転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#208 節分と鬼娘狐稲利、あと百鬼夜行

「ううう恨みますよわんこーろさんん……!」

 

「そんなに怖がること無いじゃないですか~。ほら、ちゃんと福豆持ってください~」

 

「うううう……わんこーろさんからお誘いしてもらえるなんて珍しいと思ったら……!」

 

「嘘は言ってませんよ~? 二人で狐稲利さんと遊びましょう~と言ったでしょう~?」

 

「情報が少ないんですよ!」

 

『嵌められたなわちるん』『そんな簡単にホイホイ付いて行っちまうから…』『詐欺に引っ掛かりそうで心配だよ?』

 

 現在私とわちるさんは二人で真っ暗な札置の迷い路を進んでいます。私の持つ写し火提灯が唯一辺りを照らす光源となっていて、もう片方の手で(ます)をかかえ、わちるさんと一緒に暗闇の中を進んでいるところです。升の中には一杯に盛られた福豆が入れられており、わちるさんは豆を落とさないように慎重な足取りで私にくっついています。

 

『わちるちゃんガタガタ震えてて草』『こりゃ戦力にはならなさそうだなw』『雰囲気は抜群だし、怖いのちょっとわかる』『ひええ、夜の神社ってこんなに暗いのか…』『暗くて狐稲利ちゃんがどこにいるのか分からんね』『まさかここまで本格的なイベントになろうとは…』

 

「しっかりルール説明もしてましたね~。んふふ~用意周到です~」

 

「そのあたりはわんこーろさんに似てます……」

 

 突然新衣装のお披露目をしてそのまま走り去った狐稲利さんを追いかけ、到着した場所は札置神社の入り口でした。迷い路に入り込むとなんだかどんよりとした雰囲気が漂い、真っ暗。まるで真夜中のような暗さだったのです。

 

 まだ日が沈むには早い時間ですし、空間の時間をいじったわけでもなさそうです。何か狐稲利さんが仕掛けたのでしょうか?

 

 そんなタイミングで嬉々として現れたわちるさん。参加者がそろった事を把握した狐稲利さんが現れ、今回の節分イベントのルール説明を始めました。遊びに誘われた程度に思っていたわちるさんは怪しげな雰囲気漂う迷い路に悲鳴を上げて後ずさりしますが、そこを狐稲利さんがすかさずガード。逃げること叶わず……。

 なお、新衣装モードの狐稲利さんの姿を把握した事で別種の悲鳴を上げるわちるさん。

 

 

 そんな狐稲利さんが説明したこのイベントのルールですが、まず基本は鬼ごっこであり鬼の狐稲利さんへ福豆を当てれば私とわちるさんの勝利。福豆が無くなったら狐稲利さんの勝利、という単純明快なルールらしいです。

 

 あと、節分イベントなので当てるときは例の言葉を言わないとダメ。一度投げた福豆はひろっちゃダメ。邪魔者も存在しているから福豆を当てて無力化すべし。などなど、鬼ごっこではありますが節分の要素もしっかり組み込んだ内容になっています。

 

 

「わちるさんは投げるのは得意ですよね~冬の雪合戦イベントでも大活躍でしたし~」

 

『あれは凄かった』『わちるんFPSとかも得意そう』『成長速度がヤバいんよな』『しかし豆を投げるのはどうなんだろう?』『わちるん豆投げれる?』

 

「怖くて手が震えるんですけど……」

 

「んふふ~なに言ってるんですか~怖いものなんてないですって~犬守村には幽霊なんて実装されてな──」

 

 提灯の灯りに照らされた道の先は曲がり角になっており、私とわちるさんは移住者さんも交えて雑談しながらその角をなんとなしに曲がったところ、目の前に巨大な影が現れました。

 

 あまりにも巨大で、暗闇よりも真っ暗なその影は、こちらの足音をとらえた瞬間、その体からおびただしいほどの目を開き……。

 

「……」

 

「……」

 

『……』『ほ?』『んお?』『……ほにゅ?』

 

 ……え? なにこれ?

