転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#166 年越しの準備を考える

 犬守村の囲炉裏端でFSの面々がワクワクとした様子で中央に備え付けられた囲炉裏鍋に視線を落としていた。わんこーろがこしらえたカニ鍋を食べ始めたあたりで今回のコラボ配信は終了となり、既に視聴者との挨拶も終え、その後は初めてのカニの味に舌鼓を打った後に解散するはずだったのだが、狐稲利の「雑炊したい!」発言とそれがどれほど美味しいのかを嬉々として語る様子にFSは心惹かれ、全員雑炊とやらを食べたいとまだ犬守村に居続けていた。

 

「あ、そうそう~はい、なこそさん~お約束していたものです~」

 

「なこそー私もてつだったよー!」

 

「わ、ありがとわんこーろちゃん狐稲利ちゃん! ……へえ、こんなきれいだったんだね」

 

 炊事場から戻ってきたわんこーろは手に持ったお盆を囲炉裏の傍に置くと、懐からとあるものを取り出し、それをなこそに手渡した。それはなこそが所有していた例のコインの形をしたカレンダーだった。表面は綺麗に磨かれ、印字も鮮明に蘇っている。なこそが持っているコインにはなかったチェーンも追加で付けられていた。

 

 わんこーろが映像データをもとに再現したそれをなこそは手に取り、その精巧さに声を上げる。だが、データの量がかなり少なく、映像から判断出来ない部分は再現出来ていない。コインの裏面であったり、スライドギミックに隠れた場所の印字なども手を付けられていない。

 

 それでも良いと、なこその希望で創られたそれを首に下げ大切そうに胸元で抱く。なこそにはそのコインに大した思い出はない。だが、恐らくこれは自身にとって大切なものなのだろう。今は亡き両親との大切な思い出の。そう思うとなぜか愛おしく感じてしまう。

 

「その40年カレンダーは実際にカレンダーとして使うよりもキーホルダーとしての用途で作られていたみたいですね~カレンダー機能はおまけ、みたいです~」

 

「ねーねーわんころちゃーん、キーホルダーってなに?」

 

「その名の通り鍵を束ねるためのツールですね~今のように電子錠ではなかったので~複数の鍵を持っておかないといけなかったのですよ~」

 

「犬守村もねー鍵いっぱいあるのー犬守神社とかー火遊治の温泉街とかーぜんぶ違う鍵なのー」

 

「へぇ~」

 

「ナートお姉ちゃん、教育用の資料にあったでしょう?」

 

「そんなの見てないよぅ、必修でもなかったしぃ~」

 

「さすがナートちゃんだねぇ……」

 

 感心するナートにため息をこぼす寝子と、呆れるなこそ。パチパチとはじける薪の音と鍋が煮える香り、温かな空間でたわいもない話が続いていく。

 わんこーろはコインを眺めるなこその姿に少し安堵し、そしてコインと共に映っていた場所について質問した。

 

「例の天文台の、許可は下りたのですか~?」

 

「……ううん、室長も頑張ってくれてるみたいだけど、やっぱり駄目みたい。天文台の機能はもう合衆国の副塔に移設されててもぬけの殻だから、何もないって言って、調べさせてくれないみたい」

 

 なこそは首を横に振る。映像データに映っていた天文台の場所はわんこーろが特定した場所に違いはない、天文台にはそれまで所属していた職員のデータが保管されており、そこをたどればなこその手にあるコインの元所有者であるらしい男性について何か分かるのではないか。

 

 そう考え室長たちは環研を通して合衆国の天文台へ事情を説明し、該当職員のデータ閲覧許可を願ったのだが、それが叶うことはなかった。無理を言っているのはこちらなので有無を言わさず拒否されたとしても非難することなど出来ない。けれど室長はそれからも頻繁に天文台施設を管理している部署と連絡をとり、何とか調べさせてもらえないかと交渉中なのだという。

 

「ええ~なにそれ! 何もないなら見せてくれたっていいのに!」

 

「……何か知られたくないものでもあるのでしょうか?」

 

「どうかな、そもそも今回の話も環研ルートで特別に話をしてもらったところがあるみたいだし、強くは言えないんだと思う」

 

「ふ~む……許可がないのでは私が入り込むわけにもいきませんね~……。……さて、それでは雑炊、作っていきますね~」

 

