転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#162 わんころ雪まつり(前編)

 

 冬の気配深まる犬守村は暦でいうところの霜月が終わろうかという時期に差し掛かっていた。寒さは強く、雪は昼でも解けることなく残り続け、そのくせ毎日のように降ってくる。

 だが、その日は時々現れる晴れの日。わんこーろが予測した通りの良い天気となっていた。

 

 とはいえ寒い事に変わりはない。ふかふかした尻尾を抱きかかえながらこたつに入ってくつろいでいるわんこーろはつい先ほど始まった配信の画面へ向かって手を振る。

 今日は冬のFSコラボ配信の日だ。同時視聴者数は数万をゆうに超え、未だ伸び続けている。今日のような大きなコラボは何度も行っているわんこーろであるが、それでもやはり緊張するものは緊張する。手元にある尻尾をぎゅっと握り、笑顔を忘れず、第一声を発する。

 

「移住者のみなさ~ん、それとFSの視聴者の皆さま~お帰りなさい~今日は犬守村に帰ってきてくれてありがとね~」

 

『ただいまー!!』『ただいま帰りましたー!』『やっと我が家に帰ってきた……!』『冬のコラボきちゃ!』『夏、秋とくればやっぱり冬もあるよね!』『てかこたつでくつろいでて草』『あれ? なこちゃんたちは?』『締め出されてるのか?w』『きっとまたナートが何かやったんだな』『なるほど納得』

 

「は~い日頃の行いのせいとはいえ~あまりナートさんをいじめてはいけませんよ~今回はですね~私は司会進行役として~ここでぬくぬく~しながら皆さんの動向を伺っていこうかと思います~それではコラボの内容説明に入ります~」

 

 わんこーろがそう言うと配信画面に映りこむように半透明のディスプレイが複数現れる。それぞれがFSと狐稲利を写しており、どうやらいくつかのチームに分かれて別々の場所にいるようだった。

 

「今回のコラボは"犬守神社を目指せ! 雪合戦バトルロイヤル!"みたいな感じです~。狐稲利さんを含めたFSの皆さん六人には二人一組の三チームに分かれてもらって~それぞれのスタート地点からここ、犬守神社を目指して貰います~」

 

『なるほど、競争か』『雪で足元が悪いし、障害物競走みたいな?』『え、でもバトルロイヤルって……』『あっ! 今流行りの!?』『つまり……FPS的な?』『銃弾(雪玉)で相手を倒せ!』『←ああなるほどそういう』

 

「さすが皆さん察しが良いですね~。最近サルベージされ始めたFPSのバトルロイヤルゲームと言えば一気に話題となって現在も多くのプレイヤーがおられる様子、なので~犬守村でもそんな感じで流行を取り入れていこうかと~。もちろん手に持つのは銃ではなく雪玉ですけどね~」

 

 わんこーろがサルベージしたゲームデータの中にはオンライン専用の対戦ゲームというものも存在していた。中でも百人規模の同時接続を行い、たった一人になるまで戦い続けるバトルロイヤル形式のゲームはなかなかに人気だったようで、サルベージされた昨今でもかつてのように爆発的な人気を獲得し、そのプレイヤー人数はうなぎ登りといったところ。ちょくちょく配信者が配信している様子も見かけるようになったほどだ。

 

 わんこーろはそれを犬守村で再現してみようと今回の雪合戦を考案したのだ。使えるものは雪玉に限定されてはいるが、その臨場感はNDSを利用することで唯一無二と言ってもいいクオリティを実現しており、雪合戦の間だけ様々な仕様を変更すればゲーム的なシステムも実装出来る。

 

「まあ初めての試みなので~FSの皆さんには勝負の結果よりも過程を楽しんで頂きたい~と説明しております~。皆様もそんな感じでゆる~く見て頂けるとありがたいです~。ですけどゆる~く楽しんでもらうのにもルールの説明は必要ですし~ちょっとだけお時間を頂いてそのあたりの説明をさせて頂きます~」

 

 FSと狐稲利はそれぞれ三チームに分かれ犬守村の各地に散っている。その映像を配信画面に映し出しながらわんこーろはこのイベントの詳細な概要を説明していく。

 

 まず、このイベントはあくまで犬守村全体をフィールドとした大規模な雪合戦であることを説明。雪合戦なので雪以外のものを武器とすることは許されていない。もちろん雪玉の中に石を仕込むなどの危険行為も禁止だ。

 

 次に、いずれかのチームがゴールの犬守神社に到達することでゲームは終了となるが、どのチームが勝利するかの基準は雪玉を相手チームにどれだけヒットさせたかが重要となってくる。

 雪玉を当てれば当てたチームに1ポイント。当てられるとマイナス1ポイント。つまり相手に雪玉を当て、自身は当てられないようにしなければいけない、というわけだ。

 

 ゴールの犬守村までの道中にはいくつもの道祖神があり、お祈りすると戦闘に有利な効果が付与される。

 有利効果を求めて寄り道しても良いし、己のプレイヤースキルを信じて速攻をかけるでも良い。戦略はチーム次第。

 

