転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#161 雪まつり前夜

 

 現実世界の塔の街は今日も快晴が続き、冬の肌寒い風と日差しが感じられた。わずかに存在する塔の街の植物も今では葉を落とし枝だけの姿を晒している。街を行き交う人々は厚着をし、家路を急ぐ者たちばかり。だが、それらの要素も犬守村の光景と雪掻きを体験したなこそにとっては現実の温暖化の影響を実感する要素でしかなかった。

 

 あの雪の降り積もった美しくも厳しい世界こそが冬なのだとしたら、この世界は冬という季節からかけ離れた場所だ。

 

 実際には塔の街のある地域は昔でも雪が降るには早い時期だ。年末辺りに初雪が降り、年明けから本格的に積もり始める。だが、もはやこの国の何処であっても雪が降ることは無く、雪を見たことなど無い者が大半だ。そんな時代を生きるなこそにとってこの地域の降雪事情と山深い場所に位置する犬守神社との差など分かるはずがない。

 

 

 なこそは自室の窓を見る。室内は暖房が効いて快適で、結露した窓の向こうは相変わらず寒々しい光景が広がっている。それでも副塔の周囲を保護するマイクロマシンの効果によって汚染された雲は寄り付かず、太陽の暖かい日差しが街全体に降り注いでいた。

 

 眩しい日の光に目を細め、次に手に持った携帯端末に表示された映像データへ視線を移す。

 

「合衆国の国立天文台……かぁ」

 

 それがわんこーろの調査によって判明した映像データの撮影場所だった。

 

 ロックされていた映像データをわんこーろに見せ、そこに映りこんでいたコインに酷似したものを指し示したなこそはその映像データの詳しい解析をわんこーろにお願いした。

 

 わんこーろはそれを快く了承し、さっそくデータの解析を開始した。

 なこそのコインだけしか情報が無かった時と比べ、その映像データには多くのヒントが隠されている。映りこんでいる建物や、風景といったものから撮影場所を。保存されていた映像データの作成日時、映りこんだ人物の服装から年代を。映像に用いられた画像編集の技術や映像の鮮明さから使われた撮影機材を。

 

 その映像データ一枚に含まれたありとあらゆる情報をわんこーろは十数分程度で特定してしまった。

 

 その結果、映像データが撮影された場所はこの国の同盟国である合衆国、そこに存在する国立天文台であることが判明。施設自体は合衆国領の元自然公園内に存在する標高6000m級の山頂付近に施設されたまま放棄されていることが分かった。

 

 汚染雲よりもさらに上に存在するために比較的環境汚染の被害を受けていないが、日光を遮るものが何もなく、凶悪な紫外線が降り注いでいるため危険地帯となっているという場所。

 

 そしてコインについてもその正体が明らかとなった。

 

「これがカレンダーかあ……全然そうは見えないけど……」

 

 わんこーろによるとそれは日付を確認することが出来る道具、つまりはカレンダーなのだという。映像データに映っていた天文台職員らしい男性が所持していたということから何か関係があるのかと調べた結果、どうもこの天文台で製作された品であることが分かった。日付が印字された金属板どうしをスライドさせて数字を合わせることで現在の日を知ることが出来るというものらしい。そしてスライドの組み合わせによって40年間の日付を確認することが出来るのだとか。

 

 この天文台が施設されてから40周年の記念品として天文台職員に配られたものであり、その数はかなり少ない。少なくとも数十程度しか製作されなかったようだ。

 

「……まったく、室長も、わんこーろさんも……まったく」

 

 なこその声は言葉とは裏腹に喜びに弾んでいる。わんこーろがあの写真一枚だけですぐさま特定出来たのは事前にコインについて情報を集めていたからだ。なこそは調べなくても良いと言っていたが、わんこーろは裏で調べてくれていたらしい。

 

 そしてこの話を聞いた室長は環境技術研究所を通じて天文台を管理する合衆国の関係機関へ連絡を取ってくれるという。本来別の国の研究機関と連絡を取るのはなかなかに難しいことだが、室長の尽力と国を超えた繋がりを持つ環研を含めた環境研究系の組織の繋がりによってそれは早々に叶えられるだろう。

 

「ふふ……」

 

 悩んでいたわけではない。確かにこのコインは両親との唯一の繋がりであることは確かだ。だが、だからと言って重く感じたこともない。そもそも親の顔も知らないのだから。

 

