転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#108 ナート近づく

 

 この世界はかつて存在していた効率化社会という時代によって娯楽関係や歴史ある伝統的なものがほとんど消滅している。

 今ではこの効率化主義ははっきりと失敗であったとされ、悪夢の時期とさえ言われている。緩やかに進行し、末期には人権的にも危うい状況までいったが、それも今は昔。

 

 効率化社会崩壊後、人類は失ったそれらを取り戻そうと前に進み始めていた。

 

 それに効率化社会が完全なる害であったわけではない。その時期は飛躍的に科学技術が発展し、かつてでは実現できなかった様々な技術が確立されていった。

 

 その確立され、改良され、進化した技術の展示会こそが、この会場で行われるイベントの一つ。最新技術の展示会場は多くの人が行きかい、設置された企業のブースが立ち並ぶ。一般参加者が興味深そうにブースを覗き込み、展示されている内容に驚きの声をあげたり、携帯端末で撮影したりと賑わっている様子だ。

 

「おおーー!! なーと! あれなに? あれなに!?」

 

「ええと、次世代型立体食品印刷機……食べ物を印刷できる3Dプリンターだねぇ」

 

「食べ物! 印刷! すごいー!」

 

「んふっ……あんまりよくわかってなさそうなところが可愛い……!」

 

『おい』『おいナート』『ナートさあん?』

 

「じゃあ、じゃあこれは!?」

 

「汚染物吸着微細機器……えーと、土を綺麗にするマイクロマシン…って感じかな?」

 

「おおーすごい!!」

 

「……うーん。可愛い」

 

『さっきからかわいいbotになってんじゃねーよナート』『分かるけど!分かるけどさあ!』『かわいいー!じゃねーんだよなあ』『とりあえず技術紹介するときのオチを全部可愛いで片づけるのはやめろ』

 

 現在ナートは展示会場で最新技術の展示を行っている、通称"新館一階"で配信を行っていた。実際にカメラで撮影された映像に、ナートと狐稲利のヴァーチャルな姿を重ね、映し出される技術や試作品の紹介をしていく。

 有名な企業であったり、展示ブースの中でもひと際人だかりの出来ているブースの内容を配信という形で紹介するというのが、この放送の趣旨になる。

 

 余談だが、カメラで撮影をしているのは顔を隠したV/L=F運営スタッフだ。

 

 

「マイクロマシンは塔の街の環境維持にも使われているけど、それは塔の環境維持システムと電磁干渉地帯に微細機器散布中継地点が点在してるから可能な技術なんだよねぇ、マイクロマシン単体じゃあ散布できる範囲なんてたかが知れてるし、中継地点を経由してメンテされないとすぐ劣化しちゃうし~。その上今主流のマイクロマシンて基本的に熱にクソ弱なんだよなぁ……この展示されてるヤツはその弱点の対策をした、耐熱マイクロマシンって感じかなぁ、そのかわり性能はちょっち落ちてるっぽい。あと重くなってるから風力での散布はムズイと思う」

 

 ナートは映し出された機器の説明を読み、それを狐稲利や視聴者にわかりやすく説明していた。カンペなどが用意されているわけではないようで、棒読みにもならずすらすらと難しい文章をかみ砕いて自身の言葉とするナートの様子に、普段のおちゃらけたナートしか知らない視聴者は違和感を抱く。

 

『意外だ。最近ナー党になったけどナートって機材つよつよだったのか』『機材ってか、機械オタク?』『ナートは機械強いぞ。配信機材も自分でカスタマイズしてる』『最初はなんだっけな?FSでなんか雑談してた時だっけな』『寝子ちゃんが開発始まったばかりのNDSについて話してた時だな。ナートが違和感なくするっと現在主流の出入力装置とNDSとの違いを説明し始めたときはおったまげた』『けど機械全般強いって感じじゃねーよな。MM関連はめっぽう強いが』

 

マイクロマシン(MM)ー? ナートつよつよー?」

 

「うえっ!? う、うーん……ちょっとは知ってるけど……そこまでじゃあ……」

 

 言いよどむナートに首をかしげ、狐稲利は次にコメント欄のナートの配信の視聴者、通称ナー党へと質問する。

 

「ナートすごい?」

 

『はい』『すごいよ』『悔しいが知識は本物』『技術関係の授業取ってるけど、ナートまじすごい。MMの運用方法から開発歴史まで網羅してんのはしっかり勉強してないと無理』

 

「え、えへへ。な、なんだよぅ……ナー党のみんなもやっぱわたしのことをそんけーしてんじゃん」

 

『だまれ』『しゃべるな』『は?』『調子のんな』『ばーかばーか』『あーほあーほ』

 

「なんでだよぅ!? 狐稲利ちゃんと対応の差がありすぎだろ!?」

 

「んふ~なーとおもしろいー」

 

 その後もナートと狐稲利は視聴者とともに新館一階の展示会を見て回っていった。時折狐稲利の質問タイムとナートいじりタイムが挟まりながらも滞りなく進行し、次のイベントが始まるタイミングで配信は終了した。

 

 

 

 

 ナートは配信が終了したことを確認し、携帯端末に映る狐稲利へと話しかける。

 

