転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#39 わたつみ平原

 

「………………」

 

『うおっ!』『びっくりした!!』『狐稲利ちゃん近い!近いよ!』『吐息が聞こえそうな距離。てか聞こえね?』『画面いっぱい狐稲利ちゃんの顔で草』『目の奥まで見えそうでドキドキする』『笑った時の八重歯助かる』

 

皆さまこんにちはー今日もわんこーろの休日配信がはじまりましたよー。配信を始める際に狐稲利さんがどうにもカメラ代わりの配信画面をじーっと眺めて離れなかったのでそのまま配信開始したのですが、案の定移住者さんの困惑の声が聞こえてきます。

真顔で画面を見ていた狐稲利さんですが、しばらくするとジト目にしたり、意外と知られていなかった鋭い八重歯をわざと見せたりとやりたい放題です。

 

面白い絵ですね。

 

「移住者の皆さん今日もわんこーろの配信に来てくれてありがと~、開幕狐稲利さんのお顔アップは貴重ですよ~スクショおーけーですよ~」

 

『助かる』『助かる』『スクショ連打するわ』『マジでこの距離心臓バクバクする』『これがガチ恋距離というやつか』『おかあさん!娘さんを下さい』

 

「ん~?何言ってるんですか~?狐稲利さんは私の娘なんですよ~今のところ誰にも渡すつもりはありませ~ん」

 

まったく、お約束のネタとはいえそう簡単に狐稲利さんをお嫁に行かせはしませんよ!今のわたしは気難しいお父さんです!

 

「狐稲利さんはわたしのなんです~!」

 

いまだ画面をじーっと見つめている狐稲利さんの腰あたりに両手で抱き着きます。狐稲利さんはその衝撃に少し体を揺らしますが、私だとわかると驚いた顔からにっこり笑顔に変わりました。

狐稲利さんも私とのスキンシップにだいぶ慣れてきたみたいです。これからもどんどん触れ合っていきましょう。

 

『まーたてぇてぇなことしてるー』『わんころちゃんて実は独占欲つよつよ?』『自分の娘をどこの誰ともわからぬ奴にやりたくはないだろう?』『娘なんていないし分かんねえ!それ以前に彼女なんて……』『OK分かったこの話はやめよう』『移住者の闇を見た』『闇でもなんでもないんだよ……』『今時自分から動かないと物理的な意味で出会いはほぼないからな』『悲しみ』

 

「みなさ~ん?戻ってきて下さ~い?先日メイクでつぶやいたお披露目をやってきますよ~?」

 

そう言って狐稲利さんを画面の前から動かし、移住者の皆さんに私達のいる場所をご覧いただきます。

場所は犬守村から見て南方の何も手を付けていなかった一帯です。先日深夜に配信テストと同時に創っていたこの平原は朝の日光をめいいっぱい浴びて鮮やかな若草色に輝いています。

風によって揺れ動く植物の葉には朝露が乗り、それがまた日を反射して時々眩しく感じます。

植物は雑草のようなものをいくらか植えたのですが、大半はススキなど先端に毛のようなものを備えた植物たちが群生しています。

なだらかな丘が連続する平原でまだ青いススキが穂を揺らし、風に乗ってタンポポの綿毛が舞っています。

 

植物だけでなく、平原のあちこちに大小様々な岩石が露出しており、それは平原の奥の奥まで、その先にぼんやりと姿が確認できる山々まで延々と続いています。

 

「これらの岩はそのほとんどに石灰岩を採用しています~。平原を形成している土地も石灰岩が主で、いわゆるカルスト台地と呼ばれるものですね~そのため地下にも雨水などの浸食でできた鍾乳洞がたくさんあります~。……という設定です~」

 

『遠くまで岩のごろごろした平原が続いてるのは壮観だのぅ』『画面の向こうから風が感じられる』『俺はなんだか鼻がむずむずしてきたぞ』『そこらじゅうもっさもっさしておる』『ん?画面下に見えるの何?』

 

「画面下~?あ、これですか~?そういえば紹介してませんでしたね~これは"道祖神"と呼ばれるものです~」

 

道祖神とはその地の災いを防いだり、旅人の安全を願い祀られた神様のことです。石で造られたものが主で、その顔はとても穏やかで優しいものです。

 

「この道祖神も犬守山の鳥居と同じく境界の役割を担っています~これより先は犬守山とは別エリアというわけです~。ですが、基本的には同じタイミングで魂を更新しているのでエリアごとの格差(バージョンのちがい)はありません~」

 