「では~大まかなルール説明が終わったので~それぞれのチーム紹介に行きます~まずはナートさん○一さんチーム! お二人はわたつみ平原……フィールドの南ですね~」

 

 犬守村は田んぼや畑が広がる平地を中心として、西に犬守山、東にけものの山、北に北守山地、そして南にわたつみ平原が広がっている。

 ナートと○一がいるのは南の凍ったわたつみ平原の辺りだった。強い風が平原の向こうから吹いてくるため雪はあまり積もらず山の方へと流れていってしまう。なので戦いの際に利用できる雪玉を作るには周囲の雪の量は心もとない。だが、わたつみ平原とそれ以外の境界線にいるため、境界を示す道祖神が近くにある。その点ではスタートダッシュが決められるだろう。

 

「初期位置は皆さん境界辺りに設定したので~皆さん一つは有利効果が得られるようにしてあるんですけど~お二人をこの位置にしたのはお二人ともそれなりにFPSをやりこんでいるとのことでしたので~他のチームへのハンデのようなものですね~」

 

 ナートも○一もサルベージされたFPSゲームをプレイしたことがあり、○一は自称それなりの腕前。ナートは自称サイキョーの腕前とわんこーろは聞いていたが……。

 

『○一の姐さんは普通に上手い』『エイムつよつよ姐さんカッコいい』『プレイ中も周り見えてるし、姐さんは上手いよな』『ただナートなぁ……』『ナー党として先に謝っとく……ナートが迷惑かけてすまん』『ナー党諦めてて草』『そりゃ、なあ……』『すーぐワタワタするし、暴言と悲鳴がヤバいのだけ覚えてる』『戦場で混乱して単独敵陣に突っ込んでいくキャラ=ナート』『否定出来んのよなぁ……』

 

「あはは~……えと、次は~なこそさんとわちるさんチームですね~お二人は~ふむ~北守山地の入り口~北の方ですね~」

 

 北は背に山地が控えているのもあってか、雪の積もり方は他の場所よりも多く、雪玉を量産するにはうってつけの場所だ。雪玉を大量にストックできればその分純粋に継戦能力は高くなり、尽きぬ雪玉に他チームは大胆な行動に出にくい。雪玉は当てさえすれば1ポイントになる。つまり雪玉をより多く生産し所持していればそれだけポイントも稼ぐことが出来る。

 

「最後のチームは~寝子さんと狐稲利さんになります~お二人はけものの山のてっぺんからのスタートです~」

 

 寝子と狐稲利によるチーム。恐らくこの三組の中で最も不利なチームだろう。寝子も狐稲利もFPSゲームはプレイしたことが無いので、定石のようなものも理解していない。ボール遊びのようなことをした記憶もなく、雪玉はおろか何かを投げるというのも初体験なのだ。そのため二人の初期位置は他二チームに比べて比較的ゴールに近く、故にけものの山に籠城して迎え撃つことも出来る。また、けものの山を含めた周辺地域の地形に精通した狐稲利の動きによっては十分優勝することは可能だろう。

 

「わんこーろの役割は犬守村全域とのリンクを駆使して雪玉が当たったかを正確に判定することです~。電子生命体のわんこーろの判定はビデオ判定よりも正確ですよ~」

 

『あーなるほど、確かにこれは公正だわ』『わんころちゃん判定なら安心だな!』『果たしてそうかな?』『いうてわんころちゃん甘々だからな~』『特にわちるん』『わちるんがお願いしたら忖度しそうw』

 

 おやおや移住者さんちょっと私を舐めすぎでは~? たしかに? わちるさんが涙ながらに? お願いしてきたら? ちょっと揺れ動くかもしれませんけど?

 だからといってそれでポイントが動くなんてことはありませんよ~。……たぶん。

 

「み、みなさん面白い事言いますね~~」

 

『ちょっと動揺してるわんころちゃん草』『意思よわよわで草』『首を傾げて声震えてるのよw』『これはわちるんが不利な状況でわんころちゃんがどう動くか見ものだなw』『でもわんころちゃんわちるんが悲鳴上げてるのを見るのも好きだし……』『わんころちゃんは元祖わち虐の民よ』『草。初めて聞いたわw』

 

 ぐう……さすが移住者さんよく見てますね……で、でも不正はしませんよ! ルールは守ってこその遊びなわけですから、たとえわちるさんが一人タコ殴りにされていようと私は心を鬼にして静観する心づもりな訳でございますです。

 

「さて~それでは全チーム準備ができたようなので~始めていきますよ~! よ~いすたーと~!!」

 

『おおー!!』『はじまた!』『さてわんころちゃんと一緒に見ますか』『やっぱ姐さんが強いかなー』『雪玉の補充が出来るという点ではなこちゃんわちるんもなかなか』『一番どんな動きをするのか分からないのが寝子、狐稲利チームだな~』『思わぬダークホースとなるか、それとも……!』

 

 

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