転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
年末の大掃除、特にすす払いと呼ばれる行事は年末年始の正月事においてはじめに行う行事とされています。一年の汚れを取り除いた後、料理や飾り付けといった次の行事へと進むことが出来るわけです。
「大掃除は~まず神棚などから始めるのが基本なのですよ~この家の場合は配信部屋の上にあるので~そこからですね~」
『ほうほう』『年神様を迎えるわけだしね。まずは神様の場所を綺麗にするわけだ』『しかし今日のわんころちゃん可愛い……』『珍しい衣装をさらっとお披露目するのはやめろぉ……心臓がもたんぞぉ……』
本日の犬守村はギリギリ晴れております。雲の流れから午後には雪が降りそうな気がしますので午前中に家と犬守神社の大掃除は終わらせる予定をしております。他の神社や施設は後々配信外で、年が明けるまでに終わらせればいいかな、と考えてます。庭は先日掃除が終わったので、今日は家の中を本格的にやっていきますよ~。
というのもおせち料理の準備など食べ物を扱う作業は主にこの家を中心に行っていくつもりなので、とにかくこの家の大掃除を終わらせなければそれらを進めることができません。家の掃除が終わればおせち料理を作りながら同時進行で他の場所の大掃除を行うことが出来ますからね。
「おかーさーこれどうやってつけるのー?」
「ちょっとまってくださいね~。はい、この紐を背中に通して~腰のあたりで結ぶんですよ~」
「ん~……見えないー難しいー」
移住者さんも仰っていますが、私と狐稲利さんは大掃除の為に少しばかりいつもとは違う服装となっております。
先日の庭掃除の時はただ庭を掃き掃除するだけだったのですが、家の中となれば埃などで服の汚れは酷くなりますからね。新たな掃除用の衣装というわけです。髪飾りなどの装飾品は邪魔になるので取り外し、頭は手ぬぐいで覆い、シンプルな白い割烹着を着ております。この日の為に創った割烹着ですが、思ったよりも使い心地が良いので今後も料理中などに使っていこうかな?
「ああ、だめですよ~固結びにするとほどけなくなっちゃいます~ここはこうやって~蝶々結びにするんです~」
「ん~……こうー?」
「はい~ 大丈夫です~かわいいですよ~」
「んー! おかーさもかわいいー!」
『いきなり母娘てぇてぇが発生した』『どっちもかわいい!』『頭の布?みたいので髪型違うからなんだか新鮮だわ』『その新鮮さが新たな可愛さを生み出してくれるわけよ』『てか狐稲利ちゃん紐結べないの?』『そりゃ狐稲利ちゃんまだ1歳にもなってないからな』『一歳www』『え、赤ちゃんじゃんw』『マジなんだよなぁ』『もう狐稲利ちゃん誕生配信を知らない新規移住者もいるのか』『かなり初期の頃だしな。犬守村も全然開拓されていない時だ』『それでもまだ1年経ってない。ホント犬守村見てると時間の流れが早いわ』
懐かしさに思いを馳せる移住者さんのコメントが流れていますが、まだまだこれからです。これから犬守村はもっともっと大きくする予定なのです。まだ懐かしがられては困りますよ~。
「次の年も頑張って配信するために大掃除頑張りますよ~!」
と、いう訳でまず掃除する場所はいつも配信をしている家の神棚からとなりました。家に隣接する形で犬守神社があるわけですが、主に配信などで活用し、頻繁に利用しているのはこの家なので、まずはこの家を守ってくださっている神棚から、その後に犬守神社を掃除していきましょう。このあたりの掃除は私が。
「んんーー!! んおーー!!」
その間に狐稲利さんには廊下や縁側の雑巾がけをお願いしたのですが、何やら勢いをつけるために大きな声を出しているのが聞こえてきますね……。
「狐稲利さ~ん? 大丈夫です~? ムリしちゃダメですよ~?」
「んーん! たのしーよー!」
「た、楽しい……? それならいいのですが~?」
『普段しないような体勢なのが面白いのかな?』『なかなか大変そうだけどな~』『うひゃー手冷たそうー』『俺だったら腰がしぬわ』『ちょっとかわいいw』
今の時代では雑巾がけなんてしないでしょうし、そもそも雑巾というものが存在していないでしょうから移住者さんから見ると珍しい光景なのかもしれません。雑巾がけの体勢はちょっとお尻を上げるような姿になっているので、それが可愛いと言われているようです。そう、お尻が。
『いやー、ほんと可愛い……ほんとに』『えr……可愛い!』『カワイイデスハイ』
寒くても燃やされるのは嫌なのか、いかがわしい感じのコメントはあまり書き込まれていないようですね、よしよし。皆さん村八分ニキさんに消毒はされたくないですよね。
狐稲利さん自身は何が可愛いのか分からず、コメントを見て首を傾げています。何故なのか分からないけど褒められてると理解した狐稲利さんはにへらと笑って移住者さんにお礼を言っています。お礼を言いながら雑巾がけするのはなかなかに器用ですね。
