転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#177 クリスマスパーティー(後編)

 

「ふわぁあ~~んにゅ……」

 

「ん~狐稲利さんおねむですか~?」

 

「んー……だいじょぶ……」

 

「もういい時間だからね。後はプレゼントの交換だけだし、ぱぱっとやっちゃいましょうか」

 

『さすがに子供は寝る時間か』『他の一期生もぼちぼち解散し始めてるし、頃合いかね』『メインのプレゼント交換まで意識を保つのは難しいか』『これはしょうがない』

 

 ケーキを食べたことでお腹いっぱいになった狐稲利はそれまでの元気さがすっと静まり、口数も少なくなっていた。今までの経験からそれが狐稲利の電池切れの合図だと理解しているわんこーろは優しく狐稲利に問いかけるが、その返事もたどたどしい。

 

「それじゃあみんなプレゼントを机の上に出してください」

 

「なんでそんな持ち物検査するみたいな口調なんだよぅ……はい、これが私の」

 

「そういやこの学校じゃあ持ち物検査とかすんのかね……ほらよ」

 

「持ち物なんて制限しても意味ないんじゃないかしら? あ、これ私のね」

 

「ん……私もー……」

 

 寝子の言葉でそれぞれが持ってきたプレゼントを机の上に置いていく。大きな包みや細長い箱など、様々な形のものが綺麗にラッピングされている。狐稲利も美しく包装された小箱をふらふらしながらもなんとか置くことに成功した。

 

「……ええと、どうします?」

 

「クジでいいんじゃない? プレゼントとクジに番号ふって、一人ずつクジを引いていくの」

 

「自分のを引いたらやりなおしか、他の人のと交換。そのあたりは適当でいいんじゃないかしら?」

 

「まあそれほど堅苦しいもんじゃねーしな」

 

「それじゃあ~クジ出しますね~。は~い」

 

 宙に生み出された白い立方体はわんこーろが触れることで薄く引き伸ばされ、九等分される。細長く形成され紙となったそれの表面には1から9までの番号がふられ、ごちゃまぜにされた後、裏返しになって机の上に着地した。

 

「さてさて~誰のプレゼントになるのでしょうか~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレゼント交換会が終了した後、船をこぐ狐稲利が完全に夢の中に旅立つ前に犬守村へ帰ろうとしていたわんこーろだったが、その狐稲利がまだ帰りたくないと駄々をこねたので生徒会室の奥にある部屋で少し休憩していくこととなった。

 

 このまま寝入ってしまうのがほぼ確定したことにわんこーろは仕方ないと肩をすくめ、部屋に設置されていたこたつの中で温まっていた。

 

『生徒会室の奥ってこうなってんだな』『初めて見た。普通に居住スペースになってんな』『やっぱこたつあるんだ…』『それもかなりでっかいやつなw』『でも全員で入るとやっぱ狭いなあw』

 

「んふー……すう」

 

「あらあら、狐稲利ちゃんたらプレゼント抱きしめて寝ちゃったわね」

 

「それだけ嬉しかったのだと思います~。誰かにプレゼントをもらって、おくるなんて初めての経験だったでしょうから~」

 

「交換会、してよかったですね。しかし……」

 

 こたつで横になる狐稲利の腕の中には交換したプレゼントの中でも特大のものが納まっている。一体どのようなプレゼントなのか本来なら気になるところなのだが、そのプレゼントを用意したのが、なこそであるという事実がプレゼントの中身が何なのかを確定させていた。

 

「絶対にボードゲームだよあれ」

 

『ですよねー』『もはや大きさでお察しよ』『ボドゲ布教に余念がないなこちゃん草』

 

 ナートの言葉に異論を唱える者はいない。当のなこそでさえ、うんうんと力強く頷いているのを見ると、疑う余地さえ無いのだろう。

 

「ふふふ……ただのボードゲームじゃーないんだなこれが。購入すれば数万はくだらないという伝説のボードゲームだよ!」

 

「数万て」

 

「過去に存在していたものは木製の超高級品だったって話でね、それを再現してみたんだ」

 

 なこそがプレゼントとして持ってきたのは大型のボードゲームだった。プレイヤーは土地を開拓して資源を得、領地を発展させていくという趣旨のゲームであり、とにかく全てにおいて規模が大きい。

 土地の役割をするマップタイルや資源の形をした駒や地形、建築物のコンポーネントなどは専門の模型ばりに精巧に造られており、それを眺めているだけでも楽しめる。さらに特筆すべきはこのゲームのプレイ時間の目安が、なんと数時間以上に設定されている事だろう。

