転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#184 部活動とかどうでしょう

 

 ネット内に超が付くほど大規模な仮想空間を構築する計画、V+R=W。仮想世界内の開発拠点である葦原町は今日も今日とて一期生たちによって大いに賑わっていた。

 

 一期生はそれぞれが葦原町を中心として周囲の土地を開拓していく。両手にはわんこーろの持つツールを軽量化したものが握られ、常に表示されているウィンドウには過去の土地データなどが映し出されていた。

 

 主に土地の開拓はわんこーろ方式が採用されている。真っ白なポリゴンの塊を鋏や鑿で加工し、刷毛でテクスチャを貼り付けていく。その工程に一期生は少し驚いた様子ではあったが、少し時間が経てば皆思い通りに扱えるようになっていた。その飲み込みの速さはさすがは歴戦の配信者といったところか。

 葦原第一学校でツールの使い方の授業や、わんこーろが実践する光景が収められた動画ファイルなども閲覧できるので、それほど難しい作業ではない。草木のようなものはすでに幾つかのプリセットが作られたりもしているので作業自体は今のところ滞りなく、楽しく進んでいた。

 

 だが、一期生が葦原町を訪れるのはそんな開拓作業だけが目的ではない。

 

 葦原町は毎日といえる頻度で一期生たちによって小規模なイベントが開催されており、最新のトレンドが生み出され、あるいは復興されたりしていた。それはクリスマスイベントのように中規模、大規模なイベントへと発展することも珍しくなく、他にも珍しいアイテム等が一期生の間で流行することもあった。

 

 例えば、映像作品の制作に長けた一期生によって作られた、スクリーンショットが保存できるカメラを使っての撮影会。わんこーろの作ったゲームアプリ、犬守写真機をオマージュして作られたそれらは瞬く間に一期生の中で話題となり撮影機能の強化されたものや、見た目が可愛いものなど様々な仕様のカメラが他の一期生により制作され登場した。今では一期生は一人一台はカメラを持っているという普及具合となり、あまりのバズり具合に製作者がパクリ元のわんこーろに土下座したという話は有名だ。

 わんこーろは笑って許したどころか、製作者へ犬守写真機の技術提供を行ったらしい、と噂になっているが真相は定かではない。

 

 そんな騒動を経て葦原町では一期生の枠組みの中でも趣味の合う配信者同士の新たな集まりができ始めていた。

 同じ企業所属の配信者同士の集まりとはまた違ったその集まりは、当初葦原町で撮影された写真の共有によってのみ繋がっていたが、いつしか同好の士が集うこととなり、好き好きに語り合う関係性を築いていく場となった。

 

 そんな新たな枠組みの構築を察した生徒会長虹乃なこそは、ここが葦原町に造られた唯一の学校であるというところからある提案をするのだった。

 

 

 

 

 

「はあ……部活動ですか」

 

「そう! 趣味の合う者同士でさらに知識を深めあうにはもってこいだと思ってね」

 

 両手いっぱいに紙の資料を持つ寝子はなこその発した言葉を力なく反芻する。確かに今の葦原第一学校は趣味の者同士が固まっている傾向にある。それは開拓に関しても言えることであり、土地そのものの開拓を進めているグループもあれば、植物の3Dモデルなどをほぼ専門で制作しているところもある。もちろん動物などを制作しているグループもあり、どのグループもその3Dモデルに詰め込まれた"深さ"には目を見張るものがある。

 例えば、外観のリアルさはわんこーろのツールによるところが大きいが、そうやって制作された動植物はしっかりと過去の植生図や分布図を用いて可能な限り実際に生えていたであろう土地に実装されているし、土地の制作などは過去の噴火や地震の発生データを集め、地層までも再現しようとしているグループがあるほどだ。

 

 もちろんこれらのグループごとに調査した開拓データは全一期生に共有されている。一期生専用の情報共有掲示板にデータが書き込まれ、一目で内容がわかるようにタグ付けや検索機能も充実している。また葦原町の中なら、学校内のリアル掲示板に張り出される形式で共有が行われている。

 

「最近は料理教室なんかもやってるみたいだよ! かかおちゃんも少し興味持ってたみたい」

 

「それは……私も気になりますね。……でも、部活動というからにはいろいろと必要なものがあるのではないですか? 部室はもちろんですし、活動時間なども決めた方がいいでしょう。部費は……まあ、ネット内ですからなんでも作れますし必要はないでしょうけど、あまりに巨大化すると収集がつけられなくなりそうですから何かしらの制限は設けた方がいいのでは? それらの規約も新たにV+R=Wのルールの草案に含めないといけません」

