転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#226 行き止まり

 

 生物の中でも複雑な思考を行うことができない植物などは花粉や種を飛ばす程度の行動しか行う事が出来ないが、高度な知能を有する生命体は種共通のコミュニケーション方法を有している。それらは主に音を用いた"会話"を使用し他者と情報共有を行う。海洋生物であるイルカやクジラは体内のとある器官を振動させて音を発生させるエコーロケーションという能力を身に着けており、これにより周囲の状況を把握し、コミュニケーションを取る。

 陸上の動物は喉から声を発し、その強弱や高低の差によって同様に他者との交流を図る。

 さらに人間ともなれば、発した声による連続した音の流れを"文章"とし、音そのものに意味を持たせるにまで至る。

 

 ……だが、それが現在地球上に存在する生命の限界だった。

 

 知能の高さに比例して交流手段が多様化しているとしたら、人以上の能力を有した生命体のコミュニケーション方法とはどのようなものになるのだろう?

 

 植物のような体を動かす方法から動物のような音を用いた方法へと劇的に変化したように、音さえも用いない、さらに上位のコミュニケーション方法を用いるのではないだろうか。

 

 例えば、電波信号のように。

 

 

 

 

 

「恐らく、この電波信号を送ったのは私と同じような存在なのでしょう~」

 

『ちょ、ちょっと待ってくれ。それはつまり……地球外から電子生命体が……。……お前も、地球外生命体だと、そういうことか……?』

 

「ん~……そのあたりは私もよく分からないんですよね~。気が付いたときには真っ白な空間に居たので~どのように生まれたのか覚えていないんです~」

 

『そう、か……』

 

「私も、ちょっぴり驚いています~。人では無いのはもう分かっていますけど~まさか宇宙人だったとは~」

 

『AIならばいざ知らず、お前のような高度な存在を人間が生み出せるはずも無いだろうからな……むしろ納得だ』

 

「んふふ~。とにかくこれで一つ分かったことがありますね~」

 

『ああ、天文台は地球外の存在……お前と同じような電子生命体とコンタクトを取っていた』

 

 セカンドシグナルは実在し、そしてその正体は電子生命体からの接触だった。見つかった電波信号のデータという名の電子生命体からの挨拶を聞いたわんこーろによってそれは確実となった。

 

 そしてその事実は疑問に思われていた天文台とヴィータ(高度進化開発局)との繋がりの大きな理由となりえた。

 

『セカンドシグナルを受け取った後、天文台が秘密裏に電子生命体と交流し協力関係にあったとしたら……ヴィータが天文台と接触したのはその電子生命体が狙いだったか……?』

 

「秋のV/L=Fの時、くー子さんごしに塔の管理者がどれだけの力を持っているか実際に体感しました~おそらくは私と同じかそれ以上の能力があるかと~」

 

『犬守村へ侵入した手腕といい、NDSを複数同時にハックしたのも人間業とは思えん……という事は、塔の管理者イコール天文台の電子生命体ということか……?』

 

 室長とわんこーろは仮説を立てる。天文台に電子生命体が居たことは確実であり、ヴィータが天文台へ接触してきたのは電子生命体の存在を知ったからではないかと。当時塔はその巨大さとシステムの複雑さからすべて人間で管理するのは不可能だと思われた。そうして生み出されたのが管理者と呼ばれるAIだった、という話だが現実にはAIを作った訳ではなく、電子生命体にその作業をしてもらう事にしたのではないか。

 

「ではシゲサトさんが消えたのは~」

 

『あくまで仮説の域を出んが……もしかしたら重里氏はその電子生命体と親しい間柄だったのかもしれん』

 

 電子生命体と言っても人類と同じく性格は様々なのだろう。けれどその電子生命体に関する知見を室長は目の前にいるわんこーろからしか得られておらず、故に室長は天文台の電子生命体もわんこーろのように人との関わりを欲し、天文台と接触したのではと考えた。そして天文台の中でもとりわけ仲が良かったのが重里なのではないかと。

