転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

152 / 257
#150 温泉街づくり

 

「みなさ~ん、こんばんはです~今日もわんこーろの配信に来てくださり、ありがとうございます~」

 

「こんばんはー私もいるよー」

 

 狐稲利さんと一緒に札置神社で本を漁った後、私たちは札置神社の分社を経由して北上山地の奥地にある秘湯、火遊治(ひゆじ)山の火遊治温泉までやってきました。

 大きな活火山である火遊治山は頂上はもちろん、山のあちこちから白い蒸気を立ち昇らせています。火遊治山はその周囲に天然の地下水道があり、火山の熱で温められた水が間欠泉となって吹き出しているのです。

 その熱のおかげで火遊治の辺りの雪の積もり具合はそれほど酷くはありませんでした。もちろん完全に雪が解けて無くなっているということは無く、ちらほら建築済みの建物の屋根は白くなっているのが分かります。

 

 そんな火遊治山周辺を温泉街とした通称火遊治温泉は現在建造中でありまして、かつて火山周辺をお披露目した際の建設途中の状態のまま。

 

 今晩はそんな温泉街を完成させるまで移住者の皆さんと一緒に配信を頑張っていこうかと思っております。

 

『ついに始まったか……温泉街完成耐久配信……』『概要欄に今回の配信で温泉街完成させるって書いてあるよ……?』『ちょちょいと飾り付けをしたら終わり、みたいなのを想像していたんですが……』『……何にも建ってなくない?』『空地しかないな』『前回の火遊治温泉途中お披露目からほぼ変わりないような気がするんですが……』『移住者は皆混乱中ですよ』『一体何時間……いや何十時間かかるの……?』『現実なら数か月から数年はかかる規模なのよ』『今日の日付が変わるのは確実だなこれは……w』

 

「大丈夫大丈夫~ある程度の建物はあらかじめ仮組してあるものをそのまま持ってくるのでそれほど時間はかからないと思います~」

 

「よかったねいじゅうしゃー」

 

『うーん』『それでもかなり時間かかるんじゃ?』『二人とも無理するなよー』『俺は最後までは無理そうだな……』『寝落ちしそう』

 

 まあ、みなさんの反応はもっともです。移住者さんの仰ったとおり、現在火遊治温泉街はほぼ何も建築物が無い状態です。街の予定地の奥に火遊治神社がある程度で、それ以外はほぼ更地、温泉の湧く大きな穴があるだけのシンプルな土地となっています。

 

「温泉が完成したら~狐稲利さんと一緒に温泉に入りながら温泉の心地よさを実況したいと思います~」

 

『よし徹夜するか』『エナドリ千本開けた』『酒の準備は万全だ』『はよはよはよはよ』『犬守村湯けむり温泉旅!ポロリもあるよ!?』『ねーよ』『BANか?』『移住者の手のひらはモーター内蔵式』『欲望に純粋な移住者草』

 

「うわぁ~……」

 

「きもちわるいーあははー」

 

 長くなるだろう作業配信に非難の声を上げていた移住者さんたちは温泉実況についてちらっと口にすると手のひらをくるくるしてなにやらやる気になっているご様子。

 ……移住者さんさぁ~……。配信では映さないようにしよっと~~。

 

「え~それでは皆様~秋ごろの温泉街予定地配信後におこなったメイクでのアンケート、覚えておいででしょうか~?」

 

『アンケート?』『たしか、温泉街の見た目に関するアンケだっけ?』『古き良き旅館風にするか、異国情緒溢れる外観にするかの二択でしたね』『ああ! あれ結局どっちになったの?』

 

「え~とですね~。アンケートの集計結果ですが~過半数を採ったのは、古き良き旅館風、となりました~。これを基本として温泉街を建てていきますよ~」

 

 このアンケートですが、メイクにて秋ごろからつい数日前まで行っていたもので、温泉街の雰囲気を決めるための二択アンケートでした。別にどっちかに決まったからといって建物を完全に統一させなければいけないというわけでもありません。あくまで基本的なイメージというだけで、現代的な建築物や施設などもごちゃまぜにした複雑な雰囲気を醸し出す街にしようかと考えています。

