転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#107 新人をチラ見する

 わんこーろというヴァーチャル配信者の存在は他のヴァーチャル配信者から見てなんとも不思議な存在として映っていた。

 彼女の行っている配信の内容は他の配信者では決して真似できるものではない。

 

 ゆったりと時間の流れる犬守村というネット空間を独自に形成できるほどの知識や技術の多様さは驚くべきもので、その声や雰囲気もわんこーろでしか持ちえない特徴的なものであったからだ。

 ゆったりした世界に、ゆったりしたわんこーろという存在。

 

 それらの要素が噛み合わさった結果、わんこーろの配信は多くの視聴者に支持されるようになった。

 

 そして、その視聴者の中には同業者である他のヴァーチャル配信者も多くいた。

 

 わんこーろの名前がぽつぽつヴァーチャル配信者界隈で話題に上がるようになった当初、わんこーろに接触しようとする配信者が現れ始める。

 配信者の中でも先見性に秀でた者たちが、これから伸びるであろうわんこーろとのコラボを打診したのだ。だが、当時のわんこーろは今ほど積極的に他者との繋がりを優先しなかった。

 

 かの復興省の人間、蛇谷がわちるをそそのかさなければ接触出来なかったように、そのつながりはか細く、わんこーろ自身も重要視していなかった。

 

 それはわんこーろが配信を始めた理由が人とのコミュニケーションを取るためだったからだ。そう言ってしまうと矛盾しているように聞こえるかもしれない。人と会話するために配信者となったのに、繋がりを持たないのか、と。

 

 わんこーろが求めていたのは"人との会話"であり、そこに多様性は求めていなかった。広く浅く、ではなく狭く深くの関係を求めていたのだ。

 

 極端に言えば、わんこーろは視聴者が一人や二人であったとしても気にはしない。お話ができればそれで十分だとさえ考えていた。

 

 それに電子生命体であるため現実で触れ合うことができないというのも、わんこーろを他者から一歩引いた位置に居させ続けた要因でもあった。

 

 それらの理由から界隈でのわんこーろの印象は、才能や技術はあるが、他者と関わらない不思議な存在とされた。

 

 それによって当初かなりの数があったコラボの打診も、わんこーろが断り続けることで徐々になくなっていったのだが、それはある時を境に再度爆発的に増えることになる。その時とは、FSとの夏の大型コラボだ。

 

 わんこーろが配信活動を始めた当初よりわんこーろと犬守村に魅せられていた他の配信者はそのコラボ内容に大きな衝撃を受けた。

 FSのように彼女の世界に入り込み、あのような体験をしてみたい。そう考える配信者たちが再度コラボの打診をするようになったのだ。

 

 そして、そんな思いを抱くのはすでに配信者として活動している者たちだけではない、ということをわんこーろはこのV/L=Fにて知ることとなった。

 

 

 

「み、みなさん初めましてっ! 先月配信者デビューしまひたっ! 私の名前は――」

 

 西ホールに設置された巨大スクリーンにはたどたどしくも元気に自己紹介をするヴァーチャル配信者が映っている。彼女はこのV/L=Fに招待された新人配信者だ。背景やBGMはおろか、自身の3Dモデルさえも自作であり、そのうえクオリティも高いという、初配信前から期待値の高い配信者の一人として注目されていた。

 初配信中にチャンネル登録者数が一万近くまでいき、本人が緊張とプレッシャーで泣き出したことで嫌なバズり方をした彼女は新人紹介配信のトリを務める、新人配信者たちのエース的存在だった。

 

 とはいえ他の新人も彼女に引けを取らないほど高度な技術を身に着けていたり、あるいは尖った性格の持ち主が多い。それは個人勢、企業所属関係なくそうであるが、尖りを通り越して針のような性格の者は個人勢がどちらかといえば多いだろう。

 

 多種多様で千差万別。それまでは人らしさがほとんどない、棒読みで所属企業や協力企業の製品の紹介をするのが一般的だったヴァーチャル配信者という存在が、FSの出現という転換点を経て人々の娯楽として定着しようとしていた。

 

 とはいえ今はまだそのような"楽しさ"を主題として活動している配信者の数はまだまだ少ない。配信者の数は多くても、娯楽というものがほぼ消滅していたこの世界ではそもそも"楽しさ"とは何を提供すればいいのか分からず戸惑ってしまうのだろう。

 

 それでも貪欲に挑戦を繰り返し、炎上と謝罪を繰り返し、涙と怒りを抑え込み、自身と視聴者で"楽しさ"を共有することに成功したのが、今V/L=Fに招待された新人配信者たちというわけだ。

 