 物理的なプレイスペースも、プレイ時間という意味でもとにかく巨大なボードゲーム、なこそがプレゼントしたのはそんなボードゲームだった。

 

「この世界ならそんなボドゲも作り放題! いやー最高だね。あ、もちろん権利関係諸々オーケーなやつだけだけど」

 

 そう言いながらなこそは自身が受け取ったプレゼントを開け始める。贈ったプレゼントについて説明している間に、自身の手の中にあるプレゼントが気になってしまったようだ。手に収まる程度の大きさの箱の包装を丁寧に開けていくなこそを見て、ナートは何気なく質問する。

 

「そういえばなこそちゃんの持っているプレゼントってだれのだっけ?」

 

「あれはわんこーろさんのですね」

 

 ちらりとなこその手元を見た寝子が即答する。何でもないようにそう言った寝子は次の瞬間には自身のプレゼントに意識が戻っていた。どうやらなこそや寝子だけでなく皆が受け取ったプレゼントの中身が気になるようで、おもむろにプレゼントを開け始めた。

 

 

 それぞれがプレゼントの中身を取り出そうと包装を解き、最初に声をあげたのはわんこーろだった。

 

「おお~これはマフラーですね~! ん~もこもこしててあたたかい~」

 

「あっ! それ、それ私がプレゼントしたのです! わんこーろさん!」

 

『いきなり立ち上がらないでわちるん?』『テンション上がりすぎて声がキモくなってますよ?』『わちるんの念が確率を操作した瞬間である』『わんころちゃん狙い撃ちみたいなプレゼントで草』

 

「ありがとうございますわちるさん~! 犬守村の冬は厳しいですから~使わせてもらいますね~」

 

「ぜひ! ぜひぜひ使ってください! こんな感じで狐稲利ちゃんと一緒に巻いても暖かいですよ!!」

 

『まあ確かに役立つプレゼントだよな』『ありがとわちるん!』『今でもふわもこなわんころちゃんがさらにふわもこに!』『というかなぜ二人で一緒にマフラー巻いてるんですかねぇ』『これがしたくてマフラーにした説』『これには横のナートも引き気味』『さてそのナートのプレゼントは誰のかなー?』

 

「ん? ええと私のは……え、これは……」

 

 ナートが手に持ったものは綺麗に装丁された一冊の本だった。落ち着いた深緑色を基に、悪目立ちしない程度に金属で装飾された分厚い本の姿をしているが、中身は最初の目次と思わしきページ以外全くの白紙だった。

 

「ナートお姉ちゃんのは私のですね。おすすめの電子書籍100冊です。ご感想お待ちしております」

 

 目次に表示されている文はどうやら本の題名であるらしい。指先でタップすると白紙だった本にその題名の本の中身が表示されるという仕組みになっている。この本一冊で100冊もの本を楽しむことができるという事だろう。

 

「うっ……なんだか専門書のようなものも含まれているような気がするのですけど寝子ちゃん……?」

 

 本を読むことは苦痛ではないが、その内容に思わずナートは声が震えてしまう。恐る恐る寝子の様子をうかがうと、何ともいい笑顔でナートへと微笑み返してくる。見えない圧を感じたナートはただ震えたままの声でなんとか感謝の言葉を述べる。

 

『寝子ちゃんらしいチョイスだな』『本の形にしてるのがお洒落でいいのう』『専門書てお高いからなかなか読めないぞ!よかったなナート!』『ネット上の図書館でいくらでも閲覧できるんじゃ……?』『しっかり全部読むんだぞナート!』『まさか嫌とは言わないよね?寝子ちゃんからもらったプレゼントなんだから』

 

「う、ぐ…覚えてろよナー党どもぉ……」

 

 そしてその横ではほうりが小さな小箱からプレゼントを取り出していた。

 

「ふふ……あら、これは……髪飾りでしょうか?」

 

 中に入っていたのは花をモチーフにした髪飾りだった。今の季節に合うようにと大きな白い花を用いた髪飾りは仄かに花の香りがして見た目以外でも楽しむことができるものだ。ネットの中ということで花は枯れず、香りは絶えることがない。

 

「うう……ほうりのは私のプレゼントだよぅ……女子力皆無な私じゃそれが精一杯のプレゼントだったんだよぅ……」

 

「! ……ありがとうございます。大切に使わせて頂きますね」

 

「私のは……わあ、時計です!」

 

