転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#190 絵馬とお年玉

 

 札置神社は迷い路を除いたとしても犬守村で最大級の神社である。わんこーろたちが住まう犬守神社は手水舎と本殿のみ存在する小さなものだが、この札置神社では賽銭箱の設置された拝殿や、わんこーろが秋のV/L=Fで最後に神楽を披露した神楽殿なども建てられている。

 また、迷い路内に他方の神社の分社が存在しているのも他の神社にない特徴だ。規模としては過去に存在していた"大社"に分類されるのだろうが、犬守村には神社に関する格付けが行われていないので単に神社とわんこーろは呼んでいる。

 

 そんな札置神社の拝殿前までやってきたわんこーろと狐稲利。くー子が体躯を伏せると二人はぴょん、とくー子から飛び降り、綺麗に拝殿前へと着地した。

 

「さて~。本殿前まで来たわけですが~。皆さんは神社の参拝マナー、というものを聞いたことはありますか~?」

 

『あーなんか聞いたことあるような?』『たしか、お賽銭を入れて、礼とか、拍手?とかをするんだっけ?』『その前に手を洗うんだろ?』『調べてみたことあるぜ。二礼二拍手一礼!!』『鳥居の真ん中は通らないとかも聞いたことあるかも』

 

「ふむふむ~皆さんよくご存じのようですね~。移住者さんの仰る通り、神社には参拝するときの手順のようなものが存在していました~。鳥居の真ん中を通らないのは、真ん中を神様が通るから~とか、二礼二拍手一礼というのも広く浸透していた作法でありますね~。でも~」

 

 移住者の確定的でない、若干ふわふわした書き込みに苦笑しながらわんこーろは拝殿の隣に設置された手水舎へと進んでいく。手水舎より流れる透明度の高い水を柄杓(ひしゃく)でそっと掬い取り、その小さな手にかけていく。

 

 まだ雪の積もる寒い時期ではあるが、北守山地の地下から湧き出す水を利用した手水舎の水は思ったよりも冷たくはなかった。それどころかほんのり温かささえ感じるほどだ。

 おそらくは火遊治の火山由来の温水なのだろうが、此処から火遊治まではかなりの距離があり、暖かな地下を通っていたとしてもなかなかに驚くべきことだ。

 冷水の刺激を覚悟していた狐稲利も、そんな予想外の温かさに思わず目を丸くし、顔をほころばせる。

 

「かつてこの国には~小さな祠も合わせれば数十万社もの神社があったとされています~。……それら神社がすべてこの統一された作法だったと思います~?」

 

『うーん……』『数十万か……』『統一はされてなかっただろうな』『土地ごとに食べ物とか土地の神様とか違うって話を前に聞いたから…やっぱ違う?』

 

「はい~そうなんです~。確かにこれらのマナーは多くの神社で推奨されていたのですが中には二礼二拍手一礼ではなく一礼で済ませたり~そもそもそういった決まり事のない神社だって存在していたんですよ~」

 

 参拝の作法にも様々なものが存在しており、何が正しくて何が悪いのかは場所によって異なる。祀られていた土地特有の環境や文化体系が融合したことで他に類を見ない作法が正しいとされることもあれば、稲荷・八幡のように祀る神様ごとに統一された作法が採用されている場合もある。

 

「まあ、つまりはですね~なんでもいいんですよ~。周りの迷惑にならなくて~神様に感謝する思いがあればそれで大丈夫~」

 

『なんだか適当だなぁw』『大丈夫?神様怒らない?』『祟りだけは勘弁してほしい……』

 

「大丈夫ですってば~。わんこーろが良いって言ったんですから~もし怒られたら~、めっ! って叱ってあげますから~」

 

『あらかわいい~』『全然叱ってる感じなくて草』『神様叱るのかw』『イヌミミ幼女に怒られる神様草』『イヌミミ幼女(創造神)』『あれこれわんころちゃんの方が格上?』

 

