転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#134 ヴァーチャル配信者たちの喧騒(前編)

 

 

 

 迷い路が変化し、その対応策をわちるが思いつく少し前。

 

 現実世界の展示会場内にある放送室の中でイベントの全体実況を行っていたなこそは突如発生した迷い路の変化による混乱に何とか対応しようと頭をめぐらせていた。

「な、なんとー! 突如追加された二時間という制限時間でさえ厳しいというのに、ここでまさかの迷い路リセット!? こ、これは配信者達はどう対応するのかー!?」

 

『なこちゃんの実況が熱を帯びてて草』『いつもとキャラちがうじゃーん』『これはこれで可愛くてよい』『しかし制限時間でもきちーのにマップリセットとか鬼畜難易度よな』『ギリギリすぎてクリア出来るのか分からんなこれは……』『ん?そういや寝子ちゃん動いてなくね』『おーい寝子ちゃーん?』『寝てる?』『まさかの実況中に?w』

 

【寝子ちゃん?】

 

 なこそと寝子は放送室でこのイベントの公式実況配信を行っていた。なこそは隣に座っているはずの寝子へと視線を向けるが、寝子は配信画面から視線を外し、椅子の上で小さくなっている。頭を抱え、深くうつむいている様子だった。

 

 実況中であり、会話を途切れさせるわけにはいかない状況であるため、なこそは裏で寝子にチャットを送る。震える手で寝子は返信する。

 

 

【もう無理ですなこそお姉ちゃん】

 

【どうしたの?】

 

【どれだけ記憶してもリセットされるんですよ。そんなの私じゃどうしようもありません。私は】

 

 寝子の指先はためらいを含みながら、最後の言葉を打ち込む。

 

【私は役立たずです】

 

「!」

 

 チャット欄から寝子へと視線を移すと、彼女は酷く悲し気な顔をしていた。

 

 寝子の持つ完全記憶能力は常人では持ちえない、彼女だけの能力といえた。少なくとも現在寝子ほどに希白病に伴う記憶能力を十全に扱う者は居ない。それ故に寝子はこの能力が今回の事件の突破口となりえる事に、不謹慎ながらも嬉しさを覚えていた。

 

 寝子はその異常なほどの記憶能力を用いて配信者として活動している状況に、ズルをしているような後ろめたい気持ちを抱いていた。FSやわんこーろをはじめとした様々な配信者と接し、皆寝子を受け入れてくれたことでその暗い感情は徐々に薄くなっていったが、それでも寝子にとってこの記憶能力はあまり好きなものではなかった。

 他者からすれば羨ましがられるような能力だが、寝子にとってのコンプレックスのようなものなのだ。

 

 そんな煩わしい力をこの緊迫した状況下で有効活用できることが、寝子にとってはとてつもない僥倖だった。許されたような、認められたような気さえした。

 

 だが、そんな反則的な力も九尾によって一笑に付された。どれほど記憶しようともそんなものは意味がないという現実を突き付けられた。

 

 自分にしか出来ないこと、FSのお姉ちゃんたちを助けられる力。だがそれは全くの無力だった。

 

 寝子はその事実に耐えられず、現実から目を背けてしまった。何よりも、あれほど険悪していたはずの記憶能力を頼り、それが無駄だと突き付けられたことにより"険悪していたのに結局能力に頼っていた自分"という情けない姿を強く認識してしまう結果となり、そのショックはかなりのものだった。

 

【寝子ちゃん。わんこーろちゃんを見て】

 

「? ……あ」

 

 思わず小さな声が漏れてしまう。おもむろに配信画面を確認した寝子が見たのは九尾と対峙するわんこーろの姿だった。すでに体も服もボロボロになっていて視聴者の中にも演技だとしても痛々しいと悲し気なコメントを残している者すら居る。よくよく見ればその肌に赤い液体が流れているように見える。だが、わんこーろは流れ落ちて視聴者に指摘される前に手で拭い消してしまう。おそらくわんこーろは体中の痛みに耐えながら戦いを続けているのだろう。