「ワタシのだな。まあどーいうものが良いのか分かんなかったから実用重視と思ったんだけどよ……」

 

 わちるの声に○一は申し訳なさそうに頭を掻く。この葦原町はV+R=Wであり、ネット空間である。それ故に時間を確認したいのならばわざわざ時計など用意しなくてもウィンドウを展開すればすぐさま確認できる。

 だが、そんなことはわちるには関係がない。○一がこの日の為にわざわざ選んでくれたという事がわちるにはうれしくて仕方がなかった。

 

「いえ! とっても綺麗です! ありがとうございます○一さん!」

 

 ○一が贈った懐中時計をわちるは胸に抱く。美しい装飾が施された、どこか懐かしいその時計をわちるは何度も確認しながら○一へとお礼を言っていた。

 

 その後もプレゼント開封は続き、○一は真夜からおとなしめの銀のイヤリングを受け取り、恥ずかしそうにしながらお礼を言ったり、ナートがほうりより高級万年筆を模したペンをプレゼントされていたりと比較的楽しく進行していった。

 

『みんな思ったよりもまともにプレゼント選んでたんだな』『ネタでやべーもんを持ってきた奴はいなかったか』『何名か配信で映せないエグイものを持ってくる可能性もあったからな』『平和でよかった…w』『ナートも意外とセンスいいプレゼントだったしな』『今回の交換会はなかなかに良かった。特にわちるんのがわんころちゃんにいったり、ナートのがほうりのところにいったり見どころ沢山だわ』『確率の神様もカプの尊さをよくわかってらっしゃる』『草』『しかし姐さんあのイヤリングは付けるのだろうか?』『そりゃ付けるでしょ。付けなきゃ真夜に強制的に付けさせられるだろうし』『もう完全に○一さん受けなんよ』『ほうりさんの万年筆これなに?と思ったけどどうやら絵描きツールか』『絵下手なナートの下にこのプレゼントがいったということは…?』『使わないわけにはいかないよね。お絵描き配信待ってるぜナート』『しっかしやっぱわんころちゃんのプレゼントは凄かったな』『サルベージデータで見たことはあるけど想像以上にきれいだよな』『クリスマスらしいプレゼントとしてはわんころちゃんのが抜きんでてるな』

 

 特に視聴者を含めた全員の目を引いたのはわんこーろが製作し、なこそにプレゼントされたスノードームだった。球体状のガラス容器の中には小さく犬守村の風景が再現されており、よく見れば犬守神社や田んぼの場所も確認することが出来る。容器の中に満たされた液体に交じった銀箔が、容器を揺れ動かす度に動き回りまるで雪のように小さな犬守村へと降り注いでいく。

 

 交換されたプレゼントの中でもなかなかに手の込んだ一品であったため、受け取ったなこそだけでなくわちるや寝子が興味深そうにスノードームを眺めている光景がその後長い間続いていた。

 そんな姿になこそは仕方ないとばかりに肩をすくめ、スノードーム自体はこの生徒会室に置いておく事となった。

 

 

 そして最後、寝子が持つ両手に載る程度のプレゼントのみとなった。

 

「残るプレゼントはええと……狐稲利ちゃんのものかな」

 

「狐稲利さん、プレゼントをどうしよかと凄い悩んでおられたんですよ~」

 

「わんこーろさんも中身は知らないのですか?」

 

「はい~皆さんと一緒に見ようと思いまして~」

 

 寝子以外の全員がプレゼントを確認しその結果寝子の持つプレゼントの送り主が狐稲利であることが分かり、開封する寝子の手元に視線が集まる。

 その視線は何処か温かく、微笑ましいものを見る目だ。

 

 というのも狐稲利はこれまでも犬守村に遊びに来たFSのメンバーに大きなどんぐりや、鮮やかに色づいたモミジの葉を手渡したりと小さな子どもらしいお土産をいつも手渡している。

 よく犬守村へ遊びに出かけているわちるなどは個人管理している仮想空間の一角に狐稲利から貰ったお土産が保管されているお土産ボックスが設置されているほどだ。

 小さな子供らしいそんな狐稲利のお土産は自然に触れたことが少ないFSのメンバーにとって大変好評で、まさしく宝物として大事にされている。

 

 なので、このプレゼントの中身がどういったものかはメンバーのほとんどがある程度予想出来ている状態だった。

 犬守村の自然を感じられる一品なのは間違いない。それは一体何なのか、その場にいる面々は期待しながら寝子が箱からプレゼントを取り出すのを見守っている。

 