「おかーさ! ガラガラ鳴らしていーいー?」

 

「ほらほら移住者の皆さんも~思い思いの仕方でいいので~神様へご報告をどうぞ~」

 

『報告?』『願い事を言うんじゃないの?』『いや、言っちゃダメなんだっけ?心の中で願うんだったか』

 

「神社への参拝はですね~これまで何事もなく生活できたことを神様に感謝して~報告する、という意味があるのです~。これからも見守ってください、よろしくお願いします~、という意味がいつしかお願いをすると解釈されたわけですね~」

 

『ほうほう』『これまでの感謝かー』『そういえば…カーチャン元気にしてっかな…』『あ、俺も最近連絡取ってねーな…』『私も……』『久々に実家帰ろうかな…』『なぜか移住者たちがどんどんホームシックにw』『もっと親の顔みろ』『ところでわんころちゃん、配信に映し出された札置神社で移住者はだれに感謝すれば良いんだ?』

 

「ん~……札置神社に祀られている神様ですから~……」

 

「おかーさ!」

 

「え?」

 

『なるほど、確かにそうだわw』『わんこーろ様に感謝を奉ずるという訳ですな』『確かに言われてみればわんころちゃんがこの世界を創ったわけだしw』『それじゃあ俺はわんころちゃんに感謝を伝えるわw』『わんころちゃんいつもありがとう!』『ありがとうございます!』『配信楽しく見させてもらってます!これからも頑張ってください』『配信で元気もらってます!』『姿が可愛すぎて最高です』『声を聞いてるととてもリラックスできます!疲れが吹っ飛びます!』『しっぽもふもふ最高ー!』『無意識耳ピクピク最高ー!』

 

「ん~!? ちょ、ちょと~!? 皆さん何を言い出してるんですか~!」

 

「おかーさーいつもありがとーねー」

 

「狐稲利さんまで~!? というか移住者さん最後らへん感謝じゃなくないですか~!?」

 

『ばれたか』『あああー恥ずかしそうなわんころちゃんかわいい~~~!』『真っ赤な顔を隠してもシッポは正直だなw』『しっぽぱたぱたカワイイ!!』『いやいやこれは感謝だよ感謝』『そーそーしっかり目をそらさず受け取って欲しいなーw』

 

「う、うう~~っ!」

 

 結局わんこーろは恥ずかしがりながらも移住者たちと狐稲利からの感謝? を受け取り、自身も札置の拝殿前でしっかりと手を合わせる。そんな楽し気な様子を境内の隅で丸くなりながら見つめていたくー子は、ただ小さくあくびをして眠たそうに目を閉じるのだった。

 

 

『ところでさわんころちゃん。何か忘れてるものない?』『俺も思った。一番重要なイベントが無いよね?』『コレがないとやっぱり初詣って感じしないよね~』

 

「な、なんのことですか~……」

 

『おいおい分かってんだろw』『初詣、神様に感謝して……』『おみくじ引いてー』『神社で配ってる甘酒を飲んでー』『絵馬の奉納をしてー』

 

「え、ええ~~え、絵馬ですか~~?」

 

『イエス!!』『ホラ!早く投げ銭機能オンにするんだよ!!!』『投げさせろ投げさせろ~』『絶対投げ銭出来るだろうと思ってこの日の為に貯金してきました!!』『今年こそは赤絵馬全種類コンプするぜ~~!』『ほらあれだよ、わんころちゃんへのお年玉だと思って受け取って欲しいなー?』

 

「ひえ……」

 

 恐る恐る震える指先で半透明なウィンドウに表示された投げ銭機能の設定ボタンをオンにするわんこーろ。直後に降り注ぐ移住者たちの感謝の込められた絵馬。あまりにも数が多すぎてキャッチしきれなかった絵馬に埋もれるわんこーろと狐稲利。

