転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#199 成長途中につき

先日の天文台管理空間を隅々まで探索した後、私は推進室の責任者である室長さん、灯さんとお話をし、発見した内容をなこそさんに話すのはもう少し間を開ける事にすると決めました。

 まだ葦原町は忙しい時期であり、その中心で立ち回っているなこそさんにお話するのはもう少し落ち着いてからの方が良いとの判断からです。

 

 というわけで天文台の情報の一切を室長さんにお預けして犬守村に帰ってきました。後は室長さんたちがお話するのか、私がお話するとしても連絡が来ると思います。

 

 

 しかし……ん~やっぱり村の空気はいいですね~帰ってきたって感じがします。何というか、安心する場所があるっていうのはやっぱり大切なのです。ネットの海に浮かんで眠る事もできますけど、やっぱり布団の中で眠りたいという気持ちの方が大きいわけです。

 

 ……ですが、布団の中でごろごろしていられるほどの余裕が、最近無くなってきました……。

 まだまだ冬だからと家の中に閉じこもって時々雪かきをするという生活を続けていたのですが、流石にヤバいな~と感じ始めております。主にお腹のまわりが。

 

 

 いや~流石は犬守村特製のお餅ですよね。まさか電子生命体さえも太ら……、3Dモデルを変化させる効果を持つとは~。

 

 いつも余裕の顔で電子生命体だから問題ないんです~と言っちゃってますけど……、よくよく考えれば当たり前ですよね。ネットに存在する食べ物のデータは味や香り、食感などが再現された非常にリアリティのある質の良いものばかりですが、犬守村の食物はそれに加えて食べ物に本来存在する栄養素などの情報も事細かく設定されており、それらが肉体にどのような変化をもたらすかもしっかりと計算されております。

 栄養のあるものを食べれば健康でいられますし、悪くなった食べ物を食べれば体調を崩します。

 

 私が冬間に雪や氷を保管して雪室や氷室を造ろうと考えていたのも、食物が腐らないようにという考えからです。腐ったものを食べたらお腹を壊しちゃいますから。

 

 とにかく、それらの例からも分かる通り犬守村の食物は私や狐稲利さんに人間のような体の変化をもたらすわけです。

  

 ……訳なのですが……。

 

「ううぅ~油断してましたねこれは~~」

 

「気にしなくても良いと思うー。おかーさはもっと大きくなった方が良いと思うのー」

 

 うぐ……狐稲利さんからのフォローが刺さりますよこれは……。た、確かに幼い見た目ではありますが横に大きくなっては……。

 本格的に雪解けが終わって動き回るようになった時、そのシルエットが『若干丸くね?』と移住者さんに思われるのは非常に……嫌です。

 

「んー……ただの成長だと思うー。背、伸びたー」

 

「え~……背は変わらないと思いますよ~。ほら、今まで通り私の頭のてっぺんが狐稲利さんの胸元くらい~……?」

 

 ……ん? あれ? なんだか違和感が……?

 

 確かに私と狐稲利さんの身長差は胸元あたりだったはずです。でも、なぜか違和感があるような……。

 

 狐稲利さんから視線を外し、ちらりと家の中を見渡します。近くにあった家の柱をさすさすとさすり、そして再度狐稲利さんを見上げます。

 

 あれ? 柱の高さと比較して狐稲利さん……。

 

「あ、あ~! 狐稲利さん、背伸びましたね~! 私も伸びたので気付きませんでした~」

 

「むー、さっきからそう言ってるー。村のおいしいものいっぱい食べてー大きくなったのー」

 

 確かにそうですよね、食べ物で体が変化するのなら、犬守村での生活のすべてが体に変化を与えるはずです。よく食べて、よく寝て、しっかり体を動かせば、もちろん成長するはずです。

 

 狐稲利さんも私も、モデルにした年齢的にまだまだ成長期なはずですし。なら、本当に食べすぎが原因ではなく体が成長した事によって単純に体が大きくなっただけ……?

