転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#110 無名火かかお

 

 今日の犬守村は風が冷たいが太陽のおかげで暖かく感じる秋晴れ。冬支度を急ぐ動物たちも春のような陽気に活発な様子を見せている。

 

 そんな犬守村で現在最も熱量を持っているのは間違いなく札置神社の、札置の迷い路だろう。

 

 迷い路から見える風景はいつもと変わらない。はらはらと舞い落ちる真っ赤な椛の葉は音も無く札置神社の石畳に積み重なり、時折吹く風によって巻き上げられていく。

 

 だが……。

 

「うおおお!!? ちょ、見た!? 視聴者たちー今の見た!?」

 

「ここが犬守村……す、すごい……触れるし、匂いもある! こんなの初めて……!」

 

「わわわっ! 視聴者さんっ! あれ! あれ見ましたか!? すっごいもこもこした動物が横切って――え? 配信画面映ってない!?」

 

「ついについにやってきましたよ! わんこーろ先輩の犬守村にーー!!」

 

 

 

 いつもは閑散としている札置の迷い路は現在、大いに賑わっている。数えきれないほどの人々が迷い路内を散策し、誰もかれもが半透明なウィンドウを展開してその画面へ向かって、初体験となるNDSと犬守村について興奮気味に実況していた。

 行き交う人影はどれも個性的なもので、さまざまな動物の耳や角が頭の上に乗っかっていたり、翼がついていたり、そもそも人の形をしていないような者も含まれていた。

 

「これだけの配信者が同じ空間に居るのを見るとさすがに壮観だね、わちるちゃん」

 

「うう、私はちょっと緊張してしまいますけど……」

 

 そう、現在犬守村の札置神社を訪れている人々は全員、ヴァーチャル配信者だ。

 現在時刻はお昼を過ぎたあたり。V/L=F一日目午後のメインイベントが行われようとしていた。イベントは"犬守村、秋の写真展"と名付けられ、わんこーろ主導のNDSを利用したイベントとなっている。

 

 わんこーろが制作したゲームアプリである犬守写真機にてプレイヤーによって撮影された数百万枚以上の写真の中からわんこーろと狐稲利のお気に入り写真を迷い路の瑞垣に飾り、それを迷い路を歩きながらゆるゆる観賞するのがこのイベントの内容になっている。

 

 

 このイベントはNDS体験ブースを利用して一般参加者も体験することができる。まずはこのV/L=Fに招待された配信者が先に犬守村へ訪れ、その後抽選で選ばれた一般参加者が入れ替わりで犬守村へとやってくる、という流れになっている。

 

 FSの役割は、その入れ替わりの混乱を避けるための誘導員の仕事と、抽選に漏れた一般参加者やネット配信を見ている視聴者へ、この"犬守村、秋の写真展"を紹介する配信を行うことだ。

 

 

 

「いやーしっかし、すごい人数だな。招待された配信者限定って話なのにこれ百人以上は居るんじゃね?」

 

「ほぼ全員来てると思いますよ。NDSを体験できるというだけでもかなり話題になりましたし、それに加えて此処に来れるとなれば……」

 

「参加しないほうがおかしいってことだよね。配信者同士の交流の場にもなるし」

 

 ただ写真を見て歩き回るだけのイベントではあるが、参加配信者たちにとってはすべてが新鮮で、それだけで参加必須のイベントと言ってもいい。NDSというネット内に入り込める機器はもちろん、その機能をフルに活用できる犬守村というロケーションが抜群の相乗効果をもたらし、ネットの中に居るにも関わらずまるで過去の日本にやってきたかのような感覚を味わうことができる。

 その上いくらかの配信者はすでに犬守写真機をプレイしたことがあり、自身の投稿した写真が展示されていると驚き狂喜している姿も見える。

 

「わちるちゃんの写真はないの? 犬守写真機の写魅ポイント累計ランキング一位だったよね?」

 

「二位とポイント差がありすぎてわちるおねえちゃんが犬守写真機を放置しても半年は追いつけないと言われていますよね」

 

「あはは……あれはちょっとやりすぎちゃいました……。私は今回辞退することにしたんです。他の皆さんに喜んでもらいたいですしね……!」

 

