V/L=F会場である国際展示会場には現在いくつもの映像出力装置が置かれています。それは西ホールにある巨大なスクリーンや、広告を表示するディスプレイ、会場案内を行うための案内板とタッチパネルなど様々です。
出力装置はすべてネットに繋がっており、私や狐稲利さんにとってそれらは現実世界をのぞき見ることのできる、文字通り窓となっています。
ですので、例えば今案内板の前でおろおろしている少年に話しかけることだって造作もありません。
「ん~こんにちは~~初めまして~~」
「うわあ!? え、ええ!?」
突然案内板から案内のための機械音声とは違う私の声が聞こえたことでその少年は驚いて案内板から離れてしまいました。案内板にはカメラも内蔵されているので少年がびっくりしている様子もばっちり確認することができます。
案内板に表示されているマップデータの裏から小さくなったミニな私がひょっこり顔を出し、表示ウィンドウのフチに腰掛け、少年へと顔を向けます。
よく見ると少年は手持ちのカバンにFSや他の配信者さんのグッズを付けているようで、この歳でなかなかディープな配信者のファンのようです。
「あはは~ごめんね~驚かせちゃった~? 何処に行きたいのかな~?」
「え、ええと……西ホールの――」
「ほうほう~なるほど~そこはね~ここをまっすぐ行って~突き当りを左だね~」
少年が動揺しながらも行きたい場所を口にします。ふむふむ、いい感じにサプライズ成功ですね~。でも困らせるつもりはないので、少年の行きたい場所をぱぱっと教えてあげることにします。
表示ウィンドウの上に乗って、マップデータを指先でなぞってどの道を行けばいいのか図に表示させます。道はほとんど一本道なので迷う心配はないでしょう。途中ほかの案内板もありますし。
「わかったかな~?」
「う、うん。ありがとうございます」
「んふふ~礼儀正しい子だね~V/L=F楽しんで行ってね~それじゃ~」
「あ、あの!」
「ん~? どしたの~?」
「いつも、配信見てます! これからも頑張ってください! わんこーろさん!」
「! んふふ~ありがと~わんこーろはこれからも頑張るから~応援よろしくね~」
案内板に手を振りながら目的地へと向かっていく少年を見送りながら、私は表情が崩れるのを防ぐように両手で頬を押さえます。
んうぅ~~移住者さんの生の応援の言葉って思ったよりも威力ありますね~~~顔のニヨニヨが直りませんよこれは~~~~。
「あー」
「ん? どうしましたか狐稲利さん?」
「むらはちぶニキがーメイクでつぶやいてるー」
「え?」
村八分ニキ……配信中コメント欄に現れる、いかがわしいコメントをする移住者を村八分にしたり焼却という名の消毒をしている方ですよね……。時々その名前から本人が村八分にされたと思われているあの方ですよね……?
「【会場で生わんころちゃんと会話した!!!!最高に可愛かったぞ!!】だってー」
「っ!?」
思わず先ほどの少年が立っていた案内板の前をカメラを使って確認しますが当然少年はもういません。私がこのV/L=Fで話しかけたのはあの少年が初めてです。……つまりあの少年は……。
「人は見かけによらない、というか~コメントによらない、ですね~」
「んん~?」
「なんでもないですよ~さて、それじゃあもっといろんなところに出没しますよ~!!」
「わーい!」
出没する先は特に決めずに人が多そうな場所を見つけては顔を出して行きます。例えばコスプレ会場近くだったり……。
「おはよ~ございます~」
「ひやあぁ!? わ、わんころちゃん!?」
「そうですよ~~おお~! お姉さん、なこそさんのこすぷれの方ですね~とってもかわいいですよ~~」
「あ、ありがとうございます!!」
例えばなにやら大きな機器を持ち歩いている方の傍だったり……。
「んん~~? それはカメラですね~珍しいものをお持ちで~」
「へへっ、この日のために整備したんですよ! 画像はメイクに上げるのでわんころちゃんも見てね!」
「はい~ぜひとも~」
例えばヴァーチャル配信者の卵だったり……。
「あ、あの……頑張ってください!! 私も……私も絶対わんこーろさんみたいに……!」
「うんうん~待ってるよ~」
「――はいっ!」
それからも私と狐稲利さんは様々な場所に出没し、そのたびに参加者の方を驚かせたり、なんだか異様に感謝されたり、猛烈に可愛い可愛い言われたり……、移住者さんともお話できたりと皆さんとても楽しんでいるようでした。
ですが少し時間が経つと驚かせる人の中に移住者さんが居られる割合が増えてきて……。
「むむむ~……どうやら私が驚かしにきているのがばれちゃってるみたいですね~」
メイクでも私が出没しているという噂でなんの変哲もない案内板の前にいくらかの人が集まっているという話も出てきています。
さすがに会場を混乱させるつもりはなく、ちょっとしたいたずらのようなもののつもりだったのですが……。
「おかーさーやりすぎたのではー?」
「ちょ、狐稲利さんだってノリノリだったじゃないですか!」
「う……んふ~」
「笑ってごまかさないでください~!」
とにかくこれ以上は頻繁に露出しないほうがいいかもしれません。サプライズは終了、もうそろそろ新人配信者の方々の配信イベントが始まるみたいですし、そちらに私も合流しましょうか。
