転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります   作:田舎犬派

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#58 振り返り配信

 

皆さまお久しぶりです~ヴァーチャル配信者で電子生命体のわんこーろですよ~。

例のリンク切断問題から丸二日経過し、ようやくすべてのリンクの復旧が完了しました。いやはや、私が今まで制作した3Dモデルすべてのリンク状況を確認しながらの作業だったので電子生命体としての能力をフルに活用しても二日もかかってしまいました。

とはいってもこれですべての問題が解消されたという訳ではありません。なんせ今までこの世界の3Dモデルはすべて私と繋がっていて、それがいきなり切断されるなんてことは今までなかったのです。もしかするとなにか予想外の問題が発生する可能性もあるかもしれません。

 

という訳で復旧作業は終了したのですが、犬守村のある空間が安定している事を確認するため、今週は配信をせず世界の様子を見ながら裏作業を中心にやっていこうかと考えています。

もちろん進展があれば配信は出来ませんが私のメイクアカウントにて画像や動画を上げていくつもりです。

 

あと、そのメイクにて例のタヌキが亡くなったことも移住者の皆さまにお知らせしました。

このお知らせに関しては私と狐稲利さん、あとわちるさんも加わってどのようにお知らせするかを相談しました。配信内で知らせる事も考えたのですが、私としては配信中は出来るだけ移住者の皆さまに楽しんで頂きたいという思いがあります。

わざわざ配信を見に来てくださった移住者さんに悲しいお知らせをするのはなにか違うような気がするのです。

もちろん、ただ悲しい事やつらい事を隠して表面上平和を演じるということではありません。

ですがそれと同時に配信内でお知らせすることで、その悲しみを引きずったまま配信を見続けてほしくはないと思ってしまうのです。

 

三人でそう話し合った結果、配信内ではなくメイクでお知らせすることに決めました。配信と切り離してメイクで発表することで出来るだけその後の配信が暗いイメージにならないようにと考慮しました。

私は閲覧に関して注意書きを書き込み、その後のメイクで例のタヌキがどのような経緯で亡くなったのかを説明し、その上で配信では、どうかいつも通りの明るい調子で犬守村に帰ってきてください、とお願いしました。

 

移住者さんの反応は様々で、本当に悲しんでくれる方、データが死ぬの?と困惑していたりネタだと本気にしない方など様々な反応が返ってきました。

それでも皆さん次の配信を楽しみにしていると言ってくださり、その書き込みに私と狐稲利さんは俄然次の配信に向けての気合が入ります。

 

 

「という訳で~しばらくは配信はお休みする予定なのですよ~」

 

「そうなんですか、でも、よかったです。私がそっちに行っちゃったせいでなにか問題が起きてないか心配だったんです」

 

そう言ってわちるさんは胸をなで下ろします。

現在わちるさんは現実世界のご自宅、そのリビングで私と通話しています。わちるさんが手に持つ携帯端末と犬守村を直接繋げることに先ほど成功しましたので、まるでビデオ通話のような感じで気軽にわちるさんは私に話しかけてこられますし、私もわちるさんと今まで以上の距離で会話することが出来ています。

 

「でも、やっぱり残念です。わんこーろさんがFSに入ってくれたらなーって私も前から思ってたんですよ?」

 

「う~ん、最大手のFSさんにスカウトして頂けるほど配信者としても認めてもらっているのは嬉しいのですけど~やっぱり個人のほうが気楽でいいですから~」

 

そしてあの騒動の最後、私は推進室の室長さん、つまり実質FSの運営さんにFSへと勧誘されたわけですが、私はその誘いをお断りしました。

理由はいろいろありまして、一人の方が色々と自由に動ける、というのもその一つですが、何より問題なのは私が住んでいるこの空間にあります。

犬守村の存在するこの広大な空間の正体については私が独自に調査した結果と室長さんの考えは一致しています。

 

