転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
移住者の皆さんは
主に年末に行われる神事の一つで、その年の邪気を祓い、人々を清める神事とされています。
といってもこの知識もサルベージしたデータからの受け売りなので、全国的に完全にそうであるというわけでは無いと思います。名前は同じでも地域によってその内容や目的が異なるなんてこと、よくある話ですからね。
「と、いう訳で~年末の犬守村式大祓をやっていきますよ~」
『ただいまわんころちゃん~』『配信早々厳かな雰囲気が……!』『久しぶりのわんころちゃんの巫女服だああああ!!』『ふさふさな尻尾が目立つ清楚な巫女服からしかとれない栄養素がある』『ここは札置? それとも犬守神社かな?』『というかおおはらえって何をするの?』
「ここはですね~犬守神社になります~その本殿の前ですね~。今回行う大祓はですね~ちょっと趣向を変えて~移住者の皆さんからお悩み相談を募ろうかと思っております~」
大祓の主な目的は先ほど説明した通り、人々から邪気を祓って次の年を清らかな心で迎えることであります。
有名なのはひな祭りの原型となった流し雛、そのさらに原型となった
人形に人の穢れを移し川に流すことで災いを防ぎ、清めていたというその行事のように、移住者の皆さんから悩み事を募り、それを私が解決して水に流そうという企画です。
「あ、でも~わんこーろが電子生命体だからってなんでもお願するのは頂けませんよ~わんこーろはアドバイスするだけです~そこからどの選択を行うのかは皆さん次第と言う事で~」
『なんでもいいってことなら預金口座の残高桁を二つくらい上げてもらおうと思ったのに……』『普通に犯罪なのよそれは……』『これは通報か……?』『冗談です通報だけは許してください!!!!』『500億兆円欲しい(クソデカ派手派手フォント)』『もはや悩みじゃなくて欲望じゃねーかw』『実際お金には困ってるけども』
「犯罪はいけませんよ~。お金が必要というのも分かりますけど~移住者がいけない事をしたらわんこーろはショックで寝込んでしまうかも~? 耳もこんな感じでへにゃんってなっちゃいますよ~~」
見なさい移住者さん、この自在に動くイヌミミを。これがこんな感じで力なくへにゃへにゃになってしまうんですよ? それでもいいんですか?
笑いながら冗談めかしてそんなことを言っていますが、実際に移住者の方が事件に巻き込まれるようなことになったらへこむだけでは済まなくなりそうです……。秋のイベントの時だって参加した配信者の皆さんを巻き込んだのは私としては反省すべき点であります。……巻き込んだことで事件が早期解決したわけでもありますが、それはそれ、これはこれです。
配信者として、自身が楽しむことは最優先でもその前に他人に迷惑をかけないという最低限のルールを守る必要があるわけですし。
『へにゃり耳はもっと見たい!』『もっとへにゃって』『しっぽぺたんもお願いします』『そういやわんころちゃんのそういう表情あまり見たことないかも』『基本笑顔だしなぁ』『泣き顔……怒り顔……いい……』『←控えめに言ってキモいです』『大丈夫。自覚してるから』『それはもっとヤベーのよ』
「あはは~……でもでも~笑顔なのはいいことでしょ~? 悲しいよりも全然いいと思いますよ~」
笑顔ばかりと言われても……こうやって移住者さんとお話出来るのはとても楽しくて嬉しいことですし、どうしても笑顔になってしまうんですよね。ネット空間は犬守村や葦原町のように環境の設定が行われていない場合、基本何も聞こえないし感じませんから寂しくなってしまうんです。
なので狐稲利さんも電子生命体ですけどネットで探し物をする以外は基本的に犬守村で生活しています。犬守村にいれば動物の声や風や木々の音たちが聞こえてきますし、なにより移住者さんと交流することができますから。
移住者さんは私の配信が私と交流できる唯一の手段だと思われていますが、それは私も同じなのです。