道祖神を通り過ぎ、とある植物の群生している地帯へと腰を下ろします。

 

「これが何かわかりますか~?これはですね~"綿花"と呼ばれる植物なんです~成長すると実から綿を採取することができる植物なんですよ~先日の同時視聴配信でふかふかしてそうな布団が出てきたのを見て、綿の入ったふかふかなお布団を実際に作ってみたいと思って~ちょっと生み出してみたんです~」

 

『めんか?』『綿花だね、植物からとれる天然繊維のことだ』『←現れたな環研ニキ』『環境技術研究所では綿花育ててんの?』『一応機密なんだがな……』『硬いこと言うなよー』『そうだぞーこの配信だって環研ニキの役に立ってるだろー?少しは情報見せろー』『そうだそうだー』

 

「移住者さ~ん、あまりノリで情報開示を迫らないでくださいね~BANされるのはわんこーろのチャンネルなんですからね~?」

 

新しい場所(エリア)のお披露目にテンションの高い移住者さんをたしなめながら私は立ち上がり、平原の中心へと歩き始めます。

まだ収穫時期でないので綿花は青々しい姿ではありますが、ふかふかなお布団が恋しくなる秋ごろには収穫できるはずなのでそれまでのお楽しみにとっておきましょう。

綿花はそのまま収穫して綿入り布団にしてもいいですが、紡いで糸にすることも考えているので、どんなものを作ろうか今からワクワクします。

 

「あ、そうそう綿花やもこもこした植物がいっぱい生えているので~ワタを摘む場所ということで~この平原を"わたつみ平原"と名付けました~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんか見えてきた?』『確かに建物があるような』『神社か?鳥居あるぞ』『あんな平原の真ん中に?』『あそこだけちょい雰囲気違うな』

 

少し歩いていると平原の真ん中に小さな丘が見えてきました。周りより高くなっている土地、その上に小さな神社が建っています。

本来神社の敷地は玉砂利が敷き詰められていたりするのですが、この神社では砂利の代わりに粒子の細かい砂が用いられています。

神社本体も小さいとは言ってもしっかりとした石材を用いた鳥居がありますし、神社の周りを木々が囲み、小規模な鎮守の森を形成しています。

神社の敷地には一本だけですが桜の木が植えてあり、この時期はまだ葉桜ですが季節になればその鮮やかな花弁が境内にゆらゆらと散る光景を見ることができるでしょう。

 

私はその一段高くなった神社の土地へと上がり、砂を踏みしめて歩きます。砂はまるで海の砂浜のようで、不自然にきらきらと輝いているように見えます。

 

『眩しい』『こんな平原のど真ん中に砂場があるってのはちょっと違和感あるな』『異様にキラキラしてんね?石英でも含まれてんのか』『説明しよう!石英とは二酸化ケイ素などの結晶のことで透明で光沢のある鉱物のことだ!水晶と呼ばれるものもこれだ!』『説明乙』『博識な移住者が増えたなあ』『わんころちゃんの話を聞いてると自然と知ることもあれば触発されていろいろ調べ始める視聴者もいるからな』

 

「確かに砂が綺麗に輝いていますけど~これは石英の結晶ではないんですね~ま、それはまたおいおい説明することに~、神社の造りは流造で~屋根は檜皮葺、杉を使って建てておりまして~主要な部分は朱く塗ってありますがそれ以外に目立った装飾は施されておりません~下手に金属などで装飾すると"ここ"の場合は問題になりますからね~」

 

境内をぐるりと回りながら視聴者さんに説明していきます。この神社の敷地は基本砂地なのですが、神社もその鎮守の森もどっしりとしていて不安定には感じませんし、小さいながらも威厳を感じさせます。

 

「犬守山のやたの滝と同様にこの神社……名前は塩桜(えんおう)神社と名付けたのですが~この塩桜神社をこの平原の中枢(シンボル)としました~」

 

『ええやん』『ですよね』『大体予想通り』『神社の名前って由来は何?』『桜の木があるから"桜"は分かるが"塩"って?』

 

「んふふ~それもおいおい説明していきたいと思います~例えば~雨が降った後の配信などで~」

 

『もったいぶるねぇ!』『今じゃダメなの?』『気になって眠れないぞ……』『まあまあ慌てるなって。わんころちゃんも言ってただろ?のんびりいこうぜのんびり』

 

「申し訳ありません~ですが、わたつみ平原の"仕様"は犬守山とは違って少し特殊でして~口で説明しても理解しにくいとおもいますので~次の雨の日をお待ちいただきたいと思います~」

 

 

 

 

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