転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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二話連続投稿になります。ご注意ください(一話目)


#163 わんころ雪まつり(中編)

 

「さて……どーすっかな……わんこーろから雪合戦と聞いてた時はもうちょい狭いと思ってたんだけどよ」

 

 ○一は背を低くし、周囲の様子をうかがいながらそんなことを言う。困った様子ではあるが、わずかに口角を上げる○一は、今の状況が楽しくて仕方がないという風だ。隣で地べたに這った状態で道祖神に手を合わせるナートもその言葉に賛同する。

 

「うう~ん……まさか犬守村全体とはねぇ……」

 

 手を合わせたまま隣にいる○一を見て、ナートはぼそりと呟いた。

 わんこーろのサプライズ好きは今に始まった事ではない。これまでもFSや移住者を巻き込んだドッキリを行ったことが何度もあるため、それなりに耐性が出来て慣れたと思っていたが、それでもわんこーろのサプライズは毎回驚かずにはいられないだけの予想外で衝撃的なものばかりだ。

 

 今回のコラボはそれほど大規模なものではないとFSには説明されており、夏や秋と違って遊べるものも雪くらいだから半日程度のコラボになるだろうと言われていた。

 

 しかし蓋を開けてみればどうだ。NDSを起動した瞬間、犬守村全体が戦場となったガチ雪合戦の始まりだ。当然詳細なルールはつい先ほど聞いたばかりだし、心の準備など全く出来ていない。とにかく周囲に身を隠せるような場所が無い事を理解した二人は背を低くして周囲を警戒している。

 雪合戦に参加している三チームはそれぞれ相手チームが何処にいるのかを知らされていないため、もしかしたらすぐそばにいるかもしれない、という判断からだった。さらには各チームの場所がバレないように視聴者のコメントも見れなくなっており、全体の把握が出来ているのはわんこーろだけ。

 

「へへ……いいねぇこういうの……!」

 

「あ~……まーるちゃんが珍しくテンション上がっちゃってるよ……」

 

 ○一は基本的に様々なジャンルのゲームをプレイする配信スタイルであったが、それは秋のリアルイベントであるV/L=F以前の話だ。それまではどこか義務感を持って配信を行っていたため、なこそのように視聴者へサルベージしたゲームの紹介という側面を優先して配信を行っていた。もちろん○一の性格から、興味のないゲームを無理やりプレイしていたわけでは無いのはもちろんだが、それでもプレイするゲームのジャンルは偏りなく幅広く、という配信スタイルを取っていた。

 

 だがV/L=Fの後、どこか吹っ切れた様子の○一の配信はそれまでのスタイルを維持しつつ、○一の趣味が少しずつ滲み出るようになっていった。○一の視聴者である〇子(まるこ)はその変化を好意的に受け止め、ようやく心を開いてくれた……と涙する者もいたとか。

 

 つまり、現在○一のテンションがナートに引かれるほど高いのはこの状況が○一の趣味と合致した結果だろう。FPSやアクション系のゲームを好み、火薬の匂い漂う戦場は○一の心を熱く滾らせる。この状態の○一についていくのはなかなか苦労するなぁ……などといつもの自身を棚に上げて肩をすくめるナートは、道祖神を数秒ほど拝み続け、突然現れたウィンドウに目を向ける。

 

「有効効果は……"三度まで被弾無効"だって。……動く?」

 

 ナートの目の前に現れたウィンドウに効果の名称と詳細な説明が表示される。道祖神から得られた有効効果(バフ)は被弾無効。単純にわんこーろの被弾カウントが三度だけ見逃されるというもののようだ。多少無茶な立ち回りが許容される効果であるが、これがどの程度強い効果なのかは不明だ。なにせこの雪合戦(ゲーム)に参加したのは初めてなのだから。

 

 ナートは周囲を見渡しながら○一へと次の行動について問う。ポイントを稼がなければ勝てないのならば、いっそのこと此方から積極的に動いて稼ぐのもアリだとナートは考えていた。どうせ被弾しても退場するわけでもない。その上、現在は三回までミスが許されている。○一は指先で顎をさすり、少し考えてからナートの言葉に頷いた。

 