 

「わ、わっわわわわわんこーろしゃあんんん!?」

 

「わわわわ~!?」

 

『撤退撤退!!』『逃げるんだよ~!』『びっくりした!めっちゃびっくりした!』『いきなり画面いっぱいドアップは心臓に悪いって!』『邪魔者ってあれのこと!?』

 

 ちょっと!? わちるさん一人で逃げないでくださいよ!? って、ええええ!? なんだかあのおっきな目玉の影追いかけて来るんですけど!?

 

「わ、わんこーろさんアレ! 豆! 福豆です!」

 

「え、あ! なるほど~!」

 

『狙って当てて!』『ルール忘れちゃだめだよ!』『ちゃんと例の言葉を言うんだぞ!』

 

 いきなりでびっくりして忘れてましたよ! そうです豆です! 目の前の影に向かってあの言葉を!

 

「鬼は外~~!!」

 

「福は内!」

 

 片手に握りしめた福豆を思いっきり後方に向けて投げつけます。わたしもわちるさんも走りながらで狙いなんて付けられませんが、かなりの量を撒いたのでこれなら当たるでしょう!

 

「!? ひいいいい!? すっごいジャンプして避けてますよー!?」

 

『アクロバティック~!』『言ってる場合じゃねーぞ!?』『あんなのアリ!?』『狐稲利ちゃん難易度調整ドヘタか!?』

 

 わちるさんの叫びの通り、大きな影は豆の弾幕を大きく跳躍して回避しました。予備動作も無く飛び上がる姿に違和感がパないです。ですが、さすがにすべてを回避出来たわけでなく、おそらく足だろう部分に豆が当たり、影が散っていきます。

 

「鳥? ……あ! あの影ヨイヤミさんですよわんこーろさん!」

 

「狐稲利さんヨイヤミさんに協力してもらったんですね~!」

 

 散った影は姿を変え、カラスの姿となって暗闇へと消えていきます。ヨイヤミさんは元々犬守村という仮想空間を外部から防衛するためのAIでその姿も変幻自在。寄り集まって巨大な姿となることも可能です。

 おそらく空が真っ暗なのも夜になったからではなく、札置の上空をヨイヤミさんが覆って暗く演出しているのでしょう。

 

「んふー! なかなかやるねおかーさーわちるー!」

 

「まさか、その声は!」

 

『まさか!』『あの聞きなれた声は!』『もしかして!』

 

「んふふふー! 私はーこの犬守村に住む鬼の娘ー。狐稲利なのだー! 私を倒したくばー──」

 

 跳躍した大きな影の肩らしき所に腰掛ける鬼っ娘、あれはまさしくこのイベントのターゲット! というか、何をドヤ顔してるんですか狐稲利さん。今のうちに、そりゃ。

 

「鬼は外~」

 

「んふー!? あぶないー!?」

 

「ちょっとわんこーろさん!?」

 

『わんころちゃん!?』『不意打ちイクナイ…』『狐稲利ちゃんの口上がキャンセルされたww』『お約束は守ろうよわんころちゃん!』

 

「いや~早く終わらせた方がいいかな~って」

 

「ひどいー!」

 

「そうですよ! もっと楽しみましょうよ!」

 

「なんでわちるさんまでそっち側なんですか~」

 

 なんだかラスボスっぽく登場したので不意打ちで豆を投げたら怒られました。なぜわちるさんと移住者さんに怒られているのか疑問なのですが……。

 

「隙を見せた方が悪いのです~。ほらほら福は内~」

 

「んふー! 二度目は喰らわないよー! いけー!」

 

 ぴょんと飛び上がった狐稲利さんはそのまま新たに出現した巨大な人形(ひとがた)ヨイヤミさんたちの肩を軽快に飛び移り、こちらの攻撃(まめまき)を回避していきます。よくこの暗闇であれだけ自由に動けますね……なんて、感心していたらそれらのヨイヤミさんが動き出し、こちらへと迫ってきます。

 

「わわ……! ま、豆を……」

 

「いけませんわちるさん、ここで残弾を消費しては狐稲利さんの思うつぼですよ~」

 