 そして寝子が両手で持ち上げた中身を見て、FSは疑問から首を傾げ、わんこーろは目を見開き驚いた。

 

『ん?』『これは?』『配信画面からはちょっとよく分かんないな』『なーんか丸い透明なの?』『寝子ちゃんなにそれー?』

 

「? これは……地球儀……でしょうか?」

 

「かなり小さいけどそうみたいだねぇ……それにしても綺麗」

 

「ガラス製の地球儀ってとこか?」

 

「あらオシャレねえ」

 

 寝子が取り出したものは手に収まるくらいの大きさの、透明な球体だった。表面は微妙な凹凸加工がされておりそれは地球の大陸を表しているようで、かなり精巧な代物のようだ。地球儀は向こう側を見通せるほどに透明度が高く、表面は美しく研磨され光を反射し、あるいは透過してゆく。その微妙な光の屈折が大陸の形をより鮮明にさせる。

 

「ん? でもこれなんか入ってない?」

 

「ホントだ。なんだろこれ?」

 

 だが、そんな球体の中に寝子は不思議な気泡を見つけた。それは寝子が地球儀を動かす度に中で動き、何やら液体が入っているらしいと分かる。

 

「中に水が入ってるみたい。これも不思議で綺麗だね」

 

「綺麗だが、ちょっと意外かもな」

 

 ○一の言葉に皆が、確かに、と心の中で呟く。寝子が受け取った地球儀は確かにインテリアとして高いクオリティを誇っており、プレゼントらしいプレゼントといえた。美しすぎるほどの透明度と精密な表面加工は人工的な物体に機械を用いた加工を施したかのごとく完璧な姿としてそこに在った。

 

 だが、犬守村の自然を感じられるものであろうと予想していた面々にとってそのプレゼントは、嬉しいが疑問が残る選択のように思えたのだ。

 

 ……わんこーろ以外は。

 

「こ、これは~……」

 

「わんこーろさん?」

 

「どうかされましたか?」

 

『どったのわんころちゃん?』『わんころちゃんの驚いた顔珍しいな』『いつもサプライズする側だしな~そんなびっくりするモンなのか?』

 

 不意に地球儀に手を伸ばしたわんこーろの姿に寝子とほうりが声に戸惑いを滲ませる。あまり見ないわんこーろの様子に全員が注目し、地球儀を手に取ったわんこーろの言葉を待つ。

 

 地球儀の重さ、透明度、あるいは手から伝わる冷たさ。何よりもその地球儀に内包されている情報からわんこーろはそれの正体を確信した。

 

「……水晶ですね、これ~」

 

「へ?」

 

「水晶って、あれか? 宝石の?」

 

「え、ちょっとまって、つまりこれって……水晶の加工品なの!?」

 

『へ?』『え、あ、マジ?』『はあああ!?水晶って……ええ!?』

 

 わんこーろはガラス製だと思われていた水晶の地球儀を寝子へと返す。寝子は驚いた様子であったが、なんとかそれを受け取り両手で丁寧に包み込む。誤って落としてしまっては大変だ。

 

「しかも水入り水晶ですね~。よく見つけましたね狐稲利さん~」

 

「見つけたって……これ犬守村の水晶なのか!?」

 

『まさかの天然もの!?』『ほんと犬守村なんでもあるな!?』『うっそだろおい!』『貴重ってレベルじゃねーんだけど!』

 

 宝石の中でもあらゆる地域で採れる水晶はその広い産出地と産出量から他の鉱物と比較して安価な宝石として認知されている。嗜好品のたぐいも規制されていた効率社会においては宝石というものを手に取ったことのない者が多く、若者においてはそもそも過度に高価な装飾品に興味の無い層もいるが、それでも水晶を含めた鉱物、宝石の存在は広く知られていた。

 

 というのも現在この国に住む住民のほとんどは地下に住んでおり、地下の居住施設の拡張工事が頻繁に行われている。その際に様々な鉱脈に到達することがあり、住民が購入できるかどうかは別として、それらの鉱物の産出に関する情報は時折ニュースなどで目にすることがあったのだ。

 

 最近では発掘された数千カラットのダイヤを紹介するニュースなども報道されており、現在の文化復興の流れに乗ってそれらの装飾品や鉱物そのものへの若者の関心は増加傾向にあった。

 

 それ故に、FSの面々は狐稲利が犬守村より採掘してきたであろうその水晶を見て驚くしか無かった。水晶とはいえその大きさはかなりのものであり、透明度も高い。水晶の中ではその純粋さは希少であり、さらにこの地球儀を希少たらしめているのは、例の内容物だ。