「ん。ゴール付近で漁夫りたいが田んぼ地帯は南以外を山に囲まれてっからな……周囲の高台から強襲される可能性アリ、それだけ注意しろよ」

 

「りょーかい……!」

 

 動くときは一気に動く。周囲の状況を見極めながら○一とナートは背を低くしたまま疾走する。出来るだけ他チームに発見される可能性を減らすため、ちょっとした丘や木々の合間を縫って移動する。常に利き腕に雪玉を持ち、遭遇戦に備える。

 

 FPS経験者とはいえ武器は雪玉であり、もちろん照準なんてものは無い。連射性能なんて皆無であるし、飛距離も最低なものだ。だが、立ち回りに関してはある程度の心構えがある。どのように戦場を動けば良いかを理解しているので機動力は高い。

 

「もうすぐ田んぼの辺りだねぇ……誰かいるかなぁ……手冷た……」

 

「全員で6人……だが散開するこたぁねーだろーから、実質3組。んでワタシら除けばこの広い犬守村に2組しかいねーんだ。こりゃ会敵すんのはゴール手前ってこともあり得るな」

 

「乱戦は苦手だよぅ……あ、誰か来た」

 

 二人の背の高さ程度に積もった雪の山に隠れ、田んぼ地帯を伺う○一とナートは田んぼの奥、犬守山の入り口を目視で確認し、そこまでのルートを思案する。単純に田んぼの間に造られた道を通るのは悪目立ちが過ぎる。物陰を辿って上手く犬守山へ潜入できるルートを模索している途中、ナートは同じく背を低くして移動する人影を視認した。

 

「なこちゃんとわちるん……どうするまーるちゃん? 駆け抜ける?」

 

「……寝子と狐稲利が見えねーのが気になるな……」

 

 その影はわちるとなこそのチームだった。先頭をなこそが歩き、その後をわちるが続く。周囲を警戒している様子ではあるが、まだ○一とナートを見つけられてはいないようだ。わちるとなこそは確かに体を物陰に隠しながら静かに移動しているのだが、経験者である○一とナートからは簡単にその姿が把握されてしまう。隠密行動も索敵能力も経験値は二人の方が高い。

 

 ナートはこれをチャンスだと考えていた。この雪合戦の最終目標はゴールの犬守神社へ到達する事。つまり、どれか一チームでもゴールすればその時点でゲーム終了、ポイントの集計で優勝者が決まる。

 なら油断しているわちる、なこそチームに奇襲を仕掛け、被弾無効(バフ)でゴリ押し、しこたま雪玉を当てた後、犬守山への入口へ走りそのままゴールすれば良いのではないだろうか。

 

 だが、このテのゲームをそれなりにプレイしている○一の反応はいまいちだった。もしその作戦が上手くいったとしても、自身のチームが最大ポイントを獲得できるかは不明なのだ。もしかしたら既にわちるとなこそは寝子と狐稲利チームと一戦した後であり、かなりのポイントを稼いでいるという可能性もある。また逆に寝子と狐稲利チームがポイントを稼いでいる可能性もある。その状態でゴールに到達すれば、もちろん自身のチームは負ける。それだけでなく、二つのチームが戦い始めれば漁夫の利を狙った第三チームが介入する可能性は高い。

 

 動くべきか、それとも動かざるべきか。もうしばらくわちる、なこその動向を見ておきたかった○一だが、状況は待ってはくれない。

 

「ん? 何か音が――」

 

 息を潜め物音を立てないようにしていたナートの耳に何やらヒュン、という風切りの音が聞こえてきた。風は無く、木々も揺らす葉を持たず、動物の姿も無い。そんな中で不意に聞こえてきた聞きなれない音に、ナートは空を見上げ……そしてその顔に冷たい雪玉を喰らった。

 

「っ!? ちょ、ちょっと!? 今のなに!? なこちゃん達!?」

 

「混乱すんなっ!! チッ、気付かれた!」

 

 突然の雪玉の顔面直撃にたまらずナートは声を上げる。いつもの配信ならばナートが叫んだとしてもナートの配信視聴者であるナー党の耳が破壊されるだけだが、その叫びによってナートたちの居場所は近くにいたわちるとなこそに丸わかりとなる。後方でわちるが雪玉を投げ続け援護し、その間になこそが距離を詰めてくる。雪玉を豊富に製作できたチームだからこその物量作戦だ。