 

『お前とわちるのような関係を築いていたのかもしれん。そしてヴィータは電子生命体の塔へ招き入れる交渉人、あるいは人質として重里氏を利用し……そして電子生命体は塔の管理者となった』

 

「天文台からデータが消えていたり~そもそもこうやって空間を分割して隠したのもその電子生命体の居た痕跡を隠すためなのでしょうか~。というか~隠し方や私にもサルベージできないデータの消し方からして~その電子生命体が消したのですかね~?」

 

『……だろうな。当時の情報を漁っていれば塔がいかに人類の英知にて造られた存在なのかと声高に宣伝されていたか分かる。そんな発展した科学技術の結晶とされていた塔の心臓部が、実は人ではない存在に管理を任せていたなんてことが知れれば当時塔の開発を任されていたヴィータの面目は潰れ、人ならざる存在に管理を任せる危険性を問われていただろう』

 

 かつてわちるが初めてNDSを起動させ、初めて犬守村へと訪れる要因となった復興省の役人蛇谷のように、ヴィータは電子生命体と接触する手段として重里を利用しようとした。わちるの場合は復興省自体が電子生命体の存在に懐疑的であり、わんこーろを有能なプログラマー程度にしか思っていなかったため、室長の働きもありわんこーろは復興省へと取り込まれる事は無かった。わんこーろをFSへと勧誘した際も、一度断られればそれ以上無理強いはしなかった。そのためわんこーろは現在もほぼ自由な生活を送れている。

 

 だが、きっと天文台はそのような状況では無かったのだろう。ヴィータは相手が完全に人間以上の能力を持った存在だと断定して天文台と交渉していただろうし、人類の未来がかかっているなら復興省以上に本気で外堀を埋めにかかっていたことだろう。

 

「とにかく、これでシゲサトさんの謎はある程度判明したのではないですか~?」

 

『そうだな……主塔に居座るのがお前と同じ電子生命体であり、V/L=Fの件からおそらく敵対的だろうという新たな問題が生まれたがな……』

 

「ま、まあそうなんですけど~……あちらからは手出しできないのでしょう~?」

 

『まあな。こちらからも手は出せんが……どこぞの愚か者が無暗につついたりできない分、安心と思っておくか』

 

「んふふ~とにかくこれでひと段落です~。あとは~狐稲利さんが解析しているテキストデータですね~。私もそちらの解析作業に合流しますね~」

 

『ああ、こちらからも何かわかったら連絡する。……あまり無茶はするなよ。焦っても仕方ないのだからな』

 

「も~、分かってます~もう大丈夫ですから~。それじゃあまたあとで~」

 

『ああ、後でな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わんこーろと室長が葦原学校の深部でそんな話をしている時、葦原学校の屋上では今日もナートとほうりがマイクロマシンの開発に精を出していた。隣のテントで天体観測をしている津々百合姉妹にホットココアを淹れてもらったり、わちるが調理部の活動で制作したお茶菓子を持ってきたりと楽し気な雰囲気もあったが、それ以外の大半の時間は二人で黙々とプログラムを弄っては試運転、修正をしては再度試運転という作業の繰り返しであり、決して楽しい時間とは言えなかった。だが、制作しているマイクロマシンはこれまでかけた時間に見合うだけの進捗状況となっており、狐稲利やわんこーろの助力もあっておおよそ完成と言える形にまで持っていくことが出来ていた。

 

「ほうりちゃん……くっっっそ時間かかったね……」

 

「ええ……狐稲利様からヒントをもらった時は、まさかあそこからが本番だとは思いもしませんでした……」

 

「うん。でもおかげで容量重量共に地上の散布装置で散布できる形に落とし込めたし、後は汚染された地上でしっかり散布、拡散できるかだねぇ……!」

 

 そうして二人が一から生み出した太陽光を減衰させるマイクロマシンは最後のテストを行おうとしていた。これまでは葦原町の上空を借りての検証実験だったが、今回は地上の環境にかなり近づけた空間での散布テストを行うつもりだ。