この空間は破棄された空間が寄り集まって出来た空間であり、それは現実世界でネットに常時繋がっている情報端末や機器の空き領域を間借りして維持されています。

 

間借り、といえばまだマシなイメージではありますが、実際は盗んでいるようなものです。間借り先の端末を利用している人は私が間借りしていることなど知る由もありません。私が利用しているからと言ってその端末に負担になるような情報量ではないのですが、それでも、もしその事実が明るみになった時、炎上どころでは収まらない騒動……いえ、事件となるでしょう。

 

とはいえ既に愛着を持ち始めたこの空間を破棄するなど私には出来ません。私はこれからもこの空間に居続けるつもりです。

 

私が室長さんの誘いを断ったのはその事実が露呈した時、FSさんまで批判されないようにしたかったからです。そう私が説明すると室長さんも理解してくださいました。

まあ、室長さんは「欲が出てしまったと言ったろ?ダメで元々な提案だったさ」とそれほど残念そうではありませんでしたけど。

とにかくそんなわけで私は今まで通り個人勢の配信者として活動していくつもりなのです。

 

とはいえ室長さんのお話をよくよく聞いているとどうも私という存在は国の偉い人にとても危険視されている様子。

 

このまま今まで通りの配信活動をするのが難しくなる可能性があり、室長が勧誘してこられたのも、FSの所属となれば事実上推進室の一員であり、文化復興の協力者として登録されるからです。

抵抗のある言い方をすれば私という正体不明の存在に政府は"首輪をつけた"状態に出来るという訳です。

 

私がFSに所属した場合のメリットデメリットを室長と話し合い、結局私は個人で活動することとなり、その代わり推進室とは強い協力関係を築いた、という内容の報告書が推進室から復興省へと送られた、らしいです。

 

協力関係を築いたという証拠であり復興省を説得する材料として私は犬守村開拓の為に収集したサルベージデータの一切を室長さん経由で復興省へと送ることにしました。さすがに狐稲利さんや私の情報までは渡しませんでしたけど、それ以外のあらゆるデータを提供しました。

 

ヨイヤミさんが勝手に収集していたNDSの内部データや、これまたヨイヤミさんが勝手に制作したNDS内部の欠陥とそれの改修提案書なるものも室長さんにお渡ししたのですが、その時なぜか室長さんはどうも顔が引きつっていたような気が……。

う~ん、ヨイヤミさんが勝手にやってしまった事とはいえNDSなるものの中身を覗いてしまったのはかなりまずかったのでは……?

ですが、あのまま私の手元に置き続けていい資料ではなかったので、複製もせず室長さんにすべてのデータをお渡ししました。

 

「あーあ、またすぐに犬守村に行けると思ったのになー」

 

「んふふ~もう少しですから~楽しみにしててくださいね~?」

 

「はーい。こうやってわんこーろさんとお話できるだけでも私は楽しいから大丈夫ですけど、他の皆さんは退屈そうです」

 

「皆さんというと、フロント・サルベージの皆さんの事ですね。ほぼ毎日配信していらっしゃいますし、楽しそうですけど?」

 

「配信するネタが無いんですよねー、この夏休み期間中は特になにかある訳ではないですし、よさげな内容はもうやり尽しちゃって、私たちも視聴者さんも飽き気味になるんです。ここ数日はNDSを利用した配信のおかげで何とかなってるんですけど、思ったより視聴数が伸びないってナートお姉ちゃんがぼやいていました」

 

「ああ、……なるほど~」

 

わちるさんのその言葉に私はぎこちなくしか返答できませんでした。だって、それに関して少し心当たりがあるのです。

私の配信のコメントやメイクでのつぶやきにもいくつか確認できた、私の配信と例のNDS配信を比較するような声。

決してFSさんを貶す目的ではないことは分かるのですが、それが原因でNDSによるネットダイブ配信がいまいち伸び悩んでいるのではないでしょうか。

 

「なんかすみません……」

 

