転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#176 クリスマスパーティー(中編)

「ナートみたいな事言いやがってぇ……」

 

「ふふふ……あら、残りの二人も来たみたいね」

 

 ○一の頭に手を乗せながらドアの方を見る真夜にならい、他のメンバーもドアに注目する。とてとて、という足音が廊下より聞こえてきたかと思えば、その直後にドアが勢いよく開かれ、小さな影が生徒会室に飛び込んできた

 

 そしてその影は空中でくるりと一回転するとわちるのもとへと落下し、その腕の中にすっぽりと収まった。

 

「わわっ!? え、ナナちゃん!?」

 

「なかなかアクロバティックな動きしてんな」

 

「ふむふむ~犬守村を離れてもやんちゃは健在のようですね~」

 

『うお!?』『俊敏すぎて何かと思った!さすが野生動物』『飼い主以外に懐くことで有名なナナじゃん』『登場の仕方からしてやんちゃな感じがうかがえるなw』

 

 生徒会室に飛び込んだ影の正体は件のキツネ、ナナであった。黒い前足でわちるの胸をたしたし、と叩き何かを訴えているナナをわちるはそのまま抱っこしてあやしてやる。

 

「こぉらあああナナ~~! 今日という今日は許さないよぅ~!」

 

「お姉様、落ち着いてください。他の皆様も集まっていらっしゃいます」

 

 その後生徒会室に入ってきたのは髪の毛がボサボサ状態のナートと、努めて冷静なほうりの二人だった。ナートは爆発頭を気にすることもなく、肉食獣さながらの唸り声でわちるの腕に収まるナナへと迫る。

 対してナナは未だわちるに甘え続けており、飼い主を完全無視している。

 

「お疲れほうり。…お姉ちゃん呼びは止めたのか?」

 

「お疲れ様です○一様。……さすがに人目のあるところでは恥ずかしく……」

 

「おつおつー。それよりほうりちゃん、アレ何があったの?」

 

「お疲れ様ですなこそ様。……それが、ナナちゃんが――」

 

 ナナは葦原町で人気のマスコットとして一期生および視聴者に認知されている。現在のV+R=Wではまだ動物の実装がされておらず、植物においてもガワだけが作られているという状況だ。最終的には犬守村のノウハウを生かした中枢による区画管理や、狐稲利の経験を基にした環境情報の更新および魂の実装なども行っていくつもりであるが、それはまだまだ先の話。一期生が降り立ったばかりのV+R=Wでは一期生以外の唯一の生物と言ってもいいだろう。

 

 現実世界でもペットを飼うことが出来るのは一部の金銭的に余裕のある層に限られ、その上小動物などに限定されていた。なのでほとんどの人間にとって触れ合うことの出来る動物というものは初体験なのだ。それ故にナナの存在は一期生にとって魅力的であり、興味をそそられる対象であった。

 

 そしてそれは視聴者も同様であり、一期生のV+R=W配信にナナが写り込むたびに配信者と共にコメントが盛り上がることも珍しくない。一期生は自作した食べ物などでなんとかナナを釣り上げようと頑張る者もおり、賢いナナはそれにあえて釣られる形で食べ物を得ているようだった。

 

 そして今夜は学校のあちこちで教室を借りたクリスマスパーティーが開催されており、ナナからしてみればまさに食べ物が手に入り放題の入れ食い状態な訳だ。食べ盛りのナナとしてはこのチャンスを逃す手はない。

 

 だが、そんなナナの振る舞いに眉を顰めるのは飼い主であるナートだ。このようなナナの振る舞いが今まで交流の無かった一期生の配信者と知り合うきっかけとなるなら喜ばしいことであるが、当然難色を示す配信者もいるだろう。配信者が良くても視聴者にはよく思われない事もあるかもしれない。

 

 それらの不特定多数の不満、ヘイトをナナがため込んでしまうのではないかとナートは不安だったのだ。

 

 一期生の配信者は運営によって選考された者たちであり、いたずらに危険な行為に及ぶような事は無いとナートも理解している。だが、V+R=Wは今後一般人の参加を予定しており、その時になればどうなるかは分からない。

