転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#22 経験に勝るものは無い

「ふんふんふふ~これはこっちであれはこっち~」

 

みなさんこんにちはわんこーろです。わちるさんの初配信が無事に終了してから私はネットのログデータに潜っております。目的のものは生物に関する行動原理やら習性に関するデータです。

動物を実装すると決めてから幾度もログデータに潜ってはサルベージを実行しているのですが、結果は芳しくありません。

まず、サルベージ自体は問題なく行うことができ、データも回収できております。ですが、回収したデータをもとに生物のテストモデルを創ってみるとどうもうまくいきません。

どれだけ自然的な動きをしているように見えてもその実、無駄な事を一切行わない効率的な動きしかしていないのです。

確かにサルベージした生物に関する文献などには原始的な生命は本能に基づいて単純な行動をするとありますがその反面、理にかなった動きをしないというのも生物らしさであると私は考えています。

 

「創りたいのはロボットじゃなくて~生き物なんだよね~」

 

私はさらにログデータの深部へ潜ります。破損データと偽装データをかき分け小指の爪の先ほどしか残っていないデータの破片を寄せ集め、一つのデータを再構築します。

数千、数万もの類似データと照合し、出所の分かっているデータを起点に整合性を問い、そのデータが本当に正しいものなのかを特定します。

 

「はい、邪魔だよ~」

 

その途中邪魔してくるウィルスの類はウィルス駆除ソフトを組み込んだ裁ち取り鋏で初期化して無力化します。管理者の居なくなった攻性防壁の類も同様です。

 

「まさに瓦礫の山~、ん?あれは~?」

 

そんな時、ログデータの中から気になる一つのアプリデータを見つけました。損傷はそれほどではないようなので、これまでサルベージしたデータから欠損したデータを予測してアプリを即時再構築します。

 

「ん~と、ゲームアプリかな~?AIと会話するゲーム?」

 

そのアプリはどうもゲームのようです。携帯情報端末で起動することができ、AIと会話することが出来るというものでした。

AIは最初無知に近い真っ白な状態ですが、プレイヤーが会話という経験をAIにさせ続けることで徐々に言葉を覚え、会話が成立していくというゲームのようです。

 

「んん……"経験"、かぁ」

 

今日はこれ以上潜っても目当てのものは見つかりそうにありませんので、犬守村に戻るとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは皆さん。今回はKDインダストリー社の最新機器をご紹介したいと思います」

 

半透明なウィンドウから感情の薄い人の声が聞こえる。犬守村へ持ち帰ったデータを精査しながら作業用BGM代わりに私以外の配信者の配信を見させて頂いております。

私もまだまだ新人配信者であるので先輩方の配信を見て勉強することも必要だと感じ、見ているのですが。

 

……はっきり申し上げますと、これはあまり勉強にならない気がします。声に抑揚がありませんし、自己紹介もしていません。一言挨拶をした後、すぐさま支援企業の商品紹介へと移ってしまいました。何か得るものがあるかとその後も終わりまで聞き続けていたのですが、終始あの棒読み状態で商品の説明を読み続け、最後は商品の購入リンクが表示されて終わりました。

 

「テレビショッピングかなにかですか~?」

 

声に若干の怒気が含まれているような気がしますが、それも仕方ありません。私があれほど自身の存在について懐疑的に考え、配信の内容も対しておもしろくもないんじゃないかと考えていたのに、まさか私以上に機械的で(私としては)面白くない配信を行っている方がいるとは。

ですが、けしてこの配信を否定している訳ではありません。現にこの配信には少なくない視聴者がいますし、視聴者も配信者のこの態度を疑問に思い、コメントするような方はおられません。

この世界ではこのような配信が普通であり、FSのような視聴者を楽しませる事に重きを置いた配信はほとんど存在していないようなのです。

私のような新人配信者に4000人……いえ……えと、現在9000以上の方がチャンネル登録してくださっているのもそのような見ていて楽しめる配信が少ないのが原因なのでしょう。

 

というか、もうすぐ1万人突破なんですね……どうしましょ、記念配信何にも考えてないのですが……。

ま、まあもし生物の創造が上手くいったらそれのお披露目を記念配信代わりにしようかな?

 

 

 

 

 

「やっぱり、FSさんのアーカイブをみてみましょ~」

 

支援は受けていても大手に所属していない配信者さんの配信の方が同じ個人勢として得るものが多いかと思いましたが、ここは安定、安心のFSリーダー虹乃なこそさんのアーカイブを視聴してみます。

 

「――みなさんこんにちは、フロントサルベージ所属の虹乃なこそだよ、今日も私の配信に来てくれてありがとね」

 

再生したアーカイブは先日配信された虹乃なこそさんのゲーム実況配信です。

入りから違いますね、最初の挨拶から声音が弾んでいますし、この時点で見ていて楽しいです。

 

「今日は先日メイクにて実況出来るかも?と言っていましたサルベージしたゲームをやっていきたいと思います。……はい、サルベージ出来たんですよね~いやーさすがは“室長”ですわ。本人はストーリーやシステムの一部がサルベージ出来ただけで後は支援してくださってるゲーム企業さんの努力の賜物って言ってましたけど、他人を立てる室長マジかっこいいってやつですよね~」

 

そういってなこそさんはゲーム配信を始める。内容はシンプルなアクションゲームのようで、事前にちょっとだけ練習していたんですよと言いながらゲームを進めていく。

 

「はい、ここまでやってきました。目の前にいるのがここらのボス的な存在です。いやーでかいですね、主人公の2倍は背がありますよ」

 

なこそさんは果敢に攻めては相手の攻撃を見切り、回避していきます。その手際の良さにコメントは『練習時間ぜったいちょっとじゃないゾ』と突っ込みが入ります。

なこそさんはゲームに集中しながらそのコメントをちら見します。

 