「それじゃあわちるさんのところに行きましょうか~」
「うんー! おまつりー! 楽しいことたくさんー!」
「はいはいわかりましたからちょっと落ち着いてください~っと、あれは……?」
狐稲利さんは目を輝かせ、はやくはやくと急かします。サプライズもいいですが狐稲利さんとしてはこのお祭の雰囲気を楽しみたいという気持ちの方が大きいみたいですね。
そんなことを考えながら西ホールの管理空間へのルートを検索している最中、一つの案内板の前で一人の男性が何やら首をかしげているのが見えました。
「狐稲利さん、先にFSさんと合流してもらっていいです~? 私はあの方をお助けしてから向かいますので~」
「えー」
「すぐに行きますから、ほらわちるさんが待っていますよ~」
「うー、はやく来てねー」
狐稲利さんは抗議のつもりで唸り声をあげますが、どうにかなだめて合流するように言うと素直に従ってくださいました。
会場を待たせるわけにはいきませんし、ささっと道を教えて差し上げましょうかね~。
「……さて、と~」
私はもう一度例の男性が立っている、案内板が設置してある場所を確認します。設置位置はこの国際展示会場の非常口の一つにつながる扉の前で、その男性以外の人影は全くありません。
というのも一般参加者の出入りは正面の大きな道だけに制限されており、それ以外の入り口はスタッフが時々利用する程度であるからです。例の非常口はその上イベントの開催されているホールへつながる通路がありますが、それは長く遠く、スタッフでさえほとんど寄り付かない場所になっています。
ですが一応会場の出入り口すべてに案内板は設置してあります。このような、道を尋ねるスタッフもいないような場所に迷い込んだ際に会場に戻れるようにとの配慮です。
おそらくこの男性も歩いているうちにこの場所に迷い込んでしまったのでしょう。
「もしも~し、そこのお方~聞こえていますか~?」
「……これは、驚いたな。最近の電子機器とはここまで高性能になったのか」
「んふふ~私は電子生命体ですからね~あなたとお話しすることだってできますよ~」
「くく、そうか。君が……!」
「ん~……あなたは……」
……なるほど。この男性の、この顔、この声、この雰囲気。室長さんから頂いた資料の中にありましたね。
「んふふ~どうやら道に迷ったわけじゃないみたいですね~。そうでしょ? "蛇谷"さん~?」
「そうか、私のことも知っているのだな。お友達からか? いや、君なら考えるだけですべての情報を手に入れることができるのだろうな?」
「……何か私に御用で~?」
室長さんの話では蛇谷さんはなかなかに聡明で、それでいて危険なお方。なによりわちるさんによからぬことを吹き込んで結果として犬守村へ侵入することになった。という事で私の印象はあまりいいものではありません。
ですが、最悪というほどでもありません。彼の言葉によってわちるさんは犬守村に侵入する形で入り込んだわけですが、実際に危険に晒したのは私の方なのですから、彼を恨むのは筋違いです。
とはいえそれはそれ、これはこれです。私は機械ではありませんので不快なのは不快で、割り切ったりできません。だから彼の疑問の言葉にわざわざ応えるつもりはありません。
彼の周囲は全くと言っていいほど人がおらず、それは会場から離れているからと思っていましたが、どうやら彼によって人払いがされているようですね。
「なぁに、少し君と話がしたかったのだよ。なんせ人よりも優れた存在との邂逅など、そうそう出来ることじゃあない。……いや、ははは、そういえば君には50万人以上のチャンネル登録者がいたんだっけねぇ……それじゃあ"そうそう"でもなかったねぇえ、ははは」
彼の言葉は気持ち悪いほどに穏やかで、抑揚がなく、不気味でした。早口でもなく、間延びしているわけでもなく、聞き取りやすい声。だから聞きたくないと思ってもその不気味な声が直接脳内に響くような気さえしてしまいます。
「……私はこれからV/L=Fに参加しないといけないので~……もういいでしょうか~?」
「ああ、そういえばそうだったね、V/L=F……フェスか……どうぞ楽しんでくるといい……草薙の作った、大事な大事な箱庭だからねえ」
「くさなぎ?」
「おや? 知らないのかい? 君たちの保護者、室長の名前だよ。君なら少し調べれば知れたろうに、名前だけでなく、経歴も、出自も、何もかも」
「……プライバシーを覗くために力は使いません~」
「だが、知らないことは罪でもある。君のように、力ある存在なら、なおさらね」
「……何が言いたいので~?」
「君に知ってもらいたい話があるのさ。草薙が隠している復興省の真実を」
「真実……?」
「草薙や復興省だけじゃない。君の懇意にしているフロント・サルベージとも関係する話さ」
……どういうことでしょう。室長さんが、復興省が隠している? 真実を? FSの皆さんとも関係があるって、いったい、何を隠していると……。
「君は知るべきだ。なぜ効率化社会などというものが生まれたのか、なぜそれが崩壊したのか……なぜ、塔の"上"は封鎖されたのか……それはもしかしたら、彼女たちを守ることに繋がるかも知れないからねぇ」