 

 だがその顔は……。

 

【笑ってる?】

 

【わんこーろちゃんはヴァーチャル配信者だよ。当然視聴者が見てる】

 

 九尾の攻撃を何でもないように受け流し、攻撃を防げばどうだ! と言わんばかりのしたり顔をして見せる。視聴者は余裕そうなわんこーろの姿に突っ込みを入れたり、『草』などと反応を返す。

 

 その姿はまさしく、視聴者を喜ばせるための配信者としての姿だった。

 

【……寝子ちゃん、顔を上げて。私たちもやるよ】

 

【何を、ですか?】

 

【ついさっきわちるちゃんから全体チャットが全配信者宛に送られてきたの。寝子ちゃんの記憶能力が頼りだよ】

 

 うつむく寝子の頭をよしよしと撫でるなこそは少しだけ視線をこちらに向けた寝子に微笑む。その笑みは寝子を安心させるものであり、同時に寝子を信頼し、仕事を託すことに不安などない、と言っているようにも見えた。

 

【……ごめんなさいなこそお姉ちゃん。わちるお姉ちゃんのチャット履歴、見せてもらえますか?】

 

【そう来なくっちゃ! さっそく移住者からのメッセージも届いているみたい。寝子ちゃん、忙しくなるよ!】

 

【はい……!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・簡易レンタル掲示板100097 移住者避難所(仮)【鍵付】

 

418:

わちるさんが迷い路の攻略のヒントは絵馬にあると発言

どうやら状況が進展した模様

 

419:

やっぱ迷宮変化は仕込みじゃなくて九尾の仕業だったか

 

420:

演技と思っていたら気付かないが配信者全員困惑してたからな

 

421:

全員か……

合流してるぽい○一真夜、ナートほうりは配信してないよな?

自枠で配信してないから公式配信にも映らないし、この2チームはどういう状況なのかわからん

 

422:

配信しないってことはそれだけ寝子ちゃんとか実況チームと視聴者気にせず連絡し放題だからそこは心配ないと思う

 

423:

とにかく、絵馬だな

わちるんの配信みた感じどうやら絵馬は迷い路改変には影響ないか

しかし絵馬だけで地図作れるのか……?

 

424:

そこは問題ないでしょ。迷い路の壁はほぼ絵馬で埋め付くされてるんだぜ?

絵馬の位置情報がつかめれば本来の迷い路が浮かび上がってくる

 

425:

よし!それじゃあ絵馬の位置情報を調べるところからだな!

確かわんころちゃん投げ銭(絵馬)紹介配信してたよな?

 

426:

専用の絵馬紹介配信をしてたり、犬守村開拓配信の最後に迷い路で読み上げた絵馬を飾ってたりしてたし、そこから絵馬の位置を特定できそうだな

 

427:

でも……それってかなり時間かかるんじゃない?

どの配信アーカイブに絵馬の紹介がされているか分からないし、絵馬そのものだって数は膨大だよ?

 

428:

あー、それはたぶん問題ないと思う

 

429:

どして?

 

430:

だって、俺覚えてるもん

自分が投げた絵馬の種類と絵柄。いつの配信の、どこで紹介されて、迷い路のどのあたりに飾られたのか

 

431:

は?マ?全部覚えてんの!?

 

432:

マ、てかたぶん移住者は全員自分が奉納した絵馬の特徴と設置されてる場所覚えてると思うぞ?

 

433:

当然だろ。

考えてみろよ、あのわんこーろちゃんが絵馬に書かれた有象無象なおれたち移住者の言葉を読み上げて、反応を返してくれるんだぜ?

その絵馬に書いたわんこーろちゃんへのメッセージも絵馬の絵も迷い路の何処に括りつけられたかも鮮明に記憶してるに決まってんだろ!

当然それに対するわんこーろちゃんの反応もな!

 

434:

こいつらヤバ……

いつも無言赤絵馬を適当に放り投げてるから知らんかった……

 

435:

お前の方がヤバいんだよ!!!!

