転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#231 雨後のタケノコごっそり作戦

 

 犬守村で行われるFS休止前ラストコラボはわんこーろとFSが話し合いをしたその日の内に告知がされた。突然のコラボ、それも翌日という急な告知にも関わらず多くのファンがその告知に反応し、今までのコラボ告知の数倍の勢いで拡散され詳細について様々な予測がされるほどの騒ぎになった。

 

 だがそれも無理はない。FS公式アカウントでは今回のグループ全体の活動休止を、事態が収束するまでの一時的な休止と言ってはいるが、FSの拠点が塔の街にある事は周知の事実であり、避難先では配信環境もままならなくなるメンバーがいるのではないか? という憶測から公式からの活動休止宣言を、実質ヴァーチャル配信者としての活動終了宣言のように思っている視聴者も多かったのだ。

 

 そんなヴァーチャル配信者界隈のトップグループの最後のコラボ配信を見逃すまいと多くの視聴者がその配信を心待ちにしながら待機していた。

 

 

 

「みなさま~~おかえりなさい~! 今日も犬守村に帰ってきてくれてありがとね~! 電子生命体のヴァーチャル配信者わんこーろです~今日はですね~特別なゲストをお呼びしての長時間配信を行いたいと思いますよ~!」

 

「んんー! 同じく狐稲利だよー! あのゆーめーな人たちとのコラボだよー!」

 

『ただいまー!』『ただいま帰りました~!』『コラボきちゃ!』『ええ!あの有名な!』『まさか……あの!?』『"あの"有名な!?』『わざとらしすぎて草』『みんなノリ良いなあw』『特別も何も常連みたいなもんですけどw?』『一部村民みたいになってる子もいますしね…w』

 

「んふふ~移住者の皆さんもお分かりですね~~! それでは! 皆さま自己紹介と一緒に土いじり歴の発表をお願いします~!」

 

『え?』『え』『草』『つちいじり?』『どゆことw』『いきなり視聴者置いてけぼりじゃん』

 

「はいは~い、ナーナ・ナートだよぅ……土いじり歴? はさっき配信前に事前説明された5分くらいだよぅ~」

 

『ナートなんかもう疲れてね?』『どうしたナート妹に怒られたか?』『今更怒られたくらいでナートがへこむかよww』『確かにそりゃそうだwwwwww』

 

「うっせー! ナー党は朝から元気いいなあおい!」

 

「次はワタシだな。フロサルの○一だ。よろしくな。土歴はまあ……ナートと同じくらいだ」

 

『きゃー姐さーん!』『姐さんかっこいー!』『姐さんキタ!』『今日もドスの効いたツッコミオナシャス!』

 

「ドス利かせた事なんざ一度もねーが? お? やるか?」

 

「なにこのナー党と〇子の差はぁ~……」

 

「はいはい開幕から喧嘩しないでくださいね。皆様おはようございます。白臼寝子です。今日はどうぞよろしくお願いします。土いじりは虫部の関係で数時間程度はあります」

 

『寝子ちゃんおはよう!』『こちらこそよろしくね』『ちゃんと挨拶出来てえらい!』『数時間!これは即戦力』『さすがFSの常識人枠』『今日のコラボが無事に終わるかは寝子ちゃんにかかってるぞ!』

 

「ありがとうございます皆さん。……お姉ちゃん方は信用無いですね」

 

「いやいや何言ってるのさ! 信用と言うならFSには私、リーダーの虹乃なこそがいるじゃん! 土いじりは葦原町でちょこっと植物部の見学したことあるからばっちりだよ!」

 

『ばっちり(見てただけ』『それは経験とは言えないねえ……』『わんころちゃんとしょっちゅうコラボしてるイメージだけど、皆そんくらいなのね』『まあ、ここまではね……』『ああ……本命がいたっけ』『本命(ガチ勢)』

 

「はい! 皆さんおはようございます! FS新人の九炉輪菜わちるです! 今日はあのわんこーろさんの配信にお邪魔できると聞いて昨日も10分しか寝られなかった私ですけど気合は十分! やる気はいっぱい! 今日も朝から葦原町で町内一周して万全の状態に仕上げてきましたよ!」

 

