転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#47 香る記憶

 

「みなさんこんにちは!フロントサルベージ所属ヴァーチャル配信者の虹乃なこそです!今回はわちるちゃんと一緒に先研の最新機器を体験していきたいと思います!」

 

「みなさんこんにちは!九炉輪菜わちるですっ!なこそさんに誘われて今回コラボさせて頂きました!どうか最後まで見ていってくださいね?」

 

『こんー』『なこんー』『なこんにちは!!』『まさかの先研案件!』『政府機関どうしのつながりって強えーなおい』『すっごい動いてんね!』『リアル過ぎんよ』『マジでそこにいるような臨場感』『わんころちゃんに負けず劣らずの3Dモデルクオリティ』『←無関係な配信者の名前を出すと双方に迷惑だからやめろ』『←そうだな…すまん』『しかし本当にネットの中に意識飛ばしてんのか、科学の発展やべーな』『ネットに入り込むとは、人類の夢がまた一つ叶ったな』『さすFS』

 

 

 

 

配信が始まる前、私となこそさんは灯さんと室長から意識没入型ネットデバイスの初期型である、ネットダイブシステム(NDS)についてのレクチャーを受けていました。

 

「いいか、まずこのNDSと呼ばれるデバイスは従来の情報端末とは全く異なる操作方法を用いる。今までのようなキーボードとマウスによる操作ではなく、意識や精神と呼ばれるものを降下させることでネット内を自由に動き回ることが出来るようになる。意識からの直接的な操作、つまりは考えただけで思うように動かせるという操作方法はこれまでの直感的操作以上に効率的な動きを実現するだろう」

 

「こちらの頭に装着するタイプのデバイスを利用して、リラックスした状態で体を横にしていただければ、あとは自動的に精神が降下していきます」

 

灯さんから手渡されたデバイスは思ったよりも軽くて装着しても負担にはならなさそうです。

 

「なるほど、なんだかワクワクしてくるねわちるちゃん」

 

「はい。初めての体験なので緊張もしてますけど……」

 

リビングのソファにもたれ掛かりながら私となこそさんはNDSについての説明を聞いています。これのすごいところは考えるだけでツールやアプリを実行することが出来るという点らしいです。脳からの直接命令の為、それ以外のタイムラグがなくなり、今以上の効率的な作業が実現できるとか。

あと、基本的なシステムの説明以上に時間を取って丁寧に説明されたのが、このデバイスの安全性についてです。

途中で装着するデバイスが取れてしまった場合についてとか、通信障害が発生した場合とか、それらを分かりやすく、どれほど安全性が確認されているのかを話してくださいました。

ですが、そもそも灯さんや室長がそのような危険性のあるものを私たちに使わせるわけがないと私もなこそさんも分かっているのでそれほど心配はしていません。今は初めての体験にワクワクしている部分が大きいです。

 

 

 

そんな少し前のことを思い出しながらも、私は精神を降下させた真っ白なネット空間から配信画面へと手を振っています。空間に浮かぶ半透明なウィンドウに表示される視聴者さんのコメントを目で追いながら、横で同じく手を振るなこそさんと目を合わせます。

 

「じゃあ、これだけだと皆つまんないかなっと思うので何か出して遊んでみましょうかー」

 

なこそさんの声に応じるように、現実世界でモニターしていた灯さんがNDSに接続されたPCを操作します。このPCにはさらに私となこそさんの部屋に置いてあった配信用PCと一時的につながっており、そこからヴァーチャルな姿などを取り出して、この空間に実装しています。別にヴァーチャルな姿に精神を降ろさずともネットにダイブすることは可能らしいのですが、個々の精神の安定性などから、ネットにダイブする際はこのようなアバターを用いるように指示されているようなのです。

本来なら別途ネットにダイブするためのアバターを制作しなければならないらしいのですが、私たちヴァーチャル配信者はそのまま姿を利用できる分、それらの手間は抑えられているようです。

 

しばらくすると真っ白な空間に一つのボールが現れました。両手で抱えるほどの大きさのボールを手に取ると予想以上にその重さや触感を感じて驚いてしまいます。重さは少し抵抗があるかな、というぐらいで触った感じは変につるつるしていて少し違和感がありますね。

ですが、この空間に入って、さらには重さや手触りを感じることが出来るのはかなり驚きです。

私はボールを抱えると距離を取っていたなこそさんへと思い切り放り投げます!