 

「ふう~……なんだか安心したら一気に力が抜けましたね~」

 

 そういえば深く考えたこと無かったです。犬守村で生きている生き物たちは当然のように生まれて成長して命を全うするけれど、私たちはそこから切り離された存在のように、どこか考えていたような気がします。

 

 ですけど、私も狐稲利さんもこの犬守村で生活し、日々を生きているのですから例外となるわけありません。

 

「いや~成長ですか~そういえば狐稲利さんも今年の夏になればお誕生日ですか~」

 

「なつー? まだ寒いよー? 手がじんじんするもんー」

 

「んふふ~雪解けはまだまだ先ですからね~……。ん~……? 狐稲利さん、ちょっとお手を拝借~」

 

 寒そうに両手の指を絡ませる狐稲利さんですが、なんだかその指先も違和感があるように見えてきます。じっと見つめていると、その違和感の正体が見えてきました。

 

「あ~やっぱり、狐稲利さん爪が伸びてますね~」

 

「んー? 爪ー? 伸びるー?」

 

「はい~爪はほっとくと伸びてくるので~切ってあげるんです~」

 

「! 切るのー!?」

 

 おお!? 狐稲利さんが天井近くまで飛び上がって──

 

「痛いのいやーーーー!!」

 

「ちょ、狐稲利さん!? 大丈夫です~! 痛くないですから~!」

 

「うー! あやしいー!!」

 

「くっ、すばしっこ!? 大人しくしなさい狐稲利さん~!」

 

「まだ大人じゃないもんー!」

 

「そういう意味じゃありません~!」

 

 

『ただいまー!』『ただいまです』『今日もわんころちゃんの配信が見られる幸せ』『いやー自動配信設定は便利だなー』『いつも同じ時間に配信が見れるのってやっぱ良いわ』『もう習慣になってるうぅ~』『そういや今日は事前に配信開始のつぶやきしてなかったな』『忘れてたのでは?』『まあもう始まっちゃったから手遅れではあるけどw』

 

 ああ!? そういえばもう配信開始時刻じゃないですか! ヤバいです! 早く狐稲利さんの爪切りを終わらせて始めなければ!

 

「うぐっ、こら、暴れないでください……!」

 

「んー!! いやなのー!!」

 

「大丈夫です痛くしませんから! すぐに終わりますから!」

 

「いーやーなーのー!!」

 

『何事!?』『しょっぱなドタバタで草』『配信開始直後になにやってんだ!?』『これは……』『わんころちゃんが狐稲利ちゃんを組み伏せて……!』『凄い、体格差をカバーする為に関節を!』『成長したなわんころ!』『修羅場かな?』『事案ですよわんころちゃん!』『お、喧嘩?珍しいね』

 

「移住者さん! あ、ちょ、ちょっと待っててくださ~い。すぐに終わらせるので~!」

 

「いじゅうしゃー! 助けて―おかーさが切るってー!」

 

『まさかの刃傷沙汰!?』『きる?……kill!?』『いつの間にそんなドロドロな!?』『ギスギス余裕で通り越してて草枯れる』『マジで修羅場だった!?』『!そうか二人ともわちるんを取り合って!』『止すんだ!わちるんはすでに二人のものだから!』『わちるん本人が知らぬところで巻き込まれてて草』『またしても何も知らない九炉輪菜わちる』『九炉輪菜わちる:やめて!私の為に争わないで!』『で、出たー!?』『ほんといっつも居るな!?』『わちるんがこんな絶好のタイミングを逃すはずがないんだよなぁ!!』『むしろ現地に行ってないだけ冷静とも言える』『そうかな……そうかも』

 

「ちょっとわちるさんも移住者さんも何言ってるんですか~! コレですよコレ! 爪切りです~!! 狐稲利さんが爪切りを嫌がって暴れてるんですよ~!!」

 

『爪切り?』『あー』『もしかして狐稲利ちゃん爪切り初めて?』『なるほどだからあんな暴れっぷりを』『まるで犬猫の爪切り動画のようだw』『九炉輪菜わちる:ま、まあ?私は最初っから分かっていましたけど?』『草』『嘘だゾ絶対自分を取り合ってると思ってたゾ』『わちるんはっず』

 

「んー!! いやー!!」

 

「あうっ」

 

「あ、……」

 

『あっ』『あ』『あ……』『え』『ありゃ』

 

 私の羽交い絞めから逃れようとした狐稲利さんは無意識に腕を振るい、そのまま逃げようとしますがその振るわれた腕が私の手首あたりに当たってしまいました。いつもならちょっとした衝撃だけなのですが、不運にも狐稲利さんの伸びた爪が私の腕をひっかく形で振るわれ、小さな痛みを感じます。

 

「あらら~……」

 

「あ、あ、……」

 

 腕を見てみると肌に赤い線が走っているのが分かります。血は出ていませんし、痛みも、もうありません。ただ赤くなっているだけのようです。ですが、その様子を見た狐稲利さんはひどくうろたえたようで、声を詰まらせながら後ずさりしていきます。