「ふぃ~~何とか終わった~~もぅ室長もわたしに技術紹介とか難解な役割を押し付けないでほしいよぅ」

 

「なーとすごかったよ? みんな驚いてたー。なーとかっこいい! ってー。なーとつよつよだったんだねー」

 

「……まあ、昔取った杵柄ってやつだね……」

 

「?」

 

「それより! 狐稲利ちゃんはわんころちゃんのとこに行かなくていいの? もうわちるちゃんの配信も終了してるころだよ?」

 

「ん! そうだった! なーとおつかれー! わたし行くねー!」

 

「あーうん。って、消えた……。行動するのはやいなぁ、さすが電子生命体……」

 

 一人取り残されたナートは携帯端末を操作しSNSアプリ、メイクを立ち上げる。メイクの書き込みは今日のV/L=Fに関することで大いに盛り上がっているらしかった。先ほどのナートと狐稲利の配信に対するつぶやきもあり、ほぼほぼ好意的なつぶやきが目立つ。

 それを確認したナートはひとまず安堵する。何かしらの不用意な発言で自身が炎上するのはいいが、そこに狐稲利を巻き込んでしまうことになればわんこーろに申し訳がたたない。

 

「……ん? これって、紹介配信?」

 

 メイクでさらにエゴサを続けていたナートは自身の配信とは違う、何やら別の紹介配信が行われているらしいことを知った。

 内容も新館一階で開催されている展示会を紹介するという、ナートたちが行っていたものと同じもののようで、どうやらそのせいでエゴサに引っかかったようだ。

 

「なんだかギスってるなぁ……嫌なら見なきゃいいのに……」

 

 メイクではその配信内容について不満に思うつぶやきが投稿されている。紹介や解説が稚拙だとか、言葉がたどたどしいなど。それに対してまだ新人なんだからと擁護するつぶやきも確認できる。

 

「新人の子がやってんの……? さっきの?」

 

 どうもその配信者は先の自己紹介配信を行っていた新人の一人らしく、完璧にこなせていた自己紹介の配信と比較してその拙い技術紹介が気に食わないと一部の視聴者がつぶやいているらしかった。

 

(いやいや、最初っから言うこと決めてて練習もできる自己紹介と、アドリブ盛り盛りの生配信とじゃ比較なんてできないでしょうに)

 

 先ほど自己紹介配信をしていた新人たちは現在思い思いにV/L=F関連の配信を行っている。新作ゲームのデモプレイや新人同士での対戦ゲーム実況などが主のようだ。

 巨大スクリーンに映されているメインイベントである、発売前の新作ゲーム実況に参加している配信者以外は各自がそれぞれ自身の強みを生かした配信をメインイベントの裏で行っている。

 

 おそらくこの新人配信者もナートのように技術関係に強い配信者なのだろう。なのに、なぜここまで厳しい目で見られているのか。

 

(……あれ? これってもしかしてわたしにも責任ある?)

 

 ざっとメイクのつぶやきを確認すると、その中にナートが行った紹介配信と新人の紹介配信を比べて批判しているつぶやきがいくつか存在していた。ナートが技術関係に明るいことを知らない視聴者が、新人に対して"あのナートでも出来ることができないw"などとつぶやいているのを見ると、少し罪悪感が生まれるナート。

 

 もちろんナートは何も悪くないし、FSというヴァーチャル配信者界隈において頂点に君臨するグループと新人ヴァーチャル配信者を比べるなどという行為に、そのつぶやきを投稿した視聴者はほかの視聴者に批判されまくっていた。

 

「まあでも……フェアじゃないよなぁ」

 

 何気ないところから炎上したり批判されてしまうのがヴァーチャル配信者の怖いところ。それを痛いほど知っているナートは見て見ぬふりができない。いや、見ぬふりをしてはいけないと考えている。だからナートは手を差し伸べてしまう。それが新たな炎上リスクとなっても今以上に悪くはならないでしょ、という楽観視と、いざとなれば全部私が被ればいいんだし、という自己犠牲精神のもとに。

 もちろん、ナート自身はそんな殊勝なことを考えて行動しているわけがない。全部無意識だ。

 

 それがナートのいいところで、ナー党がただの煽り集団ではなくツンデレ集団になっている所以でもある。

 

「さてさて~それじゃあ少しサプライズといきますか。ええと、配信者の名前は~……!?」

 

 メイクのリンクをたどり、例の新人配信者の配信枠へとたどり着いたナートはその配信枠の主の名前を確認し、目を見開く。

 

「ぐ……ええい!! どうとでもなれ!」

 

 そんな言葉とともに、ナートは自身の本アカウントでその配信に突撃した。あまりよくない雰囲気にあせる配信主と、杞憂と荒々しい発言が目立つコメント。

 ナートはそんな配信枠のコメント欄をタップし、素早く書き込み、投稿ボタンを押した。

 

 

『ナーナ・ナート:それいいよねーわたしの枠じゃ紹介出来なかったから助かる! ほうりちゃんサンキュー!!』

 

 ナートと風音布里ほうり。これがまさかの初がらみとなった。

 

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