 

「う……め、めんど」

 

「おめーが言い出したんだろーが」

 

「そこまで考えていなかったんですねなこそさん……」

 

 寝子と同じく大量の資料の整理を手伝っていた○一とわちるは呆れたようになこそを見る。

 

 軽はずみで言った言葉を実現するには寝子の言った内容をすべてクリアする必要がある。そのうえこの部活動にはおそらく企業も興味を示すだろうと寝子は予想していた。

 今はまだ趣味の合うもの同士が語り合う場にしかならないだろうが、趣味の合うもの同士の語り合いとは、つまりは専門知識の集約と研磨に違いない。かつての世界のように、オタクと呼ばれる人種が趣味で作った様々なものがその後に革命的な技術として評価されるなんてことはよくある話で、そのような研鑽による高度な技術の確立が行われる可能性があるのだ。

 

 そのことに企業が気付かないはずがない。興味深い部活動には企業からの支援が受けられる可能性がある。一期生であることで享受できている支援とはまた別の、趣味に企業がお金を出してくれる、ということだ。

 

「まあ仕方ないかあ……大まかに概要だけメモってみるから寝子ちゃん確認してくれる?」

 

「わかりました。正式な文書にはなこそお姉ちゃんがしてくださいね」

 

 

 

「あーそういえば、ほうりもなんか集まりを作るみたいなこと言ってたっけなぁ。一応あの子大企業の娘だし」

 

 特に仕事のないナートは生徒会室に置かれたソファに横たわり、頭にキツネのナナを乗せたまま大きなあくびをする。ナートは先ほどまで一期生の開拓進捗に関する報告書をまとめていたので、他のメンバーはそんなナートの姿に突っ込みを入れる者はいない。

 勝手にソファを持ってきて生徒会室に置いたことには多少思うところはあるが、それも今更という雰囲気がある。すでに生徒会室は奥の休憩室まで含めてFSの私物があちこちに置かれている。なこそのボードゲームやクリスマスプレゼントのスノードーム。寝子の昆虫図鑑。ナートのゲーム攻略本。わちるのティーセットなどなど。

 

 そんなナートにわちるは資料をまとめる手を休めず、首をかしげてナートに尋ねる。

 

「大企業のって……ほうりさんがそうなら、ナートお姉ちゃんもそうですよね……?」

 

「まーまー私のことはいいからさぁ」

 

「ほうりちゃんの場合はバックの企業の意向というより本人の希望でしょ。あの子の実行力は配信者向きだよね」

 

 配信者が部活動を作り、そこに企業が合流するという形もあれば、逆に企業がとある技術に興味のある配信者を集め、部活を作るということもあるだろう。

 ナートの妹である風音布里ほうりは視聴者には隠しているが、マイクロマシン製造の大手企業である粒子科学技研トップの娘だ。

 

 ナートとほうりの両親は秋のイベントを経て親バカであることが確定し、V+R=Wへの参加も理由の半分はナートとほうりの支援のためという所が大きい。

 

 だがそれは親としての側面であり、もう半分の理由、企業としてV+R=Wという空間を自由に利用できるというのはかなりの利点であった。

 

 限りなく自然に近い空間で、環境維持や改善のマイクロマシンの散布データが手に入る。そのうえ散布するマイクロマシンはデータなのでマシンの紛失や故障による損害も皆無。

 これほどうってつけな実験場はないだろう。そして両親からある程度会社のことやマイクロマシン技術について教えられていたほうりも、それは十分にわかっていた。

 故にほうりは自身の希望から、マイクロマシンを用いた環境保全に関する集まりを作ろうとしているのだった。

 

「わたしも誘われてんだけどぉ……こんなの頭いい面子ばっかじゃん……絶対浮くわぁ……」

 

「そうですか? 配信でもナートお姉ちゃんのマイクロマシンに関する造詣の深さは知られているでしょうし、むしろナートお姉ちゃん程の方がおられるでしょうか?」

「うう……キャラがね……キャラが違うんだよぅ……最初から頭つよつよな配信者って認識されている集団の中に私一人居てみ? すっごく胃が痛くなるぅ……」

 

 勝手に想像を膨らませてストレスを感じているナートの頭をぽむぽむと前足で叩くキツネのナナ。撫でろという合図を受け取ったナートは肩を落としながら頭の上にいるナナを無造作に撫でまわす。

