転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
ヴァーチャル配信者界隈のトップグループとして認知されている推進室の
それこそが、人の住まう地球そのものをネット内に再現するV+R=Wプロジェクトだ。各組織の思惑によって想定以上のスピードで構築されていくV+R=Wプロジェクトは、わんこーろの協力により集積地帯の整地が済まされ、そして推進室によって拠点が構築された。
拠点はわんこーろの創り出した学校を中心として、幾つかの施設を追加した施設群によって形成されている。一期生たちへV+R=Wのルール等を教育するための教室棟、企業や個人配信者が開発した技術の試験運用を行ったりする実験棟、その他各配信者が休憩したり交流するための施設として寮や食堂、運動できる施設などが設けられ、その拠点面積は現実の塔の街とほぼほぼ同じだ。現実の塔の街は塔を中心として街が存在しているが、仮想世界は学校を中心として存在している。
そしてついに、この拠点へとV+R=Wプロジェクトの第一開拓団となる一期生が降りようとしていた。
企業所属、個人活動を問わず選ばれた配信者たちは、元々が秋に行われたV/L=Fの参加配信者がほとんどだ。NDSに慣れており、咄嗟のハプニングに対処できるその実力が認められた形だ。
さらに言うなら、一期生は皆V/L=Fの際に発生した塔の管理者による事件に立ち向かった者たちだ。配信者として視聴者を心配させまいと必死で振る舞い、その裏でわんこーろの為、この時代のヴァーチャル配信者の為に勇気を振り絞り立ち向かった。
そんな配信者達ならばどれほどの困難があろうと決して挫けることがないだろう。そのような思いを託し、彼ら彼女らへと招待状が送られた。そして、そのすべての配信者が招待状を受け取り、この
それは、ある意味室長たちが望む、若者たちが主導する世界への変化の第一歩でもあった。
推進室の関係者以外がまだ足を踏み入れたことの無かった大規模仮想空間、V+R=W。その空間へと次々に一期生として選ばれた配信者たちが降りてくる。
ある者は期待を胸に。あるものは不安を抱きながらも、決して前に進むことを止めない。現在V+R=Wに唯一存在している学校へと、一期生達は様々な感情を抱え、その校門をくぐっていく。
空間の安全性やNDSの個人設定やパスワード流出を防ぐために、初めてV+R=Wへ降りる際は配信は控えるようにと通達されており、それ故に配信者たちは視聴者のいない心細いまま、V+R=Wへとやってくるのだ。
配信者によってはグループ単位で降りてくることもあるが、それでも未知の空間、慣れないNDS配信環境というものが不安を抱かせる。
「みなさん初々しいですね~」
V+R=Wにはまだ大地と太陽があるだけで、季節という概念が実装されていない。実装されていたとしても、冬の季節であるため学校に植われた植物たちが花咲くのはまだまだこれからだっただろう。
けれど、校門をくぐっていく配信者たちの、不安と希望が入り混じったその様子は、さながら春の風物詩である入学式のようにわんこーろには思えた。
「わあ~~凄いですね~」
「おおー! おかーさが創ったときよりおおきいー!」
澄み渡る青空の下、広大な大地の中央に建設された巨大な施設に、わんこーろと狐稲利は感嘆の声を上げる。V+R=Wはわんこーろにより真っ白な空間へと初期化され、その後数日かけて空と太陽と、学校がつくられた。
だが、それ以外の建築物も、自然物も、もっと言うならあらゆる法則のたぐいさえも最低限しか設定されていないまっさらな空間だ。そこを、これから一期生達の手によってかつての世界を模した姿へと形作っていくわけだ。
「それじゃあ~いきましょうか~狐稲利さん」
「うんー!」
そうしてしばらく巨大な学校の姿を見上げていたわんこーろと狐稲利はその校門をくぐって中へと入っていく。