 

 地上は汚染物質により大地も海も空気さえもひどく汚染され、人が住むことなどできない場所と化している。そんな人にとって過酷な環境でもマイクロマシンが稼働するかを判断するテストになる。

 このテストが上手くいかなかった場合、原因にもよるがマイクロマシンの大幅な修正が必要とされる可能性があった。これまでは散布範囲の均一化などの微修正によって改善できる問題しか発生していなかったが、地上の環境で上手く駆動できないとなると、根本から見直す必要も出てくる。そんな理由からナートもほうりもいつも以上に緊張した面持ちでいた。

 

「それじゃあ……動かしてみるね……」

 

「はい、お願いします」

 

 既に生徒会に許可をもらっているため、葦原上空の一部空間を地上の汚染状態へ変化させて早速テストしてみる事になった。指定した空間に汚染した大気を充満させるわけでなく、空間そのものを汚染された空間へと入れ替える、という手法と取るため、汚染された空気が対象空間の外へと漏れ出す心配は無い。

 

 あとはここに3Dモデルまで制作された手製のマイクロマシンを散布してデータを取るだけだ。

 

「散布開始……!」

 

「データ取り始めます……!」

 

 そうして展開された汚染空間に散布されるマイクロマシンは濁った薄暗い空間でキラキラと瞬き、徐々に拡散していく。屋上からではその様子を肉眼で確認するのは困難だが、モニタリングしている数値や拡散範囲、濃度は逐一データ取りをしているほうりが取得し、その内容が詳細に記録されていく。

 

 だから、最初にその異変を把握したのはほうりだった。

 

「? ……お姉様、これは……」

 

「ほうりちゃん、まだデータ取りの最中だよ。……どんな結果でも途中で止めたら正確な情報が手に入らないから」

 

「は、はい……」

 

 ほうりが展開しているウィンドウには散布されたマイクロマシンの稼働状況が表示されている。どの程度の出力か、汚染された大気でどれほど太陽光を減衰させられているか、拡散範囲はどの程度か、範囲のマイクロマシン濃度は正常か。

 

 だが、それらの数値はテスト開始から徐々に正常値から下降し始め、数分もするとすべての値が正常なラインから脱落し、30分でほぼすべての項目が最低数値を記録。微修正でどうにかなるレベルを大きく超えた、想定された中で最も悪い結果となった。

 

「……」

 

「……」

 

 二人は言葉も出ない。葦原の環境ならば問題なかったはずのマイクロマシンは、汚染環境下では全くの役立たずだったのだから、もはやどのような慰めの言葉も意味をなさず、全部が全部最悪な数値であるため、どこをどう直せばいいのかも分からない。だが、それでも姉であるナートは精一杯言葉を振り絞る。

 

「……汚染、環境下でダメってことは……汚染そのものがマイクロマシンに悪影響を与えてるって、ことだよね……?」

 

「ですが……外装に使用されている素材は副塔の汚染除去マイクロマシンと同等のものです。このマイクロマシンだけこんなに出力が弱まるなんてそんなこと……」

 

 ナートはなぜこれほどまでに違いが出てしまうのか深く考え込む。展開した汚染空間は地上に広がる広い広い空に比べればほんの僅かな空間にすぎない。だが、僅かと言ってもその空間は切り取られてここに持ってきたわけでなく、あくまでその空間を"入れ替えている"のだ。

 

 つまり、見た目は汚染された空気の詰まったガラスケースのように見える空間は、実際には広い広い汚染された空と繋がっており、空間の外側から吹く汚染風や人に害を及ぼす強烈な太陽光も入り込んでくる。

 

 今回のテストはそんな広大な大気中にマイクロマシンを散布したテストだった。

 

 

 ……もしかすると、それらが失敗の要因なのではないか。ナートは顔を上げ、ほうりへと視線を向ける。

 

「……ほうりちゃん、汚染空間の構築に使われてる環境データ、見せてくれる?」

 