 

「はっ! ほっ! 今ですなこそさんっ!」

 

 わちるは"拡張領域"にため込んだ雪玉を次々に取り出し、○一とナートへと投擲してくる。狙いはてんでバラバラなものだが、行動を制限するといった用途では絶大な効果を発揮している。

 

「あれ卑怯くさくねーか!?」

 

「拡張領域は使うなってわんころちゃん言ってなかったもーん。ポイント貰うよ○一(まるい)っちゃん!」

 

「上等だコラ!!」

 

 わんこーろや狐稲利が利用する拡張領域は自身に空間を紐付けして管理している領域であり、外部からのアクセスは基本的に不可能だ。FSの個々人が所有しているプライベートな仮想空間はNDSに紐づけされており、拡張領域のような魂そのものに紐付けされた空間は現実の住人であるわちるが持つのは難しい。だが、わちるは元犬守村防衛機構であるヨイヤミのヨルを経由することでそれを実現していた。

 ヨルの創り出した拡張領域いっぱいに雪玉を詰め込んだわちるは絶えず雪玉の弾幕を張り、なこそのサポートをする。

 

 そして、接近したなこその雪玉が○一を襲うのだが……。

 

「ンな玉当たるかよ!」

 

「ああ惜しい! でもまだまだ! 私だってこのくらい出来るんだよって!」

 

 なこその大振りの投擲は予備動作が大きく、いつ雪玉が投げられるのかも分かりやすい。それ故に避けるのも容易であり、なかなか○一へのヒットとはならない。しかしそれは○一も同様だ。多少投げ方を工夫したところで慣れない動作は目の前のなこそに回避の余裕を与え、どちらも決定打に欠ける戦いとなっていた。

 

「おいナート援護はっ!?」

 

「無茶言うなよぅ! わちるん軌道修正上手すぎなんだよう! 近づけないって!」

 

「な、ナートお姉ちゃんは私が相手になりますよっ!」

 

 互いに雪玉を投げ合い避け合いの攻防は平行線をたどるが、後方で支援を行うわちるとナートの拮抗は崩れようとしていた。雪玉無限で投げるわちるの投擲精度は徐々に上がっており、それはナートの動きを制限するどころか、予測できるまでになっていた。

 

「ちょ!? 偏差射撃はやばっ、ぶへ!?」

 

「や、やった!? やりましたなこそさん!」

 

「いいよわちるちゃん! じゃあ今度は私が!」

 

 わちるが予測した位置へ動いたナートへと、放たれた雪玉が衝突する。それは偶然ではなく、紛れもないわちるの技術によるものだ。誰の目から見ても明らかな1ポイント獲得の瞬間。

 それに続くようにしてなこそが勝負に出る。一歩前進したわちるは目の前の○一へと振りかぶった雪玉を勢いよく投げ放った。

 

「何度やったってンなもん避けりゃ怖くな――!?」

 

 その雪玉は一直線に○一へと向かい、そして破裂した。

 いくつもの小さな雪玉が周囲に拡散し、○一の回避距離を超過する面積を制圧する。突然のことに○一はそのすべてを避け切ることができず、僅かに雪玉を受けてしまう。

 

「嘘!? 散弾!?」

 

「有効効果か!」

 

 なこそとわちるが取得した有効効果は"散弾"。通常の雪玉を小さい雪玉に分割させ広範囲にばら撒くというものだ。一定範囲を面で攻撃できる上に通常弾との切り替えが可能で、接近戦で無類の強さを誇る。

 だが、同時に射程範囲は通常よりも落ち、散った子弾が一定数ヒットしないとポイントにならない。その上ポイントになったとしても散弾で獲得できるポイントは子弾がどれだけヒットしても1ポイントとなる。しかしそれらのデメリットも、この近距離戦で、豊富な雪玉の残弾ならばほぼ無いに等しい。

 

「ふふふ……! とりゃ!!」

 