 

「水入り水晶は水晶の成長と共に中に水が閉じ込められたものです~。この中に入っている水は犬守村の水ですよ~」

 

 水晶はその結晶を構成する過程において不純物などを巻き込むインクルージョンを起こしやすい鉱物であり、水晶の内部に別の鉱物が混入しているようなものも存在している。その中でも液体である水を巻き込んだ水入り水晶はかなり希少であり、価値も高い。見た目の神秘性もさることながらその価値が高いのは内包されている水が太古の地球環境を知るための重要な資料であるからだ。

 

 寝子がプレゼントされたその地球儀は水晶球に美しい加工技術をもって大陸の姿が掘り込まれ、内部は大量の水が封じられている。その姿はかつて青い水の星と呼ばれていた地球を表しているように見え、命の源たる水を内包しているという点においても地球という星を示しているように見える。実際に狐稲利がそこまで考えて水入り水晶を地球儀へと加工したかは寝ているので分からない。

 だが、この地球儀は紛れもなく犬守村産のものであり、その自然を感じられる一品であることは確実だ。

 

 

「かつてのこの国でも少々産出したという記録はありますからね~犬守村は過去のこの国の環境データを基に創造しているので~土地生成の過程で偶然一緒に創られたんでしょう~」

 

「はえ~……すっご……てか犬守村で水晶採れんだ……」

 

「水晶だけではないと思いますよ。犬守村には火遊治の火山がありますから」

 

 わんこーろが予想した通り、その地球儀はけものの山に存在していた水晶を狐稲利が採取し加工した一品だ。過去に存在していた鉱物の採取記録などをサルベージし、採取地の条件を把握した狐稲利がけものの山から掘り出したそれは、予想以上に巨大なものだった。水入り水晶だったのは狐稲利も予想していない偶然の産物であり、故に狐稲利はその加工に細心の注意をはらい、かつ母親にも見つからないように作業を行っていた。

 すべては今この瞬間のため。母親に似て他人を驚かせ、喜ばせることが好きな狐稲利はプレゼントとしてこの水入り水晶の地球儀を作ったのだ。

 

 なお本人はこたつの中で幸せそうに眠っているのでそんな皆の驚いた反応を見ることは叶わなかったのだが。

 

「私も知りませんでした~水晶あるんですね~」

 

「いやいや、なんでわんこーろちゃんが驚いてるのさ」

 

「犬守村も大きくなりましたからね~環境のすべてを把握するのは無理なのですよ~」

 

「でもわんこーろさん、鉱物があるってことは鉄や金などもあるんじゃないですか? 金属製の道具も作れるようになるんじゃ?」

 

「う~む……犬守村で冶金技術の発展ですか~……難しそうですね~」

 

「でも楽しそうです!」

 

「冶金と言っても基礎から始めるとなると大変ですよ。まずは鉱脈を見つけて、炉を造らないと」

 

「あ、炉といえばサルベージした過去データになぜか反射炉っていう炉のデータがかなり多かったんだよね。炉の構造とサルベージした時代的になんでこんなに詳細な情報が残ってるのか疑問だったけど」

 

「私も確認しました。なぜか異様な数のデータが復元できたんですよね」

 

『ああ、あれね~』『本当にあのデータ群は謎の謎。時代も何もかもおかしいのになんであんな膨大なデータが残っていたのか』『データ群の中に稼働実績なんてものも含まれてたんだっけ?』『一体何があったのか…』

 

「その時代に造ってたんじゃね? 反射炉」

 

「まさか。かなり古い設備ですよ?」

 

 話は水晶の地球儀から犬守村の鉱石や鉱物に関しての開拓の話へと移っていく。

 寝子の言うように犬守村には火遊治火山という活火山が存在している。火山は噴火の際に周囲に噴出物をまき散らすわけだが、その中には地中に存在していた鉱石や鉱物が交じっていることがある。

 火遊治の火山は一度創造する際に大きな噴火を伴いその姿を形成した歴史があり、故にその周辺はマグマが覆った地層となっている。そのあたりならば珍しい鉱石なども見つけられるのでは無いだろうか。

 それに深く掘れば様々な鉱脈を発見することも可能かもしれない。

 

 そんな話を聞いたわちるはウキウキで今後の犬守村の発展について考えをめぐらしている。金属加工ができるようになれば農具をはじめとした様々な道具に金属を利用できるようになるし、木材より腐食しにくい金属は建材としても優秀だ。もちろん合金を生み出せる程度に技術を向上させなければ錆が酷いし重いし加工は難解だしとデメリットの方が多いわけだが。