 ヨイヤミさんで壁を作りながらこっちが弾切れになるのを待っているようですね。こっちをみてにこにこしている狐稲利さんが、今はなんだかいたずら好きな鬼娘に見えてきます。いや、実際のところその通りなんですけど、いつもより楽しんでいるみたいなんですよね。

 

『狐稲利ちゃん、わんころちゃんと遊ぶの久々なんじゃない?』『葦原町のこととかで忙しかったもんな』『ちょっと寂しかったのかも』『わざわざ鬼娘の新衣装を用意してたところを見るに、最初から節分イベントを計画してたのかな』

 

 む……移住者さんのコメントに少し思い当たる節がありますね。葦原町の入学式や天文台関係のアレコレで最近狐稲利さんと一緒に遊んでなかったような気がします。一番最近となればお正月の遊びをした時以来でしょうか。それでも激しく体を動かして遊びまわったわけではありませんし、体を動かした遊びといえば冬の雪合戦ですがその時は私は進行役だったので狐稲利さんと直接は遊んでいません。

 

 寝食を共にして、お手伝いもしてくださいますけど、遊びとなると確かに久しぶりですね。

 

「……なるほどなるほど~……そういう事なら、わんこーろも本気でお相手しましょうかね~」

 

「わ、わんこーろさん?」

 

「わちるさん~、確か飛べましたよね~? それじゃあ付いてきてください~」

 

 ここからは真剣勝負です! 母親の意地、見せてやりますよ~!

 

「あーもう! 置いていかないでくださいってば!」

 

 配信画面に映るのは黒いヨイヤミさんの軍勢と、それを指揮する鬼娘の狐稲利さん。追いかけるのはイヌミミと尻尾を持つ私と、黒い翼を羽ばたかせるわちるさん。

 さながら真夜中の妖怪大行進。百鬼夜行のごとき光景が繰り広げられています。

 

『人外ばっかで草』『濃い!画面が濃いよ!』『これが百鬼夜行……』『最初はどうなるかと思ってたけどイイ感じじゃん』『……これはどうにかなっているのか……?』『混乱から始まったイベントが混沌に変わっただけのような…w』『ま、楽しそうだからいっか』『いけー!わんころちゃん!豆鉄砲を喰らわせるんだ!』『弱そうな名前で草』『わんころちゃん空中で二段ジャンプは卑怯では!?』『いや、あれは見えにくいが空中の豆を足場にして跳躍してるんだ!』『どっちにしろ人間業じゃないよう……』『電子生命体だぞ』『あ、わちるちゃんが一瞬の隙をついて狐稲利ちゃんを』

 

「あうー……」

 

「はあ、はあ、つ、捕まえました……あとは豆をぶつけて……」

 

 おお! わちるさんが空中から飛び込んで狐稲利さんの腰へしがみつきましたよ! なんとためらいの無いダイブ抱き着き! コワイ。

 

「ううー……」

 

「う、……狐稲利ちゃんの、下がった眉……潤んだ瞳……」

 

 ……ん? わちるさん? 何をわなわな体を震わせているのです? もう後は豆を狐稲利さんに当てればクリアですよ? え、なぜわちるさんが泣きそうな顔をしているのです?

 

「ちょっとわちるさん~?」

 

「ううー……」

 

 ああ、狐稲利さんも効果があると見るや全力の上目遣いですよこれ! 移住者さんから得たあざと可愛らしい知識を総動員してますって!

 

「わちるー……いぢめる……?」

 

「虐めませんよ!!」

 

「いまだー! 脱出ー!」

 

「ああっ!?」

 

「な~にやってるんですか~」

 

『あーあ』『まんまと騙されてて草』『これ絶対捕まえられないのでは!?』『遊び疲れて動きが鈍るのを待つしか……』『……電子生命体に肉体的疲れ……?』『あっ……』『無限豆撒き編はじまた?』『まあ楽しそうだからいっかw』

 

 

 あ~これ本当に夜まで遊び倒すのでは~? まあ、確かに楽しいからいいんですけど~。

 

 

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