 再度なこそが散弾を投擲する。一発目でその射程の短さを理解した○一が後ろに飛ぶが、なこそも追いかける。その距離が開くことは無く、○一は追い込まれていく。無理やり距離をとっても散弾から切り替えた通常弾が頬を掠め、上手く立ち回ることが出来ない。

 

「チッ……こいつぁ……」

 

 わちるの援護射撃はそのまま通常の雪玉だ。中~遠距離からの援護では散弾は届かない。そのためなこその後方から散弾の雨が降ることは無かったが、それでも事態は○一達に不利な状況だ。ナートも○一を助けようとするが、先ほどわちるにポイントを奪われたことが頭にちらつき、積極的に前に出られない。

 

「もう一発! って、痛っ!? へ、何処から!? へぶ!?」

 

 そんな時、○一を追いかけるなこその背中に雪玉が衝突した。後ろを振り返るなこそだが、わちるは勢いよく首を横に振り、自身が当てたのでは無いと主張する。角度的にも先ほどの雪玉はフレンドリーファイアではない。……では、どこから?

 

 互いが一瞬硬直した直後、ナートが聞いたヒュンという風切り音が再び鳴る。ナートの被弾した状況を思い出しすぐさま回避行動を取る○一だが、飛来した雪玉は回避した○一に寸分違わず突き刺さった。

 

「ぐ!? マジかよ……!」

 

「うぎゃ!?」

 

 ○一が回避することを予測し、さらには回避方向や距離さえも考慮した上で着弾地点を補正された雪玉の存在に○一は目を見開く。そして再び風切り音と共に上空より落ちてくる雪玉が、再びなこそに当たった光景を見て○一が叫ぶ。

 

「ナート隠れろっ! 狙撃手(スナイパー)だっ!!」

 

「はあ!? なんで雪合戦で!?」

 

「いいから早く隠れろ! っ! クソ、今の被弾でバフ切れだ」

 

 飛来する雪玉から逃げる○一とナートは何とか林の中に逃げ隠れることに成功した。物陰から周囲を窺うが、狙撃手の姿はない。姿どころか身を隠せるような狙撃ポイントも見当たらない。相当遠距離からの攻撃だと○一は考える。

 

「……マイナスポイントは無いけど……プラスにもなってないね……少なくとも狙撃で寝子ちゃんチームが3ポイント取ってる」

 

「やべぇ戦法取ってきやがったな寝子と狐稲利は……」

 

 こちらとなこそたち両チームを狙ってきたことから先ほどの狙撃が寝子と狐稲利チームによるものなのは確実だ。超遠距離からの攻撃により一方的にポイントを稼ぐことができる。ゴールがある犬守山の入り口付近は開けた土地であり、射線が通り放題なため普通に通過すればあちらにポイントを与えるだけだ。

 

 とにかく、このまま狙い撃ちされるだけではどうしようもない。寝子たちがどこから狙撃しているのかを把握しなくてはいけないと、○一は考えをめぐらす。

 

「ナート、さっきの狙撃、何処からか見たか?」

 

「……うーん、ほぼ真上からだったしなぁ……東かな……?」

 

 その言葉に○一は顔を顰める。田んぼの東側となれば、畑と未開拓の平地があるだけだ。とても隠れて狙撃できるような高台は無い。

 

 だが、○一は一つの可能性に思い至る。東の平たい土地のさらに向こうには、けものの山がある。

 

「……マジかよ……けものの山だ」

 

「へ? 何が?」

 

「寝子と狐稲利のヤツ、けものの山の頂上からここまで狙撃してやがる……!」

 

 田んぼ地帯は平坦な土地であり、南のわたつみ平原以外の三方を山に囲まれている。そのうえ射線を遮るものも少ない。狙撃されればひとたまりもないような立地だ。その三方の山の一つ、けものの山には頂上に年中実を付ける桃の木が中枢として存在しており、この場所からなら田んぼ地帯を見下ろし、狙いを付けることも可能だろう。

 

「い……いやいやいや! まーるちゃんちょっと冷静になろうよ!? これ雪合戦ですよね!?」

 

 ちょっとした雪遊びだと思っていたらなぜか硝煙の匂いがしそうな戦場に放り込まれたでござる。とでも言いたげなナートは思わず敬語になってしまうほど混乱しているが、対して○一は想像以上に盛り上がる展開に燃えている様子だ。

