転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#266 修学旅行の「修学」の部分

 

 火遊治の温泉街は現実世界で職人と呼ばれていた専門家たちの協力により、かつて存在していた観光地の様子を限りなく再現した場所として機能していた。わんこーろが復興の足がかりを犬守村という形で魅せてはいたものの、それらの復興と周知には時間がかかるだろうと思われていた。だが、長らく失われていた和食文化に関してサルベージされた資料や秘匿されていた書籍、存命の元料理人などが協力することで奇跡的にも今回のイベントでそれらが提供出来る運びとなったのだ。

 

 料理人たちは単純に料理の腕がたつというだけではない。犬守村という土地を考慮し、"この土地で芽生えた食文化があったのならば、どのようなものなのだろうか"という考察から入り、それに準じた料理を提供するように心がけた。

 例えば火遊治は温泉地なので温泉熱を利用した蒸し料理などがメインになるだろうし、小皿は山で採れた山菜やキノコ類が用いられるだろう。川が流れているので川魚も良いし、少し遠いが海があるので海の魚が流通していても矛盾は無い。ある程度肉料理も考慮出来るだろう。

 

 そうして綿密な土地、時代、風土考察を元に料理の専門家たちが考案したレシピを基に現実でも在りうる、もしくは実際に存在していた料理たちが修学旅行組の夕飯として振舞われることとなった。

 

「うわっ、これおいしい! こんな柔らかいの初めて食べたっ……!」

 

「現実じゃあ携帯食だけだったしなぁ……こんなのもいいかも! てか、これがいい!」

 

「このお肉おいしいけどなんだろ……え、ボタン……何それ?」

 

 修学旅行組は全員が夕飯前には宿泊先の旅館へと戻っていた。中には購入したお土産や撮影(スクショ)した映像データを見せ合ったり、歩き疲れてほぼ寝ているような状況の配信者もいた。

 

 それでも決められた夕飯の時間には全員が旅館の大広間に集合し、同じ食事に舌鼓を打つことができた。

 

「あはは~! みんな元気だねぇ~ずっと歩き回ってたのにさぁ!」

 

「あの……なんだかナートお姉ちゃんのテンションがおかしい気がするのですが……」

 

「ナートのヤツがおかしいのは今に始まったことじゃねーだろ」

 

「あー……確かにそうですね」

 

「ちょっとナートちゃんお酒飲んでないでしょうね?」

 

「おさけぇ? そんなわけないじゃん! 去年の帰省イベでしつちょーにこっぴどく怒られたんだからぁ!」

 

「瓶ジュースで気持ちよくなってんじゃねーよ」

 

「ナートお姉ちゃんって雰囲気に飲まれますよね……時々空気読めなくて炎上しますけど」

 

 たたみの部屋に置かれたいくつもの長テーブルには料理が並べられ、配信者たちが宴会騒ぎに興じている。そんなテーブルの隅で集まり、今後の予定を話ながら料理を楽しんでいるなこそ、〇一、ナート、寝子は箸を動かしながら楽し気な彼ら彼女らを少し疲れた目で眺めている。

 

 基本的に奔放な配信者たちは犬守村初体験、もしくは札置の写真展以来という者たちばかりなので好奇心にまかせて勝手にあちらこちらへと散っていくのだが、それをまとめる生徒会メンバーの苦労はなかなかのものだ。

 

 犬守村はわんこーろによって想像された仮想空間であるが、現在はほとんど自然の流れに任せて成長させている。定期的に行われる御霊降ろし(アップデート)も成長を促したり、成長に多様性を持たせるような内容がほとんどであり、成長そのものは動植物に内包されている"魂"によって行われておりそこにわんこーろの干渉は無い。

 

 そのため犬守村の中ではわんこーろも知らない植生や動物の群れが構成されている事も多い。もしかしたら、クマやオオカミといった危険性の高い動物と配信者が鉢合わせになる可能性さえある。生徒会として危険な状況を作らないようにとここまで気苦労が絶えなかったわけだ。

 

「雰囲気に飲まれてんのはナートだけじゃねえけどな。まあ楽しそうだしいいが」 

 

 長テーブルの上には人数分の料理一式と、各々が取り分けられるようにと大皿に盛られた料理が並べられている。お酒が飲める年齢の者たちが集まるテーブルには瓶ビールが置かれ、それ以外のテーブルには何処か懐かしい瓶に入ったオレンジジュースが並んでいる。

 

 初めての場所で食べる初めての料理、最初は周りを見渡して食べていいのか迷っていた者も居たが、そのおいしさに思わず声を漏らし、その味を周りの配信者や視聴者と共有していく。

 

「みなさ~ん、楽しんでおられますか~?」

 

「んー? なーと酔ってるー?」

 

「また、炎上……?」

 

「ナートさんがお酒!? なこそさん止めてくださいよっ!」

 

「まーまー落ち着いてわちるちゃん。この子お酒飲んでなくてコレだから」

 

