転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#25 うごうご

狐稲利さんの紹介を終えた後も一緒に配信を続けています。ちゃぶ台の前に私と狐稲利さんが横に並んで座り、狐稲利さんは投稿されるコメントを一つ一つ丁寧に確認し、読み終えるごとに小さく頷く動作を続けています。

まるで小動物のような動きにコメントも荒ぶっております。

 

『首座ってないのかな?』『ちらちら見える瞳がきれいだ』『こっくりこっくり……おねむ?』『狐稲利ちゃん俺のコメントもよんでくれええええええええ!!』『おい顔しかめたぞ』『無理強いはイクナイ』『欲望丸出しのコメすんな』

 

「一応一般常識はあるはずなんですけど~、それ以外はまっさらな状態なので皆さん色々と教えてあげてくださいね~」

 

『なるほどねぇ(ニチャア』『分かりましたお母さん!』『立派な淑女に育てさせていただきます』『どうぞお任せください』『怪しすぎぃ!』『お前ら余計な事教えんじゃねーぞ!』『移住者による教育とか碌な大人にならないんじゃ……』

 

「……ああそうそう、狐稲利さんは賢いので皆さんの事も、皆さんに教えてもらった知識も全部覚えてくれます~、ついでにその知識をより深く知ろうともします~無知の知ですね。教えてもらった知識をネットで検索して答え合わせしたりします~。ですから~もしわざと間違った知識を教えたり~、"いかがわしい"知識を教えた場合~」

 

『お、教えた場合……』『その場合は……』『ゴクリ……』

 

「……一生嫌われても知りませんよ~?」

 

 

『よし、まずは数学からだ』『いやここは科学から学ばせるべき』『一般知識があるなら基礎教養は飛ばして情報技術関連をだな……』『突如心変わりする移住者に草』『狐稲利「お前らの顔覚えたからな」』『怪しいコメは狐稲利式ブラックリスト入りです』

 

よしよし、これぐらい言っておけば皆さん少しは加減してくれるでしょう。あまりマニアックな沼に狐稲利さんを引きずり込ませるわけには行きませんからね。

もちろん狐稲利さん自身が一つの物事にすごく興味を持ったりした場合、法の許す限り私は見守る方針ではありますが、物事には順序というものがあるわけで、いきなりドギツイものを狐稲利さんに見せるのは親として遠慮したいのです。

 

「さて、少し話が脱線しましたが、移住者さん~ちょっとこれをご覧ください~」

 

私は配信画面外から手のひらサイズのガラスケースを取り出します。

円柱状のそれは上部に蓋がされており、密封された状態になっています。中には黒くて小さいものがいくつかケース越しに確認出来ます。

それを丁寧にちゃぶ台の上に置き、配信画面へと映します。

 

「中にある黒いものが見えますか~?これは蟻の3Dモデルです~よくよく見ると触覚や足なんかもしっかりと確認できると思います~」

 

『細かいなー』『確かに映像データの蟻と同じっぽいな』『確かに蟻だな、動かないけど』『全く動く気配なし、固まってんじゃん』『*がらすのなかにいる*』

 

「なんの情報も与えていないただの3Dモデルですからね~、今からこれに蟻の基本的な習性と共に、考え行動するための情報である"魂"を実装していきます~」

 

そう言いながら私は写し火提燈を取り出します。

 

「"魂"は狐稲利さんの経験を元に構成されていまして~その経験の基礎的部分を写し火提燈で複製し、与えることで3Dモデルは生物的行動をとってくれるようになります~。では早速狐稲利さんの経験値を視させて頂きますね。狐稲利さん~いいですか~?」

 

提燈を物珍しそうに見ていた狐稲利さんに経験値の複製の許可を頂きます。狐稲利さんも私と同じ存在なのですから無理やりなんて酷いことはしません。私と狐稲利さんは対等な関係なのです。

 

「……」

 

狐稲利さんは提燈から私へと視線を移し、コクリと頷きます。

 

「ありがとうございます~。まず、複製するには狐稲利さん自身を提燈で映して~そこから情報を複製させてもらいます~、では狐稲利さん、お手をお貸しくださ――!??」

 

提燈は照らされたモノの性質を読み取り、複製する力があるのですが、余計なものまで照らしてしまうと情報が複数取得されてしまうので、ある程度選択肢を減らすため、服を避け素肌を照らすという事を事前に狐稲利さんに説明していたのですが。

 

ちょっと狐稲利さん!なんで服脱ごうとしてるんですか!?手っ、手だけでいいんです!ちょ、早く着て!服着てください!!

