転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
『みなさんこんこん~ ナガモの配信はじまるよ!』
『みんなこんにちは! ゆがなチャンネルへようこそ! 今日も来てくれてありがとー』
『やあ、今日も私の配信に来たんだね。待っていたよ』
『こんですっ! まなっちのまな配信今日も楽しんでいってね!』
札置の迷い路に散った一般参加配信者が続々と自身の枠で配信を始める。それぞれ特徴的な挨拶を行った後に視聴者の応答のコメントが流れていく。配信者たちはそのコメントに返答し、楽し気に配信が進行していく。
現実世界の放送室、管制室、仮想世界の配信者との情報共有が復活したことによって管制室で把握していた視聴者からの
それを理解した配信者たちはわんこーろの言葉通り、自身と視聴者が"楽しむために"配信を始めた。わんこーろの言葉はもう聞こえないが、放送室とのリンクによってわんこーろが九尾と戦っている様子を確認することは出来る。
わんこーろが頑張っている。ならば自分たちが頑張らないわけにはいかない。そんな思いと共に配信者達はあくまでこれがイベント内の、所謂"茶番"のつもりで視聴者に接する。
決して本当の現状を悟られないように。わんこーろが守ってくれたこのチャンスを無駄にしないために。
その思いは迷い路に居る配信者だけでなく、現実世界でこのイベントの全体実況を行っているなこそと寝子も感じていた。
「さあさあ盛り上がってまいりました! なんと札置神社の境内に巨大な石の柱が出現! さらにイベント終了までの制限時間が設定された様子! もたもたはしていられなくなりました! さらにここで特殊ルールが追加となります! 発見したモニュメントは発見しただけでポイントになりますが、さらに破壊するとポイントが2倍になりますよ!」
「配信者の皆さまは他の配信者の方との情報共有が許可されています。迷い路の全体把握の為に積極的なコミュニケーションを取っていきましょう。あと、モニュメントの破壊は絶対ではありません。特殊な方法でないと破壊出来ないものなので、条件がそろって、余裕のある方なら挑戦しても良いかもしれません」
『なこちゃん実況に熱が入ってて草』『ちょっとマイク近くなぁい?』『対して冷静な寝子ちゃんとの差よ』『制限時間一時間はきつそうだな』『その代わりのポイント二倍ルール追加かね?』『特殊な方法でしか破壊出来ないってのが気になるな』『しかし何処の配信も見どころ一杯だな。何枠同時視聴すりゃいいんだw』『こっちの公式配信は夏のコラボん時みたいに配信画面切り替えられるからべんりよなー』『やっぱ一番はわんころちゃんを映した画面かな』『神様同士の戦いは見てて熱くなるな!』
突然現れた石柱と時間制限も、歴戦の配信者であるなこその手にかかれば想定通りだと言わんばかりにわざとらしく驚き最初から知っていましたよ? という態度でそれらしい設定を口にすることが出来る。
さすがに寝子の方はなこその言葉に合わせるくらいしか出来ないが、問題はない。寝子の仕事は別にある。
【どう? 寝子ちゃん。"覚えられる"?】
【……はい。皆さんの配信の映像があれば……】
実況をしながら裏のチャットで話をするなこそと寝子。二人はこのイベントの実況役として公式配信に参加しているが、実際はなこそが大半の実況を担当し、寝子は補足を行う程度となっている。それは寝子がこの放送室で閲覧できる、迷い路の各地に設置されたカメラの映像と、配信者たちの配信映像を同時並行して視聴し記憶することで頭の中に詳細な迷い路のマップを作り出そうとしていたからだ。
すでに前日の写真展で見た迷い路マップが寝子の頭の中にあり、配信者が迷い路をどのようなルートで通ると何処にたどり着くのかを見ることでそのマップをより詳細なものとしていく。
これは寝子が生まれながらに持つ希白病の症状である完全記憶能力を利用した方法であり、寝子でしか出来ない役目だった。
【ですが……やはり時間が足りません。これでは制限時間までに迷い路の全体マップを作るのは難しいかと】