 そんな騒々しさの中で料理の配膳がひと段落したわんこーろ、狐稲利、ニコ、そしてわちるがFSの居るテーブルへと合流した。FSだけでも現在の配信者界隈では知らない者はいない有名なチームだ。さらにそこへ犬守村の電子生命体三名が合流したことで注目度はさらに上昇、配信者たちはもはや目の前の料理よりもそちらの様子の方が気になって仕方ないという具合。周囲からチラチラと視線を送られる有名人ばかりのテーブルの様子に、遠くで見ている真夜やかかおがヤレヤレとため息をつくが本人らはそんな視線を気にする事無く楽しそうに話をしている。

 

「わんころちゃんこのお肉おいしいねえ! 何の肉なの~?」

 

「……んふふ~」

 

「え、なにその笑みは……こわ」

 

「んふー! なーと、たべちゃったんだぁ?」

 

「え、え、ええー!? なに!? なんなのさぁ!?」

 

 無邪気に肉料理を口に運ぶナートはその柔らかさと脂のうま味、ソースの香りに思わず顔をほころばせる。現実世界ではまだ合成の食品が大半であり、食べ応えのある肉料理というのはまだまだ犬守や葦原に及ばない。そんな最先端な仮想世界の肉たちに引けを取らないこの肉は一体何なのだろう? ナートの素朴な疑問に対しわんこーろは意味深に微笑み、ナートはニタリとわざとらしく嗤ってみせる。

 

 途端青ざめるナートの姿といたずら好きなわんこーろと狐稲利。その横で同じ肉料理を口に運ぶニコがぽつりとつぶやく。

 

「ただのイノシシの肉……臭み消しを万全にしてて美味しい……はず」

 

「だ、だよねー! って、イノシシぃ!?」

 

「なるほど……これがボタン肉というものですか……」

 

「初めて食べるな」

 

「んふふ~かつてのこの国でも食べたことの無い人も居たくらいには珍しいお肉ですね~」

 

「へえ……珍しいのか」

 

「家畜ではありませんし、流通ルートも細かったという点では珍しいお肉ですね」

 

「なるほどぉー」

 

 ジビエは匂いが気になると聞いたことがあった寝子も食してみたがそこまでではなかった。あくまで天然ものの肉を現実で食べたことの無い寝子の感想であったが、おおむね他の配信者もそのように考えているらしかった。むしろ視聴者への話題作りにと積極的に食レポしている配信者もいるくらいだ。

 

「そういやわちるは夕飯、食ったのか? ずっと裏で手伝いしてんじゃねーか」

 

「実はまだなんです。なのでこれからわんこーろさんたちと一緒に頂こうかと」

 

「じゃあこっちでたべなー、ジュースあるよ、それともお茶の方がよかった?」

 

 ずらりと並んだ料理たちはどれもおいしそうに並べられており、先ほどまで配膳優先だったわちるも改めてその見た目と香りに食欲が刺激される。手渡された箸を受け取り、わちるはわんこーろたちと共に少し遅い夕飯を取る事とした。

 

「なあわんこーろ」

 

「なんです~〇一さん~」

 

「今後の予定って、決めてた通りでいいのか?」

 

「はい~。計画していた通りに進行するつもりです~」

 

 そうしてわちるたちと共に食事をしていたわんこーろへと〇一は声をかけた。あらかじめ進行役である生徒会には修学旅行の進行に関してかなり詳しく話をしていたのだが、そうでない部分に関して話をしたかったようで、それは〇一以外の生徒会メンバーも気にしている事だったらしい。

 

「ふーん。でも、ちょっと時間余るくない? 明日の午前も自由時間て……確かに火遊治は見て回るとこいっぱいあるけどさー」

 

「んふふ~~、きっとそんな余裕はないと思いますよ~」

 

 犬守村は現在の若者にとっては珍しいものだらけだ。葦原に無いものも多くあり、配信者がそれらに興味を引かれるだろう事はここに来るまでの道中で嫌というほどなこそたちは理解していた。とはいえこの後の自由時間に加えて明日の午前も自由となれば逆に何をすれば良いのか分からなくなりそうなものだ。

 

 そんな疑問に対してわんこーろはいつものイイ笑顔を向けるだけで疑問への返答とした。

 

「あ、またわんころちゃんいたずらしようとしてるー」

 

「あの顔はそうですね」

 

「だろうな。予定聞いてもココだけふんわりしてたから何かあんな、とは思ってたんだよ」

 

「んふふ~それはこれから分かりますよ~。狐稲利さん~ニコさん~」

 

「はーい!」

 

「うん」

 

 元気よく立ち上がった狐稲利とその後に続くニコは食事中の配信者達の注目を集めるように声を上げる。

 

「みなさーん! おしょくじ中しつれいしますー!」

 

「明日の予定について、説明します……」

 

 狐稲利が声を上げるまでも無くそちらに注目していた配信者たちは何事かと体ごと視線を狐稲利とニコへと向ける。

 

「皆さんにあらかじめお配りした予定表の通り……この後は自由時間……。明日も午前を自由時間」

 

「午後からはお祭りをしまーす!」

 