「あれ? あれって、わんこーろさん……?」
「ホントだ! わんころちゃん! それに狐稲利ちゃんも!」
「かわいい……やっぱ3Dモデルのクオリティやべーな……」
「フロサルだけじゃなくてわんころちゃんとも一緒とか……最高の学園生活じゃん……」
周囲の配信者が緊張した足取りな中、わんこーろと狐稲利は堂々とした姿で学校の敷地内へと入っていく。この世界と施設を作った本人として、見知ったものがあるのは多少緊張を緩和させてくれたようだ。
それでもわんこーろの存在に気付いた周りの配信者に少なからず羨望や尊敬のまなざしを向けられるとなると、さすがに口元が震えてくる。
「おかーさーみんな見てるよー?」
「意識させないでください~~」
表情には出ないように我慢しているわんこーろだが、その尻尾はくるりと丸まってお尻にぴたっとくっついていて、犬耳もへにゃんと垂れて力がないように見える。
わんこーろは直に見つめられることにあまり慣れていない。配信ならば数万人が同時視聴していたとしても見つめられているのはカメラ代わりにしている配信画面のみで、それほど緊張することはない。その分爆速で流れるコメントに目を白黒する姿が常ではあるが。
秋のV/L=Fでも多くの配信者に囲まれたことがあったが、あの時はわんこーろの周りをFS、特にわちるががっちりと固めていた。過去に行われたV/L=Fなどでファンとの交流経験も豊富なFSには慣れた状況であり、わんこーろもそんなFSと共にいることで終始安心した様子で他の配信者との交流を行うことができた。その後のV/L=Fでは九尾との戦いなどで他の配信者とまともに交流する機会もほとんどなく、結局わんこーろだけでこの数十人クラスの視線を一身に受けることなど今までなかったのだ。
「も~早くわちるさんたちと合流しましょ~」
「うんー! はやく"生徒会室"にいこー」
「あはは~……ナートさんなんかは喜んでそうな"設定"ですよね~……」
一期生がV+R=Wに降り立つまでに推進室は様々な情報を段階的に一般へと公開していった。それはあらかじめ運営と一期生との間で共有され決められた約束事などが、最終的に協力企業の了承を得られたことで公開された情報であり、V+R=WおよびV+R=Wで活動する配信者たちの配信をより楽しむための情報として一般の視聴者へと届けられた。
最初にメイクなどのSNSを通じてV+R=Wの形成は協力関係にあるわんこーろが担当するということが告知される。わんこーろもV+R=Wの仔細を知らない視聴者へ問題の無い範囲でV+R=Wを整地している様子のスクリーンショットを公開したり、室長は学校などの拠点の各施設の紹介動画をFS公式チャンネルで公開したりと、視聴者の期待を煽っていった。
そのおかげかV+R=Wに対する視聴者たちの想像と妄想は公式を置いてけぼりにするほどに拡大し、それは二次創作などによって一定の界隈にジャンルとして定着した。
簡単に言うとV+R=Wの拠点である学校を舞台として、一期生を登場人物とした所謂"学パロ"と呼ばれるものが創作者によって創作されたのだ。
学校の存在が公開されてから今日までそれほど時間が経過していないにも関わらず、絵や漫画、小説やSS、動画や3Dモデルなどありとあらゆる創作者が一期生の学パロを創造し公開していった。その結果ヴァーチャル配信者のファン界隈の中に一期生学パロというシェアードワールドコミュニティが誕生し、かなりの規模となり拡大を続けている。
元々仲の良かった配信者同士の学友設定はもちろん、面識のない配信者との妄想や歳の差による先輩後輩シチュエーションなどなど……その創作の勢いはサブカルチャーの枠組みの中でもかなりのもので、多くの人の目に触れる事になった。
そしてその学パロ二次創作でも人気の設定の中に"FS生徒会設定"というものがある。
学校の紹介動画を投稿したのが推進室の公式チャンネルというところから、推進室の運営である灯と室長は先生。推進室所属の配信者であるFSは学校を取りまとめる生徒会、という設定だ。
