転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります 作:田舎犬派
【わんこーろさん!私のメイク見てくださいましたか!?明日の22時からですよ!】
【わちるさん落ち着いてね~それだけじゃ言葉が足らないよ~?】
今日は配信をお休みして畑と田んぼの整備とお家の増築を行っております。
畑の野菜は芽の状態から大きく成長し、ものによっては小さな野菜のあかちゃんが出来ているものもあります。もう少し時間が経てば収穫できる大きさになってくれそうです。
田んぼの方ですが、苗代へ種籾をまき終えて、ほんの小さな苗が確認できるまでに成長してくれました。ですが、芽を出してくれなかった種籾の方が多かったので、生育環境をもっと改善する必要がありそうです。
お家の増築ですが、現在私と狐稲利さんが生活しているのは神社に繋がる通路を通った先にある一室のみで、それ以外の部屋は造っていませんでした。
これまでは配信で映す部屋だけあればよかったのですが、今後野菜の収穫をして料理をすることになるなら台所が必要になるでしょうし、前回記念配信で泥だらけになった狐稲利さんは私が汚れを落としてあげたのですが、その時の経験からお風呂なんかも作りたいですね。
なので今回の増築はそれらの水回りを含めた大規模なものになっています。
ですが、絵的には同じことの繰り返しだったり、地味だったりと配信向きでは無いと感じたのでこれらは完成した後移住者さんにお披露目したいと思います。
そんな感じで作業をしつつ、メイクのつぶやきや配信のコメントを確認していたのですが、わちるさんの突然のメッセージに作業が止まり、チラ見していたメイクを二度見してしまいました。
【アニメの配信ですよ!室長と灯さんが頑張ってくれたんです!一緒に見ましょう!!】
【……ああ~例のサルベージしたアニメのつづきの事ですね~】
FSがデータをサルベージしたことでリアル世界で一大ブームとなったアニメ。かつての日本の風景を映し出したそのアニメは現代の若者に刺さりまくり、ありとあらゆるところでその名前を見かけるようになりました。本来無関係なジャンルにさえBGMとしてアニメ内の音楽が用いられるのを見かけるほどです。
今回はその第二弾という事で、新たにサルベージしたデータを前回と同じようにつなぎ合わせて十数分ほどのアニメとした映像を無料で公開するらしいのです。
前世で完全版の本編を見たことのある私としてはその、シーンも時系列も滅茶苦茶なのを貼り合わせた十数分のアニメに少し違和感があるのですが、そこはあえて口にはしません。
【そうそう!今度FSの公式チャンネルで配信することが決まったの!だから一緒に見よ!あ、もちろん狐稲利ちゃんもね!】
【う~ん、そうですね~今からとなるといろいろ準備がですね~、それにフロントサルベージさんにはご許可頂いているので~?】
【もちろんだよ!それに一緒にって言っても通話しながら見るだけだからそんなに時間もかからないよ?】
所謂コラボ配信、というやつでしょうか。これまでにもわちるさんから何度かこういったコラボのお誘いは頂いていたのですが、そうなると実際にお会いして配信内容について打ち合わせしなければいけないと思って避けていたのです。
まあ、私電子生命体ですからね。現実で会うなんてことできませんし。
実際にお会いしなくても配信外、メイク外での会話によって人ではないという違和感を感じさせてしまうかもしれません。
……できればわちるさんにはそう思われたくないですし。
今回もやんわりとお断りしようとする私の雰囲気を察したのか、わちるさんは攻めてきます。
わちるさんとの通話環境はメイクでいろいろお話ししているとき情報を交換済みで既に整ってますし、共通の動画を見るだけならそれほど配信内容を気にすることもなさそうです。
【……わかりました~、それではわちるさんのチャンネルで~】
【え~~!!わたしのチャンネルだけですか!?わんこーろさんも配信しましょーよ!】
【いやいや、二枠あっても意味が無いのでは?】
【いやーーー!わんこーろさんも配信してください!!わたしも狐稲利ちゃんとお話ししたい!!!!かわいいとこ見たいーーーー!!】
【あなたそれが狙いですか!】
狐稲利さんにあざとい仕草を仕込んだだけでは満足できないとは……。業が深いですよわちるさん。
【狐稲利さんに"いかがわしい"事を教えたら即配信終了ですからね~?】
【……了解です!!!】
ホントに分かっているんですかねぇ?