 

 ナナを心配しているからこそ、ナートはナナに自重するように言い聞かせようとした。

 

 だが、ナートの言葉を無視してナナは今日もあらゆるところで目撃され、注目されていった。それに堪忍袋の緒が切れたナートはほうりを召喚しての大規模なナナ捕獲作戦を決行。

 

 逃げるナナに追いかけるナート。それを後ろからにこやかに眺めるほうり。結局学校中を追いかけまわし、何とかこの生徒会室まで追い詰めたわけだ。

 

『そんな心配することないと思うけどなあ』『野生動物をなめたらアカン。あいつら自分を傷つける人間の気配に敏感よ』『いくらナナとはいえそのくらいはわきまえてると思うが……』『心配になるのはわかるけどな』

 

 そんなほうりの話を聞いたわんこーろはなにやら申し訳なさそうにナートへ語り掛ける。

 

「ん~……視聴者さんの言う通りナートさんの想いはよくわかるのですが~心配は無用だと思いますよ~」

 

「へっ? な、なんでさ!?」

 

「ナナさんは犬守村の生まれですからね~。定期健診の際に私が3Dモデルと内部データの補強を行っておいたのです~。既存のウイルスのたぐいでは傷付けられません~もちろん、人に怪我を負わせられることもありませんよ~」

 

 わんこーろがナナに向かって両手を広げて、おいでと視線を合わせるとナナは何かを感じ取ったのか、わちるの腕の中から創造主であるわんこーろへと飛び移った。

 そのままわんこーろがナナの頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細め、なすがままだ。

 

「それに~この子は狐稲利さんと繋がっているんです~犬守村全体の情報更新と同じタイミングでナナさんの情報も更新してあげる必要がありますから~」

 

 何かあれば狐稲利さん経由で私に連絡がいきますと、わんこーろはいつものように緩やかな口調でそう言いナナを撫で続けている。ナナは何度か鼻を鳴らし、体の力を抜く。わんこーろから感じる故郷の匂いを嗅いで安心したのだろう。

 

『ナートの腕の中だとあれほど暴れるナナが……』『やっぱママじゃん』『母なる存在ってやつよ。創造神的な意味で』『とにかくナートのは杞憂だったってことでいい?』『おそらく』『それどころかナナをいじめれば即座にわんこーろへ通報されることが判明した』『ナートおつかれ~』

 

「ううぅ~……じゃ、じゃあわたしの今までの努力は無駄だった、ってことぉ?」

 

「だから大丈夫だと言ったではないですか。お姉様はもう少し人の話を聞いた方が良いかと」

 

「うぐう……」

 

「んふふ~ですけどナートさんが全部間違っているという訳ではありませんよ~? ナナさんは犬守村で生まれた故にとても賢いキツネさんです~。でも、野生動物であったことは変わりありませんので、ナートさんがしっかりと教育してあげる必要があります~」

 

 自然界では食べ物は食べられるときに食べるのが鉄則。それこそ冬のこの時期などは手段を選んではいられないというのが野生動物の考えだ。ナナはその野生本来の思考を実行したわけであり、まだ犬守村で過ごしていた感覚が抜けていないと分かる。

 

 ナナにはこれから家猫ならぬ家キツネとしての教育を施していく必要がある。わんこーろはそう言って寝息を立て始めたナナをナートへと返す。

 

「家キツネっていったって……どうすればいいのか分かんないよぅ……」

 

「まずは安心させるところからですね~。狩りはしなくていいんだよ~暖かい寝床はあるんだよ~って、安心させてあげるんです~。まあ、そのためにはナートさんとの信頼関係が必須なのですが~」

 

「うう……信頼関係かぁ……自信ないなぁ……あ、そういえばわちるんはどうしてるの?」

 

「え、私ですか?」

 

「そうそう、ヨルちゃんの教育ってどうしてるのかなーって」

 

「うーん……私は特に教育というものは……ね、ヨル」

 