 つまり、V/L=Fに招待された新人配信者は"楽しさを提供する"という配信者の形を定着させる、新たな世代の代表者たちともいえた。

 

「私の目標は同じ個人勢のわんこーろ先輩とお話することです!!」

 

 そして、そんな新人にとって楽しさ、癒し、目新しさなどの要素を持ち、それでいて誰にも真似できない唯一無二の配信を行うわんこーろは目標であり、憧れでもあった。

 

 

 

 

 

 

「いやはや~……これはちょっと予想外なのですが~……」

 

 わんこーろは予想していなかった。このV/L=Fに呼ばれた新人配信者、特に個人勢と呼ばれる企業に所属していない配信者のおよそ半数以上が配信者となった理由の一つに、わんこーろの存在を挙げていたことに。

 

 ある者はわんこーろに憧れて、ある者はわんこーろとコラボをしたいがため、そのような意味の内容を自己紹介で話すものだから、わんこーろは驚きやうれしさ、恥ずかしさといった感情でいっぱいいっぱい。混乱しっぱなしだった。

 

「というか~私も活動時期的には新人の枠だと思うのですが~……」

 

「いやいやわんこーろさん。それは、お前のような新人がいるか、ってやつですよー」

 

『おまいう』『わちるんそれブーメラン』『そういや初配信からまだ半年も経ってないのか』『二人とも登録者数数十万とか恐ろしすぎてちびりそうになるわ』『二人合わせて100万近いんだよなぁ……』

 

 現在わちるはステージの裏で同時視聴配信を行っていた。同時視聴しているのはもちろん、現在V/L=F会場で行われている新人の自己紹介だ。

 

 イベント会場であるためいつものような万全の設備が整っているわけではなく、携帯端末による簡易的な配信を現場からリアルタイムで行っていたわちる。そこにひょっこりとわんこーろがやってきたのだ。

 

 FSは進行役として関わっているが、この新人の自己紹介配信中は口を出すことはない。新人とはいえ彼女たちも選ばれたV/L=F参加配信者なのだ。彼女たち自身の力で乗り切ることぐらい、できない訳はない。

 

 そう考えFSは最初に自己紹介を行う配信者の名前を読み上げた後、裏に引っ込んでしまっていた。もちろん無関心というわけではなく、何か予想外の問題が起きれば即座にフォローできるように準備はしていた。

 それもトリを務める彼女が自己紹介を終わらせたことで、杞憂に終わったのだが。

 

「ええと、というわけでFS公式配信、『新人ちゃんたちの様子を見守る枠』を終了します。実況は私、九炉輪菜わちると……」

 

「突発ゲストの~わんこーろでした~」

 

『おつ!』『わちこーろ助かった』『いやはやどうなることかと思ったけど』『そうだよな。意外とみんなしっかりしてて安心した』『何人かは猫かぶってる感がすごかったけどw』『みんな特徴的()だったな!』『二人ともこの後もがんばってね』『枠移動しよー』

 

 わちるの同時視聴配信はわちるが勝手に実行したものではなく、推進室の小イベントの一つとして行われていたものだ。このようにイベントの合間や裏では小規模なイベントが発生しており、その様子は会場に設置されている小スクリーンや携帯端末で確認することができる。

 

 

 

「よしっ! 無事終わりました! 次の配信は私たちの会場案内配信ですよわんこーろさん!」

 

「はいは~い、こちらの準備は万端なので~いつでも行けますよ~」

 

 配信が無事終了したことを確認したわちるはすぐさま次の配信枠を設定し、公開する。

 

「ふ~む……」

 

「? どうしましたわんこーろさん?」

 

「いえ~わちるさん、配信の枠立て手馴れてきたな~と思いまして~いやいや大きくなりましたね~。古参勢としては昔みたいにわたわたしてるのもよかったですけども~~」

 

「ふあ!? ちょ、そんな昔の話なんで覚えてるんですか!?」

 

「先ほどの新人さんたちの配信を見ていたら~ふとわちるさんの初配信を思い出しまして~」

 

「いやぁ!? わ、忘れてください!!」

 

「それは電子生命体には無理な話です~」

 

「うう……わんこーろさんが意地悪だ……そういえば狐稲利さんはどこに? 同時視聴配信をする前に挨拶に来られてそのままどっか行っちゃいましたけど……」

 

「ん~狐稲利さんも物珍しいものに目移りしてるんだと思いますよ~しばらくしたら満足して帰ってくると思います~」

 

 おそらく狐稲利も会場のどこかで誰かと楽しいひと時を過ごしているだろうとわんこーろは考える。いつも移住者とコメントで交流しているが、それ以上の近さを感じられるこのイベントは狐稲利にとって好奇心を刺激されるものなのだろう。

 

 

 

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