『声でっか』『画面ちっか』『音量調整ミスってますよ』『そこはしっかり寝てんじゃねーか!ってツッコミ入れるとこだろお!?』『マジで寝てなくて草』『一体何を仕上げて来たんですかねぇ』

 

「あ、それと土いじり歴は半年ちょっとです!」

 

『ふぁ!?』『ほぼデビューしてからずっとじゃねーか!』『毎日犬守村に入り浸ってるからねえ……』『サムズアップしてるわちるんかわいいw』『ドヤ顔眩しいわぁw』『もっと土いじり暦でマウントとってけ~』

 

「んふふ~それでは自己紹介も終わったので~今回のコラボイベント最初のこ~な~に行ってみましょ~」

 

「ばしょの説明からするねー!」

 

 全員が自己紹介を終えたところで配信画面がぐぐっと遠方へと遠ざかり、全員を画面に収めながら後方に見える森へとピントが合っていく。周囲は深い山々に囲まれ、広葉樹が鬱蒼と林立している森の中だが、後ろに広がっている一帯だけは竹林となっている。ぱっと見ただけだと遭難したのかな? と思われなくも無いが、今回のコラボは遭難コラボでは無いのでその心配はご無用だ。

 

「は~い視聴者の皆さま~現在地は犬守村の北のほう~北守山地の山奥の~竹林地帯にいます~。お正月前の配信をご覧の方には門松の材料を取りに来た場所と説明すると分かりやすいかもですね~」

 

『あ、此処あの雪山のとこ!?』『雪が積もってるかどうかで全然風景違うし分からんかったw』『こんなところに竹林が……』『山と山の間にあるから隠されてるみたいになってるね』『奥まったところにあるから高い山の上から見ても分からないな』『こんな感じで赤松の森も隠してあるんだろうな~』『赤松?』『赤松の根には松茸ができるのよ』『松茸!?』『懐かしいな~わんころちゃん秋に松茸食べまくってたよね~』『羨ましすぎる』

 

「んふふ~秋は松茸でしたけど~今は春ですので~採りまくって食べまくるのはタケノコですよ~! ずばり~、雨後のたけのこごっそり作戦です~!」

 

「んふー! たけのこたけのこー! いっぱい採るからー土いじりに自信あるみんなを集めたよー!」

 

『おお!食べ放題タケノコ!』『タケノコってあれだよな?竹の若いヤツ』『食べたことないなあ』『あれ食えんの!?』『堅そう……』『いやいや、タケノコは柔らかくて美味しい……らしいぞ。食べたこと無いけど』『やっぱ誰も食べたことないか』『というか……土いじりに自信がある……?』『あれ?』

 

「おい、土いじり自信ありって、ワタシたちの事か?」

 

「わちるちゃん以外素人同然だよね……?」

 

「いえあの、私もタケノコ採るの初めてなんですけど……」

 

「わちるんが自信ないんじゃもう無理じゃんかぁ」

 

「と、いう訳で~本来はタケノコ掘り競争にしよっかな~と思っていたんですけど~皆さんこんな感じなので協力して掘りまくっていきますよ~」

 

「採ったタケノコはおひるご飯にするよー! いっぱい採らないとごはん抜きだよー」

 

『ごはん抜き草』『そんな過酷なコラボだったの!?』『採れるの前提で草』『運が悪いと全然採れなさそうなんだが?』『せめて白ご飯くらいは……』

 

「今日の主食はタケノコごはんにする予定なので~タケノコが採れないならごはん炊きません~」

 

『ひいいいい!?』『これマジなヤツだ!』『堀り作業させて採れなかったらそのまま食事抜き!?』『そ、そんなのわんころちゃんたちはどうするのさ!』

 

「それは仕方ありません~わんこーろたちもごはん抜きという事になりますね~……んふふ」

 

『なぜそこまで縛りプレイをw』『ごはん無くても生きていられる電子生命体特性を発揮するわんころちゃん』『なおお腹は空く模様』『まあ、そこまで言い切るくらいなら全く取れないという事は無いんだろうけど……』『これはまた波乱の予感が…w』『タケノコとやらを大量にとってきてくれ皆!』

 

「んふふ~それじゃあタケノコ掘りの道具を渡しますね~。このクワを使って~タケノコを根元からほりほり~するんですよ~」

 

