転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
「と、いう訳で~わんこーろの初めての茶番でした~初見の方は驚かせて申し訳ありません~」
『最高なんだが?』『そこらのアニメより出来がいいのですが』『茶番が茶番のレベルを突破していて草』『これはまた拡散されてとんでもないことになる予感』『良かったいつものわんころちゃんだ』『茶番の大人びたわんころちゃんも個人的にイイ』『幼女なのに声音が大人びてるから人外感パなかった』『控えめに言って最高すぎ』
「んふふ~視聴者の皆さん……いえ、移住者のみなさんは優しいですね~わんこーろも恥ずかしいのを我慢してあんな台詞を言った甲斐があったというものですよ~」
『一枠ぐらいあのしゃべり方でもいいのよ』『もののけわんこーろ』『姿通り山犬の姫な訳で』『今度は羞恥心限界まで耐久配信して』
「ぜったいに~いやです~あのしゃべり方は疲れるんです~そんなこと言うならもう配信終わらせますよ~?」
『すまん』『←こいつが悪かった』『すべての元凶はそいつだ』『だから許してください』『貴様ら裏切ったなぁぁぁぁ!!!』『村八分されてて草』
「他の移住者を生贄にしてはいけませんよ~最初に言い出したのは私なので強く言えませんけど~……さて、今回茶番に利用した川の紹介に移らせていただきますよ~」
背後の川へと配信画面を向け、その流れを映します。先ほどの茶番のように特にエフェクトを利用しなくとも太陽の光だけで十分幻想的に見えるように考え実装した川。
「水を流しただけでは味気ないので~砂や砂利を敷いて~苔を生やしたりと細かな部分を追加してみました~流れが不規則になるように川底の岩をまばらに設置し直したりと頑張ってみました~」
『おつかれです』『なるほど、流れが不規則だと光の反射がより綺麗に見えるからか』『こけ?てのは緑の草みたいのか』
「ああ~そういえばそちらの川はすべて壁化工事が終了していてこんな感じの川はもうないんでしたね~そうですよ~苔というのはこの緑の水棲植物の事です~細かなポリゴンによって制作したんです~」
どれどれ、知らない移住者の為にもう一度どぼん、と川の中に入り手のひらサイズの苔つき小石を取り上げ画面の前に差し出す。おっとっと油断してたら新しい浴衣が濡れちゃう。しっかりとたくし上げないと。
『気をつけて!』『危なっかしいぞ』『転ばないかヒヤヒヤする』『意外とお転婆やね』『見えそうだからもうちょい下げなさい!』『はしたないですぞ姫!』『移住者というか保護者だなこりゃ』
「大丈夫ですよこのくらい~この川を造ったのはわんこーろですよ~?石の場所も水の流れも全部把握してるに決まってるじゃないでしゅくわあああああ!!」
『ああっわんこーろがやられた』『草、いや苔生える』『派手にずっこけたな』『緩やかそうなのにどんどん流れていくんですが』『誰一人心配しないの草』『自分で大丈夫だって言ってたんだし大丈夫っしょ』『わんこーろ…無茶しやがって……』
「え~こちらが滝の工事現場になります~御覧の通り山の中に断崖を造りまして~水の通る溝を掘ったぐらいしかまだしておりません~崖はほぼ直角に設定して~落差はおよそ130メートルから135メートルを予定しております~」
『カメラさん180度回転して!』『みんな!ディスプレイの裏を見るんだ!』『ごちゃごちゃ配線だらけなんですが』『掃除しろ!!』『濡れ透けどこ……ここ?』
はい今私は浴衣を乾かしながら滝の進捗を見ていただいております。決して画面に映らないよう画面の裏で乾かしております。移住者の阿鼻叫喚が聞こえている気がしますが、気のせいでしょう。
「それにしても~なかなか乾かないですね~……やっぱり脱いで乾かすしかないですね~」
『カメラぁぁぁ動け!動いてよおおおお!!』『動けってんだこのポンコツ!!』『変態しかいなくて草』『はい村八分』
「は~いわんこーろの話も聞いてくださいね~この滝の後ですが~そのまま麓まで川としてのばしていって~田んぼにする予定地まで水を持ってくる予定です~田んぼには水は必須ですからね~」
『ついに水田が!』『稲作もするつもりなのね』『田んぼって何だ?』『実は俺もよく分からんのだが』『米を作る場所だよな?』『畑じゃだめなのか?』
「そうですね~畑で育てられないという訳では無いのですが~水稲の方が利点があるんですよ~、水の中なら虫や雑草の被害が少なかったり~寒さに弱いので水で暖をとらせたり~」
畑で育てられる種もあるようですが、私のサルベージした稲作に関する詳細なデータは水稲のものがほとんどだったのでこちらを採用する事にしました。
それに日本の原風景といったら水田ですからね、これは譲れません!
「さてさて~川と滝の途中経過も紹介できたので~今日はこれで終わりたいと思います~」
『おつ』『いかないで』『今日はちょっと早いんだな』『また夕方まで配信するのかと思った』
「さすがに長時間配信は事前にご報告させていただきますよ~実はですね~今日の夜にわんこーろのお友達、フロントサルベージ所属の九炉輪菜わちるさんの初配信が~行われるんですね~」
『やっぱりか』『しってた』『メイクでも仲良さげでてぇてぇ』『これはコラボ確実だな』
「わんこーろのような新人の個人勢が言うのもなんなのですが~移住者のみなさんもよければ見に行きましょうね~それでは今日の配信は終わり~また次回配信までばいばい~」
配信画面を停止し、配信が完全に終了してから私は別ウィンドウを開きメイクを立ち上げ、わちるさんのつぶやきを確認します。
【あああ……わんころちゃん……私も連れてって……】
どうやら最初の方の茶番はわちるさんも見ていたようです……。そのつぶやきにわちるさんのフォロワーが【あなたこの後初配信でしょーが】と突っ込みを入れている。
……あ違う、この突っ込みフロントサルベージの虹乃なこそさんだ……。
その後、必死になこそさんに言い訳するわちるさん。
二人のやりとりが続き、しばらくしてわちるさんは大人しくなったので配信の準備に入ったようだ。
「んふふ~わちるさん……楽しそうだな~」
文字だけでも伝わるわちるさんの感情。どきどきしたり、わくわくしたり、怒られてしゅんとしたり……。
今はどうなんだろう。不安なのかな、それとも早く始めたいと思ってるのかな。
「人らしい感情……今の私じゃ、よくわからなくなったもの……わちるさんはやっぱり……“人間”なんだね~」
川の先、犬守山の向こうから黒い雲が近づいてくる。空気が湿り、空が陰り始める。
「……もうすぐ、雨が来るね……移住者さんにも見せたかったな……」
もうすぐここは土砂降りになりそうだ。