転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#142 こたつを渇望する現代人

 

 ヴァーチャル配信者界隈において名実ともにトップに君臨するグループフロント・サルベージ(FS)、元は復興省のデータサルベージ業務における、サルベージしたデータの周知の為に造られたグループであり、FSという名前にもそのような意味が込められている。

 

 だが、秋の大規模イベント、V/L=Fの終了と共にFSは公式に復興省からの離脱を発表した。その発表当初はかなりの混乱が予想され、事実様々な噂が囁かれた。

 FS内での各配信者の不仲説、元運営である復興省のおざなりな運営、謎の凄腕ハッカーの存在などなど。

 

 ほとんどは根も葉もないうわさであったが、上記の噂はバカバカしいと笑われながらも根強く支持されていた。

 というのも、不仲説というのはおそらく○一と真夜から派生したものだろうし、復興省が金銭面以外で役に立ったことは無いし、犬耳尻尾付きの凄腕ハッカーがいるのも事実を元にした噂なのだから。

 

 とにかくそれらの噂は○一と真夜のいつもより距離の近いコラボ配信によって払拭され、復興省からの離脱により納得され、わんこーろの存在により『あっ(察し』という感じに収束した。

 

 だが、一連の離脱騒動によって発生した混乱が収まった後もFSのリーダー虹乃なこそは忙しそうだ。関係各所、配信者や案件を貰っている企業などとの話し合いは継続して続けられ、ほぼ独立した状態にあるFSの今後を憂慮する声にFSのリーダーとして室長たちと共に対応していた。

 

 しかし、現在なこそが机の上で頭を抱えながらPC端末を見つめているのは、決してそれらの煩わしい諸々のせいではない。

 

 

「ねぇねぇなこちゃん。もうそれに決めちゃったらいいんじゃないの?」

 

「なこそお姉ちゃん、値段の事もしっかり考えてくださいね。配信で頂いたお金を無駄にしては視聴者さんに申し訳が立ちませんよ」

 

「あ、あの……そのピンク色の、可愛いとおもいますよ……?」

 

「もう一番安いヤツでい―じゃねーか」

 

「ダメですよ○一お姉ちゃん。それだと小さいのしか買えません。真夜お姉ちゃんと入りたくないんですか?」

 

「んぐ……寝子もお前らも、V/L=F終わってから事あるごとに真夜ね……真夜の名前出しやがって……」

 

「んくく~まーるちゃん今、真夜ねえって言いかけた? 恥ずかしがらなくていいのに~」

 

「だまれナート」

 

「あっ、あの子犬柄のも良いですね……まるでわんこーろさんみたい」

 

 なこそがじっと見つめる端末、それを覗き込むようにしてナートと寝子と○一とわちるが顔を出す。四人は頭を抱えるなこその後ろからもたれかかるようにして端末を覗き込んでいた。

 その端末には通信販売のサイトが表示されており、何やら机に布団がくっついたような家具の画像が並んでいる。なこそはその画像の横に表示されたその家具の大きさや利用環境、あと値段などを何度も何度も比較し、その度に眉間に皺を寄せていた。

 

 ……いや、恐らく眉間に皺が寄っている理由は他にもあるのだろう。例えば背中にもたれかかっているやんちゃな妹たちの存在など。

 

「……あの、ちょっと静かにしてもらえませんかね? ここ私の部屋なんだけど」

 

「だーいじょうぶ大丈夫、わたし達FSの部屋は完璧な防音処理が施されているんだよ」

 

「そういう意味で言ったんじゃないよナートちゃん」

 

「こうやってなこそお姉ちゃんのお部屋に集まるのはV/L=F以来ですね。なんだかわくわくします」

 

「うん、そうだね寝子ちゃん。でも私の話を聞いて?」

 

「あ、菓子なくなったから補充にいってくるわ」

 

「ありがとう○一ちゃん、話を聞いて?」

 

「あはは……なんだかすみませんなこそさん」

 

 FSはいつものようにメンバー誰か一人の部屋に集まり、雑談をしながら各々が好きにくつろいでいた。今日の集まりはなこその部屋で盛大に行われている。なこそもそれについては特に言うことはないのだが、せめて背中にもたれかかってくるのはやめてほしい。

 季節的にくっつかれるのは暖かくて良いのだが、四人分……○一が離れたから三人分になったが、それでももたれかかってこられると……なかなか重い。

 

「乙女の体重を重いとか言っちゃだめだよぅ?」

 

「言ってないが」

 