 

436:

とにかく、自分の絵馬の情報はメッセでなこちゃんに送れ

わからんヤツは自分のアカウントの投げ銭機能の履歴からたどれる

どんな些細なものでもいい、投げ銭の値段やらも関係ない!

お前が少額だからと申し訳なさそうにしていた絵馬がわんころちゃんを救うかもしれんぞ!

 

437:

しかし……さすがに絵馬の正確な位置はわかんねえな

絵馬紹介配信も基本迷い路から始まってるから、自分の絵馬の大まかな場所は分かっても、スタート位置からそこまでの道が分からん

 

438:

迷い路の壁は絵馬で埋め尽くされてんだ

全員が報告すればおのずと隣接する絵馬の情報も集まってくる

始めは位置が不特定でも情報が集まれば形が見えてくる

 

439:

ジグソーパズルみてーなもんか。もし覚えてるなら自分の絵馬の近くにあった絵馬の情報も提供した方がいいな

 

440:

さらに幸運なのはこの迷い路がアップデートを重ねているとはいえ基本的に拡張されている、ってところだ

つまり外側に迷路が増築されているから内側の最初期に造られた迷い路はほぼそのまんま、いろいろ付け加えられているが、絵馬の位置も同じはずだ

 

441:

問題はその最初期のエリアにもワープポイントが設置されていることだが……

 

442:

それに今更だが迷い路の地図書くのこれめっちゃめんどいぞ

普通の平面な迷路ならまだしも三次元迷路を図にするのヤバいほど時間かかる

 

443:

お前ら迷い路観測スレから朗報だ!ループの仕様が判明した!

詳しくは観測スレの画像参照だが、簡単に説明するとループ突入者依存でいくつかのループ先を選定するテーブルがあるっぽい

 

444:

おいおいマジか!?この短時間でテーブルの存在と内容解析したんか!?

 

445:

観測スレ見てきた。意外とループ仕様判明早かったな

もしかしてわんころちゃんこのイベント参加者に仕様を解かせるつもりだったな?

 

446:

たぶんね

もしループ仕様まで九尾に弄られてたらヤバかった

 

447:

まだ安心はできないぞ。まだそこまで九尾が干渉していないというだけかもしれん

迷い路改変だって配信者をバラバラにしてから速攻できたはず、今になってそれをしてきたのは

やらなかったんじゃなくて、できなかっただけなのかも

 

448:

わんころちゃん特製の犬守村の解析に時間がかかっている感じか?

じゃあなおさら急がねーと

 

449:

絵馬の情報は出来るだけ詳細にしろよ、V/L=F運営や実況組に解析を任せないようにな

 

450:

了解!

俺の300枚分の赤絵馬の情報をすぐ送るわ!

 

451:

おおう……マジか

 

452:

赤絵馬無言ニキとか三桁赤絵馬奉納ニキとかマジでヤバいやつばっかで草なのよ

いや草生やしてる場合じゃねーけども

 

453:

ここは信頼できる(愛が重い)移住者を招待した鍵付き掲示板だからな、当然ともいえる

 

454:

とにかく急ぐぞ!

絵馬奉納組は絵馬情報をメッセで送る

それ以外は引き続き迷い路を犬守写真機で記録してけ、今度は絵馬を確認してな

 

455:

おし!移住者全員わんころちゃんのために行動開始だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫定名称エリア区分E、縦1439横1772(e1439,1772)――いや、もはや迷い路改変によってエリアの名称など意味のなくなった現在、犬守村の午後の風は緩やかに冷たい空気を運び始めていた。

 

 静かな迷い路に風と落ち葉のかさかさという音だけが響き、そんな中顔を伏せたままの○一を見下ろす真夜。

 

「……あなた、今なんて言ったの?」

 

「やめる。もう、やめるっつったんだよ」

 

「本気で言ってるの? 貴方はFSの一員、ヴァーチャル配信者の○一なのよ? そんなの――」

 