「へ?なんでわんこーろさんが謝るんですか?」

 

「いえ~なんだかよく分からない罪悪感が~」

 

「? でもFSだけじゃなく、この時期はヴァーチャル配信者にはなかなか厳しい時期なんですよね、なにか大きなコラボや、イベントでもあればいいんですけど」

 

「コラボ、イベント、ですか~」

 

ふ~む、夏といえばいろんなリアルイベント目白押しというイメージですけど、この世界ではそのイベントも失われていたんでしたね。

 

イベント、この時期のイベント、ですか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさ~~ん!!お久しぶりです~~ようこそ犬守村にお帰り下さいました~~」

 

そして週末が終わり、一週間の最初の日、つまり私の配信再開の日になりました。

現在の時間は日が沈み始めてあたりが暗くなってきたあたり、数時間前に配信再開のお知らせと共に配信告知を行いました。急な配信になってしまったので移住者さんが来てくれるか心配だったのですが、想像以上にたくさんの移住者さんが来られているようです。

 

『きちゃ!!』『遅かったじゃないかぁ……』『お詫びとして毎秒配信してね(はーと)』『おひさー』『きたわね』『久しぶりにわんころちゃんの声聞いて耳が幸せ過ぎて取れたわ』『替えの耳用意して?』『ただいまですー』『久しぶりに我が村に帰還!』

 

おおう、なんだかいつもよりコメントが流れるのが速いですね~。というより、私が配信をしなさ過ぎて忘れているだけかもしれませんけど。

 

「さてさて移住者の皆さん、わんこーろが配信をお休みさせて頂いた理由は配信では多くは語りません~その理由も含めてメイクにて説明してますのでそちらをどうぞ~。今日の配信はですね~少し趣向を変えて、これまでの犬守村の発展を振り返りながらの雑談配信となっております~」

 

『了解!』『移住者楽しんでけー?』『テンション上げてくよー!』『雑談配信助かる』『初見に優しいわんころちゃん』

 

メイクでいつものように楽しんでと書き込んだので、皆さんなんだか気を使っているように見えますね。

まあ、私がそうお願いしたわけですし、文句なんて何もないのですけど、やっぱり心の底から楽しんでほしいと思ってしまうんですよね。

 

と、いう訳で移住者さんにドッキリを仕掛けます!

 

「ではでは~わんこーろが簡単にまとめたこれまでの犬守村の軌跡を綴った映像を一緒に見ていきましょ~」

 

そう言って私は動画再生ソフトを立ち上げ、何もない空間にウィンドウを出し、再生ボタンをポチッとな。

 

【い、犬守村ーはってんの、れきしー?】

 

『お?』『ん?』『え、誰?』『誰の声だ?』『ナレーション誰?聞いたこと無いような……』

 

映像は犬守村が生まれる前の真っ白な空間から始まります。そこから大地が出来て、空や山がどんどんと生み出されていく様子が映し出されています。

映像は過去の配信内容を編集して繋ぎ合わせたものなのですが、それだけだと目新しさが無いと思い、配信外で行っていた作業内容なども組み込んだ、見てて楽しい動画に仕上げたつもりです。

 

そして、その動画の内容を拙いながらも聞きやすい声で解説していく謎の声。

 

【な、なんということでしょー?、なにもなかった場所に田んぼがー。畑もおおきくなってますー】

 

「あっ、ほらほら~ここの場面はまだ移住者さんにお披露目してないところですよ~。移住者さんの意見などを反映してあれから田んぼの面積を拡大したり、いくつかの野菜や穀物も追加で育ててるんですよ~また休日の配信にでも紹介しますね~」

 

『おお!それは楽しみ!』『お、やっぱり追加したのか』『要望とか多かったしねー』『何を植えたんかね?』『楽しみ!だけど、ホントにこの声誰ー?』『配信者の誰か?にしては声が震えてて草だし』『声自体はものすっごく好みなんだが』『わんころちゃんとは異なる癒し系って感じ』

