転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

194 / 271
#192 葦原学校とやさしいお味

 

 FSが旗印となり、FS運営である推進室が中心となってネット上に広大な仮想空間を構築する計画、通称V+R=W(ヴァーチャル・リアル・ワールド)

 

 その計画はこの国だけでなく、協力関係にある企業を中心に各国の"拠点"がネット上に築かれるはずだったのだが、現在それらの拠点はまだ構築されていない。

 

 このV+R=Wという大規模な仮想空間構築計画の要点の一つは、仮想空間内にかつての自然豊かな現実世界を再現し、それを手本に現実の環境を復興させるというものだ。それ故に各国はまず、自国の失われた歴史の発掘から始めなければならず、その時点で計画がほぼ進んでいないという有様だった。

 

 対してこの国では元々データサルベージ事業で世界有数という認識をされていた推進室に加え、電子生命体の能力をフルに使ったわんこーろのおかげで完全な形であらゆる文化、伝統、風習が復興し始め、諦められていた地方の小さなお祭りまでもが掘り起こされた。

 

 あとはそれを国民に周知させる手段だが、それも抜かりは無い。現在若者の情報収集源はネットが主となっており、ただテレビでサルベージした情報を羅列するだけでは意味がないことを推進室は理解していた。

 

 そうして生み出されたのがネット上での活動を主とし、現代の若者たちが興味を示し始めていたヴァーチャル配信者という存在を起用した広報チーム、FSだった。

 

 元々サルベージ技術に関してプロだった推進室、その技術を補助、発展させる形で協力することとなったわんこーろ。サルベージ技術の周知はそのわんこーろとFSが。

 そうやってV+R=Wで拠点を構築するための下地が万全であったこの国では早々にV+R=W内に拠点となる都市、葦原町を構築することに成功したという訳だ。

 

 他国がまだV+R=W内に自国の伝統や文化を再現することに難航している中、すでに葦原町では第一期生と呼ばれる開拓者を投入、第二期生の投入時期も決定しており順調にその仮想世界を構築していた。

 

 

 

 

「うぅ~この暖かさと優しい味がお腹に沁みるぅ~」

 

「んふふ~気に入って頂けて良かったです~この七草がゆの七草はここ、葦原町のものを使っているんですよ~」

 

 V+R=W内の拠点"葦原町"では今日も一期生が楽しそうに配信活動を行っている。総勢101名もの一期生はそれぞれが思い思いに配信を行い、葦原町の風景を画面の向こうへと届けていた。

 

 

 葦原町で行われる配信で最も多いのは葦原町の開拓実況だろう。一期生は皆一丸となって開拓を行っているわけだが、流石一期生として選ばれるだけあって我の強い者が多く、開拓実況にもそれぞれの特色が色濃く現れている。ある者はわんこーろ並みのクオリティを目指して細かな作業を専門として実況していたりする。机の上でピンセットのような姿のツールを用いて3Dモデルを制作する配信はある意味人気の配信だった。

 

 またある者は真っ白な未開拓地帯へ出向き、すでに制作済みの土、植物、水などの3Dモデルプリセットを用いて開拓範囲を拡大する様子を配信している。現地で3Dモデルを制作するのではなく、あらかじめ制作済みの3Dモデルを使うことで短時間での開拓が可能となる。スピーディーで爽快感のある開拓実況も人気の配信のひとつだ。

 

 どちらも現在の葦原町では必要な開拓事業であり、片方を専門にしている配信者もいれば、両方手を出してマルチに活動する配信者もいる。それを決めるのは配信者自身であり、自由に開拓する事が許されている。

 

 そうして開拓された、広大で詳細な世界を利用した動画撮影作業やイベント事が行われていたりもする。開拓された土地を配信者が個人の配信で利用することだって自由だ。最近ではそういった開拓や配信活動の中に、二期生を迎えるための準備なども含まれるようになったりしている。

  

 必ず行わなければならないイベント事の大まかなタイムスケジュールはすでにFSが提示しているのでそれを気にかけながらだが、一期生は今日も楽しく自由に活動しているようだった。そして、それは当のFSも例外ではない。

 

 V+R=Wの拠点、葦原町の中心部に存在する学校を模した建築物は一期生や視聴者の間で"葦原学校"と親しみを込めて呼ばれていた。NDSの基本的な使い方、V+R=Wのルールに関する講義、わんこーろの利用するツールを用いた3Dモデルの制作研修などが行われており、それらはV+R=W参加者ならば何度でも受講することができる。それ以外にも一期生が自発的に取り組み形となった部活動なども最近では活発に動き始めているようだった。

 

 そんな様々なイベントなどが開催される中心地として利用されている葦原学校だが、実は限られた人間しか入ることのできない部屋が数多く存在する。公にはできないような葦原町全体の管理、防衛等のシステム類は一期生の配信に移ることがないように隔離され、立ち入り禁止の空間などに納められている。

 

 だが、そのような警備が必要な部屋とは異なる意味で入ることのできない部屋、というものもある。それはFSが集まる、通称生徒会室だ。

 

 この生徒会室はFS全員が集まる部屋であり、利用者は当然FSのメンバー。それに加えて配信者界隈でも有名な人物ばかりというのだから、一期生でもまず理由なく入室するのは躊躇われるような部屋だった。つまり、入ることのできない部屋ではなく、"入りにくい部屋"というわけだ。

 

 そんな理由もあって生徒会室はほぼFSの私室のようになっており、ここ最近でまた私物が増えたように見える。だがそれを注意する人間はこの部屋に入ってこないし、室長も灯も基本的に一期生の動向を逐一監視しているわけでもないので、生徒会室の状態を詳しくは知らない。あるいは見逃していた。