 

「……?」

 

「そんな可愛らしい顔で首を傾げないでくださいっ!とにかく服を着て~~!」

 

なんのためらいもなく狐稲利さんは身に着けていた羽織を脱ぎ、次いでその下の和服の胸元に手を掛け今にも肌蹴させようとしているじゃないですか!

 

『草』『草』『はよ配信画面隠せ!』『体格が狐稲利ちゃんの方が大きいから押さえつけられてないw』『ドタバタで草』『これはシャレにならんねw』『通報一歩手前で草』『BANまで秒読み』『新人を生配信で脱がせる配信者がいるらしい』『やーんわんころちゃん鬼畜~』

 

「誤解を招くようなこと言わないでください~~!狐稲利さん、まだセーフです!だから早く服を着てください!」

 

その後、狐稲利さんはなぜ私が焦っているのか心底不思議そうな顔でしぶしぶ服を着てくれました。

ふう、あぶないあぶない。少し肌面積は広くなってしまいましたが、ヤバげな場所は映っていないのでこれはセーフです。セーフったらセーフなのです。

 

「……一般常識はあるはずなんですが羞恥心は薄い、というか無いのかもしれませんね。これは要教育です」

 

『よく言い聞かせないといつかBANだぞw』『見ててハラハラしたわ』『わんころちゃんの配信で初めて危機感を覚えたぞ』『配信が止まるかもしれないハプニングなんて今までなかったからな』

 

「あ~、そういえばそうですね。わんこーろは電子生命体だからトラブルなんて起こさない~なんて思っていましたけど~これからは狐稲利さんと一緒に配信することになりそうなので気を付けるようにしないといけませんね~」

 

その狐稲利さんはというと先ほどから私と移住者さんとの会話を見ながら首を傾げたり、何かに思い至ったかのように納得し、にっこりと笑ったりと忙しなく表情を変えています。

私が目線を合わせるとこれまた安心したような笑顔でこちらを見返します。

 

まったく、こっちの気も知らないで嬉しそうにして。

 

「……え~と移住者さん、少しドタバタしましたが本題に戻りますよ~。この提燈でこのように狐稲利さんの肌を照らして、狐稲利さんの中にある成長に関する経験情報、通称経験値を複製します。複製するのは経験そのものでなく、経験からどのような成長をしたか、の基礎的なプロセスのみになります」

 

そう言って狐稲利さんの手を取り、提燈の明かりに照らします。すると朧げな光が影の代わりに出現し、ふわふわと宙を舞っています。その姿はまるで人魂のようです。

本来はこのように目に見えるようにはしないつもりなのですが、今回は移住者の皆さんに目で分かり易く説明するため可視化させています。

私が裁ち取り鋏を向けると人魂はその切っ先に誘導されるように動き、誘導された先にある蟻の3Dモデルへと吸い込まれるように入っていきました。

 

すると先ほどまで全く動く気配のなかった蟻の3Dモデルがもぞもぞと動き出したではないですか。触覚をうごうご、手足をカサカサ。その動きは何とも……。

 

 

『キェェェェェェアァァァァァァウゴイタァァァァァァァ!!!』『うええええ!!動いとる!!キメェ!!』『なんか体ゾワゾワしてきた控訴』『画面アップやめて』『何というか、こう、もうちょっと、ねえ?』『あ、俺虫ダメみたいだわ』『失望しましたチャンネル抜けます』

 

 

「まってまって!ちょっとまって~!、はい!画面アップやめました!だから待ってください~!と、とにかくこんな感じで動物を創っていく予定ですのでこうご期待~~!あっ、ちょっと狐稲利さん!ケースの蓋開けようとしないで!あああああっ!?!?!」

 

結局そんな勢いのまま配信が終了してしまいました。こんなドタバタして配信を終わらせたのなんて初めてじゃないでしょうか。

……これじゃあまるで普通のV配信者みたいですね、んふふ。

 

 

 

 


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