 

「鉱脈の調査と~、炉……資料がそろっている反射炉ですかね~造ってみようかな~」

 

「まさかこの地球儀が犬守村発展のきっかけになるとはね」

 

「狐稲利ちゃんのお手柄ですね」

 

「本人は涎垂らして寝てっけどな」

 

『狐稲利ちゃんえらい!』『寝てる…!けど偉いぞ!』『ついに犬守村にも金属加工技術が…!』『これはまた一大事業になりそうな予感』

 

 眠る狐稲利の頬を優しくツンツンする○一の指先に、むうむうと寝ながら抗議する狐稲利は、それでも幸せそうに寝続けている。

 その後はナートや真夜がそのプレゼントを写真に撮って(スクショして)メイクに投稿したり、唐突にナートが自身の枠で突発配信をしてプレゼントを自慢する視聴者との煽り合いを始めたり、最後までわちゃわちゃとした雰囲気のままだった。

 

 結局寝ている狐稲利をそのままにするわけにもいかず、わんこーろはボドゲを抱いて眠る狐稲利と一緒に葦原町で一泊するのだった。

 

 

 冬の空気を感じられる葦原町のクリスマスは、まだまだ一期生達によって夜遅くまで続いていく。遠くに聞こえる楽しそうな声を聞きながら、わんこーろも狐稲利の隣で眠気に身を任せ、まどろみに任せるように眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実世界は気温の上昇によって雪は降らず寒さもそれほどではない。それでもやはり寒いものは寒く、夜になれば気温の低下は顕著に感じられる。

 

 推進室の拠点としている塔の街もそれは例外ではない。完全な温度調整が行われている地下居住区と異なり地上の都市はその気温がダイレクトに感じられる。

 地下に住む人間は地上の生活に憧れを抱いているが、彼らが思うほど地上の生活とは夢が見られる環境では無い。

 

 わずかに地形や環境によって汚染が広がらず、安全地帯となっている地上都市"特区"も結局は富裕層が地上に住んでいるという特権を自慢したい為のものに過ぎず、完全に汚染の除去と防御が出来ているのは塔の街以外に存在しない。だが、それ以外の自然由来な環境の厳しさは防げるわけでなく、マイクロマシンは寒さまでは防いではくれない。

 

「……ふむ」

 

 椅子の背もたれにもたれかかった室長は眉間に皺を寄せ、難しい顔で情報端末を睨みつける。端末には異なる言語で書かれたメールが表示されており、その内容を読む室長は小さくため息をつく。

 

「何が問題なんだ? 指定施設は既に投棄されたもののはずだが……」

 

 端末の画面に向かって室長は独り言を呟く。映し出されたメールは合衆国からのもので、例の天文台の調査依頼についてだった。

 既になこそが持つ40年カレンダーを理由に破棄された天文台のサーバーへのアクセス許可を願っていた室長だが、それは既に何度も拒否されていた。

 

 環境関連の施設でも様々な用途があり、その機密性も確かに他所よりは厳しい傾向にある。だが、例の天文台は既に本来の役割を終え、ただ建物と通信設備が取り壊されていないだけの抜け殻のような状態だった。こちらが知りたい職員に関する情報も、他所に漏らすようなことはしないし、そのための契約書さえ用意してもいいくらいだ。

 既に古い時代遅れの施設となった天文台の情報の開示を求めただけであり、そしてかなりの条件を飲み込んでの交渉にも関わらず合衆国は推進室の要求のことごとくを拒否した。そしてその拒否理由も明らかとなっていない。

 

「あの天文台に何があるというのだ……?」

 

 ここまで合衆国が情報の開示を渋るのは珍しい事だった。

 推進室は世界的に見ても屈指のサルベージ機関であり、そのレベルの高さはわんこーろと関係を持った事で、もはや追随する者無しの独走状態と言っても良い。情報のサルベージならば推進室へ依頼するのが最も安全で確実だと言われるほどであり、そのため国内外から情報のサルベージ依頼が後を絶たない。

 その依頼主の中には合衆国の政府機関も含まれており、どちらかと言えば推進室の方が立場が上な関係性が構築されていた。

 

 だが、そんな推進室からの依頼を合衆国は既に何度も拒否していた。

 

「……合衆国の国立天文台……かつては天体の観測や地球外からの情報を得るために設置された施設……ふむ」

 