「室長には前々から言ってたんだよ。……心配すんなって、いきなり辞めやしねーよ。ちゃんと視聴者にだって説明して卒業配信だってやるさ」

 

「どうしてやめようと思ったの?」

 

「……別に。もうめんどくせーなって思ったから。……いいだろ? そんくらいテキトーでもさ。ワタシらしいだろ」

 

 真夜と視線を合わせずに○一は口早にそう告げる。だが、そんな言葉だけで納得出来るはずもない。真夜はもちろん、FSのメンバーとてそう思うはずだ。

 

「嘘ね」

 

 真夜の言葉に○一は小さく肩を震わせる。それだけで真夜は確信した。

 それこそ○一と生まれたばかりのころから一緒だった真夜にとって、○一の今の無理をしているような様子と声音で嘘だということは何となくわかる。だが、なぜ辞めると言う結論に至ったかまでは分からない。幼少期を共に過ごし、○一をある程度知っているとはいえ配信者としては自身よりもFSの方が近しい存在だと真夜は思っていた。それこそ、まるで家族のような。

 

「何か問題でもあったの? 他の配信者との衝突とか……」

 

 いつもは○一の"望むように"きつく当たっている真夜であるが、今は○一と同期の配信者として言葉を紡いでいた。○一と会話をする時は多少の皮肉の掛け合いはあるものの、それほど険悪にはならない。いくつかの情報の共有やすり合わせなどの事務的なものや、時には配信に対する愚痴などを言い合ってストレスを発散することもある。やれ機材の調子が悪いだの、やれアンチが騒いでいるだの。そんな事を話すのが常だった。

 

 だが、それでも○一は配信を楽しんでいる様子だった。とてもではないが突然やめると言い出すとは思えない。

 

 そう、とても、楽しそうに。

 

「もしかして……視聴者が何か言ったの?」

 

「! ちげーよ! あいつらは、まあ、うぜー時もあるが、良い奴らだよ……だから、……」

 

「○一?」

 

「……ワタシの、勝手なんだよ……なあ真夜、お前"あいつ"が最期にワタシになんて言ったか知ってっか?」

 

「……」

 

 ○一の言う"あいつ"が誰の事を指しているのかは真夜にはすぐにわかった。かつて幼少の頃、真夜と○一、そして"彼"はいつも共に行動していた。それは彼の命が燃え尽きようとしていたその瞬間であっても例外ではなかった。

 

 ベッドに横たわる彼は話すことすら苦しそうな状況で真夜と○一へと一人ずつ言葉を残した。それはとてもか細い声で、聞き取ることも難しい程だった。それでも二人は親友の最後の言葉を一文字も聞き逃さすことはなかった。

 

「あいつ、ワタシに言ったんだぜ、"ボクみたいにいっぱいの人を笑顔にしてあげてね"って。」

 

「……それだけ、あなたとの冒険が楽しかったのよ」

 

「……けど、ワタシはあいつに約束した青空を見せてやれなかった」

 

「彼は知っていたわ」

 

「だろうな。最後まで、あいつに気を使わせちまってた……だから、せめてあいつの最後の願いだけはかなえてやりたいと思ったんだよ。シケたツラした奴らを全員、笑顔にしてやろうって、そんなやけくそみたいな理由でなったんだよ……配信者に」

 

「そうだったの……彼が理由で……」

 

「でも……でもよ……もう無理なんだよ。あいつの為に、あいつが望むから配信者になったのに、ワタシは、わかんなくなっちまった」

 

「……何が、分からなくなったの? 貴方はヴァーチャル配信者としてたくさんの人を楽しませてる。それは感情的なものではなく、チャンネル登録者という数字からも確かなことよ」

 

「ちがうっ! そうじゃねえんだよ! ワタシはっ! ワタシはあいつの為にヴァーチャル配信者になったんだ! あいつの為に配信しなきゃなんねーんだ! それなのに、今は……ワタシが、そう望んでる……ワタシ自身が、楽しいって、そう思っちまった! 視聴者と話すのが楽しい、他の配信者と一緒に居るのが楽しい。そう思っちまうようになっちまったんだよ!」