 

「ワタシたちが生き延びるには狙撃手を排除する必要がある……これは戦争だぜ……!」

 

「……あーあ、まーるちゃんに変なスイッチ入っちゃった……」

 

 ナートはもはや諦めるほか無かった。こうなればもうナートはツッコミ役に回るしかない。いつもと逆の立場な事に不安しか無いが、それでもツッコミ不在の恐ろしい状況になるよりはましだ。恐らく○一はこれが配信であることをすっかり忘れている。戦場の一匹狼○一の誕生だ。

 

「お前らもそう思うだろう? なあ? なこそ、わちる……!」

 

「……やっぱバレちゃってるか~」

 

「同じ方向に逃げましたもんね……」

 

 ○一が声をかけた茂みからボロボロになったなこそとわちるが姿を現した。敵意は無いのか雪玉を持っておらず、わちるは拡張領域も展開していない。頭についた雪を払いながらなこそは○一の雰囲気に首を傾げる。

 

「ねえナートちゃん、○一ちゃんどうしちゃったの?」

 

「なんだか映画の登場人物のような……」

 

「今は気にしない方がいいよぅ……」

 

 出来ればそこはスルーして欲しい……ナートはうつむきながらつぶやくと、察したなこそも呆れたような視線を○一へと向ける。

 

「まあ、でも○一ちゃんの言っていることはもっともだよ。私もさっき三発貰っちゃった。そっちのチームと合わせて寝子ちゃん、狐稲利ちゃんチームは既に6ポイント手に入れてるんだよね」

 

 わちるとなこそのチームは先ほどの戦闘が初めてであり、結局寝子と狐稲利チームの攻撃により得点はマイナス3ポイント。

 ○一とナートのチームは有効効果によってマイナスは免れているが、それでも得点は0ポイント。

 対して寝子、狐稲利チームは両チームからポイントを稼ぎ、現在6ポイントと独走している。

 

 ゴール前には二つのチームが陣取っているため易々とゴールに到達することは出来ないだろうが、このままポイントを稼ぎ続けられれば、無理やりゴールに到達することも可能かもしれない。

 

 どちらにしろ狙撃は封じなければまともに動くこともままならない。視線を向けるなこその様子に、○一は一瞬驚き、そして眉間に皺を寄せる。

 

「どうかな……?」

 

「……ワタシらのほうがポイントが上だぞ? リスクが高い」

 

「え、と……どういう事でしょう?」

 

「あー……また二人は視線だけで会話してー……あれはねわちるん、一時休戦しないかって言ってるんだよ」

 

 おもむろに○一の隣に座りこんだなこそは一時的な休戦と協力関係を提案する。だが、それに○一は疑問を抱く。

 確かに狙撃手を排除するという目的は一緒ではあるが、ポイント的には○一たちの方が有利だ。寝子たちを無力化した後に必ずポイントで不利ななこそ達は不意打ちをしてくるに決まっている。わかり切っているのに協力関係を築くのは難しいものだ。

 

「今ここで戦っても結局狙撃チームの勝利は揺るがないよ?」

 

 とはいえこのままでは狙撃チームの一人勝ちになり、○一たちも、なこそたちにも勝利がない。

 

「……わかった。ナートもそれでいいか?」

 

「へ? あ、うん。わちるんは?」

 

「あ、はい。私もそれで……」

 

「うし! それじゃあ作戦立てっぞ!!」

 

 突然の協力関係に○一は何やら共闘がどうたら、ライバル同士の背中を預ける展開がどうたらと言っているが、なこそは華麗にスルーしている。

 

「ねえわちるん」

 

「……何ですかナートお姉ちゃん」

 

「これ、まーるちゃん後で身悶えするヤツだよね。黒歴史ってヤツ?」

 

「……」

 

 ともあれ雪合戦はいよいよ後半戦に差し掛かろうとしていた。果たして誰が優勝するのか、それはわんこーろにしか分からない。

 

 

 

 ……そもそも、優勝させる気があるのか。それもこのゲームの主催者しか分からない。

 


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