 

「うぅ……あいたっ!?」

 

「くく、もっと丁寧に撫でろだとさ」

 

「完全に主従が逆転してますね」

 

「うぅうううう……胃も手も痛い……」

 

「躾はちゃんとしないとってわんころちゃんに言われてたでしょ。っと、お客さんかな? どーぞー」

 

 そんな雑談が繰り広げられていた生徒会に、小さなノックの音が響いた。声は聞こえなかったが確かに扉を叩く音で、なこそは部屋の外にいる人物へと入室を促す。するとゆっくりとドアが開かれ、その人物が生徒会室へと入ってきた。

 

「あれ? ほうりじゃん。どしたの?」

 

 生徒会室に入ってきたほうりに気が付いたナートは立ち上がりほうりへと歩み寄る。その手に噛り付くナナをそのままに。

 

 自身に似た金の髪をきれいに纏めたほうりの横顔は実の妹でも少しドキッとしてしまう美しさがある。ヴァーチャルな姿なのだから外見などいくらでも美しくできるとはいえ、その美しさを際立たせるのは配信者本人だ。ほうりの真の意味で清楚らしい佇まいは曲者ぞろいの配信者の中では異質に映る。それがある意味風音布里ほうりという人物の美しさを強調しているのだ。

 

「……お姉様……私は、嫌われているのでしょうか……?」

 

「……。……は?」

 

 暗い表情であるが、それさえも絵になるほうりの雰囲気に惚けているナートへとかけられた言葉に、全く意味がわからないという風な顔で気の抜けた声を出すことしかナートにはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ!? だ、誰も集まらなかったの!?」

 

「……はい」

 

 生徒会室へとやってきたほうりは目に見えて落ち込んでいる様子だった。うつむく顔は悲し気で、涙は流していないがそれでも暗く沈んでいる様子は一目でわかる。

 

 ナートが慰めながら先の言葉とそんな表情をしている理由を聞くと、それは何とも意外な理由からだった。

 

 ほうりはナートが言った通り、両親の仕事の為にとマイクロマシン等の先進技術に興味を持つ配信者同士の交流の場を作ろうとしていた。それだけ聞けばほうりの性格も相まって少し堅苦しく難しい印象を受けてしまうかも知れない。お嬢様学校の派閥のような、あるいはガチの専門家による講習会のような。だがそれは今回の事態にはそれほど関係が無いと思われる。

 

 というのも一期生内で形作られている趣味の集まりというのも先ほど説明した開拓を行うグループのように深い知識を持つ者が多い。ほうりの言う先進技術の知識に長けた配信者や興味のある配信者とてゼロという訳ではないはずだ。自身の持つ知識をさらに深めたいと考える者が興味を惹かれないはずがない。

 

「専門的過ぎたということでしょうか……?」

 

「それでも一人も集まらねーとかあるか?」

 

「秋のV/L=Fで技術展示に興味を持ってた配信者はいくらかいたはずだから、全く居ないなんてことあるはずないんだけどねえ……」

 

「お姉様! 私の何がいけなかったのでしょう? 改善できる事があるなら教えていただけませんか!? 私なんでも致しますから!」

 

「お、落ち着いてほうり――え、今なんでもするって言った?」

 

 涙目で訴えるほうりをなだめるようにやさしく声をかけるナートだが、思わずほうりの言葉に配信者としての血が騒ぐ。おどけたように口走った一言を聞いた○一となこそがナートから半歩後ずさる。

 

「うわ」

 

「ナートちゃん……実の妹相手にそのネタはちょっと……」

 

「ち、違うよぅ! ちょっと空気が重いかなーっと思って場を和ませようとしただけなんだよぅ! ね、ほうり?」

 

「えと……申し訳ありません。勉強不足で……」

 

「あーあネタ分かってねーじゃん」

 

「ただほうりちゃんにセクハラしただけになったねえ」

 

 その後も何とか弁明しようとするナートだが、場の空気はそれを許してはくれない。鋭い寝子の視線はいつも以上の鋭利さを持ってナートへと切りかかる。

 

「不潔です」

 

「違うってばぁ!?」

 

 

 

 

 ナートの暴発によって話題は若干逸れてしまったがその後何とか軌道修正され、なぜほうりの声に賛同する配信者が現れないのかという話へと戻る。だが、その答えは意外と単純なものだった。

 それは、ほうりがこれまで現れたヴァーチャル配信者と毛色が違いすぎる点にある。

 