「あ、はい……。ええと、これです。つい最近最新のデータに更新されたので、ここ最近の地上環境にかなり近しいかと」

 

「うん、ありがと」

 

 地上の環境を再現した空間の構築はさほど難しいことでは無い。既に葦原町という極めて現実的な世界を構築済みであるため、それをベースに汚染された環境を再現すればいいだけだ。

 

 あとは地上の汚染具合に関するデータを収集し、数値を入力すればいいだけ。

 

 この汚染環境を再現した空間自体は葦原町で他の配信者が部活の一環として制作したもので、他の配信者も利用できるフリー素材として公開されていた。頻繁に更新されている信頼のおけるデータで、ナートたちもそれを利用してのテストを行っていた。

 

 ナートはそのデータに添付されている参考資料を表示させ、内容を読み込み、そして絶句した。

 

「こんな……こんな数値ありえる!?」

 

「お姉様? 一体何が……」

 

「……ここ、見て。……地上の気温がかなり上がってる……」

 

 そう言われてほうりはウィンドウに表示された資料に目を通す。資料は地上に設置された測定器のデータについてまとめられたもので、気温や湿度などの大気の状況に関しての資料だった。資料の公開元は環境保護研究所。公開日時はほんの数日前、かなり新しい情報が記載されており、それによると地上の平均気温は更新されるひとつ前のデータと比べ、およそ0.1℃も上昇している事が示されていた。

 

「な、なんで……!? 前のデータではこんな大幅な上昇なんて……!」

 

「前のデータの更新日時は……半年前。半年で地上の平均気温はこれだけ上昇したってことだね……」

 

 たった0.1℃と思われるかもしれないが、これは平均気温である。つまり地球全体の気温が総じて0.1℃上昇したという事だ。地球の平均気温はたった数度上昇するだけで数多くの自然災害の発生率が大幅に上昇するとされており、それだけ気温の変化は地球環境に致命的な変化をもたらしてしまう。

 

 そういった危険性からもナートたちはこの太陽光減衰マイクロマシンの開発を急いでいたのだが……その開発はすでに手遅れだったようだ。

 

「最悪なパターンだよぅ……こうなる前に散布できればと思っていたのに……環境の崩壊が思ったより早かったんだ……」

 

「これでは散布しようにも風が……それに海流も……」

 

 地球全体で発生する風は主に地球の気温差によって発生する。北極の冷たい空気と赤道付近の暖かい空気の気温差によって風は生まれ、その気温差が大きければ大きいほど強い風が吹くとされている。

 

 それは逆に言えば、地球の気温が上昇し寒暖差が縮まれば風は弱くなるという事だ。

 

 現実世界ではその現象が起こり、以前よりも風が吹かなくなっている。風が吹かなければ、マイクロマシンを遠方へと散布するのは難しい。

 

 また、ほうりはマイクロマシンを海に散布し、有光層への有害な光の遮断と海温低下というのも狙っていたのだが、それも現実的ではなくなった。

 

 地球規模の海流の動きは各海域ごとの塩分濃度の差によって生まれる。気温の急激な上昇は北極と南極の氷を溶かし、海の塩分濃度は全体的に薄まる。そうなれば海流は以前のような動きを見せる事は無く、停滞する。停滞すれば、海流を利用したマイクロマシンの散布など不可能。

 

「……お姉様……」

 

「もう止め……。……いや、中断。そう中断しよう! まだ手はあるから! これまでの検証は全部無駄じゃないからさ! だから、だから……」

 

 人類の未来の為に。二人の活動はそんな途方もない真っ暗な道を突き進むかのようだった。誰も挑戦した事のない、不可能と断じられた全世界へのマイクロマシンの散布。それをあと少しのところまで手にかけた二人。途方もない真っ暗な道に光を照らし、進むべき道を進んでいった。

 

 

 

 そして進んだ先に待っていたのは、どうしようもない行き止まりだった。

 

 

 

 

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