転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

209 / 271
#207 炬燵の妖精か、はたまた鬼の娘か

 

「さて~恵方巻はこんな感じで良いかな~?」

 

 炊事場の一角に恵方巻専用のスペースを設け、専用の道具を使った私特製の恵方巻を配信画面を動かして移住者さんにお見せします。

 まるで大きな撮影用カメラを動かすように、ぐぐぐ~っと手前から奥の方までゆっくりと動かして恵方巻の姿をお見せします。……ええ、画面を動かさないと全体が見えないので。

 

『…いや長くね?』『1m以上はあるように見えますが?』『よくこれ巻いたね!?』『圧巻だったぜ、あれほどわんころちゃんが機敏に動いたの久しぶりだろ』『食べ物に関しては真剣なわんころちゃんかわいい』『で、これを切らずに食べきるんだっけ?』

 

「さすがにそれはむりです~。恵方巻は真ん中あたりで具材を変えてあるので~半分はお昼に~半分は夕飯にしたいと思います~」

 

 ふ~む、大きいほうが目立って良いかと思ったのですが、大きくしすぎて食べにくいかもですね。いや、食べるときは好きな長さで輪切りにするのでそれほど苦労するわけでは無いのですけど。

 炊事場に拵えた作業台の端から端まで伸びた長い長い恵方巻には狐稲利さんの要望通り海鮮をどっさり詰め、キノコや玉子などで食感も楽しめるように工夫してあります。もちろんゲテモノな感じではありませんよ。しっかり恵方巻の形にしてありますし、味も悪くないはずです。

 

「せっかくですから鰯も焼いちゃいましょうか~節分ですしね~。あ、福茶というのも作ってみようかな~」

 

『いわし?』『魚の種類だよ』『節分の縁起ものだね。鰯の頭を飾るんだよ』『頭!?猟奇的な…』『まあ、そう思うわなw』『そういう見た目のインパクトとか、匂いで鬼を追い払う、らしいよ?』『なるほど…?』

 

「さすがに飾るのは止めとこっかな~……。福茶は昆布とか~梅干しを使ったお茶になります~これも節分ならではの飲み物ですね~」

 

『へ~』『お茶というよりなんだか汁物みたいな具材だ』『体にはよさそうだな、梅干しとか』『俺も最近梅干し漬け始めたわ。まだ数か月しか経ってないけど』『←マジ!?』『いいなぁ』『家で作れるのか…』『そりゃ作れるでしょ、わんころちゃんが作ってんだから』『ああ確かにそうだわ』『問題はウメの確保だが、合成の奴なら比較的簡単に手に入るしな』『まだまだ高価だけどねー』

 

「んふふ~梅干しは保存食として優秀ですよね~美味しいですし~他の料理にアレンジすることだって出来ますし~。鰯とウメを使った鰯の梅煮なんて料理もあるんですよ~」

 

「おかーさ!」

 

 移住者さんと夕飯の相談をしていると狐稲利さんが慌てた様子で炊事場に駆け込んできました。

 なんでしょう? 確か冬眠明けの動物たちに割れてしまった福豆をあげると言って遊びに出かけたはずですけど……。

 

『お?どした?』『なんだか狐稲利ちゃん焦ってる?』『なんだ大豆がやられたか?』『煎り終わったものは全部袋詰めしたよな?』『二人が豆撒きに使うって言ってた豆もしまったよね』『じゃあなんで慌てて?』

 

「ん~どうしました狐稲利さん~?」

 

「こたつ無い!!」

 

「……あ~」

 

『こたつ無い!?』『こたつが!?』『え、無いの!?なくなったの!?』『まさか!?』『どういうことわんころちゃん!』『こたつこたつこたつこたつ』『こたつどこ……ここ?』『我らのオアシス…』『安寧の地』『ヴァルハラ……』

 

 あらら、狐稲利さんたらすっごい息が上がってるじゃないですか。絶望に目が潤んでるような気さえしますよこれは。

 移住者さんに関してはいつもより!マークの量が多くて不気味ですね~~。なんだか絶望されてる方もおられますし~。いやはやこたつとは偉大な存在だったのですね~。

 

「狐稲利さん……」

 

「おかーさ!」

 

『わんころちゃん!』『お母さん!』『わんこーろ様!』『わ、わんこーろちゃん……?』『な、なんですかその温和な笑みは……!』

 

「……もうすぐ春ですね~」

 

「う、うん……」

 

「春は……あったかいですよね~……」

 

『あ』『あ……これは……』『暖かな笑み……!駄々をこねる子どもを諭すかのような暖かな笑み……!』

 

「! う、ううん! まだ寒いよ! さんかん、しをん? だよー!」

 

 あ、何か察したようですね。さすが狐稲利さんです。両手をバタバタと動かして焦った様子で私を見る狐稲利さんの視線には必死さが窺えます。何とか説得力のある言葉を絞り出そうとしているようですね。……それと三寒四温ですよ。

 

「まだ冬なのー! 春でも寒い日はあるのー!」

 

 なるほど、冬が終わっても寒い日は続くんだよと言いたいわけですね。動揺でそのあたりの説明が出来ない状態のようですが。

 

「んふふ~……」

 

「う……」

 

「……」

 

「う、うわーん!!」

 

 なんだかびくびくしている狐稲利さんをにこにこ眺めていたら悲鳴を上げながらどっか行っちゃいましたね。……ちょっとからかい過ぎたでしょうか。

 

「本当はこたつ布団を干しているだけで~まだこたつをしまうつもりはないんですけどね~」

 

『わんころちゃん!?』『草草の草』『狐稲利ちゃーん!』『あわれ狐稲利ちゃん……』『まあすぐに帰ってくるでしょ…』『外にでかでかとこたつ布団が干してあるからねw』『そういっている間に……』