この配信というものは肉体を持たない電子生命体である私にとって、移住者さんと密接に交流出来る最良の手段なのです。
『それじゃあそろそろ真面目にお悩み相談しましょうか』『わんころちゃんメイクのメッセとかできてるんじゃない?』『真面目に相談したい移住者はコメントじゃなくてメッセージ機能を使って悩みを送ってるだろうしね』『わんころちゃん進行おねがいしまーす』
「はいはい~皆さんよく分かっておられます~それじゃあ一通目~画面に表示させますね~」
【初めましてわんこーろさん。私はわんこーろさんと同じ配信者をやっている者です。実は最近、とある先輩配信者の方との距離の図り方を考えあぐねています。その先輩とは趣味が同じだったということでコラボさせて頂く事があり、それが縁で今まで良くして頂いています。配信者として伸び悩んでいる私の相談に乗っていただくこともあり、とても頼れる先輩ではあるのですが、その先輩は……何というか、その趣味の入れ込み具合が半端でなく、かなりのキチです。その趣味の配信で丸一日コラボさせられたこともあります。このままでは私の体が持ちません。ついでに先輩からいい匂いがして、ふと寄りかかられた時の温かさと柔らかさを感じ、どうにかなってしまいそうで――】
「おおっとぉ~! 文章はここで終わっているようですね~あぶないあぶない~」
『何が危なかったのかねぇ』『本当にそこで終わっていましたか……?』『ぶつ切りで草』『なんだかこの文章甘い匂いがしますねぇ~』『確かに……なんだかチョコレートの匂いが……w』『あっ』『この相談主って……チョコガキ……』『しっ! せっかく匿名にしてるのに!』『先輩……一体、何乃なこそなんだ……』『ボドゲキチコンビ解散危機か?』
……モロバレじゃないですかかかおさん……、いや、まだ匿名なので誰かは分からないのですが……うう~ん……とりあえずそこは触れないように。
「ふ、ふむ~……お便りをくださった投稿者さんはかなり悩んでおられるようですね~これはしっかりとお返事しないと~」
どうやらかかおさんは一筋縄ではいかないなかなかの悩みを抱えているご様子ですし、誠心誠意真面目に、私の考えを伝えてあげるべきでしょう。
『無理しなくていいんだぞわんころ……』『もはやみんな察してる』『顔が強張ってて草』『いつになく真面目なわんころちゃんかわいいのう』『眉毛がぴくぴくしてて悩まし気な顔がいいね!』『わんころちゃんのいろんな顔が見れる……定期的にやろうこのコーナー!!』『わんころちゃんに対して移住者に真面目な奴はいなかった』『それでお悩みの解決策は?』
「そうですね~……とりあえず……」
『ふむふむ』『とりあえず……?』『とりあえずどうするの?』
「わんこーろは電子生命体ですので~別に同性同士でも問題ないんじゃ無いかと思います~~」
『ん?』『え?』『は?』『おや?』
「先輩のお方の匂いや温かさを意識してしまうのは~そのお方に並々ならぬ思いを寄せているからで間違い無いかと~」
『違うそうじゃない』『わんころちゃーん!?』『ボドゲキチをなんとかしてくれという相談だったのでは……?』『←コラ!ボドゲじゃないあくまで趣味だ!』『あ、ヤベ間違えた』『なんだか斜め上方向に話がすすんでねーか!?』
「ですので~勇気を振り絞ってこちらから告白するのも良いかと~。今の距離感が心地いいというのも分かりますが~それ以上の進展を望まれるのなら~やはり積極的にいかないとです~」
『……』『……ふむ』『……なるほど』『一理ある』『確かに』『こちらからアクションを起こさないと何も始まらないしな』『さすがわんころちゃん!』『思ったより為になる話だ』
「ですから~かかおさ――……相談者さんはしっかりとその先輩に思いの丈をぶつけてみるのがいいのではないでしょうか~」
『そうだそうだ!』『うじうじしてたら始まらないぞかかお!』『勇気を出すんだチョコガキ!』『移住者は皆応援してるぞ!』
「がんばってくださ~い~」