 狐稲利は降り注ぐ絵馬の様子にキャッキャと楽しそうだが、わんこーろはというと、その絵馬が移住者たちの好意であることに嬉しさを感じ、投げ銭機能によってもたらされたものであることに戦慄し、絵馬に書き込まれた愛のこもったメッセージに恥ずかしさをにじませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうううう~~~まったく~とんでもないですよこれは~~」

 

「んふー移住者とっても楽しそうだったー」

 

 札置の初詣から家へと帰ってきたわんこーろは玄関前で息を吐く。ごちゃまぜになった様々な感情を吐き出し整えるような様子のわんこーろに対し、狐稲利は単純に面白く珍しいものを見たという感想を抱いた様子だった。

 

 わんこーろの初詣配信は札置神社で投げ銭機能をオンにして十分程度の後に終了した。元々配信自体は札置神社でお参りしたら特に何もやることがないので終わらせる予定だったのだが、そこに予定外の絵馬奉納イベントが移住者によって強制的に差し込まれたような状況だった。

 

 わんこーろは視聴者が投げ銭を行うと、犬守村へ自動的に絵馬が奉納されるという仕掛けを創っているのだが、この絵馬の種類が豊富であること、わんこーろの創り出す犬守村に自身の名前入りの絵馬が飾られるという特別感の二つの理由によってわんこーろが投げ銭機能をオンにしている配信ではありえないほどの絵馬が創り出される。それこそ、今回のように空から雨あられのごとく降り注ぐのだって珍しくない。

 

 わんこーろが「お金をだいじにしてください~~!?」と慌てながら注意しても、さらに絵馬が投げられる始末。そのためわんこーろは記念配信などの時にしかこの投げ銭機能をオンにしない。だが、その分記念配信でドン引きするような金額を用いた大量の絵馬が生み出されるわけで、もはやどうしようもない。

 

「う~む~年末のぶんの絵馬もまだ奉納し切ってないのに~これいつ終わるんでしょう~?」

 

「えいえんに終わらないのではー?」

 

「あ~~ありえそうです~~……」

 

 絵馬には投げ銭機能を利用した移住者たちのメッセージが書き込まれている。わんこーろは通常配信の最後に札置の迷い路で毎回この絵馬を読み上げて迷い路の瑞垣へと括り付けて配信を終了しているのだが、すでに読み終わってない絵馬が溜まりに溜まっている。

 

「絵馬を読むだけの配信をしても良いかもしれませんね~」

 

「みんな面白いこと書いてて読んでてたのしーのー」

 

「大喜利とかは見てて笑っちゃいますね~逆に赤い絵馬に何も書かれていなかったのは困惑しましたけど~~……ん? おや~?」

 

 狐稲利と共に談笑しながら玄関から家へと入り、手を洗った後いつもの配信部屋へ行こうとしたとき、わんこーろのイヌミミがピクピクと反応する。何やら部屋で物音がするようだ。

 

「んー? どしたのおかーさー?」

 

「……んふふ~どなたかが抗議しに来られているようですね~」

 

「こうぎー?」

 

 配信部屋の戸の前で立ち止まったわんこーろに狐稲利は、入らないの? という視線を送るが、わんこーろはまだ入ろうとしない。そんなことをしなくてもすぐに向こうから開けてくるだろう事は分かっていたからだ。

 

「その通りですよわんこーろさんっ!!」

 

「おお!? わちるー!?」

 

「わちるさん戸は静かに開けてくださいね~」

 

 勢いよく登場したのはわんこーろの帰りを待っていたわちるだった。わちるは頬を少し赤くしてギラギラと瞳を輝かせ、どこか声が弾んでいるように感じる。わんこーろと会えるというだけでいつも嬉しさが隠しきれないわちるだが、今回はその嬉しさをひた隠し、"私、怒ってます!"という表情を作ろうと努力していた。

 

 どうしても上向きになりそうな口角を震えながら抑え込み、下がりそうになる目じりを吊り上げ、怒りの表情でもってわんこーろに対峙しようとするのだが……

 