 

んふふ、私はまだまだ焦らしていきますよ~。映像はまたまた切り替わり、広大な夜の平原が映し出されました。

 

【よるのー平原は静かでーとってもひろいのですー。おおー!よるはお月さまとお星さまでとっても明るいー!】

 

「ここはわたつみ平原ですね~。まだ移住者さんにはこの月と星空は紹介してなかったかも?また天体観測配信でもしたいと考えてます~。今すぐではないので、また準備が出来次第告知することになると思います~」

 

『すっごい綺麗な星空よのぉ……』『もっと大画面で見てみたいな』『天体観測配信!絶対見に行くわ!』『ナレーションも一緒になって驚いているの草』『棒読みっぽいと思ったけど、これ緊張して声出せてないだけや!』『慣れてないということは配信者の誰かじゃないのか』『いや、この声ってもしかして……』『いやいやいや、え?マジで?』

 

私の隣にいつもいるはずなのに姿が見えないことから移住者さんもちらほらもしや、という声が出始めてきましたね。ですが、移住者さんはとっても空気の読める子。具体的な名前は出さず、あっ(察し)という状態です。

 

「あ、もうそろそろ終わりですね~。短時間で分かるように編集したのであっという間でした~」

 

【これからもー犬守村はーどんどん発展?していくのでー移住者もーおかーさとわたしを応援してねー?】

 

『ん?』『え、今なんて……』『お母さん?私?』『応援?え、まじでまさか』

 

【ナレーションたんとう、こいなりでしたー!】

 

『や、やっぱりいいいいいいい!!!!』『ちょ、え、まって、ええええええええええ!!?』『まじ!?え、マジ!?』『後出しはずるいって!マズイって!!』『おいいいいい最初の方真面目に聞いてなかったじゃん!』『ぎょえええええ声が!声が聞こえるうううううう!!!??』『声解釈通りです本当にありがとうございました』『良い声過ぎて心臓が破裂したわ』『狐稲利ちゃんの声帯実装の生贄に移住者の心臓が捧げられたか……』『耳が取れたり心臓破裂したり移住者の体はもうボロボロ』『もっとボロボロにしていけ~?』

 

「んふふ~では狐稲利さん~出てきてくださ~い」

 

「んふ~移住者驚いてるー、わたしまんぞくー!」

 

配信画面外で待機していた狐稲利さんが私の傍にやってきます。本人は自身の想定通り移住者の皆さんを驚かせることが出来てとても満足そうです。いつも以上に笑顔でにこにこしています。

かつての狐稲利さんのお披露目配信では恥ずかしがって出てこなかったくらいなのに、今では移住者さんの扱い方も理解してしまったようですね。

 

『九炉輪菜わちる:やっぱり狐稲利ちゃんの声は心地いいなぁ~~~!!!!!』『わちるんもよう見とる』『まるで事前に知っていたかのような物言い……まさかわちるんお前ぇ!!』『後方姉面わちるん草』『お前ら喧嘩してたんじゃねーのかよぉ!!うれしいぞ!!』『まさかこのために裏でわんころちゃんとわちるんが結託して暗躍を!?』

 

「わちる!?おかーさ!わちる来てくれた!!」

 

「んふふ~ありがとねわちるさん~」

 

『九炉輪菜わちる:あばばばばばば何度聞いても狐稲利ちゃんのわちる呼びは心臓にダイレクトアタック決めてくるのよーー!』『ずるいぞわちるん!』『俺たち移住者だって呼ばれたいのに!』『自慢げにコメしやがってーーーーー!!』『我こいわち派、心臓が止まる』『これはこれであり』『不満など無い。我らは移住者であり壁なので……』『てぇてぇを見つめる壁になりてぇな~』

 

その後暫くはわちるさんがなぜか移住者さんを煽りまくったり、狐稲利さんが一言発するだけでコメントが爆速になる現象が続いたのでした。

 

 

 

 


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