『無名火かかお:おいいいいい誰か止めろよぉおお!?!?この勘違いわんこをよぉおおおお!!!』『うるさ』『やっぱチョコガキじゃん』『おいおいw何照れてんだよw』『わんころちゃんに恋の相談するとか乙女かよww』『なこちゃんとかかおちゃんってそういう関係だったんだね』『無名火かかお:ぜんっっっっぜんちげーだろーがよーーーーー!!!!!!相談の内容がよおおおおお!!!』『虹乃なこそ:……////』『お、相方が来たぞ』『よかったねかかおちゃん』『おめでとう』『おめでとう』『おめでとう』『無名火かかお:ありがとう……ってなるかよおおおお!!!バカがよおおおおお!?!?!』
「んふふ~それじゃあサクサクお悩み解消していきましょ~次のお便り~」
『無名火かかお:ここまでしといてスルー!?!?』
【最近美味しいものがありすぎてお腹が出てきました……】
「はしりましょう~。走って汗を流せば~また美味しい物が食べられますよ~」
『それは無限ループでは?』『プラマイゼロなのよ』
【夜がなかなか眠れません。どうしたらいいですか?】
「最近はASMRでも睡眠導入なんてものも出てきてますから~一度お試ししてみては~?」
『俺のお気に入りは犬守村の囲炉裏3時間ってやつ』『やっぱ耳かきのヤツかなー結局狐稲利ちゃんがくすぐったくて逃げちゃったヤツw』
【NDSを購入したらわんころちゃんを抱きかかえに行っても良いですか?】
「普通にダメで~す」
『驚くほど軽そう』『不満げに尻尾でぺしぺしされるぞ』『何それご褒美』『それは犬じゃなくて猫なのよ』
その後もいくつものお悩み相談が寄せられ、一つずつ丁寧に返答しているとなかなかの時間となってしまいました。中にはコメント欄がざわついたり草が生えそろったりした質問もありましたが、ある程度解決で来たのではないかと思います。
「ふい~しゃべりすぎて口が疲れました~。時間も時間なので次のお便りで最後にしますね~ええと~……」
【私はわんこーろさんが好きです。わんこーろさんの作る世界が好きです。現実なんかよりも、そっちの方がよっぽど素晴らしいと思います。私にとって現実は現実じゃなくて、犬守村やV+R=Wのほうが現実だと思っています。こんなことを他人に言うとおかしな顔をされるのですが、私がおかしいのでしょうか?】
『おおう……』『これは最後に重いのがきたな』『ただまあ…言ってることはわかる』『だな。正直現実より犬守村の方が魅力はある』『NDS購入したら葦原町に入り浸りになりそう』
「ふむ~……」
現実世界は環境汚染により荒廃し、対して仮想世界は自然豊かな光景が広がっています……。ならばどちらが魅力的に映るかと言えば、確かに後者であると言えるでしょう。見たことのない景色、知らない娯楽、神秘的な文化と伝統。それらは今の若者にとって非常に惹きつけられる要素であり、それらの復興が全てネットからとなれば、確かに納得出来る話ではあります。
ですが。
「んふふ~私の創ったものも~皆さんが創ろうとしているものも~それはかつて現実に存在したものなのですよ~。私が好きで~だからこうして仮想空間に創り出したわけです~。……皆さんは、それを現実世界で創りたいと思った事はありませんか~?」
FSの運営、推進室の責任者である室長さんはかつて秋のV/L=Fで言いました。人々はその手で未来を生み出す事が出来る、と。
もしも本当にこの世界のすべての人間が現実に絶望し、仮想世界に想いを寄せていたならば、失われたものを現実に蘇らせる復興事業など成功するはずがないのです。
ですが、現実の人々は蘇ったあらゆるものに魅了され、そして感化されています。彼ら彼女らはそれらを手本とし、今度は自らの手で生み出そうと動き出しました。
室長さんがかつて語った話が本当ならば、この世界は確かに前の見えない暗闇を歩いているように先が見えません。ですが、それでも人々は前に向かって歩き出しているのです。
『そういや初めて食べた白米おいしかったなぁ』『お菓子もあんなに綺麗なの初めて見た』『こっちでも雪とか、蝉の鳴き声とか聞きたいな』
ほらね。
「んふふ~さてさて~今日の配信はこのくらいにしておこっかな~~皆さんもまた犬守村に帰ってきてくださいね~ばいばい~」