 そんな話をしている間にわんこーろは雑炊の準備に取り掛かる。鍋を食べ終わった後のスープは具材である野菜や蟹の味が溶け出し、かなり濃厚な味わいだ。そこに白ご飯を投入し軽くほぐすようにかき混ぜていく。蟹の出汁を吸った白米は艶やかに輝き、食欲をそそる。だがそれだけでは味が濃すぎるので、わんこーろは持ってきた玉子を混ぜ解き、ゆっくりと回しいれる。玉子のまろやかさで濃い味は絶妙な加減となる。最後に刻んだネギをちらして完成だ。

 

「なんか、メシ入れただけなのにすっげえ美味い……」

 

「んん~! 濃くて、まろやかで、すっごい美味しいよぅ!」

 

「……あの、わんこーろさん、この玉子は……」

 

 お椀によそわれた雑炊は白いご飯がめいっぱい味をしみ込ませた状態で、口に入れたとたん玉子のとろりとした食感と相まって優しい味わいを伝えてくれる。ふとそんな卵の事が寝子は気になった様子だ。

 

「はい~ニワトリを育てようかな、と思いまして~暖かい火遊治の辺りに育てる場所を作るつもりなのですが~この卵はその試しに創ったものですね~」

 

「それでは、温めたら孵化する、んですか?」

 

 いくつもの教育用の映像データの中に、ニワトリの雛であるヒヨコの映像を見たことのある寝子は期待に目を輝かせるが、それにわんこーろは申し訳なさそうな顔で首を横に振る。

 

「う~ん……一度冷蔵庫に入れてあるので難しいかと~」

 

「そうですか……」

 

「ニワトリと言えば、前にニワトリと卵、どっちが先に生まれたのか? って話があったっけ。お代わりくださーい」

 

 口元にご飯粒を付けながらナートはお代わりを要求する。お椀をナートから受け取った狐稲利がお玉でよそってやると、ナートはその熱さに悶えながらも雑炊を再び口に運んでいく。

 

「それは、結局どっちだったんですか?」

 

「……どっちだったんだろうねぇ……」

 

「オチがない話は配信者としてどうかと思うよナートちゃん?」

 

「んぐ……こんなところでダメ出しされるとは……」

 

「細胞の数が少ない卵が先だとか~卵殻を形成する成分をニワトリが持っているからニワトリが先だ~とか言われていますけど~この問答には確実な答えはないでしょうね~」

 

「ふ~ん……ねえねえ、わんころちゃんはどうやって生まれたの?」

 

 他愛もない会話が続いているが、そんな中ナートはふと浮かんだ疑問を口にする。予想外な質問にFSの面々は一瞬箸を動かす手が止まる。

 

「ちょっとナートちゃん」

 

 焦った様子でなこそが声を上げるが、ナートは何かおかしい事言った? という顔で首を傾げるだけだ。

 また空気を読まない発言を……と、なこそがため息をつくが、予想外にもその話は○一によって継続された。

 

 

「まあ、ワタシも興味あるな。今までそんな話したことなかったし」

 

「わんこーろさんは……電子生命体……ですから……」

 

 ちらりとわんこーろの様子をうかがう寝子も同様に少し気になっているようだ。

 

 

「ん~……私にも分からないんですよね~気が付いたらもう真っ白な場所にいましたから~」

 

 ナートの質問にわんこーろは苦笑いするしかない。何か言えないような重い出自というわけでもなく、本当に何も覚えていないのだ。犬守村となる白い仮想空間で、体も無く彷徨っていたわんこーろはそれより過去の記憶を持っていない。電子生命体となる以前の記憶ならおぼろげに覚えてはいるが、その記憶も最近でははるか昔のことだ。

 

「そうですか……」

 

「やっぱわんころちゃんて不思議の塊だよねー」

 

「ひやひやするような質問した本人が呑気なもんだなオイ」

 

「これは帰ったらまたお仕置きだね」

 

「へ!? なんで!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて~冬のコラボも終わりましたし~本格的に年末の準備をしていかなくちゃですね~」

 

 何となく静かになってしまった空気を変えるようにわんこーろは空になった鍋を片付け始める。お腹いっぱいになったFSの面々や狐稲利はそのまま囲炉裏で火に当たるものや、隣の部屋でこたつに潜り込むものなど様々にくつろいでいる。

 

「ところで年末ってなにすんだ? ワタシらなんも知らねーんだけど、何か手伝えそうか?」

 

「んふふ~皆さんには雪掻きでだいぶ助けて頂きましたから~大丈夫ですよ~。でも、おせちの味見はお願いしようかな~」

 