 いつもならばわんこーろの絡む物事には容赦のないわちるの珍しい殊勝な態度に首をかしげるなこそ。だが、疑問の声を上げる前に話は先程合流したナートへと移る。実はわちるの撮影した写真は彼女が直々にわんこーろに額縁付きのものをプレゼントして犬守神社の配信部屋に飾られたりしているのだが、さすがにそれは恥ずかしくて言い出せないわちる。

 

「てかどこ行ってたんだよナート。お前メシ食ったのか?」

 

「うんうん! 大丈夫だよーぅ! 今の私は絶好調だよ!」

 

「? まあ、それならいいんだけどよ」

 

 いつの間にやら合流していたナートは予想していたよりもテンションが高く、引き気味になる○一だがそれも仕方がない。現在のナートは何やら覚悟を決めたようなぎらぎらと光る眼をしているのだから。

 

 そんな中、おもむろに寝子が不安そうに小さく呟いた。

 

「……あの、お姉ちゃんがた。私たちなんだか避けられてませんか……?」

 

「ん~。オフコラボとはまた違ったコラボの形だからねー」

 

 寝子の疑問の声になこそは周囲を見渡しながら答える。確かに寝子の言う通りFSとそれ以外の配信者の集まりとの間には不思議と距離がある。時折FSをちらちらと見て何か言いたそうにしている配信者もいるが、誰も声をかけてこない。

 

 他の配信者からすればそれは仕方のない事だ。なんせ目の前にいるのは正真正銘、かつてPCの画面で視聴していた憧れの存在そのものなのだから。

 

 オフコラボを通じてFSと交流のある配信者であってもそれは変わらない。やはりオフで出会うとどうしてもヴァーチャル配信者を演じている存在(なかのひと)という感覚が強く、仕事仲間という意識が働いてしまう。だが、こうしてヴァーチャル配信者の姿で会話し、触れ合うことのできる状況となると、誰もがかつてFSに憧れた視聴者であった頃に戻ってしまう。

 

「はぁ、はぁ……なこちゃんかうゎいい……こっち見てるぅう」

 

「ま、まさかこの目で寝子○のからみを見れるとわぁ~~~~しぬ」

 

「ね、ねね寝子ちゃん……柔らかそう……白くてふわふわしてるぅうう……」

 

 つまりは、まあ……皆限界化して推しが尊い……としか言えない壁になっていたわけだ。

 そこかしこからFSに憧れをもつ配信者のヤバめな息遣いが聞こえ、ぎらぎらした瞳がFSを射抜いている。

 

 だが、そんな他配信者のキモイ声はFSには届いていないようだ。

 

「うう……ぼっちつらい」

 

「おい、ワタシたちまで巻き込むな。ぼっちはナートだけだ」

 

「おおん!? やるかぁ!?」

 

「事実だろーが」

 

「もう、○一おねえちゃんもナートお姉ちゃんも恥ずかしいからやめてください。……ですけど、さすがにどうにかしないといけないのでは……?」

 

 いつものように言い争いを始める○一とナートをおいて寝子はさすがに少し焦る。今までのオフコラボでは配信者の先輩として恐縮されることはあってもここまで遠巻きにされることはなかった。

 

 いや、というよりもコラボ配信という性質上遠巻きにしてなどいられなかったというのが正しいだろう。配信者同士の交流こそがコラボの意義であり、場合によっては互いに台本のようなものを用意する場合もある。一切話をしないなどということはあり得ない。

 

 対して今回のイベントは配信者が自由に散策する以外に何かを強制したり要望を送ってもいない。高嶺の花ゆえに近寄りがたく、誰もFSに話しかけないことで話しかけたくとも話しかけられないもどかしい状況が形成されているのだ。

 

 このイベントはNDSと犬守村を体験することがメインであるが、なこそが発言したように配信者同士の交流も目的の一つとなっている。

 ヴァーチャルな姿で交流することでその様子を視聴者へも届けられるのがオフコラボと大きく異なる部分だ。寝子はそれが上手くいっていないことに不安がっているらしい。

 

「あら、注目の的ねぇ。みんなこんにちは。ついさっきぶりね」

 

 そんな時、遠巻きにする配信者をかき分け声をかけてきたのは真夜だった。真夜はいつもと変わらぬ様子でまるで仲のいい友達に話しかけるような気軽さであいさつをすると、ごく自然な動作で寝子の頭に手を置き撫で始めた。