 

「いきますよなこそさんー!」

 

「よっしゃこいー!……あたっ!」

 

「ああっ!?ご、ごめんなさい!!」

 

『ボールがあっちゃこっちゃいってて草』『投げる方も受ける方も下手か』『よわよわなこちゃん助かる』『涙目もしっかり再現出来てるんすね、最高っす』『わちゃわちゃ動いてるのかわいい』『髪や服もリアルに動いてて最高に美しい』

 

「他にも何か出してみましょーか、灯さーん!お願いしますー!」

 

『白愛灯@FS運営:まかされよ』『灯さんコメ出現確認』『灯さんありがと!』『やはりFSのママは有能』『あれだけ癖の強いメンバーをまとめてるわけだからな』『配信に一度も顔を出していないにも関わらずFSと同じくらいの知名度を誇る灯ママよ』

 

「ありがとうございます灯さん!……ん?、あれ、灯さん、見た事ある3Dモデルばかりなんですが、私のボードゲームの3Dモデル一式がありませんよ?」

 

『白愛灯@FS運営:ネット空間の中でもボードゲームするつもりですかこの子は……』『草』『草』『これは草』『おいwwww』『灯ママを困らせるな』『もはや中毒症状ですよなこちゃん!!』

 

そうしてしばらくの間私となこそさんはボール遊びをしてみたり、椅子のふかふか具合を確かめたり、本来なら持つこともできないような大きなものを持ち上げる姿を見せてみたりと自由にネット空間を楽しんでいました。

 

でも本当に不思議な感覚ですねー、私の体はリビングのソファで眠っているのに、意識はこのネット空間にいるわけですから、まるで夢の中にいるような状態です。

 

「おほほー!わちるちゃん!これすごいふわふわしてるよ!すごいよ!」

 

「あはは、あんまりはしゃいでると怪我しますよなこそさんー」

 

「何言ってるのわちるちゃん!ネット空間なんだから怪我なんてしないよー!うわわわっ!」

 

いろんな3Dモデルに埋もれ、ずっこけながらも初めての感覚にテンションの上がるなこそさんを見ながら、私はこの真っ白な空間に目を向けます。

普通ならばこの真っ白な空間になんの感情も抱くことは無いのですが、私にとってこの何もない空間というのは何とも懐かしい思いを抱かせます。

 

 

わんこーろさんの初配信もこんな感じだったなあ……かわいい服を着てて、なんだかちいさくて愛らしくて、みんなとお話ししたいから~って理由で配信を始めたって言ってたっけ。

そうだ、その時初めてわんこーろさんの配信にコメントして、反応してもらって、そしてあの人形を……。

 

あ、あの人形。……そういえば。

 

私は思わず服のポケットに手を入れます。先日あの人形を眺めていたとき、このヴァーチャルな姿と同じ場所に保存し直していたのを思い出したのです。恐らくこの姿と共に、一緒にこの空間にあるはず。

 

「あ、あった…………え」

 

案の定ポケットに収まっていたその人形を見つけ、それに触れた瞬間、私は息をのみました。

 

人形に触れる指先からの圧倒的な情報量に、私は指先にかくこともない汗がじんわりとにじんだような気がしました。それまで灯さんが用意していた3Dモデルはどれもつるつるしているものばかりで、あまりリアルな触感ではないと感じていました。室長によると、このNDSは3Dモデルに内包されている各種感覚に関する情報を取得して、それをダイブプレイヤーに反映するものらしいのです。

つまり、手で触ったものの質感のリアルさはNDSではなく、その3Dモデルに依存します。

今現在ネット内に存在する3Dモデルには物理演算などのおかげで触覚情報に関しては最低限内包されているのですが、それ以外の五感の情報は含まれていません。

当然ですよね、たとえそんな情報が含まれていたとしても、PCの画面越しには香りや味なんて感じることが出来ないのですから、内包するだけ無駄でしょう。

 