 FSの登場に端を発するヴァーチャル配信者黎明期はいまだ続いており、ヴァーチャル配信者としてデビューする新人の数は今も順調に増加傾向にあった。過去に忘れ去られたヴァーチャル配信者という存在は、今の若者にとっては真新しい娯楽として受け止められ、広く周知されようとしていた。

 

 だが、配信者の数が増えれば注目されるのはどうしても技術や知識、真似のできないスキルを持つ者に限られる。視聴者にもっと注目されたいと、突飛な行動に出る者も少なくない。

 

 そんな中でほうりの存在は注目されるに値するものだった。一朝一夕ではものに出来るはずがない、生まれながらに教え込まれたであろう所作や言葉遣いは地上の特区に住まう住民の中でもさらに上層の人種であるとなんとなくだが分かってしまう。

 

 ヴァーチャル配信者がこの時代に登場した当初の配信は主に企業の宣伝をメインにしたCMのようなものが大半で、それらの配信者は企業の職員であることが大半だった。

 確かに礼儀正しく規律正しくあった。だが、現在の配信者はFSのような娯楽を提供することを主とする者たちが大半だ。そしてそんな配信者は視聴者と共に楽しむことを優先し、それが配信者としての主流となった。

 

 だが、ほうりはそんな主流の配信者から外れることでかつての配信者を彷彿とさせ、気品さえ漂う近寄りがたい雰囲気を漂わせている。にもかかわらず今風の配信者としてふるまうものだから、そんなギャップがほうりの人気を押し上げる要因となっていた。

 

 だが、そのような反応を示しているのは一般的な視聴者たちであり、同業ともいえる他の配信者はほうりから一歩引いた距離を保っていた。

 

 視聴者にとってほうりはお嬢様のような振る舞いを見せる配信者でしかないが、裏で交流を持つ配信者たちにとってほうりはお嬢様のような、ではなく正真正銘の大企業のお嬢様であることを知っている。

 

 このV+R=Wでも莫大な支援を約束した誰もが知る有名大企業、粒子科学技研。その代表の愛娘と言われれば、肩を組んで馬鹿笑いしながら煽りあいに興じるなど到底できそうにないと他の配信者から思われているのだ。

 それだけでなく、FSに次ぐチャンネル登録者数を誇る新進気鋭のグループ"イナクプロジェクト"に所属し、さらにはFSのメンバーを姉に持つ、とまで言われれば、ほうりへ気軽に話しかけることなどなかなかできない。

 

 多数のグループ同士のコラボならばそれほどハードルは高くないが、ほうり個人となれば尻込みする配信者が多い。あるいはコラボしたい配信者同士の牽制のような微妙な空気の読み合いが発生してしまう。知り合いからのつながりでコラボする方法もあるにはあるが、ほうり自身がデビューしたばかりの新人でありそのような人脈の形成がまだ行われておらず、ほうりに最も接近している配信者といえばFSのナーナ・ナートであるため、これまた手が出しづらい。

 

 結果としてほうりは配信者としてデビューしてから他所との一対一のコラボの回数がかなり少なく、行われたコラボもナートや真夜といった界隈の有名配信者であるため、他の配信者から高嶺の花扱いされていた。

 

 今回ほうりの呼びかけに誰も手を上げなかったのは、彼女が嫌われているからではなく、むしろ話しかけるのも恐れ多いと、若干大げさながらそのような思いが配信者界隈に存在していたからだった。彼女の呼びかけに応じるということは、つまり彼女と同等のレベルの高さを持ち合わせていなければいけない。知識も、技術も、所作振る舞いも。そう考えてしまう配信者がかなり多かったのだ。

 

「そ、それじゃあさ! わたしが入ろっかな! ほうりの部活にさ!」

 

 落ち込んだ様子のほうりを見かねてナートは思わずそんなことを言ってしまう。同じ配信者として、愛しい妹として何とかしてやりたいという思いがあったのだろう。なこそや寝子はそんなナートの姿に呆れながらもどこか納得したような表情だ。生徒会としての仕事のほかに自身から別の仕事を抱え込んでくるのはいかにもナートらしい。だがその理由が他人のためというのも、さらにナートらしい。

 

「ほ、本当ですかお姉様!」

 

「うんうん! ほうりには負けるけど、わたしもそれなりに戦力になると思うからさ」

 

「ありがとうございます! ……あの、ところで部活というのは一体……?」

 

「あ、部活ってのはね……」

 