【そう……バックアップリンクの在処だけでもわかればいいんだけど……ん?】
なこそは寝子に対して勢いで配信を始めたとは言っていたが、考えなしの行動というわけではなかった。本来一般配信者を攻撃するためのAIであっただろう九尾はわんこーろによる足止めによって出現地点から動けない状況となっており、そのおかげで迷い路の配信者たちは自由に動ける。
その自由に動けるという状況を利用して、配信者達には大いに迷い路を歩き回ってもらい、放送室で確認出来る映像と配信者たちの配信枠から得られた映像から寝子に迷い路全体の地図を作ってもらう、というのがなこその考えた計画だった。この案を聞いた寝子も配信者達も同意し、配信が行われる運びとなった。
この計画は管制室からの通信が最悪復旧しないと想定して練られたものであり、復旧した今では視聴者からのコメントや反応が見える分、実況と全体の進行はコントロールしやすくなっていた。
だが、迷い路のルートデータの収集は芳しくなく、それは制限時間いっぱいまで使っても完成するかどうかわからないという寝子の言葉にわちるは眉を顰め、流れていくコメントを見つめていた。
そんな時、流れていく視聴者の反応の中に何やら違和感を感じるコメントが紛れ込んでいるのをなこそは見つけた。
『移住者です 見どころを教えてください』
「……ほう」
「なこそお姉ちゃん? どうしました?」
「ん? ……んーん、ちょっと気になるコメントがねー。ええと……やっぱり見どころは迷い路に迷いまくってる配信者達かな! あの寝子ちゃんでもまだその全体像を把握していないほどの超が付くほどの大規模迷路だしね」
「えっ!?」
「でしょ?」
いきなり話を振られたことに寝子は驚いてしまう。というのもなこその発言は暗に寝子が迷い路のマップを把握しようとしているように聞こえてしまうからだ。このイベントの公式実況担当として、本来マップは把握済みのはずではないのか、という疑問を視聴者に与えてしまう。現にいくらかの視聴者はそのようなツッコミのコメントを書き込んでいる。
「は、はい。札置の迷い路はその複雑さは今更語ることではありませんが、それに加えて実際に迷い路内に入り込むと周りの景色が制限されて方向感覚が狂うのも問題ですね」
【なこそお姉ちゃん気になるコメントというのはどんな内容だったんですか?】
【移住者が見どころを教えてって言ってただけだよ】
【?】
【いやあわんこーろちゃんのところの視聴者さんは察しがいいねえ】
【???】
V/L=Fでは視聴者のコメントはすべて管制室で集められ、それが放送室や各配信者の配信枠のコメント欄へと反映される。不適切なコメントやスパムのようなコメントを管制室で監視するためだ。現在V/L=Fで利用されている管理空間は塔の管理者に掌握されており、直接コメントを制限することはできないが、放送室や配信者へ、コメントや視聴者の反応を共有する際にその内容を編集することは出来る。
だが、それはあまり推奨できない行為だ。コメントを制限すれば制限された視聴者はなぜ今のコメントが消されたのかと不審に思う。それがイベントの不備やトラブルの発生を杞憂する内容ならば、まさかと考える視聴者は必ず居る。
あえてそのようなコメントを制限せず、実況のなこそや各配信者がたしなめるよう言うだけに留めているため、今のところはそれほどこの状況に不信感を抱いている視聴者は少ないようだ。
だが、不信感や疑問というものを通り越し、確定事項として受け取っている存在が居ることに、なこそは先ほどのコメントで気が付いた。すぐさま裏で起動しているチャットを操作し、実況を行いながら管制室にいる室長へとチャットメッセージを送る。
【どうかしたか? 此方からは問題なさそうに見えるが…】
【室長さんFSがいつも視聴者参加型の配信で使ってるメッセージボックス、あれ開放しといてもらえるかな?】
【メッセを? 誰のメッセージが来るんだ?】
【んー分かんない。でも、くるよ。絶対に】