「一応雑巾がけに利用しているのは一度沸かしたお湯なのでそれほど冷たくはないはずです~。さて、こちらもぱぱっと終わらせてしまいましょ~」
神棚は普段からお手入れしているので埃がかぶっているようには見えませんが、この際ですし全体的に拭き掃除してしまいましょう。お供え物を供えるためのお皿などを取り出し、丁寧に拭いていきます。小さくて可愛らしいのですが陶器なので当然落とせば割れます。焦らず慎重に慎重に~。
神棚の拭き掃除をぱぱっと終わらせたらそのまま高い位置の掃除をしていきます。天井のスミにいつの間にか張ってある蜘蛛の巣を取ったり、壁掛け時計の埃を掃って……。あ、埃が……まず、
「んあ……くちゅん!」
『!!』『かわいっ!?』『とてつもなく可愛いのだが?』『くしゃみまで可愛いとかずるじゃん!』『わんころちゃんのくしゃみの可愛さで今日も生きていられる』『くしゃみありがとう!!』『くしゃみ最高だな!』『くしゃみたすかる』
「し、しまった~!? 油断してミュートが~! た、たすかるやめてください~!!」
うう……庭掃除をしている時も狐稲利さんに言われていたのに……肝心の配信でくしゃみしてしまうとはなんという失態……! というか恥ずかしすぎる……。
『いいなそれ、今度から使うわ』『くしゃみたすかる』『くしゃみ助かる!』『なんか語呂いいな、くしゃみたすかる』
「……今度から確実にミュートにしますね~……」
『ミュート助からない』『助からない』『助からない…』『助けて……』
「助けてほしいのはこちらなのですけど~!?」
「わんこーろさーーん!」
なんてことを移住者さんと話していると、犬守神社の入り口から元気な声が聞こえてきました。まあ、誰かなんて既に分かっていることではあります。こちらの姿を見た瞬間、目を輝かせて突進してくるのなんて一人しかいません。
「あ~わちるさん~」
まさか本当に大掃除のお手伝いに来てくれたんですかわちるさん。本当にありがとうございます……と、言いたかったのですが早速抱きかかえられてぎゅうっとされているので、抗議の意味も込めて少しとぼけてみましょう。ワタワタするわちるさんも可愛いので~。
「おはよ~ございます~なにか御用で~?」
「はいっ! こっちに来ればミュートされても問題ないと思いまして!」
「……」
……なるほど。なるほどなるほど。そんなにくしゃみが聞きたいんですか? ほ~ん。
「じょ、冗談ですよ!? お手伝いしに来たんです! 前に言っていたじゃないですか!」
「じゃあ北守山地の雪掻きお願いしますね~。あ、終わったら勝手に帰って良いですから~。それじゃ」
「ああっ!? ごめんなさいわんこーろさんんん!?!?」
ちょ!? なに足にしがみついてるんですか!! ひゃあ!? どさくさにまぎれて太もも触ってきたんですけど!? このっ!
「はなれなさい!!」
「あああああいつもの! いつもの口調でお願いします~! 口調が違うと距離を取られたみたいで悲しいですーー!!!!」
「みたいじゃなくて取ってるんです~~!!」
ああもう! わちるさんの涙と鼻水が! もうわかりましたから離してください! みっともないですって! わちるさんの視聴者さんに怒られます! 私が!
「……ん~おかーさもわちるも忙しそうだからー私と一緒に行こーいじゅうしゃー」
『はーいw』『仕方ない仕方ないw』『狐稲利ちゃんも大変だね~』『二人がイチャコラしている間に掃除さっさと終わらせよーぜw』『お正月の特別な料理楽しみー!』『おせち料理だっけ? 早く見てみたいなー』『美味しいだけじゃなくておめでたい日に食べるから見た目も良いって話だしね』『マジで!?そりゃ早く見たい!』『次の掃除場所はどこかなー』『部屋はあらかた終わったしなー。次は犬守神社だろうな』『神様が居るわけだし、神社は綺麗にしないとだな』『そういやこの犬守神社も建てたのだいぶ前だな』『夏のコラボよりずっと前だったっけ?』『まだFSともコラボしてない頃だな。わちるんはよくコメント欄に出没してたけどw』『それが今や同じ空間でイチャイチャする仲に……』『当時のわちるんはまだ遠慮があった』『距離を測りかねてる感じはあったなw』『コラボあたりから一気にわちるんが距離詰めて、もうわんころちゃんを抱きしめるのが挨拶みたくなってw』『そしてこうなったってワケ』
ちょっと狐稲利さん置いていかないでください! このままわちるさんにしがみつかれたまま放置はひどいです~! うう、狐稲利さんのジト目が刺さります~……ほら! わちるさんもはやく手伝ってください! このままだと犬守神社の掃除まで今日中に終わりませんよ! ああ! 狐稲利さん待ってください~~!
「行きますよわちるさんっ!」
「わわ、待ってくださいわんこーろさん!」