 その言葉に歓声を上げる配信者たち。葦原でもいくらかイベントとしてお祭りらしきものを催した事はあったが、それらはあくまで葦原の配信者たちによる発表会のような雰囲気があり、古き良きお祭りというものを彼ら彼女らは経験したことが無い。教育映像などでお祭りの風景を見た事がある者もいるが詳細まで知っているわけではなく、初めての夏祭りに心躍る様子が見て取れる。

 

「ですが……このお祭り……実は少しばかりお店が足りていません」

 

「賑わいが欲しいー」

 

 語り掛けるニコと狐稲利の演技がかった言葉と身振り手振りに配信者たちが疑問に首をかしげる。わざとらしい様子に単純なアクシデントではないと察した者たちが次に二人の口から発せられるだろう言葉に期待し、目を輝かせ始める。

 

「という事で……皆様の中から、出店(でみせ)を出してみたいという方はご連絡を──」

 

「はいっ!! はいっ! やりたいです」

 

「面白そう! お店やれるの!?」

 

「うおおおリアル出店体験! しかも店側!」

 

 ニコが言い終わる前に食事会場は悲鳴じみた歓声に包まれた。詳細を聞くよりも前に狐稲利とニコへと詰め寄り手を上げて立候補する者や早々に店の内容を班内で相談し合う者、過去のお祭りの様子を調べ始める者などなど、あっという間に配信者たちのやる気が最高潮にまで膨れ上がる。

 

「なーるほど。わんころちゃん、最初から皆に職業体験させるつもりだったんだね」

 

「んふふ~そこまで堅苦しく考えなくても大丈夫ですよ~。あくまでお祭りなのですから~」

 

「文化祭のようなものと考えればいいのでしょうか?」

 

「その認識で大丈夫です~。こちらで必要な機材や食材などは手配しますし~専門の方もおられるので~」

 

 お祭りの出店と言えば定番のものや地方でしか見られない珍しい店など様々なものがある。それらの店の設置から販売する商品に至るまで計画するのは配信者たちだが、ある程度は専門家が手伝えるようにするつもりだった。

 

 犬守村の修学旅行はあくまで過去の伝統、文化、風習を学ぶことが本質と明言されているので、ならばその通りに、本格的にするべきだというわんこーろの考えだ。食べ物を扱うならば衛生関係をしっかりと管理するべきだし、販売する商品の価格も適切な値段設定を考える必要がある。そういった現実ならば必要となるだろう要素についても配信者達に体験してもらうつもりなのだ。

 

「ねえねえなこちゃん……!」

 

「なにナートちゃん? って聞かなくても分かるわぁ……」

 

「さすがなこちゃん話が早いよぅ! ねえ私たちも何かお店やろうよぅ!」

 

「マジかよナート、修学旅行の進行でクソ忙しいのにか?」

 

「そんな事言ってぇ、まーるちゃんもちょっとワクワクしてんじゃん~」

 

「うるせぇ、あとまーるちゃん言うな」

 

「私たちの予定も少し空きがあるとは思っていましたが……つまりはそういう事なのですね」

 

「んふふ~皆さんは何がいいです~? ヨーヨー釣りとか~金魚すくいとか~食べ物ならたこ焼きとか焼きそばとかもいいですね~」

 

「はーい! くじ引きがしてみたいよぅ!!」

 

「ボツ。お前んコトだから当たりなんて入れねえだろ? 当たりの入ってねえクジとか誰が引くんだよ」

 

「なあ!? しつれーな! ちゃんと当たりは入れる予定だよぅ! 私のサインとか!」

 

「うーん」

 

「なにその反応!?」

 

 既にいくつかの班はどんな出店を出すのか班内で話し合いを始めている。お店というものを葦原での小規模なレベルでしか経験したことの無い者もいれば、現実世界で親が店を経営していてノウハウさえ獲得している者もおり、話し合いは理想を語りながらも現実的なラインで収まるように賢く話し合われている。

 

「たこ焼き! 断然たこ焼きだって! おじいちゃんの地元では定番だったんだって!」

 

「定番というなら夏祭りはやはりリンゴ飴じゃん? あれ一回は食べてみたいと思ってたんだよね」

 

「食べるって……俺たちは作る方だろ」

 

「焼きトウモロコシ! 焼き鳥なんてのもいいんじゃん?」

 

「ここはやはり射的、型抜き、くじ引きで注目を集めるべき」

 

「それ景品どーすんのー?」

 

「うわー! これ今夜と明日の午前だけじゃ話しまとまらないよー!?」

 

 ……賢く話し合われているはずだったのだが静かに計画を詰められるはずもなく、食事会場はさらなる喧騒に包まれそうになっていた。寸でのところでタイミングを見計らった狐稲利とニコの声がかかる。

 

「んふー! お祭りは明日の午後からになりまーす!」

 

「申請書をお配りしますので……お店、出す人は寝る前に生徒会へ……」

 

 その言葉で配信者たちが一斉に生徒会へと詰めかけ、いつの間にやら店舗の計画書まで制作している班も出現するほどだった。

 これで明日のお祭りは賑わう事間違いないという安堵と、想像以上に詰めかけた配信者たちの様子に若干引き気味になるなこそたちなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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