 目標としては、大正時代の古き旅館の立ち並ぶ温泉街、および温泉宿といった感じです。良いですよね大正浪漫。

 

『ヤバそうな雰囲気しか感じないのですが』『×複雑 〇混沌』『カオスになる未来しか見えない……』『一体どんな迷宮が出来上がるんだ……?』『まさか温泉街まで迷い路のように……』

 

「そんなわけないでしょ~に。ほらほら、ぱぱっと作っていきますよ~。ネットからサルベージした映像資料を基に造った建物の骨組みを取り出して~」

 

「おかーさー拡張領域共有させてー」

 

「はいはいどうぞ~必要なものは持っていってくださいね~」

 

 温泉街の旅館といえば木造の大きな建物というのが私のイメージです。三階から四階ほどの大きな建物に、煌びやかでありながら温かくリラックスできるような灯りが街を彩り、雪が降ればそれはもう一面美しい雪と光の幻想的な光景が現れるでしょう。

 

「というわけで~いつもの建築配信と同じように雑談しながら造っていきましょ~」

 

「おおー! いっぱいいっぱいがんばるのー!」

 

『わんころちゃんも狐稲利ちゃんもがんばれ!』『なるほど、一から造るんじゃなくて、ある程度形になっている建物を設置して?街を作っていくのか』『基本は木造かな? 木材使ったねー』『北守山地から切り出してきたかんじ?』『←そんな簡単に切って大丈夫なのか? 木が無いと大雨で土砂崩れが、って聞いたことあるが……』『大丈夫。あんまし生えすぎると木々が重なり過ぎて一本一本大きく育たない、だから人の手で数を調整してやるんだ』『なるほど、さすが環研ニキ』『木材もそうだが硝子とかも必要じゃない?』『公開されてるサルベージデータを見ると建物の外側に廊下があるな。部屋は障子戸かガラス戸? みたいだな』『ガラス造る?』

 

「今回はガラスはあらかじめ用意しました~さすがに今から硝子工房を造っていては温泉街完成がいつになるか分からないので~」

 

『それっていつかは造るってこと……?』『当たり前だろ? わんころちゃんならやる』『むしろやらないという選択肢が無い』『建築の為の硝子制作もいいけど、観賞用のガラス細工なんかもつくってほしいなぁ』

 

「ガラス細工ですか~いいですね~。まあそれはおいおいということで~」

 

 ガラス細工といえば私が思い出すのは夏のコラボでFSの皆さんがプレゼントしてくださった風鈴ですね~。あれほど精巧で現実的な代物はなかなかお目にかかれません。少なくとも、専門の人間がモデリングしただけではあれほどの一品は作れないと思います。

 只の3Dモデルではなく、風鈴とは何か、どのような用途を持つ道具であるのか、その意味までよくよく理解して、その上で創らなければあれほど心揺さぶる音を響かせることは出来ないでしょう。

 

 そうですね……硝子工房を作ったら今度は私がガラスを使った何かをプレゼントしても良いかもしれませんね。その時は狐稲利さんと一緒に、やっぱりサプライズで。

 

「……んふふ~温泉も、完成したらみんなで入りたいですね~」

 

 

 建設予定地は温泉が湧いている大きな穴を中心にして広げていくつもりで、そのまま建物は予定地奥にある火遊治神社まで延ばす予定です。木造建築を基本として、いくつもの多層建築を並べていくつもりなので基礎をしっかりと、それでいて素早く造っていきますよ。

 

「さて~この辺り一帯の基礎は出来上がりましたね~。サルベージした温泉街や旅館のデータを基にして建物を再現していきますよ~」

 

「建物同士は中で繋がっていて行き来できるようにしたり~屋根のついた渡り廊下のようなもので接続したりするようにしてあります~雪が積もった時は移動にも苦労しますからね~」

 