 ゴミだらけにならないのは寝子やわんこーろ、それとナートの妹である風音布里(かざねふり)ほうりがちょくちょく掃除に来ているおかげだ。

 

「ナートお姉ちゃんここ最近の暴飲暴食は目に余るものがありましたから」

 

「ナートちゃん食べすぎなんだって。むこう(現実)でも灯さんの料理食べたし、こっち(仮想)でもわんころちゃんのおせち食べてたじゃん」

 

「ううぅ……仮想世界ならいくら食べてもノーカンだと思って……」

 

「脳が勘違いして満腹中枢ぶっ壊れっぞ」

 

「んふふ~お疲れみたいですね~ナートさん~」

 

 そんな生徒会室の奥にある小部屋ではFSの面々がこたつに入り込み、わんこーろが作った七草がゆに舌鼓を打っていた。

 生徒会室の利用者がちょっとした休憩の為の小部屋であるので、その広さはおよそ四畳半といったところ。真ん中に大きなこたつが設置され、壁際にはちょっとした料理が出来るキッチンに、小型の冷蔵庫。壁には大きなディスプレイが設置され、そこには葦原町で配信を行っている一期生の配信が流されている。

 

 FSのメンバーは全員こたつの中でリラックスした状態でくつろいでいる。キッチンで狐稲利と共に洗い物をしているわんこーろはそんな面々に労りの言葉をかけ、尻尾を振って元気づけようとしている。

 

 FSはここ数日行われていた正月の特別配信の数々によってほぼ休みなく動き回っていた。FSの公式配信はもちろん、いくつもの配信者グループが招待された大型コラボも多く参加し、一日にいくつもの配信に顔を出すのも当たり前という具合だった。

 

 すでにFSというヴァーチャル配信者グループが生まれてから数年が経過しており、FSの面々は新人のわちるを除けば皆その忙しなさを一度は体験しているはずだった。だが、やはり年に一度というのはそんな過去の教訓を生かすには期間が空きすぎており、ナートはここ最近美味しくなってきた現実の食事を食べに食べ、暴飲暴食の正月休みを過ごした。

 

 その結果、食べすぎによりナートの顔は青く、ぐったりとしてこたつの天板の上に頭を乗せて呻いていた。その状態のまま器用に七草がゆを啜っている。

 

「やっぱり食べすぎはよくないよぅ~ふぅ…、このおかゆ……毎日食べていたい…」

 

「ぜってー飽きる」

 

「まず食べすぎたことを反省してください」

 

「やっぱりナートちゃんはダメダメだね~」

 

 そんなナートを見て○一と寝子は呆れたように息を吐く。ナートが正月にこのような状態になるのはこれまで何度かあったのだが、当時はそれほど食事に興味がなく、もっぱらゲームの長時間配信による体調不良だったのだが、今年はそれに加えての食べすぎ状態。他のメンバーはここ数日の忙しさによる疲れもあり、もはや怒る気にもならない。

 

「んふふ~このおかゆはですね~七草がゆと言いまして~お正月で食べすぎたお腹を休ませてあげるためのものなのですよ~」

 

「私も食べたー。ちょっとにがにがだったけどー美味しかったー」

 

 わんこーろの言葉に皿洗いを終えてこたつにへと合流した狐稲利が反応する。七草がゆは野草を用いるため、その味は野菜を入れたものよりもやはり、少し青臭く感じるところがある。出汁を入れたり卵を解き入れたりとわんこーろも工夫してみたのだが、それでも狐稲利の口には少し苦く感じたようだ。

 

 だがそれでも狐稲利は残すことはせず、最後まで食べてしっかりとご馳走様をした。よくできたご褒美にその頭をなでなでしてあげたわんこーろだが、やはり恥ずかしくなって狐稲利はすぐに逃げてしまった訳だが。

 

「まさに今のナートのための食べモンだな」

 

「昔もナートお姉ちゃんみたいに食べすぎるなんて愚かな人がいたんですね」

 

「お、おろ……」

 

「あはは、元から顔が青いから寝子ちゃんの言葉でダメージ受けたかわかんないや~」

 

 ナートは力なく愚か…愚か…、と寝子の放った言葉を反芻しながらもおかゆを口に運んでいく。ナートの感じる苦みは果たしておかゆによるものか、それとも冷ややかな視線を送る寝子によるものか。

 

 

「あ、そ~いえば葦原町(こちら)はどんな感じですか~? 二期生の方々のお話は室長さんから聞いていますけど~それ以外はあまり知らないので~」

 

「へっ? あ、ええとですね……」

 

 おかゆを作っていた鍋を洗い終えたわんこーろはこたつの中に入り、わちるへと話を振る。わんこーろは割烹着姿であり、どうやらそれをじっと眺めていたらしいわちるはいきなり話しかけられたことに驚き若干肩をビクリと震わせる。そんな反応に周りが呆れて笑い声が漏れる。

 

「オイオイ見惚れてんじゃん」

 

「わちるちゃんの熱のこもった視線あっついねー」

 

「これはわちるお姉ちゃん、残念な妄想もしていたでしょうね」

 

「し、してませんよ!? そ、そんなこと」

 

「ほんとぅ~? まるで新婚みたいだなぁ~とか思わなかったの?」

 

「お、思ってませんっっ!? え、えええと……そう! 葦原町についての話でしたよね! わんこーろさん!!」

 

「え、ええ~そうですけど~……わちるさん大丈夫です~?」

 

「んーわちる顔真っ赤ーあついー?」

 

「大丈夫ですってばぁ!!」

 

 結局わちるへの弄りとわちるの真っ赤な顔が元に戻るのはそれからしばらく経ってからだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。