 

「あなた……」

 

「ワタシは、視聴者に肯定されちゃいけねえんだよ! ワタシは、楽しんじゃいけねえんだよ! そんなの、あいつは望んで無いんだ――」

 

 ○一が話し終わる前に、その頬を真夜がぶった。めいいっぱい力強くビンタされた○一はあまりのことに叩かれたままの状態から動くことができなかった。

 

「ふざけたこと言わないでっ! 彼が、そんなこと言うと、本当に思ってるの!? 彼が○一の幸せを願っていないって、本気で思ってるの!?」

 

 真夜はうつむく○一の顔を無理やり上げさせ、鬼気迫る表情で詰め寄る。

 

 真夜ほど○一の心に寄り添っている人物はいないだろう。自身を押し殺し、○一に寄り添うことを決めたほどなのだから。

 故に○一が望むままに非難の言葉を紡ぐ真夜だが、決して直接的な肉体的苦痛を与えることはしなかった。○一が望んだとしても、そればかりは真夜には出来ない。だが、それでも真夜は○一を叩いた。きっと、彼が生きていたら同じようにしただろうから。

 

「私が彼に最期、なんて言われたか教えてあげるわ! 彼はね、こう言ったの! "○一をおねがい"って!」

 

「!」

 

「○一が気に病むだろうって彼は分かってたのよ! ……ねえ○一、あなたは本当に最初から彼のためだけに配信者になったの? 今まで続けてきたのも、全て彼のためだけだったの? ――そうじゃないでしょう?」

 

 真夜は思い出す。涙を流しながら○一を家族だと、大切だと言ったわちるの姿を。○一と一緒にバカな事をして、いつも突っ込み役を任せるナートやなこそ。お姉ちゃんと慕っている寝子。

 

「今のあなたには私や彼だけじゃない。……あなたには、"家族"が居るじゃない」

 

「……う」

 

「お願いよ○一、もう一度思い出して。本当に、あなたの中には彼との思い出しかないの……? あなたを大切に思っている人は、他に居ないの……?」

 

「……うぅ」

 

「もう、自分を許してあげて。……彼が最期になんて言ったか、彼とちゃんと向き合って」

 

 彼の、"ボクみたいにいっぱいの人を笑顔にしてあげてね"という遺言に、○一自身が含まれていないはずがない。

 不意に○一を両腕で包み込んだ真夜は、その震える体を優しく抱きしめてやる。その震えで心が砕けてしまわないように。冷たい体が凍えてしまわないように。

 

「ワタシは、……いいのかよ……」

 

 その暖かさを、○一は受け止める。あの日、真夜を突き飛ばした時から拒み続けていた暖かさを。

 

「ワタシは、幸せになっていいのかよ……?」

 

 ○一たちが地上へ出たあの場所にあった貯水施設。近くにあった深い水槽は腐食し、幼い真夜が立っていた水槽のフチは崩れる寸前だった。それに気付いた○一は真夜を突き飛ばし、救った。だが、最悪なことに突き飛ばした先には別の浅い水槽があった。

 

 ○一はあの日から自身の行動に自信が持てなかった。配信者としての過激でやりすぎな対応も、荒っぽい口調も、そんな自分を覆い隠すための自己防衛の表れだった。

 

 けれど、真夜はそんな○一を唯一肯定した。背中の痣は、○一が真夜を救った証だった。

 

「もちろんよ……彼も、FSのみんなも、視聴者だって、それを望んでいるわ。もちろん私もね」

 

「真夜……」

 

「ふふ、昔みたいに真夜ねえ、って呼んでくれないの?」

 

「うるせえ……。ちょっとだけ、胸かせよ」

 

「はいはい、○一の泣き虫なところは昔と変わってないわねぇ」

 

 日が沈み始めた犬守村。ひゅうひゅうと風が吹き、紅葉が揺れる。そこに響く小さな泣き声は、真夜以外に聞かれることはなかった。

 


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