 わちるが腕を横に伸ばすと、不意にわちるの足元の影が揺らめき、とぷん、という音を立てて大きな影が波打ち、羽ばたいた。舞い散る黒い羽根は数舜の内に空気に解けるように消え去り、後には黒く大きな三本足のカラスがわちるの腕を止まり木代わりにして羽を休めていた。

 

『うお!いきなり現れた!?』『召喚したみたいでカッコいい……』『しかしほんとにデカいな…』『犬守村見てると分かるが一般的なカラスのデカさじゃねーんだよな』『だがおとなしいという』

 

 犬守村という仮想空間を外部より防衛する意図で創られたわんこーろ製の魂実装済みAIヨイヤミ、かつてその一体であったヨルは巨大なカラスに姿を変え、わちるの影に潜んでいた。影より現れたヨルはわちるに顔を向け、そのくちばしの側面で優しくわちるの頬に触れる。ヨルなりの愛情表現のようだ。

 

「こんな感じであまり外には出てこないんですけど、私が呼んだら来てくれるんです。素直でいい子ですよ?」

 

「ええ~なんでぇ?」

 

「ヨルさんは元々ヨイヤミさんの一体でしたからねぇ~……まじめな性格なのかも知れません~」

 

「むう……なんだか納得いかない……」

 

 ナートはすやすやと自身の腕の中で眠るナナを見て複雑そうにしている。わんこーろの、ナナを教育するべきという言葉はもっともだが、だからといって万事上手く育てられるかと問われればナートは決して首を縦には振れないだろう。自身でさえまだまだ子どもだという自覚のあるナートにとって教育、ともすれば子育てなど出来る自信が無い。

 

 少なくとも、わんこーろにとっての娘である狐稲利のようには。

 無意識に狐稲利へと視線を向けるナートに気が付いたのか、狐稲利はにっこり微笑んだままナートへ視線を向ける。

 

「んー? どーしたのナートー?」

 

「い、いや、何でもないよぅ」

 

 慌てて視線を切るナートの様子を不思議そうに伺いながら、狐稲利は何でもないように、先ほどの会話から思ったことを口にした。

 

「んふーこれからはナートもおかーさだねー!」

 

「へあ!?」

 

『ふぁ!?』『おおっと』『おや?』『ナートがお母さん……?』『なるほど……』『なんだか察してるコメントがあって怖いんですけど…』

 

「だってーナナのおかーさになるんでしょー? 教育って、そういうものだって、おかーさが言ってたー」

 

「……私が……お母さんに……あ! ちょ、そう言う事じゃねーからなお前ら!! 誤解すんなよぅ!?」

 

『じゃあどういう意味で言ったんだよ』『誤解も何も正しくその通りだろうが』『ナナのお母さんになるというのはそういう事だろ!?』『変な想像をしないでくれますか?』『ナートの頭はピンク色』『普段やべー妄想してるのがバレてるぞナート!!』

 

「さーて、それじゃあみんな揃ったしクリスマスパーティー始めよっか!」

 

「はい」

 

「よっしゃ、お前ら好きな席座れ座れ」

 

「わんこーろさん、お隣いいですか?」

 

「ええもちろん~」

 

「ほらナートちゃんも。視聴者もみんな待ってるから」

 

「待ってるかコレ!? 殆ど私をからかってるだけに見えるが!?」

 

「お姉ちゃん、そうやって狼狽えた姿を見せるのがいけないんですよ」

 

 生徒会室に集まった面々によって部屋は何となく狭く感じてしまう。それぞれが席に座ったのを確認した後、真夜が飲み物を注ぎ配り、寝子がケーキを正確に切り分けていく。それぞれのお皿に盛られたケーキはその断面の美しさに誰もが期待を込めた声を上げ、視聴者さえもその美しさを褒めるコメントを書き込んでいく。

 

 冬の寒々しい空気の中でもそんな雰囲気は暖かさを生み出してくれる。狐稲利の頬についたクリームをふき取ってやるわんこーろの姿や、ナートに恥ずかしそうにあーん、を要求するほうりや、○一が真夜のショートケーキのイチゴを強奪したりと様々なことがあったが、各自がケーキを食べ終わった頃、ついにメインイベントであるプレゼント交換会が行われようとしていた。

 

 

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