灯さんの創った3Dモデルでさえ、最低限ネットにダイブしている私たちが"持っている"という感覚を得られるようにしか情報が設定されていないらしいのです。

 

 

ですが、私が触れたこの人形はそんな単純な質感ではありませんでした。

まずつるつるとした感覚はあるのですが、その中に僅かにざらざらとした触感もあって、まるでいくつもの線が並び、そのちょっとした凹凸を撫でているかのよう。

触れた部分が不思議と暖かくなるような感覚と、柔らかくないのに優しく手になじむような手触り。

 

 

これが、"木"。

 

 

あまりに異常、あまりに現実的、そんな人形の質感に私は無意識にポケットから取り出した人形を目の前に取り出します。

若干デフォルメされた狐が体をくねらせ、羽衣を纏うその姿はまさにかつてこの国で祀られ慕われていた身近な神様の姿。

先ほどの木の触感だけでなく、何やら朱色に塗られた部分はつるつるとしています。ですがそのつるつるとした感覚も今までの3Dモデルとは異なり、ただ表面が整えられているのではなく、少し指先に抵抗が感じられる感覚がありそれが木の質感の上からこの塗料が塗られているのだと感覚的に理解できてしまいます。

 

ただの触感だけでここまでの情報が含まれているのだとしたら、……他の五感は?

 

そう思った私は人形を鼻先へと近づけます。

 

 

 

「っ、あ、ああっ……」

 

そして私は、嗚咽を漏らした。

 

 

 

 

 

 

かつておばあちゃんとの暮らしはこの塔の街よりももっと不便な暮らしでした。けれども私はそれが不便だとは思っていませんでした。

私にとってそれが普通で、何気ない日常だったからです。

 

おばあちゃんの家には狐の人形が置かれた神棚がありました。効率化社会が終わり、周囲から批判されることもなくなり堂々と祀られている神棚。

おばあちゃんはよくその神棚を拝んでいました。時々私が興味本位で神棚にいたずらして怒られたこともありました。

 

そんないたずらをしていたとき、神棚の神饌を棚から落とし、お供え物を乗せていた陶器を割ってしまったことがありました。私はいつものおばあちゃんの様子から酷く怒られるのではないかと、わんわん泣き出してしまったのです。

そんな私の様子に気づいたおばあちゃんは慌てて私に駆け寄り、怒るどころか怪我がないかと、とても心配してくれました。

 

私はおばあちゃんの腕の中で泣き止むまで慰めてもらい、神棚というものについて教えてもらいました。

 

神様を祀るというだけでなく、家を守るという意味合いがある神棚、だからこそむやみにふれてはいけないのだと。

今回の事もいたずらっこに神様がいたずらし返したのだと、おばあちゃんは笑いながら言いました。

 

まるで神様に会ったことがあるような言い方をするおばあちゃんに私は思わず聞きました。"神様はいるの?"と。

 

そしておばあちゃんはこう言ったのです。

 

"もちろん居ますよ。見えなくても、聞こえなくても、あなたが信じていれば居てくれるし、友達になりたいと願えばなってくれる、何にも怖がることはないわ、それが日本の神様なの"

 

 

 

 

 

 

 

私はいつの間にか涙を流していた。懐かしく、今の私に最も必要な記憶の想起に。

匂いは古い記憶を呼び起こすと聞いたことがあった。そこまで完全に再現してみせたわんこーろさんの作った人形。

 

「人じゃなくても、友達に……怖がることなんてない……」

 

私にとってあの時から神様は身近に存在する友達だったのです。そんな大切な記憶を、私はずっとずっと心の奥底にしまい込んだままにしていました。

けれど、私は思い出すことができました。

 

友達でいることに、心以外に必要なものなんて無いってことを。

 

 

 

その後、突然泣き出した私になこそさん、室長、灯さん、それに視聴者さんも大いに動揺して、言い訳をするのに苦労したことは言うまでもありません。

 

 

 

 

 




次話は恐らくシリアス展開になりますのでご注意下さい。
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