 飛び上がらんばかりに喜びを体全体で表現するほうり。普段おしとやかで大人びた雰囲気のほうりがそんな姿をさらすものだから、ナートもうれしくなってしまう。この時ナートの頭の中には生徒会としての仕事とほうりとの部活で忙殺される自身など想像もしていない。何とも可哀想でナートらしい。

 

 ナートはほうりへと現在考えている部活動について説明を行っていく。コクコクと小さく頷きながらナートの話を聞いているほうりの傍で同じようになこそや寝子も話を聞いているが、どこかソワソワとしていて、何やらナートに話しかけようとしているように見えるが、それを言えずにいるような……。

 

「というわけで寝子ちゃん、わたしとほうりで部活動の申請をお願い!」

 

 ほうりの肩に手を置き元気に宣言するナートだが、それに寝子は申し訳なさそうに応える。

 

「……ナートお姉ちゃん、ほうりさん……非常に申し訳ないのですが……さすがに二人だけでは……」

 

「さっきまで寝子ちゃんと部活について話をしてたんだけどね、ちょっと人数が少ないかなーって思うんだよね。二人だけだと……部活じゃなくて同好会という形になるかなぁ」

 

「てかそもそも部活っつーのも構想段階なんだよな」

 

 元々葦原第一学校はいくつもの空き教室が存在している。それは後々イベントや各配信者が利用できるようにと空けてあるが、その用途は明確には決まっていない。なのでまずはその空き教室を各部活動の部室として運用していこうと予定しているが、その空き教室にも限りがある。

 

 部活動という枠組みさえたった今考えたものであり、一期生への周知も企業への説明も行っていないので、ここでナートとほうりだけに先んじて部室を与えることはズルになってしまう。

 

 なこそとしては部活動システムの周知がある程度されてから部活の申請を受け付け、規模の多いものから順番に部室を与えていこうと考えていた。規模が多いというのはつまりそれだけ支持者や賛同者が多いということであり、部室も必要となってくるだろうという予想からだ。

 

 部活についての周知前であり、メンバーが二人しかいないという理由からなこそはナートの言葉を拒否せざるをえなかった。そのことは説明すればナートもほうりも納得したし、先走った発言をナートは謝罪した。その上で、ほうりは新たに出てきた同好会なる名前についてなこそに聞く。

 

「同好会、ですか……?」

 

「イメージとしては部活未満の集まり、って感じにするつもり。規模は小さいから部室はあげられないけど、それ以外は部活と同じだよ」

 

「……それって必要なの? 集まるだけならどこでもできるし、わざわざ同好会って名乗らなくてもいいんじゃない?」

 

「まあ、そうなんだけどね……同好会として登録しておくと部活動の条件を満たしたときに優先的に部室をもらえるようにするつもりなんだ。そうすれば他の子もメンバー集めを積極的にするでしょ?」

 

 おそらく部活動というものを取り入れた際、その集まりはこれまでの企業グループ等の構成とはまた違った姿を見せるのではないだろうか。

 ほうりが高嶺の花扱いされたように、部活では強力な個性を持つ一人に支持者が集まるよりも、同じ趣味の者たちが寄り集まって構成される場合が多くなるのかもしれない。互いが遠慮なく意見を交し合う場として機能する可能性があるのだ。

 

 部活は部活として大規模な集まりであるが、同時に二人や三人といった小規模な集まりでも互いに意見を交し合う場を作れればいいな、という思いからなこそが考えたのが、この同好会だ。最初は小さな集まりでも今後大きな成長を見せ、部活レベルの規模に成長することだってあるだろう。そういった今後の成長を期待して、同好会というV+R=W運営公式の枠組みを作ろうと考えていたのだ。

 

「まあもうちょっと我慢してて。同好会制度はあくまで一時的なものだから。今度わんころちゃんに言って第三校舎の建設をお願いしてみるから、ね?」

 

「まあ、そういうことなら…」

 

「お手数おかけして申し訳ありません。どうかよろしくお願いいたします」

 

 両手を合わせてお願いするような仕草のなこその姿にほうりとナートも引き下がる。今すぐにどうこうできないということは二人もよくわかっているし、この後部活動や同好会などのシステムの説明のための資料作りや説明会のセッティングも行うのだろうなこそに文句など言えるはずもない。

 そんなことを考えていたナートは今後は出来るだけ、なこその仕事を手伝ってあげようと心に決めるのだった。

 

 

「お姉様、これからよろしくお願いしますね?」

 

「あー……うん。邪魔にならないよう頑張るよ。一緒にね?」

 


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