『いいな~温泉行きたい……次の休みに行くか』『最近温泉文化も復活してきて嬉しい……犬守村のお風呂見てから憧れだったんだ』『温泉は地上、地下関係なく入れるから助かるわぁ』『効率化社会といえど源泉を潰すまではしなかったのが幸いしたな』『まあ、それでも温泉の管理者が源泉閉じたりして、営業してる温泉はかなり少ないけどな~』

 

「やっぱり大きなお風呂は気持ちいいですからね~でも犬守村ではしっかり整備されてないと危険なのです~」

 

 火遊治の活火山と温泉のおかげで暖かいとはいえ、それでも侮れないのが山間部の降雪なのです。しっかりと対策をした上で、温泉地として整備しなくては危険です。

 ある程度雪崩の危険性を考慮して建物の位置を整え、無理が出ない程度にあちこちに人が歩ける動線を仕込んで行きます。渡り廊下はもちろん、長く長く造った廊下は途中階段を設けて別の施設や温泉と繋がり、旅館や建物がそれだけで独立し完結するのでは無く、この火遊治温泉街そのものが一つの巨大な施設として機能すると楽しいんじゃないでしょうか。

 

 様々な旅館の設備を、様々な泉質の温泉を、様々な外観で出迎える湯けむりに浮かぶ温泉街、そんな火遊治温泉にしたいですね。

 

「さて~建物も重要ですが~肝心の温泉を造っていきますよ~」

 

 小一時間程度である程度建物の外観が完成しました。参考となるサルベージデータを有効活用し、狐稲利さんも積極的に手伝ってくれたおかげで予定よりもだいぶ早く建築できました。とはいえ完成したのは大まかな外観だけで、建物の灯りや飾り付け、建物内部はまだまだ手つかずのまま。ぱぱっと造ってしまいましょう。

 

『やっぱ温泉は大きいといいよな』『絶景が見えるのもポイント』『温泉の種類とかも豊富だと嬉しいかも』『泉質とか源泉とか考えなきゃですね』『珍しい温泉とかほしいなー』『真っ白のとか、茶色のとか、あと炭酸?てゆーのもお願い』

 

「ふむふむ~移住者さんも興味深々のようですね~メモメモ~」

 

「はいはーい! "すなぶろ"って言うのもほしいー」

 

「砂風呂ですか~どこに造るか考えとかなきゃですね~。とりあえず移住者さんの要望にありました数種類の温泉が入れるように整備していきます~」

 

 この温泉街建設計画において温泉を生み出す工程が最も重要と言っても過言じゃ無いかもしれません。と言うのも私はこの温泉街にいくつもの源泉を創り、それぞれ異なった泉質の温泉を創るつもりでして、その温泉の泉質からなる効能ですが……これを何とか現実の皆さんへ届けられたら、と考えています。

 

「不可能では無いと思うんですよね~。病は気から、という言葉があるように、移住者の皆さんの肉体は精神状態に大きく左右されます~。体の疲労は睡眠で~心の疲労はどうぞ犬守村の火遊治温泉へおいでませ~~……みたいな感じ~? あ~ちょっとこれは恥ずかしぃ~です……やらなきゃよかった」

 

「ええーよかったよおかーさー。もっかいやって! おいでませー!」

 

「絶対にいやです~」

 

『草』『ちょっと旅館若女将っぽいw』『可愛いが過ぎる』『いきなりは止めて? 移住者の心臓がとまっちゃう』『しかし、移住者の精神的な疲労を、か……』『出来るんかね? てか可能なんかね?』『そう難しく考えなくて良いんじゃね?疲れてるときに好きな音楽や動画を見るのと同じだと思う』『なるほど、俺が仕事帰りにねこちゃん動画を見てニヤニヤしているのと同じか』『←お前の"ねこ"というのが猫なのか寝子なのかでだいぶ気持ち悪さが違ってくるのだが』『どっちでもキモいのに変わりなくて草』

 

 くう……出来上がっていく温泉街にちょっとテンションが上がっただけなのに……移住者さんの反応を見て二重に恥ずかしさが襲ってくるじゃないですか。

 

 と、とにかく今は源泉を造ることが優先です。それで恥ずかしさを紛らわせるのです。

 