 

「真夜おねえちゃん!!」

 

「げっ」

 

「あわわわ……」

 

 そんな真夜の様子に寝子は嬉しそうに声を上げる。もし寝子に尻尾が付いていたなら全力でぶんぶん振っていただろう。対して○一はあからさまにイヤな顔をし、ナートはわちるの背中に隠れてしまう。ナートも過去に真夜の毒牙を体験済みだ。

 

「ふふ、どうかしら? 今日のV/L=Fのために新衣装を仕立ててもらったの」

 

 そんな二人を気にすることなく真夜はFS一同の前でくるりと一回転して真新しい新衣装を披露する。

 

「わあ! すっごく綺麗で似合って――わぶっ、ちょ、なこそおねえちゃん!?」

 

「だめです。寝子ちゃんには教育に良くありません」

 

 だが、そんな真夜をジト目で見ていたなこそは嬉しそうにくるくる回る真夜の様子に目を丸くし、思わず寝子の目を両手で覆った。

 

「うひゃあ……すっごい格好……さむそー!」

 

「うわ、わわわわ……」

 

 ナートは若干テンションの上がった声で真夜を見つめ、わちるは自身の手で目を覆うが、指の隙間から真夜の新衣装姿をガン見している。

 

「なによー。かわいくない?」

 

「いえ、あの、その……なんというか……」

 

「う~んセンシティブ」

 

「チッ……露出たけーんだよ……」

 

 呆れた様子の○一が言うように、真夜の新衣装の姿は何とも扇情的であった。

 真夜の配信者の姿は"人間界にやってきた鬼の姫"というもの。楽しいことや体を動かすこと、あと女の子が大好きでお祭り好き。だが、お酒はあまり呑めない。

 

 普段から体を動かしやすい服装が好みだと言っており、通常の衣装でも腕や脚の露出が多い状態なのだが、今回の新衣装はさらに胸元が大きく空き、背中もほぼ布が存在せず、脚も太ももあたりギリギリまで見えてしまっている状態で気を付けないといろいろ見えてしまうのでは、と思われるほどだった。

 

 FSのメンバーは寝子以外一様に顔を赤くし、目のやり場に困る始末。終始視線を合わせない○一でさえ少し頬が桜色になっている。

 

 だが真夜本人は気にしていない。むしろ挑発的に体をくねらし、その姿を周囲に晒している。

 

「そんなにかしら? かっこよくない?」

 

「真夜おねえちゃんかっこいいです!」

 

 なこその腕から脱した寝子が真夜に駆け寄り、両手をぐっと握り力強く応答する。周囲の配信者の中にも寝子の言葉にうなずく者はいくらか居た。

 というのも真夜の衣装は基本的に戦いに明け暮れた鬼姫をコンセプトとしており、衣装は所々刀傷や何かで燃やされたような跡などが見受けられ、彼女自身の肌の痕や片方が折れた鬼の角などから、エロの要素よりも"燃える"要素が強く感じられる。

 それが真夜のヴァーチャル配信者としての姿を下品ではなく、格好よく、よく見ればエロイ程度に収めていた。

 

「あらあら。ああそうそう、さっきお話してたんだけどね。無名火ちゃんが……あれ?無名火ちゃん? 無名火ちゃーん?」

 

 寝子の反応に満足そうな真夜は思い出したようにとある配信者の名前を出す。名前の主がすぐ隣に居ると思っていた真夜は振り向いた場所に誰もいないことに焦り何度も名前を呼ぶ。

 

「ひぅ……」

 

 そばにあった鳥居の陰で小さな悲鳴が聞こえる。恐る恐るこちらをうかがう小さな人影に、怪訝そうな顔を向けていたなこその表情が変わる。

 

「ああっー!! 無名火(むなび)ちゃん!」

 

「ひいいいい!?」

 

 無名火と呼ばれた少女は寝子よりも少し背が高く、藍色のくせっ毛に一束だけ赤色のメッシュが入っている髪を大きく揺らす。動揺しているらしい。

 ほかの配信者より平均して背が低いながらも釣り目で勝気な印象を抱かせるはずのその少女は、現在近寄ってくるなこそを見て涙目になっている。

 