「わわわんこーろさん! あ、あああの配信の匂いがどうとか言うのはですね! わ、私としてはとっても恥ずかしくてですね! そのせいで叫んじゃって室長に怒られて――」

 

「あ、わちるさん~このマフラーありがとうございました~。おかげで寒い中でも温かく初詣が出来ました~これからも使わせてもらいますね~?」

 

「え、あ、はい! それはよかったです! どんどん使っちゃってください! 古くなったらまた新しいのを編みますから!」

 

「ん~……そうですね~このマフラーだけは特別に時を止めて劣化しないようにとも思いましたけど~そっちの方が魅力的ですね~んふふ~」

 

「ああっ! 微笑んだわんこーろさんかわい……!」

 

 配信部屋の入り口付近で夫婦漫才を展開しているわちるとわんこーろをすり抜け、狐稲利は部屋の真ん中に設置されたこたつの中へと入り込む。既にこたつでゆったりしていた面々と顔を合わせ、温かさにとろけた声であいさつをする。

 

「みんなーおつかれー。こんにちはー」

 

「はい、こんにちはです、狐稲利さん」

 

「こんー。お邪魔してるよー」

 

「ううー……やっぱりここのこたつは最高だよぅ~」

 

 そこにいたのはFSのメンバーだった。律儀に姿勢を正して炬燵に入る寝子が頭を下げ、なこそは軽い感じで返答する。ナートはすでに横になって寝る体勢だ。

 

 彼女たちは年末にわんこーろと約束をしており、この日わんこーろお手製のおせちを食べに来ていたのだ。当初はFSの新年特別配信が日付が変わると同時に始まり、そのまま深夜まで行われるという事で、無理してまで来なくても大丈夫ですよと言っていたわんこーろだったが、FSの面々は特別配信が終了してからすぐに布団に潜り込み、約束のお昼時に起きるというなかなかの忙しなさを見せていたが、それでも全員がそろってこの場に集まっていた。

 

「アイツ……いやあいつものことだけどよ、チョロすぎて心配になるな」

 

「どうしようね? わちるちゃん知らないイヌミミ幼女について行っちゃったら」

 

 いまだに嬉しさで悶えているわちるを見て○一が一言つぶやく。なこそが冗談めかしてそんなことを言うと、わちるが不満そうな声音でその言葉に反論する。

 

「何を言ってるんですか! 私はわんこーろさん一筋です! わんこーろさん以外にいきなり抱き着いたりなんかしません!」

 

「わちるさんこそ何を言っているので~?」

 

 むしろ自身の時もいきなりは抱き着かないでほしいのだが、という思いを込めた視線をジト目でわちるへと送るわんこーろだが、残念なことにその視線はわちるには届かない。

 

「じゃあさ、その名前も知らないイヌミミ幼女がわんころちゃんの友達だって偽って、わんころちゃんの秘密を教えてあげるって言ってきたら?」

 

 いたずらを仕掛けるような調子でそんなことを言い出したなこそ。大好きなわんこーろの秘密、というところで多少迷うのではと考えていたなこその予想を裏切り、わちるは間髪入れず即答する。

 

「ありえませんね。私以上にわんこーろさんのことを知っている者はいません!!」

 

「言い切りやがったぞ」

 

「んーわたしもー。わたしもおかーさのこといっぱいしってるのー」

 

「狐稲利ちゃん参戦!」

 

「これは強敵だね」

 

「なんでもいいからおせちたべようよぅ」

 

 その後、皆でわんこーろがFSの為に用意していたおせちを食べたり、わんこーろと狐稲利の二人ではあまり面白くないと遊んでいなかった福笑いやカルタ、狐稲利が大切にしているボードゲームで疲れるまで遊びつくしたのだった。

 

 まだ雪がちらつく寒空を眺め、温かな炬燵の上で笑いながら遊び倒す。そうやってわんこーろたちのお正月は過ぎていくのだった。

 

 

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