「あちゃ~ばれましたか~実はサルベージしたのは昨日なんですが、その日一日ずっとやってました」

 

それぐらいはまっちゃうんですよ。と言ってなこそさんは敵の攻撃を回避して着実にダメージを与えていきます。

 

「とぉ!ほりゃ、にゃんでぇ!?」

 

どうも敵の攻撃力が高いようで一撃でも食らえば立て直しが難しいゲームのようです。無意識にかわいい悲鳴なんかが聞こえてきます。

 

「ああっ!まだ、まだ舞える!まだっあああああ知らない攻撃ぃぃぃ!?」

 

ゲーム画面が真っ赤に染まり、無情にもゲームオーバー。うなだれるなこそさんに視聴者は『かわいい』か『ざこざこなこちゃんすこ』のコメントを大量放出。

涙目になりながらもコンティニューを選択するなこそさん。

 

「大丈夫ですよ、ええまだいけます。あの攻撃は知らなかったんです。もう覚えました。大丈夫です」

 

震える手でキーボードに手を置くなこそさん。なるほど、これは可哀想でかわいい。

 

「ほりゃ、んりゃ、あっあっ、ああああああ地形ハメは卑怯でしょおおお!?」

 

それから配信終了ぎりぎりまでなこそさんの奮闘は続きました。死亡回数はすでに数十回にのぼり、それでもなこそさんはあきらめず挑戦し続けました。

 

「もうちょい!もうちょいです!あっあああ!重い一撃が!いや、ここまでくればごり押しでいきやす!じゃなくて、いきますよー!……やったー!!倒したぁああああ!!」

 

見事なこそさんはボスを倒し、かわいらしい声を上げます。コメントも一緒になって歓声を上げているのが、視聴者との信頼関係を感じさせますね。

 

「いやー思わず熱中して変な声を上げていた気がしますーこれはアーカイブを確認するのが怖いやつですね、……お?『このゲームやってみたいな』ですか、そう言っていただけると思ってました!このゲームですが今月中に支援企業さんの公式HPにてダウンロード販売する予定なんです!もし気になる方は是非ご確認してみてください」

 

『なっなんだってー!?』『今ならお得なお値段で!?』『配信向きなこのゲームが!』『手に入るだと!!』『宣伝おつ』『買うわ』というコメントが投稿されていきます。ノリの良いコメントを見ているとどうやらこの流れはお約束のようですね。

 

「このゲームやってて思ったのですが、やはり考えて記憶して、そうやって行動していくことが大事なんだっておもいましたね~ゲームだけじゃなくて何事も挑戦と失敗とそこから学んでまた挑戦すること、これが重要なんですよね……と、言うわけで近々このゲームでクリアまで寝られない枠をやろうと思います……」

 

えぇ……なこそさんの目が濁っている気がするのですが……。

 

「じゃあ皆さん今日は私の配信に来てくれてありがと~フロントサルベージ所属、虹乃なこそでした~またね~」

 

そこで配信は終了しました。私は次のアーカイブを見る前になこそさんの最後の言葉について考えます。

 

……なこそさん寝不足不可避ですね。

 

じゃなくて、挑戦と失敗そして再度挑戦するという話です。よくよく考えれば私が創ろうとしている生物の"理にかなった動きでない動き"というものにも何かしらの理由があるのではないでしょうか?

 

たとえば、被捕食者であるネズミが捕食者である蛇のいる草むらに知らず侵入したとします。ネズミは蛇に襲われますが、命からがら逃げ出す事に成功します。

襲われたネズミはその後その草むらに近づく事はないでしょう。ですが蛇に遭遇したことのないネズミは気にせず草むらに入っていくでしょう。

 

もっと場面を広げて考えてみましょう。ネズミの住処から餌場までの道のりの真ん中にこの草むらがあるとします。ただのネズミは時間短縮の為、その草むらを横断するという効率的な行動を起こします。対して蛇に襲われた経験のあるネズミはその草むらを迂回し、時間をかけて餌場へと向かいます。

その様子は草むらに蛇が潜んでいる事を知らない第三者から見れば迂回するネズミはなぜ非効率な動きをするのだろうと感じる事でしょう。

 

つまり、一見理にかなわない動きというのはネズミという種としての行動ではなく、個体ごとの経験の差によって生まれて来るものなのではないでしょうか?

もしそうなら私が当初行っていた生物のテストモデルが効率的な動きしかしないのは当然でした。なんせ、テストモデルには“経験”なんてものはありませんし、当然その経験から“学び”、“成長”することもありませんでしたから。

 

生物らしい生物を創るにはつまりこれらの経験とそこから学ぶプログラムが必要であるという事でしょう。しかし……。

 

「成長するAIなんて、どうやって創るの?」

 

AI、つまり人工知能は結局のところ与えられた数値を計算することが出来る巨大な計算機にすぎません。膨大な情報を数学的な理論や公式に当てはめて、その先を指し示すのがAIのできる事なのです。それはこの世界でも変わりありません。

与えられた情報から結果を予測することが出来てもその結果を受けて全く新しいものを生み出すことは難しいのです。

 

新しいものを見つけ、経験し、理解し、生み出す。成長とはAIにとって非常に難易度の高い現象といえます。

 

「う~ん、創作物の中ならよくあるんだけどな~」

 

自分で考えて行動する、つまり自己成長AIもしくは自己進化AIなんて一体どうすれば実装できるのか。せめてお手本があれば……。

 

「……あ、ああっ!あるじゃないですか!お手本!」

 

私は自分の手を見つめ、大きく頷きます。




※今後数話の間、作者のAIに関する独自設定、独自解釈、妄想が乱立します
その点ご容赦頂きますようお願い致します

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