 年末といえばやはり年越しの準備は欠かせない。犬守村各地に存在する神社のすす払いと飾り付けだけでもかなりの仕事量となるだろう。だが、この犬守村が生み出されてからそれほど月日は経っていない。それこそ一年もまだ経過していないのだ。

 最近生み出した火遊治温泉街などまだまだ新品そのもので掃除する場所を探すのが難しいほどだ。

 

 なのでわんこーろは今年のすす払いは犬守神社を中心として夏や秋の始め辺りに生み出した施設を中心に行っていくつもりだった。最も広大な面積を誇る札置の神社はくー子が常時掃除してくれているので年末ギリギリで焦って掃除する必要はないだろう。

 

「はいはーい! 味見係立候補しまーす!」

 

「ナートお姉ちゃん……」

 

「あの、私お手伝いしたいのですけど、いいですか? おせち料理も覚えたいので」

 

「ええ~もちろん大歓迎です~」

 

「わちるちゃんが覚えてくれれば現実(むこう)でも食べられるかなー」

 

「どうでしょう? 縁起物として珍しい食材や当時でも作るのに時間がかかる料理ばかりですよ? 合成ならば何とかなるかもしれませんけど……」

 

 おせち料理は基本的に年始の間、傷まないように保存のきく料理がメインとなっている。それらの調理法は長いあいだ煮たり炊いたりと目が離せないくせに時間がかかるものばかりで、料理初心者向けとは言いづらい。それに一度に作る種類も多く、手順も覚える工程も比例して多くなる。

 

「おせち料理ってのを作るだけでも大変そうだねぇ」

 

「来月の別名は師走と言いますからね~走り回るほど忙しくなりそうです~」

 

「にしてはわんこーろちゃん楽しそうだよね」

 

「んふふ~初めての犬守村での年越しですからね~」

 

 やることが多いというのは決して辛い事ばかりではない。確かに面倒なことはあるだろうが、それがわんこーろにとっては楽しい作業であり、FSや移住者たちには新鮮に見えるだろう。古き良き時代の風景を届けられるのなら、それもまた配信者として望むところだ。

 

「人手が必要な時は言ってね、駆け付けるから」

 

 だが、やはりどうしてもわんこーろ、狐稲利の二人では無理が出てくるかもしれない。そんな事を思いなこそは優しく声をかけ、それにわんこーろは大きな耳をぴんと立てて嬉しそうに揺れ動かす。

 

 そんなわんこーろの姿になこそも笑顔を向ける。その向こうでなにやらわちるがわんこーろの可愛さに悶絶しているがいつものことなので誰も突っ込まない。

 

「いいんですか? そちらもV+R=W関係で忙しくなりそうですけど~」

 

 だが、わんこーろのそんな言葉になこそは笑顔のまま固まった。

 

「あ、そういえば……」

 

「そっち関係はわんころちゃんに整地してもらった後は室長と灯さんに丸投げだったしねぇ……わんころちゃんが作ってくれた学校の設置も二人がやってくれてるみたいだしぃ」

 

「基本的な機能やV+R=W開拓の拠点となる場所は運営である推進室が整備するという話で、その後の開拓を一期生に任せるらしいです。あくまで私たちは一期生の一員として扱うようですね。まだ私たちの出番ではない、という事です」

 

 V+R=Wは投入された一期生が基礎を構築し、その後の二期から四期生がメインで開拓していくことになっているが、その前段階、一期生がV+R=W開拓の拠点として利用する簡易的な施設は推進室が制作することになっている。基本はわんこーろが提供した学校を中心に拠点とするらしく、そこには一期生であるFSもあまり干渉しないようにしていた。

 

 手伝ってはいけない、という訳ではないのだろうが、室長と灯から、お前たちも一期生だろう? という言葉でやんわりと手伝いを拒否されている。

 

「一期生かぁ……そういえばもうすぐだね一期生のV+R=W参加。かかおちゃんや真夜さん。それにイナクプロジェクトの子たちも参加するんだよね」

 

「初めての事だし、ちょっと不安だけど……やっぱり楽しみだねぇ」

 

 この冬、少なくとも年が変わるまでにはV+R=Wに投入される一期生。FSと深く交流のある配信者たちは限られており、それ以外の大半の配信者たちとはあまり面識がない。秋に行われたV/L=F以上の人数に、規模に、期限の無い長期間。それはほんのちょっとの不安と、大きな期待をはらんでいた。

 

 わんこーろたちは、一期生として新たに交流することになる配信者たちの配信を見ながら、そのゆっくりとした時間をめいっぱい楽しんだのだった。

 

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