「みなさんこんばんは~わんこーろのいつもより遅い深夜配信にようこそお帰りなさいませ~」
『ただいま~』『ただいまですー』『相変わらずかわいいのぉ』『めんこい』『狐稲利ちゃんも浴衣やね』『もうお休み準備できてる』『寝落ち前提準備で配信するの草』
移住者さんの言う通り今日は配信画面の前に布団を敷いて、その上に寝間着用の浴衣を着た私と狐稲利さんがいます。
狐稲利さんはいつものように姿勢正しく配信画面の前で正座しておりますが、布団の上という事で、私は体を横にして、掛布団に埋もれるようにして配信画面に映っています。
いやーやっぱり布団の魔力は絶大ですねぇ、こうやって布団にくるまっているだけでなんだか体の力が抜けて、配信していることすら忘れてしまいそうになります。
「ほらほら、狐稲利さんもこっち来て下さ~い」
「!」
思わず横できっちりしている狐稲利さんにちょっかいをかけてしまいます。寝間着の袖あたりをちょいとつまんで私の隣へと誘います。本人はちょっと焦ったような顔をしながらも私のなすがままに。
私の横で同じように掛布団へと埋まります。
『てぇてぇ』『仲いいのぉ』『きゃきゃっしてるのを見ると元気でてくるわ』『明日の活力』『見る癒し』『俺も布団にダイブしながら見てる』『夜でテンション上がってるの幼女っぽいw』
「ん~狐稲利さん~」
「……!!」
ふむ、なんだか狐稲利さんと一緒に横になると予想以上に眠気がやばいですね。前回のような膝枕と違って私も寝間着に着替えてさらにふかふかなお布団の上というシチュエーションがそうさせるのでしょうか。
取りあえず狐稲利さんにくっついておきます。
「ちょっとーーー!!通話繋ぐ前にそんなてぇてぇな事しないでくださいよーー!!」
おやおや、ようやくわちるさん側の通話設定が完了したようですね。もう少し遅かったら私がこちらから電子生命体の力を使って繋げてあげようかと思ったのですが。
『わちるんキタ!』『わちるん遅刻よ?』『さっきまで雑談配信してたからね』『さすがFS所属は違いますねぇ』『さすが登録者8万人突破の偉大なる配信者様だぜ!』『住む世界が違いますね』
「ちょ、ちょっと!わち民の皆さんなに言ってるんですか!移住者さんに、こいつ嫌なヤツだなって思われるじゃないですかー!!」
ごめんなさいわちるさん。たぶん後半のコメントは移住者さんのものだと思います。
「はーい準備が整ったのでわんこーろ配信初のコラボいきますよ~お相手は皆さんご存知、先日登録者8万人突破しました~いだいなはいしんしゃさまの九炉輪菜わちるさんで~す」
「みなさんこんばんはー!フロントサルベージ所属の新人配信者九炉輪菜わちるです!今回はわんこーろさんとコラボ配信をやっていきますよ!……じゃなくて!わんこーろさんまで悪ノリしないでくださいよー」
『草』『これは草生えますわ』『てぇてぇ……?』『最近流行りの漫才という奴では……?』『夫婦漫才で草』
「んふふ~それでは告知通り、今回は私のお友達のわちるさんと一緒に配信していきますよ~、配信内容はわちるさんも所属しておられるFSさんがサルベージしたアニメの続編を同時視聴しよう!というものになっております~」
『わーい!』『サルベージするの早すぎ草』『前の続編なのかね?』『全くの別もんという話も』『FSでも前回のものと繋がりがあるかは分かんないとか言ってなかったっけ?』『でも絵柄なんかは同じなんだろ?』
「別作品か続編か、そこのところど~なんですか~わちるさん?」
「うぇ!?、わ、わたしに質問されてもー、ううん……わかりません!」
「ありゃりゃ、まあ、皆さんと考察するのも面白いかもしれませんね~」
私は空中に半透明のウェブブラウザを立ち上げ、動画配信サイトへアクセスします。私や狐稲利さんがネットにつなぐ手段は二通りありまして、前に狐稲利さんが私のお使いの為にネットに潜っていた時は情報そのものである体ごとネットへ入り込みます。私たちの体そのものが高性能なのでこの場合、あらゆる状況に対応することが出来ます。もう一つは今のように外部ソフトウェアを用いてまるで人のようにアクセスする方法です。
まるで、ではなく本当に人と同じ方法でネットに繋がるので私たちの能力はソフトウェアを介してしか使うことが出来ません。
ですが、今回はデータをサルベージするわけではないので片手間にこうやって繋いでしまいます。
「はーい、大人の事情でアニメそのものを配信画面に映すことはできないので、各自視聴者さんはご自身で視聴環境を整えてくださいね~わちるさんの合図で一斉に再生ボタンを押すんですよ~」
「はいはいはーい!ではではわち民も移住者さんも準備はいいですかー?、合図行きますよー3、2、1、……ゼロッ!」
『はいっ』『ぴったし!』『わちるんそれアカン』『言っちゃだめーーーー』『絶対切り抜かれるゾ』『カウントダウン助かる』『やっちまったな』『まあ大丈夫、FSメンバーは全員やっちゃってるから』『それなんも大丈夫じゃねえよ!?』
本年はこの作品をお読みくださりありがとうございました。
これにて今年の更新を終了させていただきます。
投稿してまだ数か月程度の期間ではありますが、たくさんの方にお読み頂いたこと、
暖かい感想や作者の知識不足をフォローしてくださる指摘、誤字脱字報告など大変助かっております。
皆さまのおかげでこの作品を更新し続けていられると言っても過言ではありません。本当にありがとうございます。
来年もどうかよろしくお願いいたします。