「さあ! さあさあ!! あの時の屈辱を晴らす時!! 勝負だよ無名火ちゃん!!」

 

「いやああああ!? ごめんなさいごめんなさい!! ゆるしてくださいぃぃぃ!」

 

 逃げ回る無名火を追いかけるなこそ。その光景を周りの配信者が驚いたように目を向ける。

 

「……あーあ、またはじまったよぅ。なこちゃんとかかおちゃんの追いかけっこ」

 

「もう! 恥ずかしいからやめてください!」

 

「これはどーしようもないよぅ」

 

「わわわ、これがお二人の……初めて見ました……」

 

 FS所属の虹乃なこそと個人勢の無名火という少女の関係はすでにFSの全員が知るところであり、他の配信者もおおよそが苦笑しながら二人のやり取りを見守っていた。

 

 ボードゲームとは自身の代名詞であると豪語する程度にはボドゲを愛する虹乃なこそにとって目の前の幼きバーチャル配信者、"無名火(むなび)かかお"は永遠のライバルである……と、なこそは思っている。

 

 ……というか、そのように仕立て上げようとしている節がある。

 

 始まりは無名火かかおが配信者として活動して数か月になろうかという頃までさかのぼる。無名火かかおが配信を始めるきっかけとなったのが、なこそのボードゲーム配信であり、それゆえに彼女の配信は最初、主にボードゲームを視聴者とプレイしながらの雑談がメインであった。

 

 そうしている内にどっぷりとボドゲ沼にはまり込んでしまった無名火はわざわざ塔の街にしかないボドゲ専門店へと行くことを目標に配信活動を続け、塔の街への通行許可証の発行資金を貯め始めた。

 

 無名火はバイトに明け暮れ、時には投げ銭による支援をもらい、そしてヴァーチャル配信者となってから数か月後、ようやく塔の街へとやってくることができた。

 

 そして塔の街の入り口である駅前でボドゲ専門店が何処かを調べようと携帯端末を操作していた無名火の腕を、がっしりと掴んだ人物がいた。

 

 それが、なこそだった。

 

 満面の笑みを浮かべるなこそに困惑する無名火はそのまま連れ去られ、最短ルートでボドゲ専門店に突入、あれよあれよという間に店の奥に案内され、なこそによって貸切状態になっていた一室に連れ込まれた。その結果無名火はなこその突発ボドゲコラボ配信に引きずり込まれてしまったのだ。

 

 いきなりのことに混乱する無名火。突如腕を引っ張られて連れてこられたときはそれはもう驚き、声も出せない状態であったがその人物があのFSのリーダー的存在である虹乃なこそであると知ったときは思わず周囲のことを気にする余裕もなく叫んでしまったほどだ。

 

 それでもこの状況は無名火にとってとんでもなくありがたいものであったことに違いはない。まだまだ弱小ヴァーチャル配信者の一人であった自身が、憧れだった虹乃なこそと大好きなボドゲでコラボ配信を行えるなんてまるで夢のようだと無名火は思った。

 

 まさに憧れだったアイドルが目の前にいて、自身と対等に接してくれている状態。そのせいで配信中も終始限界化、それすらも突破した状態でうまく話をすることすらままならない状態であったが、それでもゲームを操作する手だけは動いていた。

 

 そして、無名火は勝利した。

 

 そもそもなこそのボドゲ配信は文化復興の手助けとして自身の好きなボドゲを利用した雑談配信が始まりであり、それゆえに視聴者が理解しやすく、かつての世界でポピュラーなボードゲームを用いた配信が主だった。もちろんそれ以外のマイナーなボドゲも嗜んでいるが、ルールを知っている対戦相手を探すのが困難な為、それほど得意というわけではなかった。

 

 対して無名火は自身の好きな事を好きなだけやりたい放題配信しまくる性質(たち)だったようで、視聴者を置いてけぼりにして難解なルールの多人数用ボドゲを一人でプレイしまくったりしていた。

 

 徐々にそんな無名火のもとにはどマイナーなボドゲ愛好家が集まり、彼女はメキメキとマイナーゲームの腕を上げていった。

 

