転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#41 ナーナ・ナート

既にかなり遅い時間、こんな時間に配信する配信者はそれほどいない。そのため普段なら動画投稿サイトへのアクセスもそれほどなく、行われている配信も視聴者数は多くて三桁がせいぜいだった。

そんな中、一つの配信が同時視聴者数五桁を記録し、まだまだ伸びている。

その配信こそがフロントサルベージ所属配信者ナーナ・ナートの配信だった。

 

「は~い!なー党のみんなー今夜もナートの配信に来てくれてありがとー!待機画面ですでに千人以上待機とかナートに期待してるヤツ多すぎか~?」

 

『出イキりすんじゃねえ』『ホント声は良いのがムカつく』『ヒキニートの代表が何言ってんだ』『アーカイブ残すんじゃねえぞ、わちるんの教育に悪い』『こいつだけFSから隔離してくんねえかな』

 

「相変わらず辛辣すぎだろお前ら!ナートだって生きてんだぞ!ついでに豆腐メンタルなんだぞ!泣くぞ!?」

 

『とうふってなんだよ』『食べ物だぞ』『豆腐とはその名の通り腐った豆のことさ!』『ならナートの出番だな』

 

「腐ってねえよ!食べ物だよ!腐ったものは私の専門分野みたいに言うんじゃねーよ!ほらほら今日のゲームやってくぞ!やるのは完全新作の死にゲーだ!はいスイッチオン!」

 

『おーん!』『実際専門だろがよ』『もう配信でゲロらないでね』『ゲロASMRは助からなかった』『FSのやべーヤツ』『FSの汚い枠』

 

「うっさい!うっさい!ゲームに集中させろや!ほら始まったぞ!」

 

『配信者が視聴者を罵倒する配信はここだけ!』『もっと配信者らしくしろ』『これは推せない』『ナートで鬱屈した感情を溜めてわちるんの配信見るといつもの二倍はわちるんが愛おしく思えるようになった。ありがとうナート!』『←さすがナー党歪んでいる』

 

「まったく……おおー!いいじゃんめっちゃグラ綺麗じゃん!違和感ねえわ」

 

ゲームを開始したナートは初見でありながらサクサクと進めていく。所謂初見殺しと呼ばれるトラップや謎解きも難なくこなしていくため、ナートの悲鳴を期待していた視聴者は少し腑に落ちない。

 

『ゲームは上手いんだよなぁ』『ナートは性格以外は配信者向きのスキル構成してっからな』『性格ダメってそれ致命的じゃん』『配信者としてだけでなく人としても致命的だよな』『FSのアンチはすなわちナートのアンチだからな』『FSに対するヘイトを一身に受ける姿だけは尊敬できる』『←ほぼ自業自得でアンチ生み出してるから尊敬はできない』

 

「てめーらゲーム見ろや!!ほらほらノーミスでボス前まで来たぞ!褒めろや!」

 

『要求すんじゃねーよ』『褒めるかどうかはこちらの判断で行います。黙ってください』『てかそこでノーミスとか普通だから』『ヌルゲーというかこれ雑ゲーなんだよな』

 

「ああーそれは分かるわ。UIぐっちゃぐちゃだし、ストーリーもビミョ~だし評価できるのグラぐらい……?あ、グラとぐらい……めっちゃ上手いこと言った!」

 

『は?』『は?』『??????』『バカ?』『プレイ中のゲームディスるとか馬鹿か?』『まーたゲーム制作会社からクレーム来るぞ』『室長に怒られろ』『また配信禁止されろ』

 

「ち、ちがーう!!ディスってなんか無いっての!そういうつもりは無かったのー!!こ、これは厳しめの意見ってやつ!今後に期待してるからこその批判なの!」

 

『焦って釈明しても遅いわ』『ナートをいじめている時が唯一俺の心が休まる時なのだ、すまんな』『ナートは泣かせてこそ真価を発揮するからね』『もうずっと泣いてろや』

 

「うるっさいわ!泣かねーよ!……グスン」

 

配信画面から何やら水音が聞こえる。ヴァーチャルなナートも目元から何やら光るものが見える。さすがにかわいそうになった視聴者は仕方なく慰めにかかる。

 

『あーもう悪かった悪かったマジで泣くなよ』『相変わらずザコザコメンタルなんだから』『ナートの言ったことも分かるがな。サルベージされたゲームはまだしも完全新作にほぼ良作なし』『どれもグラは良いんだがそれ以外は雑いし、システムももっさりしてるし』『サルベージされた昔のゲームはグラは荒いがストーリーやシステムは神ってた』