主に生徒会長はFSのリーダー的存在であるなこそが担当することが多い。基本だらけた様子のなこそ生徒会長の傍で彼女を支えるのは副会長、あるいは書記担当のしっかり者な寝子の役割であり、なこそを叱る寝子というのが定番の二次設定だ。その間で二人を諫めるのは新しく生徒会入りしたという設定のわちるである。
○一はもっぱらカッコいい風紀委員として描かれることが多い。また不思議なことにナートがなぜかお金の管理を任される会計である設定が用いられることが多い。
「ナートさんは意外と好きな分野に関しては知識がありますし~ある意味納得ではありますね~」
「なーとも喜んでたー。ホントに会計になったらー……おうりょう? しまくるーって言ってたー」
「んふふ~……突っ込みにくいボケですねそれは~」
余談だが、わんこーろはFSのようにスタンダードな二次設定が存在しない。そのほんわかとした雰囲気を前面に押し出して、学パロでは近所のお子さんや主人公の妹として登場することもあれば、犬守村創造の超常的な能力を主軸として物語の中核を成す謎の幼女として登場することもある。
「さて~それじゃあ生徒会室に行きましょうか~」
「わちるたち、集まってるかなー?」
また、これらの非公式な二次設定の数々はある程度FSに受け入れられる形で公式へと浸透していった。一期生の取りまとめ役とされるFSが話し合いの為に利用する一室がいつの間にか生徒会室と呼ばれるようになっていたのも、なこそが面白がってそう名付けたからだ。
しかし一部からは設定の逆輸入と呼ばれ、配信者自身の自由な言動が制限されてしまうのでは? という杞憂の声も聞かれた。
視聴者が設定した二次的な言動を、配信者自身がなぞってしまうことで配信者本来の言動がズレてしまうのではないかという考えだ。二次創作はあくまでファンが創作した作品に登場する、ファンが考えた配信者像であり、配信者そのものではない。
二次創作の原作たる配信者本人が二次設定をなぞるようなことをすれば、それは二次創作者以外のすべてのファンにとっての"解釈違い"と捉えられることもある。だが、最初に生徒会という名称を受け入れたFSはそれほど深刻には考えていなかった。
そもそも二次創作とは、原作に対する多大な愛によって生み出されるものだ。原作を読み返し、コミック化すればすぐさま購入し、設定資料集が発売されれば必ず予約する。アニメ化すれば毎週欠かさず視聴し、映画化すれば何度も見に行く。それでも溢れる愛を何かの形にしたくてたまらないという思いが、二次創作というものを世に生み出すのだ。
だから形作られた二次設定というものは原作を限界までリスペクトしたうえで自然と生み出される。
配信者とて考え無しではない。その二次創作が自身への愛によって創られたものだと理解したからこそ、その設定は原作たる配信者に受け入れられ、逆輸入される。
それはもはや二次に引っ張られたズレではなく、ある種の成長とも言い換えられるのでは無いだろうか。少なくともFSはそう考えて生徒会という名を気に入った。
「私もなにか欲しいなー……」
「狐稲利さんは~そうですね~元気な後輩みたいなイメージですね~運動が好きで~人懐っこくて~」
「ほー、後輩ー……"せんぱぁい!" ――こんなかんじー?」
「んふふ~なんだか新鮮でいいですね~」
「んー……でも、おかーさはおかーさだからーちょっといわかんー」
「あはは~」
二人の足取りは軽やかなもので、いつの間にか緊張はどこかにいってしまっていた。その後生徒会室に着くまで狐稲利は緊張する一期生に元気に先輩、先輩!と声をかけ、その場をほんわかしたものに変えたり、さらに緊張を加速させたりしていたとか。
今年の投稿はこれで終わりとなります。
今年も沢山の方にお読みいただき、本当にありがとうございました。
来年もどうかよろしくお願いいたします。