 

「狐稲利さん~」

 

「あ、う……」

 

「爪、切らせてもらってもいいです~?」

 

「……、……うん」

 

 すっかり気落ちしてうつむいてしまった狐稲利さんは私の言葉に肩を震わせ、静かに腰を落とします。

 

 ふふ、座り込んだ狐稲利さんの膝の上に座って、さらに腕を私の両手でがっちり固定。これで逃げられませんよ。

 

「んふふ~狐稲利さんは良い子ですね~。ほんとに、いい子いい子~」

 

「う……おかーさ、ごめん、なさい……」

 

「……うんうん、しっかり謝れて偉いですよ~。ささ、爪切りしちゃいましょう~大丈夫、全然痛くありませんから~」

 

『狐稲利ちゃん良い子だね』『二人ともいい子だよ』『信頼しあっているのがよく分かるのよな~』『精神的にもしっかり成長してらっしゃる』『我慢出来て偉いぞ狐稲利ちゃん』『あれ? 狐稲利ちゃん不思議そうな顔を?』『切るって言ったから痛いものだと思ったら全然そんなことなくて混乱してるなこれはw』

 

 ぱち、ぱち、っと。大人しくなった狐稲利さんは指を差し出して目をぎゅっと瞑っていますけど、そんな痛くはしませんって。深爪にならない程度に短く切って整えて~、反対側の爪もしっかり綺麗にしてあげれば~。

 

「はい、終わりましたよ~痛くなかったでしょ~?」

 

「うん。ありがとおかーさ」

 

「いえいえ、爪切りは置いておくので次からは自分で切ってもいいですからね~」

 

「うーん……うん」

 

 少し寂しそうな、不思議な感覚に狐稲利さんは爪を切った後の手を何度か握ったり開いたりと確かめるように動かしています。視線を自身の指先から外すことなく狐稲利さんは少し悩むように言いよどみ、頷きます。

 

「なんですその間は~?」

 

「おかーさー……また切ってくれるー?」

 

 するとこっちを見てそんなことを言ってきます。私が爪切りをしている間、狐稲利さんは非常に大人しくしていましたし、そんなにお気に召したのでしょうか? 爪を切ってすっきりした気分になったのが良いのなら私が切らなくても問題なさそうですが……。

 

「? ええ、いいですけど~……自分で切った方が楽じゃないです~?」

 

「ううん。また切ってほしいー」

 

「ん~……わかりました~それじゃあ伸びてきたら切ってあげます~」

 

「うんっ!」

 

『ほうほう』『これはこれは……w』『あーなるほどね』『狐稲利ちゃん甘え上手ねw』『これは策士』

 

「移住者さんがよくわからない理解をしてて怖いのですが~……」

 

『怖くないよ!』『失礼なわんこだな』『移住者は配信者に似るからねしょうがないね』『それより今日はなにすんのー?』

 

 むう……やっぱりよくわかりませんが……まあいつものことですし。

 

「そうですね~今日は何をしようかな~……ん? あれ?」

 

「おおー?」

 

 まだまだ犬守村の雪解けまでは長く、今日も部屋で何をしようかと考えていた時、メッセージの新着を知らせる音声が鳴り響きます。思ったよりも大きな音だったので配信にも乗ってしまったようで、移住者さんも何の音? とコメントを書き込んでいます。

 

「ん~……」

 

「んおー……」

 

「ちょ、狐稲利さん……」

 

 配信画面に映らないよう、こっそりと内容を確認しようとメッセージを表示させます。ですが同じく気になっていた狐稲利さんが覗き込み、完全にメッセージを盗み見る様子が配信画面にがっつり映ってしまってますよコレ。

 

 『二人とも目線が画面外で草』『完全にカンペ見てんじゃんw』『なんて書いてあったー?』『というか何処から?』

 

 仕方ないのでそのまま内容を確認してしまいましょうか。ええと、"葦原町専用アカウント"から送られてきたメッセージは……。

 

「……二期生歓迎イベント、"成人式"開催のお知らせ~?」

 

「おおー!」

 

 どうやら葦原町で新たなイベントが行われるようですね。イベントなら新春のコラボイベントなどが色々行われていたようですが、運営がメインに動く大型イベントとしては一期生の入学式以来ではないでしょうか。

 

 今回のイベントは私や一期生の方々も参加されるとのことなので、どのようなイベントになるのか楽しみですねぇ。

 

 

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