 けれど、それでも心のどこかに引っ掛かりがあったのは確かだ。それが年月を重ねるごとに徐々に大きくなっていったのも否定できない。だから今回このコインの正体が掴めただけでなこそとしてはその引っ掛かりが解消され、解放されたように感じた。長年気になっていたことが判明し、すっきりした気持ちにもなった。

 

「あなたは、私の"お父さん"なのかな……?」

 

 同じものを持っているから、そうだろうとは限らない。けれどなこそは何となくそう思ってしまう。

 映像データに映りこむ、コインを首からさげた短髪の男性。眼鏡をかけて優しく微笑むその男性を見て、なこそは少し寂しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって犬守村のわたつみ平原。雪がどかどか降りまくり、冬の厳しさ深まる現在わんこーろは狐稲利と共に次回の雪まつりコラボのための食材を捕りに来ていた。

 

「おかーさー! 準備おっけーだよー!」

 

「分かりました~! それではお願いします~!」

 

 わたつみ平原は降雪によって氷の張った海となっているが、その一角をわんこーろが砕き、海面を露出させている。その海の上を狐稲利が立ち、何やら紐のようなものを手に持っている。紐の先端は海の中へと消えており、狐稲利はわんこーろの合図でその紐を握ったまま氷のなくなった海上を疾走する。

 

「んんー! おほほー! ほりゃー!!」

 

 走り出しながら狐稲利は海中に垂らした紐を引っ張り上げていく。しばらくすると紐に括りつけられていた"網"が顔を出し、その網を勢いよく氷の上へと放り投げた。

 

「お疲れさまです狐稲利さん~! 大量ですよ~!」

 

「おかーさー走ったらあついー」

 

「ああ! 服は脱がないでくださいね~!? 帰ったらお風呂入りましょ~?」

 

 二人が行っていたのは網を使った漁、底曳網漁と呼ばれるものだった。海底へ網を降ろし、そこにいる魚などを捕る漁法で実際には機械で網を巻き上げるのだが、そんなものは無いので今回は狐稲利に引っ張り上げてもらうという手法を採った。

 

「おかーさーこれとか大きくて良さそうー?」

 

「ん~良いんじゃないでしょうか~FSの皆さんと一緒に食べますから~二匹くらいは持っていきましょう~」

 

「うんー! どんな味かなー? 楽しみー」

 

「んふふ~狐稲利さんは蟹を食べたことありませんからね~。お鍋にして美味しく頂きましょ~」

 

 網の中にはヒトデや食べられない深海魚に混じって今回目当てのズワイガニが何匹かかかっていた。機械を使った効率的な方法ではないのでそもそも捕れるかどうかも分からなかったが、無事捕獲できたことに喜び網を外していく。

 

 それ以外にも揚げたり煮たりしても美味しいヒラメや肉厚で食べ応えのありそうなイカ。高級魚らしいノドグロ、そしてお鍋のメインになりそうな大きなアンコウ。

 生息域がてんでバラバラな魚たちだが、ここは犬守村のわたつみ平原。そんな細かいことは気にしないのだ。

 

 今後の漁のことも考え、わんこーろと狐稲利は捕獲した海の幸を選別し、ズワイガニも大きなものだけを選ぶ事にしてそれ以外は逃がすことにした。

 

「お鍋にするにしても薬味なども用意しないとですね~」

 

「ネギは岩戸にあったーショウガも雪ふるまえに収穫したー」

 

「ポン酢とか作りたいですね~ゴマだれはゴマの育成が出来ていませんから~今回はちゃちゃっと創ってしまいましょう~」

 

「うー!……おかーさーお腹すいたー!」

 

「んふふ~それじゃあ家に帰りましょうか~」

 

 わんこーろが不意に手を振ると漁の為に開けた氷の穴がみるみるうちにふさがっていく。本来波のある海の水が凍るには相当な寒さと時間が必要だが、それをわんこーろは一動作で新たな氷を創り出し塞いでしまった。

 

「ちょっと無理やりですけど野生動物が落ちちゃったら可哀想ですからね~」

 

「かにーかにー!」

 

 ズワイガニを含めた海の幸、その他食材は全て確保した。コラボの日は雲の動きを見てもそれほど酷い吹雪にはならないだろう。まさに絶好のコラボ日和になる予定だ。FSとのコラボを想像し、ご機嫌なまま二人はわたつみ平原を後にするのだった。

 

 

 

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