 

「おかーさーー!!」

 

「んふふ~」

 

『遠くから狐稲利ちゃんの声がwww』『からかわれたと気づいたかw』『まあまだ寒いしねw』『こたつは守られたか…』

 

「さて~お昼ご飯の準備をしましょうか~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから狐稲利さんはひとしきり私に抗議の視線を向けたのち、お腹がすいたようで大人しくちゃぶ台の前に座って恵方巻にかぶりついていました。かぶりついている間も私をジト目で見つめ続けながら口元をもごもごさせるので、思わず笑ってしまうと恵方巻を咥えて、ううー! なんて唸り声を上げてさらにカワイイ感じに。

 

「んふふ~やっぱり狐稲利さんは可愛いですね~」

 

「むううううううー!!」

 

『わんころちゃんが怖いw』『初見だけど、わんこーろさんもいたずらするんだ』『むしろいたずら大好きなんだよなぁ』『わちるんとの掛け合い見てればむしろコレが普通だとわかる』『カラカラ笑うわんころちゃんマジドS』『そして怒り心頭なのにかわいい狐稲利ちゃんw』『目は怒ってんだけど口元がなぁw』『食べるか怒るかどっちかにしろw』

 

「むー……それならこっちだってー!!」

 

「へ?」

 

 恵方巻をんぐんぐ言いながら飲み込んだ狐稲利さんは勢いよく立ち上がり、奥の部屋へと消えていきました。通り過ぎた狐稲利さんの勢いで私の髪が舞い上がるほどでしたが、何かを壊したりしていないところを見るとしっかり周りは見ているようですね。

 

 ああ~この福茶美味し~。

 

『このわんこ余裕だな』『これが親の余裕というものよ』『狐稲利ちゃんの行動はすべてわんころちゃんの手のひらの上なのか!?』『いやいや、ここらで狐稲利ちゃんも意地を見せてほしいところ!』

 

「おかーさ!!」

 

「ん~……んごほっ!?」

 

『わんころちゃーん!!』『わんころちゃんがむせた!?』『お茶が気管に!!』『しっかりしろわんころちゃん!』『傷は浅いぞ!』『いやそれより狐稲利ちゃんの姿!!』『そ れ よ り』『おおおおおお!?狐稲利ちゃん!!?』

 

 な、ななな……こ、狐稲利さん!? な、なんですかその姿は……!

 

 先ほどと変わらぬ服装でなにやらドヤ顔をしている狐稲利さんですが、問題はその頭……! 正確には額から飛び出た一対のツノ!

 天に向かって伸びるその角は先端にいくにつれ細く、琥珀色へと変化しており、人ならざる姿を存分に表しています。にひひ、と笑う口元からは今までなかった八重歯が顔を覗かせ、どことなく雰囲気も今までと違うような……。

 

『うおおおおまさかの新衣装!?』『鬼っ娘!念願の鬼っ娘おおおおおおおお!!!!!』『ありがとうございます!ありがとうございます!』『あばばばばばば』『か、かわいい……最高かよ』『突然はやめて?心臓が亡くなったよ?』『美しい、あとキバがえっちい』『鬼っ娘狐稲利爆誕!?』

 

「にひひー。どう? どう? "犬守村の鬼娘"だよー」

 

「こ、狐稲利さんその姿は……」

 

「んふーまやに手伝ってもらったー!」

 

 まや? ……あ! 真夜さんですか! FSの○一さんと仲の良い、個人ヴァーチャル配信者の真夜さん! 

 

 真夜さんは私よりもずっと前から個人配信者として活動されている方で、その姿のコンセプトは戦いと祭りが大好きな鬼の姫、といったもの。そう考えれば狐稲利さんの角やキバはどことなく真夜さんに似ているような気もします。

 

 ぐ……和服を着こなす少女の姿、そこに加わる鬼という人外成分。それらが違和感なくマッチしている……やりますね狐稲利さん……!

 これまで新衣装お披露目はその名の通り新しい衣装のお披露目ばかりでしたが、こんな感じでツノを生やすのも確かにヴァーチャル配信者としては新衣装と言っても問題ない範囲。……やられましたねこれは!

 

「おかーさ! 勝負だよー!」

 

「しょ、勝負ですか~?」

 

「私がかったらこたつの権利はわたしがもらうよー!」

 

「……え?」

 

「こたつをしまう時は私の許可がひつようになりますー!」

 

「……ええと……移住者さん?」

 

『いや俺たちも困惑してますがな』『わんころちゃんに秘密にしてた新衣装まで引っ張り出して何かと思ったらw』『しょーもなくて草』『いや本人からしたら重大な事なのかもしれんぞw』『とはいえこたつの権利握るとかかなり限定的な要求だなw』

 

「おかーさに、せつぶん鬼ごっこしょーぶを挑むよーー!!」

 

「……移住者さん!?」

 

『俺らに言われても……』『これは大草原ですわ』『まさかの勝負!?』『狐稲利ちゃん反抗期きた?』『鬼っ娘から鬼ごっこ勝負を挑まれるわんころちゃんw』『果たして鬼ごっこ勝負とは!?』『これは楽しくなってきました!』『節分サプライズイベント、鬼っ娘狐稲利ちゃんの鬼ごっこはじまるよー』

 

「どういうことなんですか……」

 

 どたどたと家から外へと飛び出した狐稲利さんを呆然と見送っていたら、Uターンした狐稲利さんに「なんで追いかけて来ないのー!?」と言われました。理不尽ですね。

 

 とにかく、どこかで節分イベントがやりたい様子の狐稲利さん。……付き合ってあげましょうか、少々不安ではありますが。

 

「確か今日はお暇だったはず……わちるさんにも連絡しておこっと~……」

 

 道連れ道連れ~。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。