 情報端末を操作し、室長はいくつもの資料を表示させる。例の天文台は決して秘密裏に建造された施設では無く、行こうと思えば一般人でも見学する事ができるような施設だった。そのため天文台についての情報は比較的簡単に集めることができる。

 

 その天文台はかつて合衆国領内で最も高い山の上に建設された天文台であり主に星々を観測することを業務としていた。また地球外からの情報を取得することも業務の一つとされ、それはつまり地球外から発せられたメッセージ、つまりは地球外生命体の手がかりを見つけることだった。所謂地球外知的生命体探査(SETI)と呼ばれるものだ。

 だが、それらの業務を担っていた天文台も、合衆国に副塔が建造されるとそちらに機能がほぼすべて移設される事になり、放棄されることが決定した。

 

 天文台の存在する山頂は"特区"レベルに汚染濃度が低いのだが、代わりに破壊されたオゾン層より降り注ぐ強度の高い紫外線によって人が活動するにはかなり厳しい環境だった。そのため天文台は解体することもできず、そのまま放置されていた。

 

「ん……? これは……」

 

「室長、お疲れ様です」

 

「ああ、灯か。おつかれ」

 

 深く資料を読み込んでいた室長に声をかけたのは灯だった。室長の分のコーヒーと、手作りらしいクッキーが載せられた皿を端末の横に置き、室長の横に座った。

 

「メリークリスマス。ですよ室長、はいあーん」

 

「む……、美味しそうね」

 

 クッキーの一枚を手に取り室長へと差し出す灯。にこにこと微笑んだままの灯とクッキーに視線を合わせ、室長は少しためらった後そのクッキーに口を付けた。

 

「ふふ、どうですか? 美味しいですか?」

 

「ああ、美味しい。さすがだな」

 

「本当は葦原町に行ってるあの子達みたいにケーキを作りたかったんですけどね」

 

「仕方ないさ。まだ現実ではな」

 

 クッキーは香ばしい風味と甘くサクサクとした食感が楽しい一品で、灯の料理の腕前によってまるでお店の商品ほどのクオリティに仕上がっている。昨今の料理文化の復興具合によりお菓子などの嗜好品を作るだけの材料は一般の市場に出回りつつあった。

 

 とはいえそれは塔の街や特区に限った話であり、地下住みの人間にはまだまだ馴染みのない食べ物であった。

 

「次はチョコチップ入りのものを作ってみますね」

 

「ああ、楽しみにしておくよ」

 

 優しい味わいのクッキーを食し、コーヒーを飲む。隣で灯がクリスマスソングを口ずさむ。いつの時代の歌なのか彼女達には分からないだろうが、それがクリスマスの歌であることは何となく分かった。

 

 灯の歌をBGMにして室長は端末を静かに操作していく。

 

 雪は降らずとも少し冷え込む夜の塔の街は、変わらずゆったりと時間が過ぎていく。今頃葦原町では一期生がそれぞれ思い思いのクリスマスパーティーを楽しんでいる事だろう。どの動画投稿サイトもメインページに大きく一期生の配信を広告し、その話題性を利用している。それが彼ら彼女らが現代に生きる若者たちの代表的な立場で有ることを明確に示していた。

 

 そして、そんな一期生を支える推進室の運営である室長と灯は二人ひっそりと寄り添ってそんな一期生の活躍を陰で見守っていた。

 

「皆さんたのしそうですね」

 

「あの子たちが自身の為に作り上げた世界だ。楽しくないわけがないさ」

 

「ふふ、そうですね……ところで、室長は何を見ていたんです?」

 

「ん? ああ……これさ」

 

「……なんですこれ? 雑誌……?」

 

 灯は室長の端末から覗くなにやらけばけばしい色をした資料に思わず顔を顰める。灯の記憶違いでなければ室長が閲覧しているのは天文台についての資料だったはずだ。室長だけでなくわんこーろや灯自身が手伝って関係のあるだろう資料を片っ端から収集したもので、ほとんどの資料は白の背景に黒色の文字が並んでいるだけの簡素なものだったはず。時々図解や映像データが添付されていることがあるが、ほとんどは堅苦しい文章が理路整然と並んでいるだけに過ぎない。

 

 だが、室長が見ている資料は何とも異様な姿をしていた。紫の背景に赤や緑の文字が踊っている。それも大きさやフォントもバラバラで読みにくい。いや、読みにくいというよりも書かれている内容自体が理解しにくい複雑怪奇な様相であった。文字も内容もあっちこっちへ飛び散りごちゃごちゃでぐちゃぐちゃなのだ。