 ぶっきらぼうに反論するなこそは大きく息を吐く。今日は朝から何ともついていない。

 朝は記憶が無いがどうやら寝落ちによる配信切り忘れをしでかしたらしく、そのうえ朝ごはんも食べそびれ、わちるの報告によって室長と灯に切り忘れの件がバレ、怒られたというほどではなかったが、ほどほどにたしなめられた。

 

 その後の配信も切り忘れの事を視聴者に擦られまくり、配信終了後はこうやって妹のような子達にのしかかられている。

 

「厄日だよ……」

 

「それよりなこそお姉ちゃん、早く決めた方が良いのではないですか? 組み立てから発送までなかなか時間がかかるみたいですよ。"こたつ"って」

 

 寝子は端末を見ながらいまだどんよりとした雰囲気を漂わせるなこそへと話しかける。端末に表示された家具、こたつの画像を見ながら寝子はどこか楽しそうな様子だった。

 なこそが炬燵の存在を知ったのはあのV/L=Fが終わった後のわんこーろとの何気ない会話からだった。肌寒くなってきた犬守村はまだ暖房器具の一切が無く、そろそろ炬燵とか必要だね、という話をわんこーろと狐稲利がしていたのを聞いたなこそが炬燵とは何か、と質問したのが始まりだった。

 

 曰く、人を堕落に誘うもの。

 

 曰く、悪魔の暖房器具。

 

 曰く、猫の住処。

 

 そんな説明をされたなこそは嬉々としてその炬燵なるものを自室に取り入れることに決めた。

 だが、この時代においてこたつはそう簡単に手に入れられるようなものではなかった。こたつも効率化社会により消え去った家具の一つであり、効率化社会崩壊後に復活したが、製造している企業は限られている。

 

 基本的に受注生産であり、注文すればすぐに届くというものではない、こたつに使用するこたつ机もこたつ布団も専用に作られているのでそれなりの値段がしてしまう。

 

「うーん……やっぱり画像だけじゃどんな感じか分かんないなぁ……。わんこーろちゃんにもうちょっと詳しく聞いとくべきだったかな」

 

「今から聞いてみますか? わんこーろさんもう炬燵出すって言ってましたよ?」

 

「あ、そうなんだ。……んー、それなら現地で確かめたいねぇ」

 

「へ、現地?」

 

 わんこーろが作ったこたつならばそのクオリティは現実と遜色ないだろう。実際にその使い心地や暖房能力を体験してからどのようなものを購入するか決めても遅くは無い。

 

「わちるちゃん連絡よろしく!」

 

「はいっ」

 

 すぐさま取り出した携帯端末を操作し、わちるはわんこーろへとメッセージを送る。端末の画面の中で、書かれた文面が手紙となり折りたたまれ封筒へとしまわれる。それを画面の端から姿を現したヨルが咥え、飛び去った。

 

 犬守村の元防衛機能であったヨイヤミのヨルならば、データの紛失や流出も無く、暗号通信もかくやという機密性を保持したまま確実にわんこーろへ届けてくれるだろう。

 

「唐突ですねなこそお姉ちゃんは」

 

「いつものことじゃーん。楽しみだな~犬守村のこたつー」

 

「おーいお菓子持ってきたぞーって、なんだまだ決めてないのか?」

 

 ちょうどわんこーろへのメッセージが送信された後、お菓子を抱えた○一が部屋に帰ってきた。チョコレートやクッキー、その他様々な甘味と塩気のあるスナックがテーブルの上に補充され、さっそく各々が好みのお菓子に手を延ばす。

 

 これらのお菓子もここ最近サルベージされたレシピから復元されたり参考にして新しく作られたりしたもので、中にはFSがレシピのサルベージという形で開発に協力した商品もある。

 

 協力した企業の商品はなぜか定期的に推進室の家に届けられる。開発協力のお礼だと。

 

 室長も灯もそれらの受け取りを丁寧に辞退しようとするのだが、その前におてんばな娘たちがお菓子をかっさらっていくのだ。

 

「うん、現地で試したくて」

 

「現地……ああ、なるほどな」

 

「なこそさん、わんこーろさんに許可もらいました! 『お待ちしております~いつ来られますか~?』ですって!」

 

「やった! うーんと、じゃあ明日の朝にお願い! ん~どんな感じかな~楽しみだな~炬燵~」

 

 犬守村と違い、現実世界の冬はそれほど寒くはならない。氷は張らないし、雪も降ることはない。

 だが、やはり寒いものは寒い。端末を操作する指先は冷えるし、気温の下がるこの季節は配信者の大切な武器である喉の調子も悪くなりやすい。体全体が冷えて体調を崩しやすくもなる。

 

 FSの面々は初めての体験となるこたつと、冬を迎える犬守村に対して様々な思いを馳せるのだった。

 

 

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