「え、ええと~源泉はどうしますかね~"創る"か"見つける"かの二択ではありますが~」

 

 "創る"なら私が既存の水脈自体を弄って丁度いい場所に温泉を湧かせるので、その分建物の位置なども好きなようにできます。"見つける"なら自然に発生した源泉から温泉を引いてくる訳なのでそれはそれで現実的でごく自然な風景となるでしょう。

 

 それに私が直接3Dモデルとして創造した食物よりも、素材から育てた食物の方が味が良いというこれまでの経験から、恐らく温泉に関しても自然発生の方が質としては良い物になると思います。比較したりはしていないので、そもそも感じ取れるほどの差が出てくるかは不明ではありますが。

 

『"見つける"で』『見つける、かなやっぱ』『近場になさそうだったら創るのが良いかもだけど、やっぱ見つけたいなぁ』『苦労して見つけたほうが天然温泉!って感じだし』『違いを感じたいので"創る"ほうもしてみたら?』

 

「ふむ~……見つけるというコメントがほとんどみたいですね~……創るほうは旅館の露天風呂付き個室に付けましょうかね~」

 

 そうなるとまずはどうやって源泉を見つけるかですね。もちろんお湯の湧き出る場所を見つけるだけならばそれほど難しくはありません。最終手段として犬守村全体から源泉の位置情報を検索すれば必ず見つけられるので。

 

 ですが私が考えているのはそういう意味ではなく、もっと精神的で土着的な意味です。

 

 かつての日本ではいくつもの有名な温泉地が存在し、それらには必ずと言っていいほどその温泉が発見された際の伝説や言い伝えが残されています。例えば、古い神話の神様が大地より生み出したという温泉であったり、名のある武将が疲れを癒した名湯であったり、他には傷ついた野生動物を追いかけていたら秘湯にたどり着いたなんて話も伝わっています。

 

 私が思うに人々を惹きつける温泉というものは、お湯はもちろん、土地やそれらの開湯伝説をも含め、集約させた存在そのものなのだと思います。ただ大地からお湯が出るだけではそこに不思議さを感じても、神秘性を抱くほどにはならないでしょう。

 

 神の怒りである神鳴り(カミナリ)、大鯰が体を揺らし起こる地震、龍神が荒れている姿だという洪水。

 人ならざる、人とは違う"何か"を感じる時、人はそれに深く感動し、畏怖し、惹きつけられるのではないでしょうか。

 

 まあつまり簡単に言ってしまえば、私は見つける温泉に由緒正しい何かを付随させたいのです。

 

「んんー! それならそれならー私にまかせてー!」

 

「え、狐稲利さん!?」

 

 大きく手を上げた狐稲利さんは自信満々な笑顔で私と、配信画面の向こうの移住者さんへと、私! 妙案があります! とでも言いたそうに顔を向けてきます。

 

『ほうほう狐稲利ちゃんが?』『一体何をしてくれるんだろう……?』『まだ謎だな……』『ちょっと心配なんだが』『狐稲利ちゃんを信じろ』『ええ……でもわんころちゃんもなんか驚いてるけど』『……信じろ(震え)』『草』『わんころちゃーん!?』

 

「え、いや、私も知りませんけど~!?」

 

 私と移住者さんが混乱している中、狐稲利さんは温泉街建築現場から離れ、どんどん火遊治山の向こうへと歩いて行きます。

 

「ああもう! とにかく狐稲利さんについていきますよ皆さん~!」

 

『急げ急げ』『相変わらず足早いのよ狐稲利ちゃんw』『自然の中で遊びまわってるから俺らより足腰丈夫なんだろうな』『毎日? あの山や川や海を?』『たくましい……』『身体能力は現代人よりも確実にあるよな』『実際に犬守村に行って狐稲利ちゃんに振り回されたいなんて思っていたけど……これはヤバそうだ……』『とにかく早く追いつかないと』

 

 一体何をしようというのでしょうか、狐稲利さんは。……歩いていく狐稲利さんを追いかける私は、なんだか少し不安で、それでいてワクワクしてしまいます。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。