 この資料を作成した人間は一般には無い独特な感性の持ち主だったのだろうと思えてならない。少なくとも灯はそう感じた。

 

「これは資料というよりは、当時発行された雑誌をそのままデータ化したもののようだ」

 

「雑誌……これを読む人がいたんですか……?」

 

「なかなか面白いだろ?」

 

「……はい、まあ……冗談としてなら」

 

 その資料の正体はかつて存在していた雑誌を電子データとして保存したものであり、発行された当時でさえその内容をまじめに受け取るものは少なかった。

 所謂オカルト情報誌と呼ばれるもので、非現実的な内容を大真面目に描いているものだからそれがある種のシュールな笑いとして受け止められ、一部の熱狂的なファン層を生み出した特殊な雑誌だった。

 

「ココ、見てみるといい」

 

「ええと……"SSは本当に受信された!? 真相を確かめるべく調査班は現地へと赴いた!!" ……目がチカチカするような色で書かれてますね。何ですSSって?」

 

「雑誌によるとセカンド・シグナル(S・S)らしい。この地球外から発されたシグナルを受信したのが、例の天文台なんだとさ」

 

 かつてこの世界のとある天文台にて、地球外より強力な信号が受信されたことがあった。自然的に発生する電波でもなく、計測機器のノイズでもない。地球へ向けて送られた可能性があるその信号は、当時の発見者の驚愕から"Wow!シグナル"と呼ばれることとなった。

 

 だが後の研究によりこのWow!シグナルの正体について様々な説が提唱され、その結果地球外生命体から地球に向けて送られた信号であるという説は徐々に否定されていった。

 

 このオカルト雑誌によると例の天文台はWow!シグナルのように強い信号を宇宙から受信したという。そしてその信号はかつてのWow!シグナルと違い、地球外生命体の存在を確信できるほどのものだったとか。

 雑誌ではこの信号をWow!シグナルの再来として、二度目の信号(セカンドシグナル)と勝手に名付けたようだ。

 

 その後はセカンドシグナルがどれほどの驚くべき信号なのかを記者が独自に考察した内容が並べられ、ご丁寧に信号を送った宇宙人と題して絵まで添えられていた。

 

「……妄想……」

 

「そう言ってやるな。本人はいたって真面目だ。もしくはこの雑誌がそういった荒唐無稽を真面目に語ることを主としているのだろう」

 

 オカルト雑誌の一面を見て呆れ果てる灯を横目に室長はただ小さく微笑んでその記事へと視線を落とす。こんな雑誌でも何かしら得られる情報があるかもしれないと内容を読み進めていく。

 

 かつての室長ならばきっと今の灯のようにバカバカしい妄想話だと判断し、内容を見ることさえしなかっただろう。そして天文台についてほぼ関係の無い記事だと、記憶に留めることもせず次の資料へと目を移していたことだろう。

 

 だが、室長にはその内容を全て妄想だと否定できるほど頑なでいることはできなかった。なぜなら、この雑誌が本当に存在すると断言している人間でない知的生命体、そんな存在と室長たちは既に遭遇していたからだ。

 

「……案外、サンタというのも存在しているのかもな」

 

「突然どうしたんです? 仕事のし過ぎですか?」

 

「くく、辛辣だな」

 

 首を傾げる灯をよそに室長は肩をすくめ、読み終わったオカルト雑誌の資料を閉じた。まだまだ閲覧前の資料は溜まっており、いつまでも"休憩"しているわけにはいかない。次の合衆国への天文台の情報開示請求についての資料や依頼の文面も考えなければいけない。

 

 それと同時にV+R=Wや、V+R=Wに創られた葦原町の管理関係の報告書も製作しなければいけない。V+R=W維持の為に協力関係を築いている各企業との報告会なども日に数回の頻度で行われており、室長はV+R=Wの裏方として多忙な日々を過ごしていた。

 けれど、その忙しさもあの子たちの為ならば苦とは思わない。V+R=Wとそれを取り巻く配信者や視聴者たちの姿は、まさに室長が思い描き、理想としてきた環境なのだ。

 それに……。

 

「それに、忙しい時は灯が傍にいてくれるからな」

 

「はい? なんですか?」

 

「いや、なんでもないさ。さて、もう少し進めておくか」

 

「私も手伝いますね。あ、クッキーとコーヒーのおかわりが必要なら言ってくださいね」

 

 クリスマスも働く裏方の室長と灯は、それでも小さなクリスマスを共に過ごしていたのだった。

 

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