「うおお……ばっちり肉体労働じゃねーか……」

 

「これってわんころちゃんが畑を作ってた時に使ってたやつ?」

 

「それよりもちょっと刃の部分が長くなっております~。この方がタケノコを掘るのは便利なので~」

 

「あ、寝子ちゃんクワを振るう時は腰に注意してくださいね。若くても逝きますよ?」

 

「は、はい分かりました……」

 

 わんこーろより手渡されたクワは畑を耕すものより刃の幅は狭く、刃自体は長く伸びているという特殊な形のクワだった。刃幅が狭いため畑仕事には向かず、刃が長いので振るにも力がいるという扱いにくい農具であるが、今回のタケノコ掘りにはピッタリ。いや、むしろタケノコ堀りの為に作られたクワと言ってもいい。

 

 扱い方や注意事項をわんこーろが説明し、それを聞いている○一となこそがクワの重さに苦い顔を浮かべている。二人は特別体を動かすのが苦手という訳ではないが、わんこーろの配信で数時間畑を耕し続けている様子を見ているため同様の作業が待っているのではないかと戦々恐々としているらしかった。

 

 対してわちるは気楽なもので、クワを持ったことの無い寝子へのアドバイスをする程度の余裕はあった。○一となこそが怯えている原因になった数時間畑仕事配信だが、実はわちるも何度か参加したことがある。それだけでなく配信外でも畑や田んぼの仕事を手伝ったりしたこともあり、わちるにしてみればいつものやっている事と変わらないという状況なので恐れることなど何もないのだ。

 わちるの姿は現代の若者らしい姿で、鮮やかな艶髪を揺らす年頃の少女という風なのだが、いやにクワを持つ姿が似合っている。わちる自身はそのように言われることにどこか誇らしさもあるようで、すっかり犬守村の一員と認識されている。

 

 そんなわちるからアドバイスを受けている寝子は初めて持つ農具の重さに驚きながらもどこかワクワクとした目で鈍色のクワを見つめていた。クワも初めてならば土を深くまで掘るという作業も初めてな寝子にとってこれから行うタケノコ掘りは疲労の心配よりも期待の方が大きいのだろう。

 

 ただ、わちるがにっこり微笑みながら腰逝くよ? と言い放ったことに若干引き気味ではあるが。

 

「うう……お花見コラボのはずだったのにぃ……」

 

 そんな中、FSでもクソザコ体力で知られるナートは既にクワの重みに心砕けようとしていた。重量挙げのバーベルのごとくクワを持つ手がプルプルと震え、伝播するように声さえ震え始めている。

 

 そんなナートへ、トテトテと軽い足取りで近づくのはクワを担いだ狐稲利。

 

「なーとー」

 

「うう? なに狐稲利ちゃん?」

 

「"働かざる者、食うべからず"だよー?」

 

「!? …………お前ら! また狐稲利ちゃんに変な言葉を教えて!」

 

『全然変じゃありません』『ごく一般的な言葉です』『痛いところ突かれてうろたえてんじゃねーよナート』『一瞬思考停止してて草』『ほらさっさとクワ持て』『お前以外全員竹林行ったぞ』『お前だけ飯抜きになるぞ』『馬車馬のごとく働けナート』『サボるなナート』

 

「うるせー! わかったよぅ!!」

 

 そうして突発コラボはタケノコを掘り出すところから始まった。FSメンバーはクワを手に竹林へと大物を狙って歩き出し、その後をわんこーろと狐稲利がついていく。今回のコラボは主にFSがタケノコ堀り担当であり、わんこーろと狐稲利はそれを補助する役割となっている。

 

 休止宣言をしたFSが目立つようにという配慮だったが、視聴者はその配慮をしっかりと理解したうえで配信を楽しんでいるようだった。休止、あるいはこのまま解散になるかもしれないという不安をコメントに書き残す視聴者は皆無であり誰も彼もが楽し気にしている推したちを、からかい交じりに応援していた。

 

 サルベージされた"推しは推せる時に推せ"という言葉は娯楽が一度消滅し、何とか復興し始めているこの時代において予想以上に重い言葉として今の若者に受け止められていたようだ。

 

 

 


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