 その結果、メジャーなゲームではほとんど勝つことができなかった無名火は、あまり名前を聞かないようなゲーム対戦においてなこそを圧倒した。

 

 何十回と対戦し、そのうち八割が無名火の勝利という何とも驚くべき勝率だった。

 

 ボドゲの中にはほとんど運次第なゲームもあり、それについてはなこその勝率もそこそこだったが、いくつものオプションやステータス、特殊ルール盛りだくさんのゲームとなると、それらを熟知しているマイナーゲームプレイヤー無名火が確実に勝利を手にした。

 

 そして、その結果に絶望したなこそは、年下の無名火の目の前で、咽び泣いた。

 ○一やナートならその姿に煽り散らして馬鹿笑いしていただろうが、残念なことに無名火は数か月前に配信者となった新人だ。

 マジ泣きしているなこそをどうにかしようとおろおろしている無名火は、配信主を泣かせたとして炎上してしまう! と焦る中、視聴者に助けを求めるが、その視聴者の反応はマジ泣きなこそに呆れるか、草、としかコメントされず、もはやどうすることもできなかった。

 

 最後にはなこそに涙目でライバル認定されて、今日にまで至る。

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!! もうゆるしてぇえええ!! ひゃん!」

 

「よし捕まえた! 大丈夫大丈夫、今回はお祭り中だから予定にない突発配信なんてしないよ~」

 

「ひうう……は、放して、ごめんなさいいぃぃぃ」

 

「ふふふふ、V/L=F後に丸二日ボドゲコラボ配信をするって言ってくれたらすぐに放してあげる~~」

 

「ひゃああああああ!?」

 

 なこその両腕に拘束された無名火は何とか逃げ出そうとするが、がっちりと固定されているためじたばとたもがいて悲鳴を上げるだけ。無名火がこれほどまでに恐怖しているのは、ライバル認定された後日から配信外を含めた超長時間のボドゲコラボを延々とさせられているからだ。ボドゲコラボ配信自体はせいぜい二時間程度で終わるのだが、その後配信外で丸一日ボドゲで対戦し続ける、ということが何度もあった。

 

 先輩であるし、憧れの存在でもあるなこその誘いを無下に出来ない無名火はその長時間のボドゲ対戦をこれまで何度も繰り返しているのだ。

 

 体力と精神の限界。大好きなボドゲでそれを感じてしまうことに無名火は絶望(笑)した。

 

「あ、あの……本当に大丈夫なんでしょうか……? 無名火さん目が血走ってますけど……」

 

「あー、ありゃ大丈夫。二人ともちゃんと分かってっから」

 

「無名火さんはなこそお姉ちゃんを泣かせたことで申し訳ない、っていつも仰っています。……なこそお姉ちゃんはその反応が面白くてああやってちょっかいをかけてるんですよ……」

 

「……それ、無名火さんの方は全然大丈夫ではないのでは!?」

 

「あれからもう一年も経ってんだ。二人の配信の視聴者もいつもの事か、としか思ってねーよ」

 

「すっかりいじられキャラが定着したよね~無名火ちゃん。まあなこちゃん限定だけど~」

 

「うえええええん!! せっかく視聴者と一緒に考えたなこそさんと普通に仲良くなろう作戦がぁぁ! もうめちゃくちゃだよおおおおお!」

 

 そんな無名火の叫びなど聞こえていないとばかりになこそは微笑みながら無名火を抱きしめ続けた。それが照れ隠しな行為だと理解していないのは、無名火だけ。

 

 

 

「あらあら、よかったわね無名火ちゃん。それじゃあみんな、私の他のお友達も紹介するわね」

 

「はーい」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「え、ええと……はい」

 

 まるで何も無かったかのように後ろの二人を置いて真夜はFSのメンバーを連れて他の配信者を紹介していく。

 多くの配信者に慕われている真夜はFSのように高嶺の花扱いまではされておらず、自身と親交の深い配信者から徐々にFSとの挨拶をさせ、交流のない配信者でも気軽に近づける空気を作り出していた。

 

「ひいいいいいいい!?!?」

 

「ふふふふふふ無名火ちゃん、またコラボしよーねー?」

 

 ……おそらくFSは意外とフレンドリーなのだというイメージをもたらしたのは、それ以外にもあっただろう。何とは言わないが。

 

 

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