 

「グスグス……それは仕方ないんよ、サルベージされたゲームはそれまでの何十年も積み重ねられたノウハウがあるからね、完全新作だとそれがないし、手さぐりでゲーム作ってるようなもんよ」

 

しばらくして泣き止んだナートはまだまだゲームを続けていく。

珍しくない見慣れた光景とはいえどこまでも続く広大なフィールド、それが美しく表現され、やはりそこは評価できる点であり改善の余地はあるが決してクソゲーとは言えない出来栄えだとナートは感じていた。

 

「まあ、色々言ったけど私はこのゲーム好きだよ!きっと昔のゲームみたいにこれから大人気になっていく!……はず?」

 

『急に好感度調整するな』『疑問形にするな』『そこは言い切れよ』『ゲーム企業から案件来てもナート以外とか条件付けられそう』

 

その後、ナートは順調にゲームを進め、二時間ほどで配信を終了した。終始ナートとナー党との激しい煽り合いが繰り広げられたが、それもいつもの事。

ナートは締めの言葉を言ってその日の配信を締めくくった。

 

 

 

 

「ふい~今日も有意義な配信になったな~まったくナー党のみんなも何だかんだ言って配信に来てくれるんだからありがたいよな~」

 

ずっと座っていたため凝り固まった体を、ぐぐっと伸びをしてほぐすナートは少し小腹が空いたと感じ、何か食べ物を頂こうかと部屋を出て一階へ下りていく。

 

「あっ、ナートちゃんお疲れ、配信見てたよー」

 

「なこそちゃん!こんばんは~。配信見てたんなら助けてよ~」

 

リビングではなこそがゆったりとくつろいでいた。夜食用の携帯食料を片手に端末を操作している。こんな時間にまだ起きているということはまた徹夜で作業をしていたのだろうとナートは思い至る。

 

「何言ってるの、あれがナートちゃんの配信の醍醐味でしょ?むしろ今日はまだマシだったと思うけど……それと、配信ではあまりマイナスなことは言わないほうがいいよ?ゲームの内容だけじゃなく、どんなことでも否定より肯定していく方がみんな聞いてくれるよ?」

 

「うぐ……分かってるんだけどね、無意識に出ちゃうんだよぅ」

 

「まあ素のナートちゃんが配信するから人気なんだから今更言っても遅いかな。ちゃんと最後はフォローしてたみたいだし。私も好きだよ、ナートちゃんと同じで」

 

「えっ!?それってどっちの意味?私が好きって意味!?」

 

「どうやったらそう捉えられるの。ゲームが好きって意見に同意するって意味」

 

「ちぇ、なんだよー」

 

その後もナートとなこそは会話を繰り返していった。ある時は配信についてのアドバイスであったり、ある時は最近の流行であったりと他愛のない話がほとんどだった。

しばらく話していると不意に互いが無言になり、少しおいてなこそが話し始める。

 

「……最近、わちるちゃん元気がないみたい。前にお客さんが来たくらいからだと思うの」

 

「それは私もちょっと気になってた……。気負ってるというか、なんだか思い詰めているような気がする。……私が灯さんに迷惑かけたから……?」

 

「そんなわけないでしょ。室長もわちるちゃん本人も気にしなくていいって言ってたじゃん」

 

自身が寝ぼけたのが原因で灯を足止めしてしまい、その結果わちるが不快な思いをしたのだと後日知ったナートはわちるに謝ったのだが、当のわちるはその時は気にした様子はなく、謝ったことに逆に謝られてしまったぐらいだ。

 

だが……。

 

わちるは配信では変わりなく楽しそうにしている。めいいっぱい楽しんでいるのが画面越しでも分かるほどだ。けれども共に一つの家で生活しているとそれだけでは無いと分かってしまう。

 

「ナートちゃんも出来れば気にかけてあげて欲しいんだけど良いかな?」

 

「もっちろん!わちるちゃんも大事なFSの妹なんだから当然だよ!」

 

普段はとてもだらしない姿を晒し、ものぐさなナートだが、彼女がFSという家族を大切にしていて、そのために積極的に行動する性格であることはFSの関係者は皆知っている。だからこそそんなナートの力強い言葉になこそはいつも安心することが出来るのだ。

 

 

 

 


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